お嬢さま 「声が消えた瞬間」
検査を終えた6人は、その日の宿題を与えられた。
宿題と言うより課題だ。自室のパソコンにバイクの基本操作の画像があるので、それを見ておくこと。
課題は、動画形式で、初心者でもわかるようにアテナが監修したものだった。
分かりやすく、飽きにくくするため、十五分ほどの動画が、さまざまな視点から、数本用意されている。
分からなければ、遅くすることも、部分的に拡大することも可能だ。当然アテナに質問することもできる。
寮への帰り道の途中、マリと優菜は、最後のオリンポス8でのゲームの出来事を楽しそうに話していた。
「最後のゲーム楽しかったね」
マリが、優菜に話しかける。
「うん。宇宙船で、敵を倒すやつ。なんかスカーっとしたね」
「宇宙ってあんな感じかな?私宇宙に行きたくなっちゃった」
「マリちゃんなら、宇宙いけるかも。一番高い点数だったから。
でも途中で、目が回っちゃった。ほら、自分で回ったときみたい」
「え? 私回らなかったよ」
「え?なんで?みんな、目が回ったって言ってたよ」
「なんでだろう?わかんない。
でもあの宇宙人て、ピンクのブタさんだったのが、おかしかったね」
「え?ブタさんだったの?」
「うん、ピンクのブタさんに可愛い小さな羽が生えていた」
「うわ~そこまで見えたんだ。私ブタさんも羽もわからなかったよ」
「それ、優菜ちゃんが、ゲームに夢中になり過ぎてからじゃない?
だから、目が回ったんだよ」
「そうかもね」
二人は笑いながら話しているうちに、いつの間にか、寮の玄関前に着いていた。
おいしい食事、気付けば一人でなく四人で話しながら、楽しい食事が日常に変わっていた。食事が美味しいのは当然だが、たぶん何を食べてもマリは、美味しく感じていたと思う。
あの時、魔女さんがマリに持ってきたものに、一つ加わった。
”友達”と言うマリが本当に必要だったものだ.......
マリは、課題を終えてベッドに入る。
課題終了後、アテナと少し話した。
明日のお爺ちゃんの手術だ。
気にするなとは、子供には無理だ。自然とアテナに話した。
アテナは約束をした。『大丈夫。必ず助けます』と。
だから、わたし心配しちゃいけない。もし、それが原因でわたしが、
怪我をしたらお爺ちゃんが心配するからと。
わたしが出来ること、ちゃんと訓練をやること。それだけだ......。
三日目の朝がきた。
パソコンの予定表をチェックする。
午前中は、シミュレーション。午後からは、実車搭乗となってる。
沙耶香おねえちゃんに尋ねる。シミュレーションとは、バイクゲームみたいなものらしい。昨日覚えた手順を頭の中で整理する。自然と手と足が動く。
「おお、ちゃんとイメージできてるな」
お姉ちゃんに揶揄われた。
朝食もちゃんと食べれた。
「午後からは、ちゃんと見てるからな。楽しんでこい。バイクは楽しいぞ」
沙耶香お姉ちゃんが言った。
シミュレーター室に向かう途中で、茶色のスポーツウェアの人達に会う。
あの時聞いた、白バイ隊員の人達だ。
そのうちの一人が声をかけた。
「ジュニアの生徒さんだね。今日からか?バイクは楽しいぞ。頑張れよ!」
『はい』
男の子たちが元気に返事する。
お姉さんと同じことを言われた。
⦅バイクは楽しい⦆と。
マリは、楽しいのなら楽しもうと、そう思った。
シミュレーター室には、昨日病院で見たのと同じ機械が、8つあった。
指示された機械に、ヘルメットをつけて入る。
昨日乗ったものとは、少し違っていた。
《最初は、自由に走ってください。ブレーキとアクセルだけ有効にします》
アテナの声がヘルメットから流れる。
すると全面にレーシング場の風景とコースが映し出される。
風景がリアルなため、最初みんなおっかなびっくりでアクセルを開ける。
『うっわ~』あちらこちらから声が上がる。
それも最初だけ。みんな喜々としてアクセルを開いた。
しかしほとんどが、コーナーの進入と姿勢がわからずコースアウトする。
『うわ~コケた』 あちらこちらから悲鳴が上がる。
すると、画面にバイクに乗った自分の線が出る。そのラインに自分の影を重ねるすると、影がグリーンになる。線から離れると影の色が、黄色に、大きく離れると赤になる。
つまり理想的な走行体勢、走行ラインを自然と学べるシステムだ。
「梓、このシステムいいわね。シミュレーターだからできる練習だわ」
「ええ、アテナと頭絞ったわ。ベースは、フライトシミュレーターなの」
「なるほど、逆転の発想ね」
「さすが、雅。ゲームでは、コースを離れたら墜落するでしょ?だから正常飛行の着陸コースをバイクラインにして、その体勢とラインを線に落としたの」
「ちなみに、走行ラインのモデルは誰なの?」
「中央値は、ベグナー師匠。さすがに、マルケス師匠と、マルアベル師匠は......」
「そうよね。あの二人は異常だもの」
二人は、顔を合わせて笑った。
徐々に、みんなコツを掴んだのか、ラインが安定してくる。
30分すぎると10分のインターバルが与えられる。
みんな楽しそうだった。
「楽しい~」
「休憩なんかいらない」
「もっと乗りたい」
感想が、いろいろ出る。彼らにとってこれほど面白いゲームはなかった。
次の30分が始まった。ここで、画面の右下に、クラッチ操作と、ギアチェンジのタイミングが表示される。
子供達は、体勢とラインをほぼ理解していた。
そのうえで、クラッチタイミングとギアチェンジを学ぶ。
それも、三十分で難なく身につけてしまった。
「すごいね。なんか機械を操ってるみたい」
「ゲームは、いろいろコマンド入れたほうが面白いからな」
子供達は、難しさを、そのまま楽しさに置き換えていた。
楽しさは、疲れを忘れさせる。しかしきっちり10分のインターバルをとらせる。
マリは、優菜と楽しみを分かち合っていた。
「楽しみは、人と一緒なら、2倍になるんだね」
「最後の30分よ。みんな好きに楽しみなさい」
《レーシングモードを開始します》
画面に6台が、映りこむ。
シミュレーションゲームの始まりだ。
最初のコーナーまでは、みんな前に映った自分の影を見て綺麗なラインと体勢を維持する。
次のコーナーから変わっていく。明確な順位が、現れ始めた。侵入速度とブレーキングポイントが、少しずつ違うから起こりうる結果だった。
しかし――一人だけ五人と明白な違いが出た。五台を置き去りにして突出する一台があった。
マリである。
明らかにマリだけ、コーナーリングが早い。
「なっ!」
モニターで見ていた、雅達が驚く。
アテナ、マリのコーナーの走行ラインと走行体勢を映して。
《はい》
マリが見えてる画面が、観測者全員に共有される。
ストレートは普通だった。
コーナーに入る。
理想走行映像とマリの影が重なる。
マリの影が赤になる。
「どういう事?」
雅が、アテナに声を荒らげる。
《理想体勢、理想ラインから離れています》
「じゃあ、なぜ速いの?」
《ベグナー師匠のライン、体勢と違うからです》
「それでは、説明がつきません」
《・・・・・・》
《判明しました。マリのラインと体勢は、マルケス師匠のものです》
「どういう事?マルケス師匠のは、スタンダードには入れてないわ」
《マリの感性によるものと推測します》
その瞬間、観測者達の声は消えた。




