表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/95

お嬢様学食の個室で、アブナイ本を見てショックを受ける。

 

 昼休みになり雅達は、学食に向かった。学食と言っても、ここでは食育の一環で、テーブルマナーを学ぶため、いくつかのコース料理から選ぶようになっている。


 重厚な扉を開けると天井にはシャンデリアが、その下には4~5人ずつ用の丸テーブルと座り心地のよい赤いレザー張りの椅子セットが在校生分並べられている。ただしこれは、あくまで一般学生用である。


 S組用には、左右両端エリアに10人程度座れる個室が用意されている。

 それぞれの個室には、専用の給仕がいて、和懐石コースかフレンチコース・イタリアンコース・中華コースから毎日選べるようになっている。


 S組クラスが個室を持っているのは、差別化というより情報漏洩対策である。それぞれの家がVIPの為、家の情報の流失は、世界経済の混乱を招く恐れがあるため、このような仕組みになったのである。(黄金世代の前までは、せいぜい日本経済の混乱程度であった)


「みなさん、今日はエマさんの雑誌の件がありますので、簡素ではありますが料理長には松花堂弁当をお願いしてますがよろしいくて?」


 実際みんなは、食事よりもその雑誌が気になっていて、当然の事だが異議などなかった。



「お嬢様方、松花堂弁当をお持ちいたしました。」


 専属の給仕が、ワゴンに積みあがった松花堂弁当を各自の前にサーブしてゆく。


 輪島塗の人間国宝が作った弁当箱は、九つの区画に区切られ、新鮮な刺身や、煮物、天ぷら等のおかずに白米が詰められている。まさに珠玉の一品が絶妙のカラーでバランスよく配置されている。


 さすがに京都の一流和食店で板長まで勤め上げた職人の感性である。それでも一流の食を食べ慣れた彼女達には、さして興味を抱かせるものではない。


「井上さん、いつものように午後1時半まで誰も入れないようにお願いしますね。」と雅はごく自然に釘をさした。まあこの給仕には、不要な念押しであるが。


 食事は、20分ほどで終わった。通常は30分から40分位かけて味わいゆっくりと済ますのだが、皆心の中では、食事よりも未知なるファッションへの興味が重要事項である。自然と箸を動かす速度も速くなっていた。


 今回の食事会の参加者は、 生徒会長の三条雅(さんじょうみやび) 副会長の宮部梓(みやべあずさ) 会計の安田麗子(やすだらいこ) 書記の伊藤彩(いとうあや) 風紀委員長の山際琴音(やまぎわことね) 科学部部長の木田宗子(きだそうこ) 美術部部長のエマ・ベルナール 弓道部部長の京極(きょうごく)あかね この8人は、仲がよくS組でも上位のグループであった。


「それでは、お見せいたします。この雑誌です。」とエマは、ショルダーバッグの中からA4サイズの大きさの雑誌を取り出した。


 黒基調の表紙には、レディース特集とピンク色で大きく文字が書かれている。しかも中央には、背景が薄暗い中、数人の少女たちが座りこんで、カメラ目線で写っている写真がある。


 雅は一瞬なんて相反する色調の雑誌なんでしょう。と思った。


 皆も同じような印象をもったらしく、同じ様な顔をしてる。戸惑いと驚き、正しくは未知との遭遇であった。


 雅は恐る恐る最初のページをめくった。「え........こ、これは......!」


 そこにはエマが言っていた原色の赤・黒・白・紫等の上下のパンツジャケットに刺繍文字が書いてあって、皆ジャケットの前を開け広げ、白の布で胸を中心に巻いているようなベアトップで締め付けてあった。そして、フルメイクで、夜の背景に唇の紅が艶めかしく目立っていた。


 パンツはどこかニッカーボッカーズに似てる気がした。雅の祖父が趣味のゴルフに行くときに履いていたパンツである。 (......履いている靴は?.....)雅が和装の時につける足袋にそっくりだった。(え......草履は......?)疑問が絶えない。


「エマさん......この方々、本当にレディーなのですか?」


「あんなに素肌をみせて......は、破廉恥ですわ!」


「まあっ!........タトゥーが綺麗ですわね......」


「皆髪の毛を染めているのね」


「ロングの髪型の方が多いですね。」


 様々な感想が上がる。雅は次のページを素早くめくる。


 そこで真っ先に飛び込んできたのは、


「旭日旗.........」すかさず彩が叫んだ。


「皆さまこの方々WAVE(女性海上自衛官)ですわ。お父様が防衛省長官時代にご一緒させていただきましたから旭日旗は見慣れてましたので........自衛艦旗がこれでしたわ」


 しかし皆どこか違う気がしている。そもそも自衛艦旗に黒で《《狂》》《《走》》《《隊》》など書いていいものなのか.........


 謎は深まる。雅は次のページをめくる。そこにはジャケットの背に皆漢字文字が金糸で刺繍されているのを誇らしげに見せてる少女たちが写っていた。


「えっと........女走連合........二代目蝶途魔輝.......羅撫魅童........なんて読むのだろう?ジョソウレンゴウ? ニダイメチョウトマキ? ラナデミワラベ?」


「ブツブツ..............ブ........」梓が口の中で何か唱えている。「あ!ひょっとしたら解けたかもしれない。これ暗号と言うか当て字ですわ。最初のは、ジョソウレンゴウじゃなく、たぶんニョソウレンゴウかメソウレンゴウ 女の子が、ジョソウじゃ《《女》》《《装》》でなんか嫌でしょ。次が、ニダイメチョットマッテ 3番目のがラブミドゥーだと思います」


「「おおおお.........」」何か皆納得している。


 さすが、ミスコンピューターの二つ名を持つ梓である。ちなみに彼女の家は、世界最大手のIT企業ビックデーター社の創業家である。


 次のページを開いた瞬間、雅達は衝撃を受けた。なんとそのページには、先程の少女達が皆、いかつそうなバイクにまたがっている写真が2ページまたぎで大きく写っていた。


「.........................!」


「.........................!」



 雅達は全員息を呑みつつそのページに釘付けになった。そこに写ってる少女達は皆、獲物を狙うハンターのように厳しい目をしている。


 雅は生まれた環境により好むと好まざるとにかかわらず、幼き時から帝王学を叩き込まれた。それは女子であろうと男子であろうと関係なく三条家の家訓であった。その時に培った人を見分ける眼が、彼女たちがただ者ではないと教えている。


 (この子達は、.......何かに打ち込んで生きがいを感じてる顔だわ! .............私達とそう歳は違わないのに............絶対的自信...........何に対する自信なのかしら?)


 雅は頬がわずかに火照るのを感じた。この子達をもっと知りたい。そうすることが、日常の退屈さから自分を解放してくれる。そう考えていた時にエマがお茶を注いでくれた。


 その時初めて、興奮のあまり、自分の喉がカラカラになっていることに気づいた。


(あ!そうか........エマはすでにこれらの写真を見てるから余裕があったんだ。私や他のみんなと同様に、初めて見たとき大きな衝撃を受けたのでしょうね..........)


 次のページを開く。雅をはじめとして、みな食い入るように本を覗き込んでる。


「乙女心とか、純真、愛一筋とか、可愛らしいお言葉の刺繍もあるのですね。」


「ええ、なんだか彼女たちに親近感を覚えますわ」


 そのような感想を聞きながら雅は、ページをめくり、仲間とバイクで走っている彼女たちの目を見ていた。今度はどの子も楽しそうに笑い合い、心の底からお互いを信頼している目をしていた。信頼と自信.........素晴らしいわ。


 そして次のページに移った時から、雅たちの運命は大きく変わったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ