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お嬢様ついにバトルの開始ですぞ。

 

 静寂を破るように、美奈子のカワサキニンジャZX-4RRが鋭い咆哮を上げた。

 梓のマシーンも負けじとエンジンを吹かし、観衆の間から一斉に歓声が湧き上がる。


「いったあぁッ!!」

 北側のスタート地点、大型倉庫前から二台が飛び出した瞬間、観衆は思わず声を張り上げた。

 夜の港を照らす照明の下、美奈子のカワサキグリーンのマシーンが低く鋭く加速し、黒い特攻服のの梓を一瞬で置き去りにする。


 完全修復されたニンジャZX-4RRのエンジンは、夜気を切り裂くように力強く回転し、美奈子の身体を路面に吸い付かせるように押し出す。

 馬力の差は歴然だった。港湾の広い直線区間で、一気にマシンを伏せた美奈子が、梓との差を広げていく。


「美奈子速い……!」

「やっぱり直線は馬力の差か……!」


 東側のコンテナ群に差し掛かる。薄暗い街灯とコンテナが作り出す影の中、美奈子はほんの一瞬も恐れを見せずにマシーンを寝かせ、直角コーナーを切り返す。

 路面の細かい段差がタイヤを揺らすが、”ジェネシス”で修復されたサスペンションがしっかりとそれを受け止める。


 梓は、少し遅れて同じコーナーに飛び込んだ。

 黒い特攻服の肩が小さく揺れ、彼女の表情には焦りが見え始めている。


 夜のコンテナ群は視界が悪い。しかし、美奈子は迷わずラインを選び西側のコンテナ群の直線へ突き進んだ。


「さすが美奈子、あの速さ、本物だ」

 観衆の中から息を呑む声が聞こえる。


 45度カーブを回り、巨大クレーンの脇を駆け抜け、コンテナ群の合間を縫うように連続するヘアピン。ここは技術も問われるが、美奈子のマシーンは馬力と加速力で前に出る。


 このバトルの様子が、中央の大モニターに映されると観衆は熱い声援を送る。


「本当に二人とも女かよ。野郎どものバトルでもここまでのテクニックはそうそう見られないぜ。」


「ああ、俺らじゃ絶対無理だ。ただ二人の走りには明確な差があるな。美奈子は何て言うか獲物を狙う猛獣のような本能的な走り。一方アルテミスは、生粋のレーサーのような無駄のない走りと言うか。」


 その時、アルテミスの7人は、インカムで会話をしてた。


「ここまでは、想定どおりですね。()()は、パワーで負けてる以上直線勝負は、こうなること判ってましたから。」


「そうですね。梓さんには、コーナーでその差を縮め、とにかく最終LAPの最終コーナーまで10m以内の差でついていくようにオーダーしてます。」


「相手は、パワーで勝ってことは分かってますから、危険なタイトのコーナーリングはせずにこのまま走るでしょう。」


 美奈子のマシーンは、回転数を落とさずに立ち上がりで一気に引き離すたび、夜の港に咆哮がこだまする。


 再び北側へ戻る区間。

 観衆の歓声が近づき、美奈子は一瞬だけバイザーの奥で笑う。

 直線に戻ればこっちのものだ。修復を終えたマシーンのエンジンは、以前 よりまして夜風を切り裂き加速する。


(やはり、プロのエンジニアだな。以前より吹き上がりがよく、パワーエンドが安定してる。チッ、敵に塩を送るような真似をしやがって)

 美奈子は、皮肉っぽく思ったが、心の底から感謝してた。


 最終の直角道路を大きくバンクさせて抜けると、前方にスタート地点の明かりが見える。

 あと400mの直線。美奈子のマシンは、夜の埠頭を切り裂く弾丸のように疾走する。


「……速い!完全に美奈子が先行だ!」

「梓も追ってるけど……馬力の差がきついか!?」

 観衆の悲鳴混じりの歓声の中、美奈子は最初の1週目を先頭で駆け抜けた。


 ピットから梓に指示が入る「これ以上離れされると、確実に負けます。どうやら”ジェネシス”が、相手マシーンの修復時に、点火タイミングや混合比を最適化したようで、()()()()()より5馬力位パワーアップしてる様子。戦略AIは、レースモード2を選択するように提案してます。」


「了解、レースモード2に移行」 そのように返答しながら、左手の指で指先にあるスイッチを切り替えた。


 その瞬間、梓のバイザーの中の”HUD”〈ヘッドアップディスプレー〉にRACE2の表示が現れる。さらに美奈子までの距離が、マシーン搭載のレーダーで正確に表示される。

 ”距離は約20mあと2週で10mまで縮めないと勝ち目はない”


 RACEモード2は、前輪内に収められたモーター駆動である。回帰エネルギーで蓄えられた電力で起動する。出力8Kw 馬力換算で約11馬力の出力が加算される。最初から使えなかったのは、容量の為で計算上コース約2週分が限界と計算されてたからである。しかし2輪駆動となり梓のマシーンのグリップ能力が飛躍的に向上する。


(これで、直線は、ほぼ同じ速度。あとコナーリングで1週5m縮める。)


 緑のマシーンの背中に、黒いマシーンが必死で食らいつこうとする姿が夜の照明に照らし出されていた。


「いけっ~!」


 ヘルメットの奥で梓が息を呑む。


 夜の港湾に、黒いマシーンの加速音が美奈子の緑のマシーンを追うように響き渡る。


 潮風を切り裂き、コンテナ群が背後へ流れるスピードが増す。

 梓の身体は伏せたまま、視界の端で美奈子のリアカウルを強く捉える。


15メートル……いや、もっと詰まる。


 前輪モーターの駆動は、立ち上がり加速で威力を発揮した。

 ヘアピンを抜けた瞬間、リアだけでなく前輪も路面を蹴ることで、両輪にトラクションがかかり黒いマシーンは鋭く前へ伸びる。


 観衆の間から悲鳴混じりの歓声があがる。


「アルテミスが来た!」

「うそ、詰めてきてる!」

「やばい、美奈子ガンバレ!」


 夜の埠頭に響く歓声とケミカルライトの波が、港湾の無機質な空間を熱く染めていく。


 梓は単なるレーシングモードでは勝てないことを知っていた。勝機がるとすれば、RACE2モードの前輪駆動という秘密の武器である。


 差はついに15メートル。


 美奈子も気づく。

(……来てる!簡単にぶっ千切れる相手ではないことはわかっていた)


 バイザーの奥で、美奈子の瞳が鋭く細められる。

 背中に感じる追い上げの気配が、ひしひしと伝わっている。


 夜風は涼しいはずなのに、ヘルメットの中は灼けるように熱い。

 潮の匂い、エンジンの咆哮、観衆の声、すべてが一瞬で混ざり合う。


 再び北側の倉庫地帯へ。

 闇の中で、美奈子の緑のマシンと梓の黒いマシン、その差は確実に詰まっていた。


「絶対に、離さない……!」


 梓の目は完全に先行するマシーンをとらえていた。


 二台のエンジン音は、いつしか観衆の歓声をも飲み込んでいた。

 コンテナ群の影をかすめるように駆け抜け、巨大クレーンの脇を抜ける。

 そして再び東から続く連続ヘアピン(コンテナ群)へと飛び込む二人。


 前週で詰めた差は5mしかし、梓はさらに攻めた。

 レースモード2の前輪駆動が、連続コーナーの立ち上がりでリアタイヤだけでは得られない加速を稼ぐ。


「っ…!」


 立ち上がりでわずかにリアが流れそうになるのを、膝と肘で必死に押さえ込む。トラクションコントロールの限界を超えたのだ。

 ヘルメットの奥で、梓の瞳は鋭い光を放ち、黒いマシーンが夜の闇夜を射抜く矢のように加速した。


 美奈子の緑ニンジャZX-4RRに再び近づいてくる。

 バイザー越しの世界に、その緑のリアカウルがはっきり見える.....距離差10m。


「……来たか、梓!」


 美奈子もすぐに気づく。

 エンジンを回し切り、身体をさらに伏せ、海風を頭上で裂く。

 だが、梓のマシンは、ただの後追いじゃない。明らかに“仕掛け”を持って追い上げてきている。


「すげえ!アルテミスが来た!」

「10mだ!マジで詰めてきた!」

「うわああ、どうなる!?」


 東側のコースから再び直角の最終コーナーへと向かう。

 コーナーの手前で、二人の差はもう息を呑むほど縮まっていた。

 夜の照明に黒いマシーンが強く光り、緑マシンの背中を確実にとらえる。


 最終コーナーまで、あとわずか。

 直角コーナーを迎える前、美奈子の背中の後ろには、梓の許容限度ぎりぎりの運命の10m。


「……必ず、追いつく!」


 そしてついに、3週目の最終コーナーへと突入する。


 先に曲がったのは美奈子だ。


 そしてアウトから10m遅れで梓が負う。


 バトルは最終400mに委ねられた。


横浜が舞台になってますが、筆者は、数年前1度だけ横浜中華街へ行っただけです。

基本Google earth画像とストリートビューから想像で描いています。

地元の方は、違和感があればご容赦願います。

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