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お嬢様レディース ~超お嬢様達がレディースをつくったら、最強のやりたい放題のチームになりましたわ~  作者: 猫の手


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お嬢様 《ロンギヌスのカーテン》

 その頃。


 冬香の背後、十数キロ後方では、東光連合と独眼連合が“国道上で動かずに”封鎖線を押さえていた。


 雅の声が微かに通信に割り込む。


『冬香。こっちは問題なし。

 封鎖線が薄くなっている。久我は“本命が動かない”と思ってる』


 梓が追加する。


『あなたの存在が完全に盲点よ。

 久我の作戦に、冬香という“駒”は計算されていない』


 アテナが淡く光る声で補足した。


 《だからこそ、あなたは突破できる。

 国家の網は強い。しかし、“たった一人”には弱いのです》


 冬香はその言葉に、胸が熱くなるのを感じた。


 山道に差し掛かった瞬間、前方の信号機が一斉に青へと切り替わる。


 《冬香、速度を維持して。

 この信号区域は三年前から自動制御が壊れたまま、誰も気付いていませんでした》


「それを……直したの?」


 《はい。少しだけ》


 まるで少女が小さないたずらを成功させたような声音だった。


 車両は止まることなく山道を抜けていく。


 やがて、夜空の向こうに巨大な建物の影が現れた。

 中央医療政策局、久我 慶臣の本拠。


 アテナが息をひそめたように声を落とす。


 《ここから先は、私の導きも限界です。警備は強化されています。

 国家中枢の直轄区画……私の権限では、“合法的に”触れません》


 冬香は手を握りしめる。


「大丈夫だよ、アテナ。

 ここまで来られたのは、あなたのおかげだから」


 しばしの沈黙が流れる。


 そして、ほんの少し震えるような優しい声。


 《冬香。あなたは一人ではありません。

 東光連合があなたを前へ押し出しました。

 私は……その道を照らしただけです》


 冬香は深く頷いた。


「行くね。久我 慶臣のところへ」


 《……必ず、戻ってきてください》


 アテナの声が、はじめて“人間の祈り”のように響いた。


 冬香は車を降り、中央医療政策局の巨大な門へと歩き出す。


 東光連合が作った道の果て。少女は、巨大な国家権力の象徴に挑む。


 夜風がその決意を押し上げるように吹き抜けた。


 夜明け前の霞がかった空の下。

 東光連合の救出劇と大崎白継の拘束から数時間後、


 冬香は、一人で街に出た。

 フードを深くかぶり、背に背負ったのは最低限の荷物だけ。

 仲間たちの援護はない。アテナのナビゲートも切ってある。

 東光連合の車列も動かない。


 久我慶臣との決戦。

 そこに辿り着く道だけは、冬香自身の足で進むべきだと雅が判断し、

 冬香自身もそれを望んだから。


「……わたし一人で、行ける。行かなきゃいけない……」


 胸に刻まれた誓いは、もはや迷いを許さなかった。


 久我の手は速かった。


 市街地の監視は異常なまでに強化され、

 身元不明者への職務質問車両が何度も巡回し、

 ルート封鎖のための検問がいくつも増設されている。


 普通の逃走なら、ここで詰みだ。


 だが、冬香は“戦って突破しない”。


 冬香が選んだのは “溶ける”方法だった。


 私服警官が立ち並ぶ中、冬香はすれ違いざまに

 ひとりのサラリーマンの列に自然に混ざる。


 冬香は久我の監視AIの癖を読んでいた。

 ”単独行動の若い女性”を優先的にスキャンするはず。

 それを逆手にとって、群衆の中の“背景”に徹する。


 足を止めず、視線を向けず、ただ“空気”になる。


 警官の視線がスッと横を通過する。


「……よし」


 冬香は息を殺して列から抜け、

 検問のない裏改札へ向かった。


 監視ドローンの数は異様だった。

 黒い円盤が幾つも空を流れ、冬香を探して動き回っている。


 だが冬香は、古い配送トラックの荷台に、

 工場の作業員が荷物を積むタイミングを読み、

 影のように紛れて乗り込んだ。


 荷台は暗く、油の匂いが染み付いている。

 だが、外のドローンは冬香の存在を検知できない。


(……アルテミスの力じゃなくても、わたし一人でも、抜けられる……!)


 冬香の胸に、静かな自信が灯った。


 最後の検問が見える。

 市外へ出るには、どうしてもここを越えなければならない。


 パトカー、検問テント、照明。国家権力の壁が道を塞いでいる。


 冬香は、大きく息を吸った。


 そして、向こうから歩いてきた老婦人に声をかける。

「あの、すみません……その、バッグ。

 少しだけ持ってもらえませんか……?」


 震えた声で、か弱いふりをして。

 冬香は久我の監視が見ている“ターゲット像”を理解していた。

『困っている老人を手伝う若い女性は、対象から外される』

 そんな統計的な盲点を知っていたのだ。


 老婦人は驚きながらも笑顔で頷く。

「いいわよ、お嬢ちゃん」


 二人はゆっくりと検問へ向かう。


 警官は老人に目を向け、

 冬香には一瞥すらくれなかった。

「お通りください」


 そうして冬香は、国家権力の最終封鎖ラインを“無傷で”越えた。

 市外の闇に出ると、夜風が急に自由の匂いを取り戻した。


 遠くの山が黒い輪郭を描き、その奥に、久我慶臣の拠点となる

 “国家レベルの要塞施設”がうっすらと見える。


 冬香は立ち止まり、拳を握った。

(ここから先は……逃げ道なんてない。でも、わたしはもう逃げない。

 あの人が、みんなが、命をかけて繋いでくれた道だから・・・

 最後まで、歩き切る)


 冬香は一歩を踏み出す。

 その足音は、夜に吸い込まれながらも確かに響いた。


 一人でここまで来た少女が、この国で最も巨大な悪に挑むための 最後の行軍が、静かに始まる。


 中央医療政策局・地下セクター。


 冬香は薄暗い廊下を慎重に進みながら、胸に手を当てて、深く息を吸った。


 その瞬間、耳元に、澄んだ電子音とともに声が落ちてきた。


 《冬香さん。心拍安定、呼吸リズム乱れています。

 恐れなくて大丈夫。あなたは一人ではありません》


「……アテナ……」


 彼女が囁くと、

 目の前の壁面パネルが一瞬だけノイズを走らせ、

 そこに青白いラインが浮かび上がった。


 《久我 慶臣までの最短ルートを提示します。

 注意:警備システムが1分後に巡回します。

 その前に“影ルート”へ入ってください》


(影ルート……?)


 《アルテミス専用の隠密経路です。あなたが知らなくて当然。

 作ったのは、梓です》


 冬香は目を見開いた。


「……梓さんが?」


 《はい。アルテミスは、あなたが辿り着けると信じています》


 アテナの透明な声が、背中をそっと押すように響く。


 その頃、国道封鎖ライン後方。


 倉庫に戻ったアルテミス幹部は、

 大型ホログラムモニターの前で息を詰めていた。


 梓が椅子を回転させ、キーボードを叩く。

「冬香さん、影ルートに入りました。

 さっすが、アテナの誘導と私のシステム、完璧っ」


 雅は腕を組んだまま頷く。

「よし……ここからは“私たちの戦い”だね」


 彩がサイドディスプレイを確認する。

「久我側、公安庁特別監査官が三十名、周辺ビルの屋上に配置済み。

 冬香が近づくのを見越して網を張ってる」


 宗子が拳を握る。

「ふざけないでよ……あの子に全部押し付ける気、国家が……!」


 エマが静かに言った。

「……大丈夫。冬香さんは“行くだけ”。

 久我を追い詰めるのは私たちアルテミスよ」


 雅が頷く。

「これより、アルテミス本隊は“久我包囲網の撹乱”に入る。

 冬香が核心に辿り着くための、絶対の護りを作る」


 アテナの声が会議室に響く。

 《作戦コード:カーテン・ロンギヌス起動可能です》


 梓がにやりと笑う。

「あーあ、久我。アンタ、ほんと運悪いね。

 アルテミス全員の知性と人脈を敵に回すとか」


 雅は立ち上がり、

 スッと手を前へ伸ばした。

「アルテミス、出撃準備。国家最高権力?

 そんなもの、知ったことじゃないわ。

 わたしたちが守るべきは“仲間”ただ一人」


 全員の目が鋭く光る。その瞬間、冬香の耳にアテナの声が届く。


 《冬香さん。

 ここから先は、あなた一人で久我に会いに行くのではありません。

 “アルテミスがあなたを連れて行く”のです》


 冬香は小さく息を呑んだ。心の底から、安心が広がる。


 《安心して。あなたの背後には、日本最高の少女たちが立っています》


 そして冬香は影ルートの奥へ進む。

 アルテミスは同時に、国家の網を外側から破り始める。


 物語は、ついに アルテミスの最終戦 へと入っていく。

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