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お嬢様レディース ~超お嬢様達がレディースをつくったら、最強のやりたい放題のチームになりましたわ~  作者: 猫の手


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201/229

お嬢様 「雨が押しだす2人」

 美奈子と蓮の快進撃の幕が開く――

 誰もが予想もしてなかった。アテナを除いて。

 しかし、それは必然でもあった。



 2台は、まるでコンビを組んでるように、一つ上の速さを見せた。いやそう見えただけで、2人のラップタイムは、以前と同じである。ただし()()()()()()()だった。


 水煙は、次の獲物が近いことを二人に知らせる。仕掛け所はコーナー。

 相手の速度が落ちたところで、少しだけ相手よりブレーキタイミングを遅らせる。そして前に出る。


 蓮がインをつけば、美奈子がアウトから、美奈子がインをつけば、今度は蓮がアウトから、ハイエナのように襲いかかり逃げ道を閉じて二人は沈めていく。


 抜き返そうにも、この雨の中、先の路面が読めないし、ストレートでも2台が盛大に上げる水煙の中に入る気が起きない。

(あいつら怖くないのか?)


 二人は、本能的に知っていた。”雨は、味方だと”

 本来サーキットでは、無いはずのブラインドコーナーが、雨によって作られた。

 不確定要素は、ストリーターに有利した。


 今この場を支配するのは、”鳥の目” 蓮にはないものだが、美奈子の動きだけを追うことは出来る。

(頼りにしてるぜ、ナビゲーターさんよ)


 コーナー毎に2台は、1台づつ抜いていく。


 すこし美奈子は、苛立っていた。

(蓮に使われてる。だが・・・)


 雨が降って5週を過ぎた。

 いつの間にか2人は第三集団の先頭に立っていた。


 スタンドは、判官びいきだ。プロに中に混じった異物の2人。それが、快進撃を始めるとニワカファンが出来る。「レン~」「ミナコ~」の声援が混じり始める。


 蓮のピットが見えない車体番号と蓮のマシンとの差をボードで知らせる。『-10』 同時に美奈子のピットからは、『ストレートでは蓮の後ろに付け』と指示が出される。


「アテナ、なぜこんな指示を」


 《蓮のマシンは、美奈子のよりパワーがあるからです》


「そっか。つまり総長は、うちらにアテナを、蓮には、マシンと悠翔を貸したんだね」


 少しの間がった。


 《たぶんそうですね》

 それ以上アテナは答えなかった。


 2人の()()()()は続いた。ストレートでは、蓮が引っ張る。美奈子はその後ろのスリップに入り、パワー差を埋める。


 その作業で、第二集団の背中が見えて来た。

 蓮は、ここからは、お前の番だと言わんばかりに、美奈子を先に出す。


 美奈子は、感覚で前方との距離を詰め最適解のラインを選ぶ。

 蓮はそのその背中から、美奈子と違うラインを選ぶ。


 抜いたと思ったが、わずかに届かなかった。


 今度は、蓮が仕掛ける。美奈子は、背後の蓮の気配から反射的に逆のラインを選択する。これも少し届かない。


 このやり取りが、各コーナーが来る毎に繰り返されるのだ。


 前の男は知っていた。

(どちらか1台前に出に出られたとき自分の()()が2つ下がることを)


 最終コーナーを回る、前面広がるバックストレート。

 ここで男が、少し気を緩めたのが、致命的な結果を生む。


 アウトから蓮が、美奈子を引き連れ、甲高い音色を上げてサイドバイサイドで並び一気にパスする。

(やられた――あいつらコーナーだけじゃなかったのか・・・)


 蓮と美奈子は、第二集団に割り込む。


 スタンドが涌く。


「なあ、あいつらアマだよな?」


「プロじゃないの?でないとおかしいだろう」


「いや、不如帰の蓮と、ルナゴスペルの美奈子だよ」


 感嘆の波が引き、変わってざわめきの小波が打ち寄せる。


「ねえ梓。あの美奈子さんの走り、分かる?」


「分からないわ。蓮さんの走りは分かる気がするけど」


「そう。でも変わったわね。美奈子さんの走り」


「ええ、でも私は、蓮さんの変化も気になるわ」


 コントロールセンターの会話はよそに、2人の順位は、第二集団の中頃まで上げていた。


 第二集団の空気は、明らかに違っていた。


 速い。だが、それだけではない。

 互いの癖を知り尽くした者同士が、無言で探り合う領域だ。


 美奈子は、その中に入った瞬間、わずかに肩の力を抜いた。

(……なるほどね)


 無理に攻めない。だが、引かない。


 一台分の幅があれば、そこを“通る”のではなく、“使う”。

 ブレーキを残し、車体を遊ばせ、わずかな滑りをそのまま前への推進力に変える。


 蓮は、その背中を見て理解する。

(速さじゃない。余白だ)


 第二集団の連中は、速い。

 だが余白がない。


 だから一瞬でも判断が遅れる。

 その一瞬を、美奈子は逃さない。


 一方、蓮は違うやり方を取った。

 前を走るマシンの挙動、タイヤの減り、立ち上がりの癖。

 すべてを一拍遅らせて処理し、”最も安全な“速さ”を選ぶ。


 二人の走りは、噛み合っていた。

 だが、同じではない。


 ——それが、周囲を混乱させた。


「……おかしい」


 第二集団の一人が、ヘルメットの中で呟く。


(あいつら、喧嘩してない)


 競り合いの中で、普通はどこかでラインが重なる。

 焦りが生まれる。だが二人には、それがない。


 まるで、役割が最初から決まっているかのようだった。


 前を走る者が、ふとミラーを見る。

 そこに映るのは、一台ではない。——二台だ。


 しかも、位置が一定しない。内かと思えば外。

 次の瞬間には、その逆。


(……囲まれてる?)


 認識した瞬間には、もう遅い。


 美奈子が、コーナーで一台を押し出す。

 蓮が、立ち上がりでその横を奪う。


 順位が、また一つ、崩れた。


 スタンドのざわめきは、もはや歓声ではない。

 驚きに近い、低い音だった。


「……二人で、レースをしてるみたいだな」


 誰かが、ぽつりと言う。


 否定は、起きなかった。


 コントロールセンターで、梓が静かに息を吸う。


「……同じ速さなのに、違う見え方に感じる」


 雅は答えない。ただ、コースを見ている。


 二人が追いかけているのは、順位ではない。

 目の前の一台でもない。


 “集団そのものの速度”を、押し上げている。


 それに気づいた瞬間、雅は、ノートに短く一行だけ書いた。


「クロスオーバー、成立」


 レースは、まだ中盤だ。


 だが、この二台が通った跡だけ、確実に空気が変わり始めていた。





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