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お嬢様レディース ~超お嬢様達がレディースをつくったら、最強のやりたい放題のチームになりましたわ~  作者: 猫の手


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お嬢様 『ベルベットの檻に風が吹く』

 昼休みの鐘が鳴ると、雅たちは自然な流れで学食へ向かった。

 ――向かう、というより「戻る」と言ったほうが正しい。


 聖凰華女学園の学食は、一般的なそれとは根本から異なる。

 食育の一環として、日替わりのコース料理を選ぶ形式。

 空腹を満たす場所ではなく、教養と序列を確認する空間だった。


 重厚な扉を押し開けると、高い天井からシャンデリアの光が降り注ぐ。

 赤いレザー張りの椅子が丸テーブルを囲み、静かなざわめきが満ちている。

 ここが“一般生徒用”エリア――すでに十分すぎるほど豪華だ。


 だが、雅たちは迷わずその奥へ進む。


 壁際に並ぶ個室。

 十人ほどが座れる、防音仕様の空間。

 二年S組専用――言葉にすればそれだけだが、その意味は重い。


 専属の給仕が付き、和懐石、フレンチ、イタリアン、中華から毎日選べる。

 それを「特権だ」と言う者もいる。

 けれど、この個室は贅沢のためではない。


 ここに集う家名を並べれば、政財界の中枢が浮かび上がる。

 少女たちの何気ない一言が、株価を揺らすことすらある。

 ――秘密を守るための、必要経費。


 いつもの顔ぶれが、当然のように席に着いた。


「今日はエマさんの雑誌の件がありますので、簡単なもので失礼しますが……

 料理長には松花堂弁当をお願いしてあります。よろしいかしら?」


 雅の言葉に、異論は出なかった。

 全員の意識は、すでに“その先”に向いている。


 給仕が現れ、輪島塗の弁当箱が丁寧に並べられる。

 九つに仕切られた中には、旬の刺身、煮物、揚げたての天ぷら。

 白米には梅の花が添えられていた。


 芸術品のような料理。

 だが今日、それをじっくり味わう者はいない。


「井上さん。午後一時半まで、誰も入れないように」


 雅の静かな指示に、給仕は深く一礼して下がった。


 右隣には副会長の梓。

 視線はすでにテーブルの中央に吸い寄せられている。

 向かいには会計の麗子、穏やかな彩、背筋を崩さぬ琴音。

 宗子は雑誌の紙質を想像するように指先を動かしていた。


 話題の中心にいるエマは、余裕のある微笑みを浮かべている。

 そして、京極あかね。

 黙って座っているだけで、空気が引き締まる存在。


 八人が揃うと、この個室は小さな王宮になる。


「それでは……お見せしますね」


 エマがバッグから取り出した一冊。

 黒を基調にした表紙に、鮮やかなピンクの文字。


 《レディース特集》


 背景は薄暗く、少女たちが無言でこちらを見返している。


「……色の主張が強いわね」


 雅の呟きに、誰も否定しなかった。

 戸惑いと違和感。

 ――未知と出会ったときの、あの感覚。


 ページがめくられる。


 原色のパンツスーツ。

 金糸の刺繍。

 胸元を大胆に開いた衣装。

 夜の街を背にした、濃いメイクの少女たち。


 雅の思考が、一瞬止まる。


「……本当に、レディーなの?」


 誰かが「破廉恥」と言い、

 誰かが「タトゥーが綺麗」と言い、

 言葉が交錯する。


 次のページ。


「……旭日旗?」


 彩の声が、わずかに震えた。


「自衛艦旗ですわ。

 父が防衛大臣だった頃、拝見したことがあります」


 だが、旗の下に踊る文字が違う。

「狂」「走」「隊」――そんな部隊は存在しない。


 さらにページをめくる。


 背中いっぱいに刺繍された漢字。


女走(メッシ)連合……二代目蝶途魔輝(ちょっとまって)……羅撫魅童(らぶみーどぅ)……?」


 梓が眉を寄せ、やがて顔を上げる。


「当て字ですわ。

 音を優先した――遊び。でも、意味は本気です」


 次の瞬間。


 見開きいっぱいに現れたのは、

 バイクにまたがる少女たちだった。


 誰も、声を出せなかった。


 その目は鋭く、迷いがない。

 飾りではない。

 覚悟の目だ。


 雅の胸が、熱を帯びる。


(この子たち……)


 奇抜なだけではない。

 何かに、命を賭けている。


 ――同じ年頃なのに。

 なぜ、こんな目ができるの?


 喉が渇いていた。

 息が浅くなっていることに、エマがお茶を注いでくれて気づく。


(そうか……あなたは、もう一度これを見ているのね)


 次のページ。

 刺繍は「乙女心」「純真」「愛一筋」。


 走る少女たちの笑顔。

 信頼し合う視線。


 その瞬間、雅は理解した。


 この雑誌は、情報ではない。

 生き方そのものだ。


 そして、ページをめくった次の時――


 雅たちの運命は、

 もう後戻りできない角度で、静かに傾き始めていた。

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