お嬢様 我道を通すと言う事ととは。
本日2度目の投稿です。
アルテミスデビュー翌日、走り屋チームの溜まり場にて.......................
「……で、誰なんだよ、あいつら」
「特攻服の刺繍は見えた。でも顔はフルフェイスで全然見えなかった」
「しかも8台全員が同じタイミングで加速、減速して全く隊列が崩れなかった。」
「女だってのは間違いないんだろ?」
「特攻服の下に来てるライダースーツの胸が膨らんでたからな。」
背中の文字は「月下美刃」「暗夜の薔薇」など。だが、その内側にどんな顔が隠れているのか、見たものは誰もいなかった。
「名前だけじゃなくて、顔も歳も全部謎かよ……」
「……いや、うわさじゃAZUSAってやつがいるらしい」
街角のカフェにて...................................
スマホをのぞき込む女子大生たちが小声で盛り上がる。
「見て……“アルテミス”っていうんだって」
「めちゃくちゃ動画が伸びてるじゃん!」
「でも顔が映ってないのよね……」
「逆にそれがかっこいいんだよ! アルテミスArtemisをちょっと並び替えたらミステリアmistreaになるでしょ。」
「横浜の夜に舞い降りた8人の女神――正体不明」
ネットでそんなキャッチコピーがひとり歩きしはじめる。
午後の放課後、初陣を飾った余韻が漂う空気の中、雅達はタブッレットを囲んでた。
まあ.........動画がずいぶん拡散されておりますわね」
指先でスクロールしながら、静かに微笑む。
「”横浜の夜に舞い降りた8人の女神”.....................等と書いてくださってる方もおりますのね。」
「”正体不明のレディースチーム”ですって……ふふっ、顔を隠した甲斐がありましたわ」
梓は、ティーカップを口に運びながらも、どこか嬉しそうな表情をしている。
「そういえば、梓さんInstagramのアカウントの方は大丈夫?」
「ええ、そちらはアカウント名は”月読”ですから、誰も気づいてないと...........ただオジサマ達からは、フランス語で”いい走りだった”とお祝いコメントが来てました」
「そう........まあ隠すわけではないですが、しばらくはミステリーなほうが、楽しめるでしょう」
「あ、それは難しそうですね。」
隣にいた梓が小さく微笑む。
「副会長、どうなさいましたの?」
「どうやってたどりついたのか不明ですが……《女豹疾走》の美奈子様から、DMを頂きましたの。”一度会いたいと”」
「どういたしましょう、会長?」
雅は、ほとんど迷いなく答える。
「お受けになってよろしいのではなくて?
少ないヒントで副会長まで辿り着いたご褒美で。」
「ただし……十分に警戒も必要ですわね。彼女が敵か味方か、まだ分かりませんもの。」
梓は画面をタップして返信DMを打った。
「了解しました。一度だけ、お話いたしましょう。場所と時間を後ほどお伝えいたしますわ。」
夜の帳が下りる少し前............
《アルテミス》と《女豹疾走》、二つの名前が、初めて静かに交わる時が近づいていた。
【美奈子の執念と直感】
美奈子は《女豹疾走》の中でも、特に情報収集とカンの鋭さで一目置かれる存在だった。
《アルテミス》のデビュー動画を見た夜から、その走りに魅了された。
走りの美しさ、隊列の揃い方、刺繍に込められた言葉……
そして一瞬映った「副総長」という呼びかけ。
「副総長.........暗夜の薔薇.......」
「暗夜の薔薇」という刺繍。
動画にははっきりと映っていなかったが、SNSに投稿された写真や短い映像の断片を何度も再生し、何か正体のヒントがないか探した。
そして誰かが「副総長、Azusaって名前らしい」とコメントしているのを見つける。
「Azusa」「副総長」「暗夜」「薔薇」「アルテミス」(月の女神)
この五つの言葉を手がかりに、横浜や近隣のアカウントを夜通し調べ続けた。
『月読』.........フォロワー数は多くない。
写真は美しく上品で、決して派手ではない。
しかし、ひとつひとつの言葉遣いと、上品な感性の投稿があの走りと通じるものがあった。
それに決定的だったのが、フランス語での ”C'était une belle course.”
(いい走りだったよ)コメントは、バイク乗りなら誰でも知ってるプロレーサーだったことだ。
「これだ!……直感で分かる。この人が“暗夜の薔薇”の副総長だ……!」
ただ速さを誇るなら、見向きもしない。
けれどあの走りには「美しさと」「誇り」があった。
横浜・南本牧埠頭夜..................
潮風が吹き抜ける埠頭の片隅に、クレーンの小さな明かりを背に受けてる一人の女がいた。
黒地に深紅の刺繍を背負った《女豹疾走》特攻隊長・美奈子。
瞳は鋭く、しかしながら、何かを探すような気配がある。
深夜の港湾道路に、まばゆいライトを灯して、静かに滑り込む一台の黒いリムジン。
街灯の光を受けて、その長い車体はあの時副総長が来ていた特攻服のような風格を感じる。
やがて運転者が降りてきて、後部座席の扉が開き..........
そこから現れたのは、超お嬢様学園の制服に身を包んだ一人の少女。
黒のローファーを履き立ち振る舞いは、凛としている。
胸元には聖凰華女学院の校章。
「……お待たせしましたわね。美奈子様」
梓の声はあくまでソフトで、それでいて芯の強さを感じさせる。
美奈子は一瞬だけ驚きの表情を見せた。
(お嬢様レデースって本当だったのか。)
制服姿の華奢な少女.......それがあの夜、《暗夜の薔薇》と刺繍された特攻服を着て走っていた副総長には、とても見えなかった。
「まさか……制服で来るとは思わなかったよ」
「ええ、これはわたくしの“素顔”ですのよ」
埠頭の夜景を背景に、風が二人の髪を揺らす。
「会って見てみたかったんだ」
「光栄ですわ。それでがっかりされましたか?」
「いや、変に納得してしまった。」
梓の瞳は穏やかで、それでいて決して見下しても媚びてもいない。
お嬢様として育った気高さと、レディース副総長として夜を駆ける誇りが混ざり合っている。
「なぜレディースに?」
「それは、あなたが逆に問われたらなんと答えますか?」
「いや、そもそもなんの不自由のないお嬢様が・・・」
「不自由がないことと、自由であると言うことは、同じ言葉でないことは、あなたが一番ご存じなのでは?」
美奈子は息を呑んだ。
「確かにそうだな。よく好きの反対は嫌いではないと言われてるな。」
少し考えて美奈子言った。
「なあ、一つ確かめたいことがあるんだが、あんたら本気
なんだな?」
「ええ、わたくしたちはただの見栄っ張りではありませんわ。我道を貫くため本気で走っておりますの。」
「我道?」
「わかりやすく言えば、我が儘ですわ」
「そうか、あははははは.....................」
「はい。クスクスクスクス.............................」
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・・・・・・・・・
しばらくの沈黙のあと
「いつ、やる?」
「明後日。土曜日午後9時。場所はここ本牧南埠頭。当日は警察も入れさせませんわ。2つの埠頭への入り口は、観客のみ通しますが、トラック等は、締め出します。コースは、貴方がお決めになって、周回も。」
「おいおい、それはこちらには有利じゃないのか?」
「しきたりを破っての新規参入ですから、我を通すためでございます」
「わかった」
「二人はクルリと背を向け、ともに闘う顔になってた。