とある超お嬢様学校の日常的な朝
最初の3話の投稿です。 しばらくは毎日投稿です。
春を彩る鮮やかな花の坂道を、柔らかでいかにも高級そうなブレザーの制服とチェックのスカートで身を纏った女生徒たちが、ゆっくりと登校している。その横を漆黒のリムジンが何台も連なって登ってゆく。
運転手の制服は多少違えど、みな手には白い手袋とネクタイを着用し、いかにも運転手らしい帽子をかぶっている。車内の後部座席には、外を登校する生徒と同じ制服に身を包んだお嬢様たちが乗っている。
車越しにあちらこちらで、「ご機嫌よう~」「ご機嫌よう~」と朝の挨拶が聞こえる。
ここ、聖凰華女学院は、幼稚舎から大学までの一貫校として日本でも一番の超お嬢様学校である。
その中の1台のリムジンの後部座席で、生徒会長である三条雅は、横を歩いて登校する学友たちに軽い会釈をしながら、聞こえないように「は~あ」とため息をつく。
「..........退屈ですこと.......」 車内には彼女の他、気の置けない運転手しかいないので、ついつい本音を漏らしてしまう。
門扉の前に到着すると、車から次々とお嬢様方が降り、いつものように「ご機嫌よう~」と変わらぬ挨拶して校舎内へと続く階段を上っていく。
雅のリムジンが門扉の前に着いた。運転手に下校時間を伝えるや、運転手は素早く車から降り、かいがいしく外より後部座席のドアを開ける。
彼女は、高級ベルベットのシートから綺麗に両足を揃えて車外に出て、他の生徒同様に階段へと向かった。
「あ、三条会長、ご機嫌よう~」あちらこちから同じ挨拶を受けながら、雅は微笑みながら会釈をして教室へと向かった。
階段を上り切ったところに生徒専用エレベーターがある。雅の通う2年S組の教室は5階にある。雅が乗り込むと生徒が「ご機嫌よう~」と言って気を回し素早く5Fのボタンを押す。
「ありがとう」軽く会釈すると押した生徒は、どこか誇らしげにニッコリと笑顔で返す。
雅の世代は、伝統ある聖凰華女学院の中でも黄金の世代と評判が高い。その頂点である生徒会長である雅は、一般の生徒からすれば後光の差す女神的存在である。声をかけてもらうだけで、天啓を受けたようなもので、その日一日は教室内で神の使徒のごとく、羨ましがられる。
中には、エレベーター近くに隠れ、雅が乗り込む際に同じエレベーターに乗り込み、同じ空気を吸ってよろこぶ変人生徒さえいるほどである。
5階でエレベーターの扉が静かに開く。目の前の廊下には中央に赤い絨毯が奥の教室まで敷き詰められてる。
廊下を歩くと手前から順に2年A組 2年B組 2年C組 と並び一番奥に雅が在籍する2年S組のプレートがかかっている。
聖凰華女学院は、幼稚舎からの持ち上がりが多く基本エスカレーター式であり、欠員が生じた場合のみ、面接試験で補充入学を認める方式が取られてる。
ほとんどが大学まで進むが、まれに大学は外部受験を受けUCLAやハーバード MIT ケンブリッジ オックスフォードなど外国の大学に進む子もいる。
一クラスは、20名の少人数制度を採っていて、建前上は、全生徒平等ではあるが、実際には純然たるカースト制がある。
A~C組の生徒は差はなく一年毎のクラス分けも行われているが、S組のみは別であり、創立時から一度もクラス分けはない。A~C組からS組のことは別名天上クラスと呼ばれてはいるが、それは皮肉ではなく憧れに近い感情である。
雅は美人ではあるが、決してキツイ顔ではなく、人に親しみやすく、肩までかかる髪はストレートヘアー、 それでいて皆と同じ制服を着てはいるが、日本最大の財閥三条グループ会長の直系の孫娘として、その振る舞いは気品に満ちていた。
選ばれた者しか入れないS組教室に入ると、教室にいた同輩たちは一斉に「ご機嫌よ~」と挨拶する。
雅は一礼を軽やかに受け、にっこり笑って皆に応える。
「は~い皆さん、朝の礼節は、ここまでです。いつものように今日も一日楽しくすごしましょう」
それまでの淑女の嗜みはどこに置いたのか、雅は人が変わったように親近感を醸し出すと、教室内の雰囲気は一瞬のうちに緩和された。
あちらこちらに4~5人のグループが出来て、それぞれの話題で楽しく会話が始まった。
始業まであと30分のつかの間の時間、いつものように、各グループでのお喋りが始まった。窓の外には、春の光を反射して青い海が所々輝いている。雅には、見慣れた風景であるので、特に感じるものもなかった。
(最近楽しいと感じたのはいつだろう。春休みに行ったオーストラリア?
う~~ん・・・感動はなかったなぁ。)
そこはかとなくアンニュイな気持ちでぼーと窓の外をみていると、突然声がした。
「ねぇ会長......近頃何か面白い事ありませんでしたか?」隣の席の木田宗子が尋ねてきた。
「面白いこと?う~~ん。そう言えば、今朝起きて登校途中の車から、我が家の外柵の壁に、訳のわからない絵?文字?が書かれていましたわ。昨日までは何もなかったのですけど。あれひょっとしたらバンクシーかしら?」
「いや、それ単なるイタズラ書きでしょ。」すかさず前に座ってる安田麗子が関西出身らしくツッコミを入れる。
気の置けない友人との会話は、それなりに雅は楽しんでた。
「ハーイハーイ、私はありますよ。」突然その会話に飛び込んできた金髪青眼の子がいた。エマ・ベルナール、彼女はフランス人の父と日本人の母の間に生まれたハーフである。
「で、エマさん面白い事って何かしら?」
「私ね、父から『もっと淑女らしくしなさいって』言われたもので、昨日、駅ビルの本屋で何かいい本がないか探したのです。」
雅をはじめ周りの同級生たちも興味を持った目でエマを見た。
「そした、写真が沢山載ってるレディース特集って本があったのでそれを買ったんですよ。だって淑女ってレディーでしょ?」
雅は、ファッション雑誌かしら?エマの家は、ファッション業界の世界企業だからありえると思った。
「で、それを家で見てたら、皆個性的なファッションで、前衛的と言うか・・原色のパンツとジャケットに文字の刺繍がしてあって、ジャケットの下には白いベアトップ?なんか白い布を巻いただけのやつ?そして頭に体育祭に使うハチマキみたいのつけてて・・濃いめのメイクばっちりみたいな・・・私初めて見た。」
雅達の想像が追い付かなくなってきた。 確かにミラノコレやパリコレには自分達もよく行く。しかし今までみてきたどのファッションにも当てはまらない。
ましてやエマの家は世界的なファッション企業である。エマなら小さな時から私達よりも多くのファッションショーを見て来たはずである。そのエマをして初めてとは。
「ねぇエマさんそのファッション雑誌ありますの?」
「うん持ってきてるよ。もう授業だから昼休みにでも見せますよ。」
「では、いつものメンバーで個室予約しておきますね」