お嬢様 作戦名 ムーン・レクレイム発動します。
”アルテミス”の友好団体”ルナゴスペル”が誕生し合同で横浜最大の”横浜狂想会”と対立することになった。
”アルテミス”の目的は、古い体質の暴走族を排除し横浜に新たな秩序をもたらす事である。
6F会議室
梓が司会となり本作戦の説明をする。
「作戦目ムーン・レクイエム」
夜”月”の下で狂想会に鎮魂歌を捧げ、旧時代を終わらせる。
作戦概要
【情報戦及び公権力の利用】
・狂想会のフロント企業(中古車販売・バイクパーツ店・イベント業)の 裏帳簿を精査してして、国税庁に匿名(建前上)で密告 (実際は彩が手を回している)
・狂想会の非合法のドラッグ販売や資金洗浄などのルートの遮断のため、集めた証拠を神奈川県警に匿名(建前上)提出 (実際はあかねが手を回している)
・ルナゴスペルの涼子が、旧知の族仲間や街の情報屋から狂想会の追加情報を収集(それにかかる費用は、アルテミスから無制限で支出)
・SNSや匿名掲示板を使って狂想会の悪事を世間に広め世論をを揺さぶる。
(梓が担当)
【内部分裂】狂想会の結束力を内部から崩壊させる。
・美奈子が”元女豹疾走の特攻隊長”という立場を利用し、女豹疾走・狂走会
の若手や支部を密かに説得
・千秋や沙耶香も旧知のメンバーに声をかけ、不満分子を煽る。
【存在感の誇示】
・アルテミスとルナゴスペルの夜間合同走行を行い街中に堂々と姿を見せる。
美奈子達は、アルテミスの用意周到さに驚いた。これをやられれば、狂想会に反撃の力はない。なぜなら、奴らの最大の力である暴力が、公権力と世論により完全に封印され、仲間を集めようにも資金も封鎖されるからだ。
奴らは、お互いが信頼で繋がってるわけではない。暴力と言う恐怖と、金と言う飴での繋がりであり、正しくそのアキレス腱を断ち切られるのだ。
しかもそれを行ったアルテミスは、建前の上では一切表面に出ない。ただ噂のみが一人歩きする。
(一抹の不安がるとすれば・・・・・)
美奈子の表情から不安を察した雅が尋ねた。
「美奈子さん何か不安がありますか?」
「総長、前にも言ったが、狂想会の総会長”鬼影蓮次”のおやじの力が心配なんだ。あいつのおやじはこの横浜で絶大な力を持っている。狂想会が潰せないのはそのせいなんだ」
雅は微笑みつつ心配はないと断言した。他のアルテミスのメンバーも大丈夫と言う表情で美奈子を見た。
夜9時。
蒸し暑さの残る横浜の夜景に、ミッドナイトブルーと漆黒の影がゆっくりと浮かび上がる。
アルテミスのバイクチーム.......
総長・雅を先頭に、副総長・梓、そして後方をルナゴスペルが静かに守るように続く。
港沿いの国道を、並んでヘッドライトの列が進む。
アクセルを煽る音は小さく抑え、爆音でも威圧でもなく.....ただ美しく、統率の取れた走り。
総長・雅の瞳は、遠くランドマークタワーの光を冷ややかに捉えている。
「さあ、夜のダンスをはじめましょう」と、心の奥で小さく呟く。
梓はサイドミラー越しに美奈子の姿を確認する。
後方に控えた美奈子の瞳にも、決して折れない炎が灯っている。
ルナゴスペルの4人は、背中に光る銀の刺繍を夜風にはためかせる。
特攻服の濃紺が、街灯のオレンジに一瞬だけ浮かんでは闇に溶けていく。
港湾倉庫街を抜けたとき、雅が配置した見張りから連絡が入る。
『狂想会の若い連中が集会を始めています。噂も出回り始めました』
雅は短く頷き、ヘルメット内のマイクで一言。
「ここからは“月レクイエム”。焦らず、美しく。」
湾岸沿いの直線を抜け、横浜ベイブリッジを望む高架道路に差し掛かる。
見下ろす街には、狂想会の縄張りとして知られる繁華街が夜の灯りをともしている。
しかしその足元で、雅と美奈子が仕組んだ“ギミック”が静かに広がっていく........。
夜風は熱く、心はさらに熱い。
彼女たちの走りは、ただの暴走ではない。
街を塗り替えるための、誇り高い革命の狼煙だった。
夜10時
狂想会の若手幹部数人が、それぞれのバイクに跨りながら、港近くの倉庫街へ向かっていた。
”なぁ……聞いたか? 横浜の港沿いで、アルテミスと……あの新しい女チームが走ってたって”
リーダー格の若手、葛西 輝が低く声を落とす。
”しかも、街の連中が言うんだよ。あの女どもがただの飾りじゃないて......”
”鬼影さん、昨日言ってたよな?あのレディースは潰すって”
”ああ、なんでも鬼影さんの女が、あいつらに面子潰されたって”
後ろを走る別のメンバーが眉をひそめて言った。
”そんなんで、レディース一つ潰すのか?”
”総会長の女もレディースやってんだろ?なんで自分でやらないんだ?”
”カヲルさんは、鬼影さんに媚うるのは上手だが、人望がないらしいぞ”
港近くの倉庫街・・・・・・・・
”狂想会の金の話とか、裏の店の話とか――最近、どっかで妙に漏れてんだよな。 “内部に裏切り者がいる”とか、“フロント企業がヤバい”とか……”
”ああ聞いた。それけじゃないぞ。ネットにウチの情報が上がってるんだ。薬の売とかマネーロンダリングとか、女さらって身代金とったとか。まあ事実だからしかたないけど........”
”俺ら確かに悪やってるが、あそこまで叩かれると、すこしへこむよなぁ”
”なんか、アルテミスが関わってるって噂も聞くぞ。総会長の女がむきになってアルテミスと美奈子達つぶせと言い始めてから、こんなことが起こってるって”
"馬鹿いえ。女共にそんなことできるか?"
"でもな、元町南埠頭のあの伝説の一夜。アルテミスは、とんでもない資金持ってるだろ。あながち嘘とは言えないんだよな”
横浜狂想会元町支部
”だいたいよ、女豹疾走の美奈子……アイツ動いてるんだろ?
カヲル姐さんにも冷たくされて、今度は別の旗立てて……”
”まさか、美奈子が本気で狂想会にケンカ売るなんてよ……”
”冗談だろ、ただの女だぜ……?”
声には自信がない。
“ただの女”と言いながらも、胸の奥には言い知れない不安が湧き上がる。
横浜不如帰本部
”もしあいつらが本気だったら……”
”この街、本当に変わるかもしれねぇな……”
”その時俺らはどう動くのがいいか”
夜10時半過ぎ、港沿いの古びた倉庫の前。
数十台のバイクが乱雑に並び、排気の匂いと夜潮の生温い風が混じり合う。
シャッターに背を預けた若手たちは、肩を寄せ合って声を潜めていた。
「おい、聞いたか? 例の資金の話……本当らしいぜ」
「どこから漏れたんだよ。知ってるのは限られた奴らだろ?」
声をひそめても、夜の闇は妙に響く。
奥から幹部格の男がゆっくり歩いてきて、荒っぽくタバコをもみ消す。
「くだらねぇ噂にビビってんじゃねぇよ。裏で蓮次さんが手を回してんだ。……女どもが調子乗ってるだけだろうが。それにただの噂じゃねえか」
それでも、若い連中の顔色は晴れなかった。
集会は形式ばった始まりを迎えた。
リーダー格の若手が前に立ち、「これからのシマの拡大」や「他チームへの睨み」といった話を始める。
しかし、視線は落ち着きなく泳ぎ、ざわめきは止まらない。
”なあ、お前ら……”
”美奈子のやつ、本気で女だけのチーム作ったんだってな”
”アルテミスってチームと組んだとか……”
”バカ言うな。あの女が何できる――”
”けどよ、もし本当に狂想会を潰すつもりだったら……”
噂は、自然と広がり狂想会の中にキシミを生み出していった。




