お嬢様 東光連合VS自然 味方登場
余震で軋む建物、冷え込む空気。だが彼らの目は皆、真剣に燃えている。
「こっちだ! まだ人が下敷きになってる!」
康が声を張り上げると、すぐさま数人が集まり瓦礫をどけにかかる。
「力を合わせろ、せーの!」
行馬の掛け声で十人の若者が一斉に柱を押し上げる。
すると崩れた梁の下から、かすかな呻き声が返ってきた。
「生きてる!」
歓声が上がり、救助班が慎重に負傷者を引き出す。
その場で看護師資格を持つメンバーが止血を行い、担架に乗せて避難所へ運び込んだ。
一方、広場では調理班が炊き出しを進めていた。
「スープもうすぐできるよ! 並んで!」
大きな寸胴鍋から立ち上る湯気と野菜の香りが、寒さでこわばった人々の心を少しずつ解きほぐしていく。
子どもたちが湯気に顔を埋めて「いい匂いだぁ」と笑みをこぼした。
龍司は一瞬だけ息をつき、空を見上げる。
星々が冷たく光る夜空。
だがすぐに村人の声に引き戻される。
「水がもう底をつきかけているんです!」
「薬が足りない!」
「落ち着け、大丈夫だ。物資は空から届く。俺たちが責任もって分配する」
龍司は胸を叩き、自ら率先して物資の仕分けに加わる。
蓮は瓦礫の中をライト片手に駆け回っていた。
「おい! 誰か助けてくれ!」
その声に駆けつけると、瓦礫の隙間に閉じ込められた親子を発見。
「待ってろ、絶対に助け出す!」
彼は手を泥と血で汚しながらも、必死に瓦礫をかき分けた。
夜半を過ぎても活動は止まらない。
疲労で足をもつれさせる者もいたが、誰一人離脱しようとはしなかった。
やがて。
救い出された幼い女の子が、龍司に小さな手でしがみついた。
「……ありがとう、おにいちゃん」
その一言で、彼の胸にこみ上げるものがあった。
「礼なんていらねぇ。お前らを守るのが俺たちの役目だ」
夜明けはまだ遠い。
だが、東光連合の心の炎は冷えることなく、闇を照らし続けていた。
月明かりに照らされた臨時本部のテント。
発電機の低い唸りが、夜の静寂をわずかに震わせている。テーブルには広げられた地図と、最新式のタブレット端末が並んでいた。
「……南伊勢の道路、余震で寸断されたか」
梓が指でスクリーンを滑らせ、衛星からの最新映像を確認する。険しい表情だが、その瞳には冷静な光が宿っている。
「ならば空路を使うしかないわね」
雅が紀北町の位置に赤いペンで丸を描き込む。その横顔には迷いがない。
「普通じゃ間に合わない。今必要なのは、燃料と医療キット、医療者、食料」
雅の声は低く、しかし確信に満ちていた。
「ホットラインを使いましょう」
そういうと雅は受話器に口を寄せる。
「……東光連合総長、三条雅です。現場の実態を報告いたします」
隣でキーボードを叩いていた梓が、眼鏡を押し上げるような仕草をしながら、すぐに続いた。
「孤立集落が多数確認されました。道路は寸断、四輪の進入は不可能。二輪のみが機能しています。現地で必要なのは、移動用燃料、初期医療と物資の速やかな投入です」
無線の向こうには、官邸の災害対策本部。
しかしその返答を待つより早く、彩がスマートフォンを握りしめ、震える指で発信ボタンを押す。
「お父様!」
その声は、張り詰めた空気を切り裂いた。
「いま現場は想像を絶する状況よ。このままでは、朝を迎える前に命を落とす人が出るわ……お願い、東光連合を正式に動かして!」
テント内の仲間たちが息をのむ。
彩の父、内閣官房長官 その立場の重さを、誰もが理解していた。
しばしの沈黙。
無線の雑音の中に、重く低い声が落ちてくる。
「……了解した。総理、防衛相も承知済みだ。東光連合を先遣救助ボランティア部隊として認定する。現場の指揮は三条雅、技術統括は梓、連絡員は彩……君たちに託す」
言葉を受け、雅は目を閉じ、一瞬だけ深く息を吐いた。
「承知しました。全責任をもって任務を遂行いたします」
梓は即座に端末を操作し、無線に乗せる。
「必要な物資リストを至急送信します。ヘリポート候補地も確保済みです」
そして、彩。
唇を噛みしめ、涙をこらえながら父に告げた。
「必ず、無事に……命をつなぎます」
無線が切れた瞬間、テント内の空気が変わった。
緊張と使命感が、全員の胸を強く締め付ける。
二人は視線を合わせ、次の指示を端末に打ち込み始めた。
モトクロス部隊への追加燃料補給。
臨時医療拠点への医薬品輸送。
夜を徹して練られる計画が、被災地に明日の希望をもたらそうとしていた。
夜空を裂くように、アルテミス専用の暗号化通信回線が開く。
耳にかけた小型無線機から、雅の凛とした声が響いた。
『こちら本部、アルテミス総長・雅。全隊へ告ぐ、追加指令を伝える』
モトクロス部隊の先頭を走っていた宗子が、ハンドルを片手で抑えながら応答する。
「こちらモトクロス部隊リーダー、宗子。受信良好」
『第一に、燃料補給を優先する。自衛隊のヘリが夜明けに到着する予定。合流地点は紀北町赤羽公園です。』
雅の声は少しも揺れず、淡々とだが確かな力を持って伝わってくる。
続けて梓の声が重なる。
『第二に、医療班への輸送を強化します。エマ、麗子、あなたたちは軽量バイクで物資を受け取り、沿岸部の臨時診療所まで届けて。ヘリが到着しだい、追加便を確保する』
「了解!」
エマが快活に返事し、横で麗子も短くうなずいた。
「任せてください。本部」
通信が切れた瞬間、各部隊の表情が引き締まる。
重い空気の中に、不思議と勇気が満ちていく。
「聞いたな、みんな!」宗子が声を張り上げる。
「総長と副総長が全部見てくれてる。私たちは走るだけだ!」
「おうっ!」
仲間たちのヘルメット越しの声が夜にこだまする。
その声は震える大地にも、暗い不安にも負けず、被災地の人々のもとへ届く力となっていた。
東の空がわずかに白み始めるころ、海風が冷たく吹き抜ける漁港に緊張が走った。
沖合から聞こえてきた低く重いローター音......それは夜明けを裂くように迫ってくる。
「来たぞ……!」
龍司が目を細め、空を指差す。
やがて雲間から現れたのは、濃緑に塗られた陸自の大型輸送ヘリ。
轟音と共に、公園の臨時ヘリポートに降下してくる姿は、まるで戦場に舞い降りる守護者のようだった。
住民も東光連合のメンバーも、一斉に見上げ、その音に胸を震わせる。
着陸と同時に、後部ハッチが開いた。
迷彩服の隊員たちが次々と飛び出し、整然と動き始める。燃料、ストレッチャー、医療キット、食料コンテナ……物資が次々と下ろされていった。
同時に、自衛隊医官や看護師が降りてくる。開口一番医官責任者が敬礼して言う。
「君たちがいたから、多くの人の命が助かったんだ。我々は君らを誇りに思う」
「すげえ……」
不如帰の蓮が、思わずつぶやく。
その横で、アルテミスの宗子が即座に指示を飛ばした。
「搬入ラインを二列に! 小学校へ誘導して! 崩れた家屋の仮設医療スペースにも急いで!」
隊員と東光連合のメンバーが混ざり合い、夜明けの港は急ごしらえの拠点へと変貌していく。
住民たちも自然と手伝い始め、荷を受け取った年配の男性が、震える声で言った。
「……助かった……これで、また生きられる」
その言葉に、彩の目が潤む。
雅は静かにうなずき、梓は次の作戦表を端末に走らせていた。
夜明けとともに訪れたのは、新たな混乱ではなく確かな希望だった。




