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お嬢様レディース ~超お嬢様達がレディースをつくったら、最強のやりたい放題のチームになりましたわ~  作者: 猫の手


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202/229

お嬢様 通じなくなった速さ

挿絵(By みてみん) 

アルテミス総長雅 初詣イラスト

 雨がやんだ。

 ここからが、本当のタイヤ交換の勝負である。


 だが、やんだからといって、路面がすぐに乾くわけではない。

 ここから先は、文字通りの駆け引きだった。


 新設サーキットの排水性について、誰も確かな答えを持っていない。


 ここは、元々産業用道路を改造して作られたコースだ。

 最初からレース用に設計された路面ではない。


 コーナーや接続部の一部は、新設され、専用サーキット仕様になっている。

 一方で、旧道路部分は、最低限の排水傾斜を持つだけだ。


 ドライの状況では、その違いは感じ取れていた。

 だが、雨はそれを否応なく露わにした。


 陽が差し始め、コースは斑模様に変わっていく。

 光を反射する場所と、いつまでも黒く濡れたままの場所。


 ここからのタイヤ交換は、前半とは違う。

 同時ではない。


 判断は、完全にドライバーへ委ねられる。


 どこまでレインで引っ張るか。

 どこでスリックに替えるか。


 ピットからでは、もう正確には読めない。


 美奈子のピットでも、千鶴たちがアテナリジェーネに新品のスリックを装着し、いつでも戻れるよう準備を整えていた。


 それを見て、白木の表情が、わずかに曇る。


 《白木さん。何か問題でも?》


「いや……俺は、ここでは何も言えない。それが約束だからな」


 アテナは、その表情と言葉を記録し、処理を続ける。


 新品のタイヤ・・・・

 パンクの可能性は低い。


 だが——


 何かが、計算に収まっていなかった。


 一方、蓮のピットでも交換準備が進む。

 新品タイヤにウォーマーが装着される。


 その時だった。


「そっちじゃない」


 悠翔が、声を張り上げた。


「蓮が前半に使っていたタイヤだ」


「え?」


「説明は後だ。言う通りにしろ。

 ただし——」


「空気圧を再確認しろ。

 不純物が噛んでいないか、もう一度だ」


「……はい!」


 アテナのほうも思考の末、問題点を見つけた。


 《千鶴、タイヤウォーマーを外してください》


 理由もわからないまま、アテナの指示通りにした。


 すると、アテナリジェーネはタイヤを高速で回転させ、ヤスリで表面を削っていった。


「ちょっ!何するの?アテナ・・」


 《私は、大事なことを除外してました。それは、レース経験からしか得られないものです。私の判断ミスです》


「私全然わからないのですが?なんでアテナが謝ってるの?」


 《説明は、後で直接美奈子さんに聞いてください》


 《あなたのおかげで、今回は助かりました》

 白木だけに聞こえる声でアテナはそっと呟くように言った。


「俺は、何も言っちゃいねぇよ」


 《ええ。それでもあなたには、ありがとうの一言だけ》


「まあ、何のことかわからないが、あんたとは気が合いそうだ」


 二周を経て、路面の色の半分が変わった。


 ナンバーズたちは、計ったようにピットへ入る。

 第二集団が迫るが、師匠たちは、やはり定位置に収まった。


 その背後で、第二集団の半数がピットに吸い込まれる。


 美奈子は、入らない。

 そのまま、先行する集団へと踏み込んだ。


 蓮は、分かれてピットへ入る。


 ピットワークの数秒の差をこの週で稼ぐのが、美奈子の作戦。入るのは次だ。


 一方蓮は、後半はスプリントになると判断。前半押さえていて、残りの3分の1は、多少のムチャでもやる気であった。


 短い言葉を悠翔が、かける。

「俺が出来るレースメークはここまでだ」


「ああ、相棒、ありがとな。後は前しか見ない」


 悠翔が、ピットを離れロータリーが吠える。暴力的な加速でコースへと戻る。

(前半抑えたおかげで、タイヤのおいしい所が、まるまる残ってるぜ。

 これならロータリーパワーが生かせる。最後までいける)


 美奈子も飛ばした。この週までタイヤが持てばいい。その走りは、修羅のように荒々しかった。タイトコーナーでは、派手にブレーキングドリフトを多用し鋭角に曲がっていく。

 そのシーンが、大画面モニターに映る度に観客を魅了する。


「あいつ女だよな?」


「普通バイクでは、あんなにドリフトさせるんじゃ、タイム出ないんじゃ?」


「いや、あいつは、狭いコーナーやS字でのみ使ってる。だから早いんだ」


 美奈子自身は、ドリフト走行をしてることなど自分では意識してなかった。

 ただ、タイトコーナーや、S字コーナーで、本能のまま今の自分に出来る最速のラインを選びそこのマシンを向かわせることだけしか考えていなかった。感性による”反射”が美奈子の走りを支えていた。


「ねえ、梓、あなたなら美奈子さんに勝てる?」

 おもむろに雅は尋ねた。


「わからないわ。最初一緒にレースした時と、美奈子さん走りが変わってるから」


「うん、覚醒したわね。彼女。ストリーターの時は、荒々しかったけど。今は、一見派手だけど、事故でリタイヤする気は全くしないの。あれは、反射の極って感じ」

 雅は嬉しそうに感想を述べた。


「私は、蓮さんの走りは、理解できるわ。あれは、完成された理論の走りですね。派手さはないけど、その分隙もないの。あちらは、理論の極みです」


「なんか不思議じゃない? 美奈子さんには、AIのアテナが、蓮さんには、人間の悠翔さんがついてるのに、その走りは、正反対の性格をしてる。そして、この組み合わせだったから今の走りが成立してる」


「このレース、どちらが勝っても月の雫プロジェクトに必要だわ」


「後半戦、感性の極みと理論の極みの戦いどうなるか楽しみですね」

 そう言って雅は楽しそうに2人の候補を見つめた。


 美奈子がピットに戻りタイヤ交換をする。


「時間、なんとかひねり出したけど……どうだ?」


 《3秒という、貴重な余白を得ました。あとは、美奈子の走りだけです。

 これからは、あなたのレースです》


「ありがとう。アテナ最高の応援歌だ」


 ピットから美奈子が飛び出す。


 コーナーで再び蓮の後ろにつく。


 前半変わってナンバーズを除いて集団は列になってばらけている。至る所でバトルが行われている。


 二人は、最初のターゲットに襲いかかる。


 コーナーで、美奈子がイン。

 蓮がアウトから重ねる――だが、届かない。


 次は逆。

 美奈子がアウト、蓮がイン。


 しかし蓮は、インを締められ、

 そのままアウトへと押し流される。



 前半と違う。ラインが取れない。こちらは2台なのに、2台とも抜けるラインがないのだ。ならばと蓮はストレートで強引に抜く。


 前に出た瞬間、背後に気配が走る。


 一瞬、美奈子かと思った。

 だがスリップに入ったのは、今抜いたドライバーだった。


 美奈子は、そのさらに後ろ。


(やられた・・・スリップを使われた)


 言いようもない悔しさが、蓮を支配した。 それからは、同じ繰り返しだった。コーナーでは、ブロックされストレートでは、スリップで使われる。

 前半あれだけ機能した蓮と美奈子のコンビプレーが、全く機能しないのだ。


 ここで、本気のプロの走りに触れた気がした。


 後半戦の嵐の予感が、サーキット場を覆った。


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