表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嬢様レディース ~超お嬢様達がレディースをつくったら、最強のやりたい放題のチームになりましたわ~  作者: 猫の手


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

192/240

お嬢様 始まりのライン

 予選当日の東北サーキット周辺は、もはやレース会場ではなかった。

 初もうでの混雑の様子に例えればわかりやすいか。


 前夜から続く人の流れが、夜明けとともに可視化される。

 駐車場に並ぶ車列。歩道に敷かれたブルーシート。

 テント、折りたたみ椅子、毛布を肩にかけた人々。


 誰もが同じ方向を見ていた。

 まだエンジン音すら鳴っていないサーキットのほうを。


 四万人収容のスタンドは、前夜の時点で「満席前提」だった。

 いい席を取るために、順番待ちの札が並び、徹夜組が交代で列を守る。

 もはや整理ではなく、共同作業に近い空気だった。


 屋台は眠らない。いや、正確には眠れなかった。

 店主とバイトは、ヘロヘロになりながらも、材料が切れるまで売り続けた。

 焼きそばの鉄板が冷めることはなく、湯気が夜気を白く染める。

 明け方になっても、ビールとコーヒーが同じ速度で売れていく。


 そして、運営が動いた。

 本来、開門は午前十時だったが、夜明け前の時点で、その判断は撤回されれ午前五時、前倒し開門をよぎ無くさせられる。


 ゲートが開いた瞬間、人の波が一気に流れ込んだ。走る者はいない。

 押す者もいない。それでも、止められない熱量だけが人を前へ前へと進ませる。


 一時間。それだけで、スタンドはすべて埋まった。


 通路、立ち見エリア、フェンス際。それでも入りきらない人々が、外に残された。


 そして、問題は起きかけた。

 スタンドはすでに埋まっている。通路も、立ち見も限界だった。

 入れないと知った瞬間、空気が変わる。

 荒い言葉が飛び、苛立ちが連鎖し始める。


 その時だった。


 運営の無線が、一斉に鳴った。


 指示は短く、迷いがない。

 サーキット周辺の広場。臨時駐車場。市が管理するイベントスペース。


 そこへ、大型ビジョン四基が、即座に設置される。


 映し出されるのは、まだ空のコース。

 だが、その画面を前に、人は立ち止まり、拍手すら起こった。


 逃がさない。そう言わんばかりの対応だった。


 サーキットの内と外。走る者と、見届ける者。

 どちらも切り捨てないという意思が、はっきりと示されていた。


 それを見た屋台の店主は、ヘラを両手にポツリと呟く。

「また、徹夜か・・・」


 この時点で、誰もが理解していた。これは、ただの予選ではない。

 街ごと巻き込む出来事なのだと。



 スタンドが、妙に静かだった。

 四万人を収容するコンクリートの器に、人はすでに満ちている。

 ざわめきはある。だが、それは音にならない。

 誰もが座ったまま、前を向き、息をひそめている。


 歓声を上げるには、まだ早い。これはレースではない。

 何かが始まる瞬間を、待たされている空気だった。


 一方、ピット側は、別の緊張に包まれている。

 エンジンはまだ火を入れられていない。


 だが、マシンの周囲に立つ人間の動きに、無駄は一切なかった。

 工具が置かれる音、ヘルメットが手渡される間。

 誰も声を張らない。ここにいる全員が、この場の意味を理解している。


 掲示板の前に、一人の無名レーサーが立っていた。

 名前も、肩書きも、まだない。よれたレーシングスーツの袖口を、無意識に引き寄せる。掲示板に並ぶエントリーリストの端から端まで、視線を走らせた。


 GPシリーズを走る名。国内トップカテゴリーの名。

 そして、その中に混じる、自分と同じ場所から来た者の名。


 喉が、わずかに鳴る。


 ここに立っていい場所なのか。

 そう思う一方で、それでも——試してみたい、という感覚が、胸の奥で静かに広がっていた。


 コントロールタワーのガラス越しに、サーキット全体が収まっていた。

 三条雅は、最前列には立たない。

 モニターが並ぶ管制卓の少し後ろ、全体が見渡せる位置で足を止めている。


 スタンドは、異様なほど静かだった。

 四万人分の呼吸が、同じ速度で止まっている。


 雅は、それを見ない。


 視線は、ピットの動きにだけ向けられていた。

 工具の配置、クルーの立ち位置、ヘルメットを被る順番。

 走る前の、ほんのわずかな乱れ。


 世界を回ってきたチームも、国内の若手も、名もないストリート上がりも、

 同じ画面の中にいる。


 区別は、しない。


「……問題ありません」


 管制のスタッフが、淡々と報告する。


 雅は頷くが、モニターから目を離さない。


 彼女が見ているのは、速さではない。誰が勝つかでもない。

 “ここに立ってしまった者たちが、戻れるかどうか”

 それだけだった。


 スタンドの熱狂は、見ない。歓声も、怒号も、期待も。


 それらは、もう走る者の背中に届いている。主催者が拾う必要はない。


 代わりに、医療モニターに一瞬だけ目を走らせる。

 救急動線、待機車両、ドクターの配置。


「逃げ道は……ある」ぽつりと、確認するように呟く。


 それで十分だった。


 アルテミスが見ないのは、“夢”という言葉だ。


 だが、この場を用意することで、誰かが勝手にそれを見つけてしまうことは、止めない。“夢”という言葉だ。



 午前十時。


 アナウンスが、場内に静かに響いた。

 拡声器越しの声なのに、不思議とざわめきが引いていく。


 観客の視線が、自然とメインストレートに集まる。


 そこに、八台のマシンが並んでいた。

 いつからいたのか分からない。

 だが、気づいた瞬間には、もう全員が見ている。


 横一列。間隔は、寸分の狂いもない。

 白い路面に落ちる影が、まるで一本の帯のようにつながる。


 観客席のざわめきが、そこで止まったが、その走りを見て一気に感情が爆発する。感情の連鎖が、スタンド上に広がっていく。


 そして、八台が、同時にゴールを切った時に、空にはブルーインパルスが、5色の帯を残す。


 サーキットの興奮は最高潮に盛り上がり、コースそのものが、生き物のように雄たけびを上げる。


「間違いない。アルテミスだ」

 誰かが叫ぶ。1人の声が2人に4人に8人に…指数的に広まっていく。

 ――そして、その声はうねりとなりサーキットを埋め尽くす。


 一方ピッドの方は、違った反応に包まれる。

 なぜ、()()()()走れるのに、みずから走らない?


 その理由を知っているのは、8人のプロたちと2人の推薦されたアマだけだった。


 タイムアタック開始


 最初に飛び出しのは、やはり市中の走り屋達だった。

 タイムアタックは、駆け引きである。


 すでにコース用セッティングを終えてるプロ達は、あえて時間をずらしピットを後にする。 コースがクリアな条件で、自分のラインをしっかりキープするためである。


 だからと言って、限られた時間は有限である。特に後半からは、ランカー達が走り始めるので、その()()をするのは、暗黙のタブーである。そうやっていつの間にか住み分けが出来た。


 ルナゴスペルの美奈子も、当然最初のグループであるので真っ先に飛び出した。5週走ったが、思った以上にタイムが伸びてない。


(乗れてるのに、なぜタイムが伸びない?マシーンに問題はない。ラインは外してない。アクセルも開けている。なのに……出口で、何かが遅れる)


 美奈子のタイムは予想足切りタイムにも、全然届いていない。タイムは、揃っている。しかし国内の若手プロにも届いていないのだ。


 ピットに戻って来た美奈子に仲間が、声をかける。

「隊長、このままじゃ・・・・」


「わかってる!」

 自然と声に余裕がない。自分でも何が原因かわからないのだ。

 その間国内外のプロ達は、どんどんタイムを縮めてくる。


「出る」


 そう言って美奈子が、再出走しようとする直前に、インカムに割り込んだ声があった。


 声の主は、師匠のジーコだった。


「美奈子、お前は速いが、サーキットの走りじゃないんだ」


「お前がタイムを落としてるのは、コーナーの走りが、ストリーターの走りになってる」


「いいかよく聞け、ここはサーキットだ。ブラインドコーナーとかないんだ」


「お前は無意識に、市街や峠と同じ安全マージンを取ってるんだ。サーキットのコーナーの先は、対向車も来なければ、エンストマシーンもない」


「ついて来い。サーキットの走り方を教える」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ