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お嬢様レディース ~超お嬢様達がレディースをつくったら、最強のやりたい放題のチームになりましたわ~  作者: 猫の手


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お嬢様 「出来ることの話」

 自由走行を終えた子供達が、次々にピットに戻って来る。

 それぞれの世話係――ルームメイトのお姉さんやお兄さんが出迎える。


 涼子も同じだ。

 今、走り終えたばかりの女の子を迎えた。


「どうだった? どこも怪我しなかったかい?」


「はい」


 少女が発した言葉は、いつもと同じ……。

 大石多美の言葉は、ここに来てから、「はい」「いいえ」でしか返ってこない。


 表情も、喜びも、悲しみも、悔しさも、一切出ない。


 涼子は、それでもこの子を突き放さなかった。

 何が、この子から感情を奪ったのか。

 どうやったら、人に戻せるのか。


 涼子は、この子を連れて来たアルテミスの宗子に尋ねた。


 宗子は答えた。

 この子は、児童養護施設に保護されていたこと。

 そして、顔には残っていないが、体中の至る所に暴行の痕があることも。


「それって、虐待……?」


 さらに、驚くことが宗子から明かされた。


 家は一見、普通の家庭。

 姉と兄は、一切虐待を受けていない。

 家庭内暴力を受けていたのは、彼女だけだった。


 彼女を引き取る際、両親に承諾書を求めると、

 多額の金銭を要求されたという。


 宗子は、悔しそうに当時の様子を語った。

 結果的に、金銭は支払われた。


「それって、売られたってことだよね」


 怒気を含んだ声で、涼子は言った。


「わかったよ、宗子さん。

 私が、彼女のお姉ちゃんになる。一生だ!」


 それから数日間、私は彼女に寄り添った。

 反応がなくても、気にならなかった。

 笑顔を向けられなくても、感謝の言葉がなくても、

 私は、ただ寄り添い続けた。小さな変化も見落とさないつもりで。


 そして、分かったことが一つあった。


 彼女が、ミスにだけ怯える表情を見せること。

 食堂で、自分のコップを落とした。

 そんな些細な、誰も気に留めない出来事にさえ、

 怯えの表情が浮かぶ。


 私は、冬香さんに相談した。

 心理的なトラウマによる、条件反射だという。

 必要なら、心理カウンセラーをつけることもできると、

 アドバイスされた。


 でも、私は断った。

 多美は、人を信じていない。

 無表情の裏で、人を観察している。


 責任を、人から人へ渡すこと。

 それは、さらに多美を孤立させる。


 私は、多美の姉だ。

 責任のバトンは、自分で最後にしなければならない。


 たとえ、多美の気持ちが、

 私に向くことがなくても、かまわない。


 マリは、今、沙耶香のバイクの後ろに乗っている。

 街路樹は、まだ芽も出ていないが、

 それでもなぜか、綺麗に見える。

 にぎやかな通りの人の服装や、笑顔まではっきりと見える。


「わたし、こんな、賑やかな街に来てたんだ」


 と、呟く。


「ん? どうした? バイクは寒いか?」


「いや、全然。わたし、北海道だから、全然寒くないよ」


「それに、お姉ちゃんの背中、暖かい」


「そうかい。落ちないように、しっかり掴まってるんだぞ」


 病院は、二度目だった。


 受付で、冬香お姉ちゃんの名を出す。


 何やら、受付のお姉さんが、慌てて連絡を取る。


 冬香が降りてくる。

 先生や看護師さん、職員が、皆、頭を下げる。


「やっぱり、へんなの。冬香お姉ちゃん、女王様みたい」


「そ、そうだよな」


 苦笑いしながら、沙耶香が答えた。


 お爺ちゃんがいた。


 二日ぶりだが、マリには、一年ぶりにも感じた。


 お爺ちゃんは、鼻にチューブを着けていたが、笑顔だった。


「お爺ちゃん、痛くない?」


「ああ、痛くないよ」


「マリ、その人は?」


「沙耶香お姉ちゃん。私に、いろいろ教えてくれる人」


 沙耶香は、ぺこりと頭を下げた。


「マリがご迷惑かけますが、よろしくお願いします」


「マリちゃんは、いい子ですから、迷惑なんて、とんでもない」


「さあ、手術後ですので、今日はこのくらいにしましょうね。

 お爺様も、少し休まないといけないからね」


「お爺ちゃん、また来るね。早く元気になってね」


 名残惜しそうに、マリ達は、冬香の部屋に行った。


 冬香の部屋には、梓もいた。


「あなたのお爺様は、一週間、今の部屋。

 その後、一般病棟に移動するわ。

 一般病棟で順調なら、一か月で退院よ」


「ひと月で、退院できるの? 本当?」


「ええ。あとは、一週間に一度の検査通院かな」


「はい。でも、お爺ちゃんの住む所は……」


「大丈夫よ。ちゃんと準備してるからね。

 寮の近くに、準備してるわ。お仕事も用意してあるの」


「え? お爺ちゃん、お仕事もできる体なの?」


「もちろんよ。お薬もいらないから、バリバリ働けるわよ」


「だから、安心していいわよ。

 マリちゃんも、土・日は、

 お爺様と一緒に過ごせるわ。どうかな?」


「はい」


「よし、マリ。お爺ちゃんは頑張ったんだ。

 今度は、マリが頑張るとこ、見せなきゃな」


「うん。私、一番になる。

 お爺ちゃんに、今度、私が一番になったこと、見せる」


「よし、じゃあ戻るか」


 そう言って、冬香の部屋を出ようとしたとき、

 マリが言った。


「ちょっと、待って。お姉ちゃん」


 そう言って、マリは、その場で祈るような姿勢をとる。


「アテナさん。

 お爺ちゃん、救ってくれてありがとうございます。

 みんなは、あなたを機械って言ってるけど、私には、恩人です」


 《いいえ。私は人では、ありません。

 でも、あなたのその感謝の気持ちは、記録しておきます》


 二人が去った後、梓が言った。


「アテナ。あなたは正しいわ。でも、最初の一言は不要よ。

 少なくとも、マリにとっては、恩人としか表現できないの。

 それが、人間なのよ」


 《……はい……記録しておきます》


 二人が病院を出た時、沙耶香が言った。


「今から帰ってメシにしてもいいが、せっかく外に出たんだ。

 どうだ、牛タン食べていかないか?

 お姉ちゃんが奢ってやる」


「ギュウタン? 何それ?」


「知らないか? じゃあ、初牛タンだな。うまいぞ~」


「うまいぞ~」


 マリは、笑顔で真似した。


 その日。

 マリは、初めて牛タンを食べた。

 そして、お爺ちゃんが退院したら、

 絶対、一緒に行こうと思った。


 帰り道で、マリが尋ねた。


「沙耶香お姉ちゃん。

 優菜ちゃんの他に、もう一人、女の子がいるよね?」


「ああ、多美だね。

 お姉ちゃんの親友の、ルームメイトだよ」


「私、多美ちゃんとも、友達になりたいな」


「そうか。一つ言っておくよ。

 無理強いして、友達を作っちゃだめだ。

 多美ちゃんは、多美ちゃんの事情があるからね」


「マリも、最初の友達は、どうやって作った?」


 マリは、優菜との最初の出会いを思い出した。

 友達になって、と、無理強いしていなかった。

 話しているうちに、友達になった。


 そもそも、自分に友達が出来るとは、

 思ってもいなかった。

 そんな余裕も、そんな環境も、なかった。


 おじいちゃんのことで、

 気持ちが浮かれていたのかもしれない。


「うん。お姉ちゃんが言ってること、分かった」


 少し、しょんぼりした。


「だけどな。

 友達になろう、っていう気持ちは大事だ」


「今は、多美ちゃんも大事な時期だ。

 一人で、どうしようもなくなる時がある。

 そんな時に、出来る範囲で、手伝ってやりな」


「でも、私、何も出来ないよ。手伝いって」


「いや、出来るさ。

 その時が来れば、マリが出来ることが分かる。

 その時、手伝ってあげればいい」


「はい」


 マリの気持ちは、また前を向いた。


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