アルフォンス・ディアナス・グランヴェールの調書
俺は……どれくらい、眠っていただろうか。体の感覚もあいまいで、ただ、じくじくと疼くような鈍い痛みが、俺がまだ生きていることをかろうじて教えてくれている。いや、それよりも……レーナは、レーナは無事なのだろうか?あの優しいほほ笑みを、もう一度見ることができるのだろうか。まさか、あのセシルが……俺の、たった一人の親友だと信じていたセシルが、俺に刃を向けるなんて……。遊びで打ち合う剣とは違う、本物の殺意に満ちた切っ先が迫ってきた光景が、何度も何度も脳裏で再生される。
そうだな、この体では、俺はきっともう長くない。仮に生き延びても、王族でもなくなるだろう。ならば、この最後の力を振り絞って、すべてを話してしまおう。今まで誰にも言えなかったすべてを、言葉にして解き放ってしまいたい。それが、俺にできる唯一の償いなのかもしれないからな……。
セシルが、俺の婚約者であるリヴィアに、横恋慕していることは、薄々気づいていた。そして、そのことで俺を心の底から恨んでいることも。まあ、恨まれても仕方がない。リヴィアを俺の婚約者として選んだあのとき、セシルの絶望に歪む顔を見て見ぬふりをしたのだから、セシルとは親友のままでいられなくなるだろうとは思っていた。だが、まさか、こんな形でその代償を支払うことになるとはな……。
俺は、現国王陛下と王妃陛下の間に生まれた、唯一の直系の男子だ。それは、紛れもない事実。しかし、だからと言って、この国の王太子の座が、生まれながらにして約束されていたわけでは決してなかった。そうだ、俺には……大公である叔父上がいた。
叔父上は、俺とは比べ物にならないほど優秀で、その知性とカリスマ性で、周囲の者たちから深く慕われ、尊敬されていた。叔父上ご本人は、「王座など興味はない。兄上をお支えするのが私の役目だ」と常に公言していたが、宮廷内の多くの貴族たちが、そして民衆たちまでもが、叔父上こそ次期国王に相応しいと、そう考えていたことは、俺の耳にも嫌というほど届いていた。それはもちろん、父上も……父上ご自身も、心の奥底ではそう願っていたのかもしれないと、時折感じることがあった。
正直なところを言えば、俺自身は、王座になど何の興味もなかった。自分が、国の頂点に立つ器ではない、凡庸な能力しか持ち合わせていない人間だということは、誰よりも俺自身がよくわかっていたからな。幼い頃は、家庭教師から逃げ回ってばかりいた。誰にも、本当に誰にも言えなかったんだが、あの陰険な家庭教師は、俺が課題を間違えたり、少しでも集中力を欠いたりすると、容赦なく細い鞭で俺の手のひらや背中をぶったんだ。
しかも、俺は本当に馬鹿で、人を疑うことを知らない子どもだった。
「これは国王陛下直々のご指示です。殿下の将来を思えばこその愛の鞭なのですよ」
あの家庭教師が吐き捨てるように言った言葉を、何の疑いもなく信じ切っていた。あの冷たい目、歪んだ唇……思い出すだけで吐き気がする。
王になど、これっぽっちもなりたくなかった。だが、たったひとりの父を、あの厳格で、常に国の未来を憂う父を失望させたくなかったんだ。その一心だけで、あの地獄のような日々を耐え忍んでいた。まあ、家庭教師から逃げ回っていれば、それだけで父上を失望させることくらい、今の俺ならわかる。だが、子どもの頃の俺は、本当に、救いようがないほど愚かだったんだ。
俺が、来る日も来る日も家庭教師から逃げ回り、時には宝物庫の奥や、庭園の茂みに隠れていることを、父上も母上も、おそらくは知っていたはずだ。それなのに、一度として、そのことを直接咎められることはなかった。その代わりに、セシルがたびたび、監督不行き届きだという理由で父上やラグランジュ侯爵から厳しく叱責されているのを見るのは、さすがに心が痛んだよ。だが、俺は……俺はそこで、ようやく、恐ろしい事実に気づいてしまったんだ。
父上は、俺に、何としてでも国王になってほしいのではないか、と。いや、もっと正確に言えば、俺以外の誰かが王位に就くことを、極度に恐れているのではないか、と。俺は、父上はもっと冷静で、理性的な方だと思っていた。だが、実はそうではないのではないか。あの厳格な仮面の下には、もっとどす黒い、複雑な感情が渦巻いているのではないか、と。
父上は、叔父上にだけは、何があっても王座を譲りたくないのではないか。血を分けた実の弟であるはずの叔父上の優秀さを、その人望を、父上は心の底から妬み、恐れているのではないか。子どもながらに、その父の心の闇に気づいてしまったとき、俺は、初めて心の底から、王にならなくては、と思ったんだ。それが父上の真の望みであり、そして、皮肉なことに、その望みを叶えることができるのが、この凡庸な俺しかいないというのなら、俺が王になるのが、きっと最も自然なことなのだと、そう、自分に言い聞かせた。
だから俺は、自分が王太子として正式に指名されるために、宮廷内で絶大な力を持つカストレイン公爵家の後ろ盾を手に入れるために、リヴィアのような……そう、腹黒としか言いようのない女を、俺の婚約者として選んだんだ。リヴィアの父君であるカストレイン公爵は、野心家で、常に権力の中枢にいることを望んでいたからな。俺とリヴィアの婚約は、まさに利害の一致だった。
――ああ、すまない。こんな言い方をしては、リヴィアに申し訳ないとは思う。だが、偽らざる本心だ。リヴィアは、幼いころから、どこか計算高く人の心の内を値踏みするような、ずる賢い少女だった。俺は、正直なところ、彼女のことがずっと苦手だった。
俺は、はじめは本当にそう信じていたんだが、リヴィアはセシルのことが心から好きなのだと思っていた。そして、セシルもまた、リヴィアに熱烈な想いを寄せている、と。二人は、いわば相思相愛なのだと、何の疑いもなく信じていたんだ。それくらい、幼いころの二人はいつも一緒にいて、本当に仲が良かったし、リヴィアは、少なくとも俺の前では、セシルにだけは心を許しているように見えた。
ところが、だ。俺とリヴィアの婚約が内々に決まったころからだろうか。リヴィアが、だんだんと、俺と二人きりになったときに、巧妙にセシルの悪口を囁くようになったんだ。悪口と言っても、あからさまなものではない。もっと陰湿で、聞く者の心にじわじわと毒を盛るような、そんな言い方だった。
「セシル様ったら、最近少し思い上がっていらっしゃるようなの。まるで、わたくしが彼と結婚することを当然だと思っているような口ぶりで……。わたくしの気持ちなんて、少しもおかまいなしなんですよ?アルフォンス殿下は、どう思われますか?」
たしか、そんな風に、自分がまるで被害者であるかのような、同情を誘うような言い回しをしていたな。俺は、セシルのことを真の友人だと思っていたし、セシルとリヴィアが仲睦まじくしている姿を、微笑ましく、時には少し羨ましくさえ思って見ていたから、リヴィアのその口ぶりには、心底驚いた。そして同時に、言いようのない恐怖を覚えた。リヴィアは、カストレイン公爵家の令嬢として、清く正しく美しくと、箱入り娘のように育てられた、純粋無垢な存在だとばかり思っていた俺の認識は、その瞬間、音を立ててガラガラと崩れ落ちたよ。
きっとリヴィアは、そういう性質の女だったのだろう。周囲にいる人間が、自分を一番に思い、自分だけを賞賛し、自分のためだけに存在していないと、気が済まない。そういう、底なしの承認欲求と支配欲の塊だったのだ。俺がそれをはっきりと悟ったのは、アマーリエ・ロザリンド・フェルネ伯爵令嬢……リヴィアの従妹にあたる彼女を含めた、茶会でのことだ。
セシルがアマーリエ嬢と婚約したと聞いたときは、さすがに親友とは言え、少し、いや、かなりぞっとした。アマーリエ嬢は、リヴィアの母方の従妹で、その面立ちはリヴィアによく似ていた。雰囲気は、リヴィアが薔薇だとするとアマーリエ嬢は百合という感じで異なってはいたが、リヴィアの面影だけを追い求めた、身代わりのような婚約だと、俺の目には明らかだった。そんなセシルの、リヴィアへの執着心、その狂気じみた一途さを、俺は心の底から恐ろしいと思った。そして、アマーリエ嬢の行く末を案じずにはいられなかった。
こうして、俺とリヴィア、そしてセシルとアマーリエ嬢という歪な四人での交流が、頻繁に始まることになったんだが……。今思えば、アマーリエ嬢にとっては、毎回が地獄のような時間だったと思う。本当に、申し訳ないことをした。
リヴィアは、巧妙だった。俺やセシルにしかわからないような、内輪の、それも過去の楽しかった思い出話ばかりを、わざとらしく、しかしあくまで自然を装って話題に出す。そして、アマーリエ嬢が会話に入ってこれないように、まるで彼女など最初からその場に存在しないかのように、巧みに無視し続けた。もちろん、表面上は常に穏やかに、天使のようにほほ笑んでいるから、周囲の事情を知らない者たちには、リヴィアのその悪意など微塵も見えていなかっただろう。そして何より許せなかったのは、セシルだ。セシルも、そんなリヴィアの底意地の悪い思惑に全く気づくことなく、ただひたすら、盲目的にリヴィアを褒め称え、彼女の言葉の一つ一つに夢中になっていた。
俺が、なんとかその状況を打開できればよかった。だが、もし俺がアマーリエ嬢をあからさまにかばうようなことをすれば、リヴィアはますます嫉妬の炎を燃やし、陰でもっと執拗にアマーリエ嬢を攻撃するだろう。それがわかっていたから、俺は、それとなく話題を変えたり、アマーリエ嬢にもわかるような話に誘導したりするくらいしか、できなかった。本当に、無力だった。アマーリエ嬢にも、そして彼女の父君であるフェルネ伯爵にも――心の底から、本当に申し訳なかったと思っている。
そんな息の詰まるような状態が、何か月も何か月も続いていたある日のことだ。突然、本当に突然、セシルがアマーリエ嬢の容姿を、あからさまに茶化すようなことを言い出した。
「アマーリエは、少し、いや、かなり地味すぎるんじゃないか? もう少し、リヴィアのような華やかさを意識してもいいだろう」
たしか、最初はこんな、まだ遠回しな言い方だったと思う。アマーリエ嬢は、たしかに控えめで、物静かな女性ではあったが、決して地味ということはなかった。むしろ、その奥ゆかしさが彼女の魅力だった。そもそもその当時は、俺たちはまだ王立学園に通っていて、華美な化粧や装飾品を身に着けている生徒などほとんどいなかったのだ。――リヴィアを除いて。
俺はさすがに看過できず、「セシル、いくら婚約者だからと言って、そこまで言うことはないだろう」と、できるだけ穏やかに、しかしはっきりとたしなめた。しかし、やっぱり、この俺の対応は間違っていたんだ。俺が口を挟んだことで、セシルは逆上し、まるで堰を切ったように、どんどんアマーリエ嬢を直接的に、そして残酷に貶めるようなことも言い出した。
「もう少し痩せたらどうだ?リヴィアのように、もっと細く、しなやかにならなければ、俺の隣に立てないぞ」
「その肌も、もう少し白く、透き通るようでなければな。リヴィアの肌を見習うがいい」
「またそんなに菓子を食べているのか……。自制心というものを知らないのか?だからいつまで経っても美しくなれないんだ」
セシルが、信じられないほど不躾で、残忍な言葉を、まるで鋭く尖った刃物のようにアマーリエ嬢に突き刺していくたびに、彼女の顔からみるみる表情が消えていった。血の気が引き、唇は震え、ただうつむいて、耐えるように自分の膝を見つめているだけだった。俺がセシルを止めようとしても、セシルはますます興奮して言い募るし、そしてリヴィアは……リヴィアは、ただ黙って、薄気味悪いほど穏やかな笑顔で、その地獄絵図を眺めているだけだった。本当に、本当に異常な空間だった。あのときのリヴィアは、まるで演劇でも見ているような、それくらい楽しげに見えた。
そのうち、アマーリエ嬢が、あきらかに尋常ではないスピードで痩せていった。頬はこけ、肌は病的なまでに白くなっていって、そして何より、あの穏やかな瞳から、生気が完全に消えていった。まるで、抜け殻のようになってしまったんだ。
「もっと……もっと、美しくならないと……。リヴィア様のように……。もっと、アレを飲んで……そうすれば、セシル様も、きっと……」
心配になって、一度だけ勇気を出して声をかけたとき、アマーリエ嬢は、焦点の合わない虚ろな目で、うわごとのようにそんなことをくり返し呟いていた。――ああ、そうだ。そのころにはもう、アマーリエ嬢は、すっかり薬物中毒者になってしまっていたんだろう。
俺が、俺だけが、きっとどうにかすることができたはずなのに。もっと早く、もっと確固たる態度で、セシルを止め、リヴィアの悪意を糾弾し、アマーリエ嬢を保護することができたはずなのに。だが、リヴィアの、いや、カストレイン公爵家からの反撃のことを考えると、どうしても腰が引けて、結局何もできなかった。俺が出ていけば、事態はもっとひどくなるかもしれない、アマーリエ嬢がさらに追い詰められるかもしれないと、そう自分に言い訳をして……。やっぱり俺は、王になど向いていない、臆病で、卑怯な男なんだ。
アマーリエ嬢が、ある日、ついに教室で奇声を発して発狂し、それ以来、学園を休みがちになったというのに、まるで最初からアマーリエ嬢なんて存在しなかったかのように、俺とリヴィアとセシルの三人での茶会は、何ごともなかったかのように続いていた。その異常さが、俺には耐えられなかった。
「セシル、アマーリエ嬢は……本当に大丈夫なのか?」
「え? ああ、アマーリエですか。大丈夫ですよ、殿下。すぐに良くなりますとも」
俺が尋ねても、セシルは心底不思議そうな顔で、こともなげに答えた。
「そうなのか? だが、学園でのあの様子は、かなり……おかしいようだったが……」
「ああ、あれですか。ご心配には及びません。最近は、ようやくリヴィアを見習って、見た目を磨くことに目覚めたようなのです。痩身や美白のために、色々と薬を飲んでいるようでして、その影響で、少し精神が不安定になっているかもしれませんね」
そう言って、悪びれもせずににこやかに笑うセシルに、俺は再び、背筋が凍るような恐怖を覚えた。そして、隣でリヴィアもまた、何ごともなかったかのように、ただ優雅に紅茶を飲みながら、穏やかに微笑んでいる。この二人は、おかしい。狂っている。そう、はっきりと感じた。
「そ、そんな薬があるのか?大丈夫なのか、それは……」
「まあ、アルフォンス様ったら、本当にご心配性ですこと。わたくしだって、美容のためには、たまにそういったものも試しておりますのよ?何の問題もございませんわ」
リヴィアが、まるで俺を安心させるかのように、しかしその瞳の奥は全く笑っていない表情で、そう口を挟んだとき、俺は、確信した。この二人が、何かを企み、アマーリエ嬢を、ああなるように、精神的にも肉体的にも追い詰めて、破滅へと仕向けたのだと。
だが、これもまた、ただの卑怯な言い訳に過ぎないのだが……当時の俺には、リヴィアの背後にいるカストレイン公爵家の権力に逆らえるだけの力も、そして、彼ら以外の味方も、周囲には誰もいなかった。アマーリエ嬢のことを、もっと徹底的に調査すべきだと思いながら、結局、俺は何もできなかった。ただ、無力感に苛まれるだけだった。
だから――頼む。誰か、もしこの話を聞いて少しでもおもうところがあるならば。アマーリエ嬢の死の、その本当の原因を調べてくれ……。彼女は、ただの病で亡くなったわけではないはずだ。何かの違法薬物を飲まされて……。
リヴィアはただの公爵令嬢だ。そんな薬物をほいほいと手に入れられるわけがない。きっと、カストレイン公爵も絡んでいる。それが、俺からの、王太子としての、本当に、本当に最期の命令だ。どうか、彼女の無念を晴らしてやってくれ……。
ああ、レーナのことか?そうだな、レーナ……。今となって冷静に考えれば、レーナもまた、リヴィアと何ら変わらない、計算高く、野心に満ちた腹黒だったのかもしれないと、そうわかる。だが、あのときの俺は……本当に、本気で、レーナを愛していたんだ。馬鹿だと、愚かだと、好きなだけ笑ってくれ。
レーナに、「あまりおひとりで何もかも抱え込まないでくださいませ。わたくしでよければ、いつでもお話をお伺いいたしますわ」と、あの優しい声で、心配そうに言われて、たった、本当にたったそれだけのことで、俺は、彼女に夢中に……いや、正確に言えば、依存してしまったんだ。俺の心の、誰にも見せたことのない暗い部分を、彼女だけが理解して、支えてくれるような気がしていた。
俺は、セシルにバレないように、細心の注意を払いながら、たびたびレーナとあの空き教室で密会を重ねていたんだ。ああ、神に誓って言うが、決して、男女の契りを交わすような、そんな破廉恥なことをしていたわけではない。ただ、彼女の温かい手に触れたり、疲れたときにその肩に少しだけ頭を預けたり、そんな、本当に他愛のない、軽い触れ合い程度のことはあったが……。ああ、本当に、俺はどこまでも馬鹿で、愚かな男だな。そんなことで、救われた気になっていたのだから。
あの日も、いつものようにレーナに呼び出されて、あの教室で、二人きりの逢瀬を楽しんでいた。そうしたら、突然、ドアが蹴破られんばかりの勢いで開き、そこに、見たこともないほど怒り狂った形相のセシルが飛び込んできたんだ。そして、俺は、何が何だかわけもわからぬまま、そのまま、鋭い痛みとともに、セシルの剣に胸を貫かれていた。きっとセシルは、俺が、レーナに無体を働いていたとでも思ったんじゃないだろうか?
「レーナに謝れ! この人でなしが! お前は、人間のクズだ!」
意識を失う間際に聞こえた、セシルの、憎悪に満ちた絶叫が、今でも、この耳の奥にこびりついて離れない。俺は、レーナを手籠めになどしていないと、神に誓って言える。だが、今となっては、それを証明するすべがないのが、本当に、本当に悔やまれるな……。
やっぱり俺は、最初から、王座など望むべきではなかったんだ。父上を、そして母上を悲しませることになるとしても、もっと早くに、父上としっかりと向き合って、俺の本当の気持ちを、俺がいかに王にふさわしくないか、なるべきではないかを、正直に伝えるべきだったんだ。それをしなかったから、臆病風に吹かれて逃げ続けたから、結果的に、最も最悪な形で、父上や母上を、そして多くの人々を裏切ることになってしまった……。
……少し、話しすぎたようだ。胸の痛みが、また強くなってきた。少し眠りたい。さっきも言ったように、アマーリエ嬢のことを……どうか、調べてくれ、頼む。彼女の魂が、少しでも救われるように……。
ああ、こんなことになるのなら。俺は、一体、どうすればよかったのだろう? どこで間違えてしまったのだろう?ずっとそのことばかりが頭を駆け巡っている。セシルが俺のせいで怒られていたとき、リヴィアとの婚約でセシルの絶望を見たとき、アマーリエ嬢が発狂したとき……。
いや、今は……今はただ、眠ろう。目が覚めたら、また――。