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キミ色の夢  作者: 針野 あかうめ
〜始まりの夢〜 主要色のご紹介
6/6

紺青は一人の為のヒーローで在りたい

深緑よりはすんなりだったけど、中々に詰まっていた紺青の話です。書いたら思ってたより弱かった……まぁ紺青だからいいか。


 俺……⸺いや、自分の中で取り繕うメリットは無いか。僕は多分……人の様に怖がるし、人の様に愚かなんだと思う。⸺だけど、それでも。

 ただ一人の為のヒーローで在りたいと、カッコつけることは……絶対に、止める気はない。


 *


「リィ……ちょっと、いいか?」


 通りすがりに声を掛ける。

 数日前から、機会を探っていた。でも、一歩足が出せなかった。


「ん? なにさアル。……あっ。もしかして、お菓子でもあるの?」

「それは後で渡すから。夜に、庭の方来てもらってもいいか?」

「夜? 星空観察でもするの?」

「まぁ、うん。そんな所だ」


 断られたらどうしよう、なんて弱気は明日の僕に投げつける。⸺だって勇気は、そんなモノだと思ってるから。


「う〜ん……いいよ。ただし!今日はおやつを二回!それならヨシ!」

「……ふふっ、分かった。用意しておく」


 あぁ…本当に……⸺。


 ◆◇◆◇◆


 ⸺最初に”僕”を認識した時、周りの景色は森一色だった。

 それから段々、思考が固まっていったと思う。曖昧なのは、記憶がぼんやりとしてて、そこそこ昔の事だから。ぼんやりとしてる間に、”僕”が何なのかを知った。


 どうやら僕は、森に住む一族から信仰をされる”石”らしいのだ。⸺しかも結構な大きさ。長身の男性が縦と横にあってちょっと足りない、という大きさ。

 まぁ…僕のサイズはどうでもいいか。重要なのは、僕が一種の神的な扱いをされていた、という点。

 その行為が、僕をツクモという存在へと至らせる前段階を完了させていた。


 *


 ある時、僕の前に一人が赤子を捨てた。

 捨てた者は言い捨てる。⸺あんな本性がある異形だなんて思わなかった! コレも、アイツらも、皆化け物よ! ⸺と。


 僕は怒った。だって、”僕”を確立させてくれた彼らを侮辱するのは、誰であろうと許せないから。

 その怒りがトリガーだったのか。不意に、僕の姿は人の形をとった。


 突然現れた僕に驚き、彼らだと思ったのか、死に物狂いで逃げていった。人の形をとったばかりの僕は、身体を動かすという行動に不慣れで、追いかけられなかった。

 僕は早々に追いかけることを諦め、残され捨てられた赤子をどうするか考えた。


 ⸺そうして出た答えは、彼らの元に置くということ。そもそも、あまり人を知らず世間を知らない石ころが、赤子を育てることは出来ない。

 だから、この選択肢しか選べなかった。


 僕は、彼らに見つからないよう、深夜に赤子を一番立派な建物の扉の前にこっそりと赤子を置いた。

 彼らから見れば、僕は見知らぬ不審者と思われても仕方がない。だからこそ、こっそりと。


 ⸺そんな出来事から、十数年経った。


 *


 数十年の間に、僕は人の形に慣れた。何度も何度も動いて、慣れさせた。その甲斐あって、僕はなんの違和感もなく人の形でも自由に動ける様になった。

 あの時の赤子は今では立派な青年で、僕の石の手入れを毎日欠かさずしてくれた。正直、頻度が多いなと思ったけど、僕は物言わぬ守り石だから、思うだけに留めていた。

 そんな日常は、一瞬にして崩れた。


「だ……だず、げ……ェ"………ざ…」


 一人の男が、血だらけの息も絶え絶えという、死んでないほうがおかしい状態で、私の前に訪れた。

 ボクは彼の怪我を治したかったけど……その時のボクには、回復系の魔法の知識が⸺というより、正しく魔法を知らなかった。

 ただの魔力の塊を、形だけ真似て飛ばすだけ。魔力を知ったばかりの子供同然。それに、回復魔法なんて見たこと無かったし、存在も知らなかった。


 だから、その時の僕は……彼を救えなかった。

 でも、彼が援助を求めた村に向かうことは、その時の僕にだって出来た。


 *


「お願い神様。アイツを殺して…」

「たすけてかみさま、わるいひとをおっぱらって!」

「おねげぇしますだ…おねげぇします…」

 ⸺助けを求める人々の声は、モノになっても途絶えずに。


「イヤ…イヤッ! 来ないでよ気持ち悪い!」

「さっさと倒しなさいよ! あんな化物なんて!」

「役立たず! 死ね、全部死ね!!!」

 ⸺煩い金切り声が、ずっと頭に響いてきて。


「俺らはどうなってもいい。だから、あの女を」

「神よ、儂らは全てを捧げる。じゃから…あの女を…」

「神様、お返し。僕らを使って、消してよ」

 ⸺願う彼らの声が、頭の中で妙に、何かが引っ掛かると考える思考を……止めさせた。


 ⸺⸺⸺⸺⸺


 家屋は焦げつき、雨で消えていく火。

 焦げ付いた匂いが辺りに充満している。

 なのに人の形一つすらない。

 変な感覚がする。

 左眼が熱い。

 僕…は……?


 思い出せない。

 確かにいたはずの、彼らの顔が。

 毎日祈りに来ていた夫婦の顔も、いつも手入れをしてくれていた青年の顔も……あの女の顔すら、思い出せない。

 頭が痛い。

 思い出さなきゃいけないのに、頭痛がそれを阻止してくる。


 無理に思い出す。

 ………一つだけ、思い出した。

 ”既視感”という言葉と、その意味を。

 そのことを疑問に思う前に僕は……意識がパタリと途切れた。


 ⸺⸺⸺⸺⸺


「お、おいお前! 一体ここで、何があったんだ!?」


 暫く時間が経った後。(後のヨツバ)に身体を揺さぶられ、近くで叫ばれたことで、ハッとした。


「その怪我…それに貴方は………17、直ぐに手当てを」

「分かりました、伯母上」


 それから僕は、覚えてる限りの事を話した。

 自分のこと、この惨状のこと、そして……⸺住んでいた彼らの行方が、分からないこと。


 だけど僕は、彼らの行方に心当たりがあった。

 でも、言いたくなかった。

 言ったら、認めてしまうと思って。

 だって……彼らは……⸺


 僕の、”魔力の器”として……身体も、魂も全て…捧げてしまったから。


 ◆◇◆◇◆


「ひゃー……満天の星空! あんまり見てなかったけど、綺麗……」


 僕の前に座っている、リィを見つめる。

 正直な所、僕の魔力の器が大きいことはもうバレている。

 だけど皆は、生まれつきだと思っている……それが嘘だと、特にリィには絶対に…バレたくない。

 だって、ヒーローは……自らの身体に、死者を積み重ねないから。


「アル! おやつ! おやつ何?」

「……星形クッキー。暗くて見えないだろうから、形と味だけ凝った」

「キャー! 嬉しい! ありがと!………美味しい!!!」


 リィが喜んでいる。

 良かった、凄く喜んでもらえて。


「あ、そうだ。話…あるんだっけ? なに〜?」


 僕が話を切り出す前に、リィが聞いてくる。

 ……あぁ、先回りされちゃった。

 カッコ悪い、かな…僕。


「あっ、えっと…その……ぼっ⸺俺、は…」

「ん〜……よし! ⸺……よっこいしょっと」


 そう言って、リィは俺のすぐ隣に座る……え? あ、足…引っ付いて、る………? あ、あえ……⸺ッ!?


「⸺どゥ"うェ"!? りりっりり……リィ!? ちょっ、ち…ちか、い……けど…???」

「そーお? うーん……ま、アルなら心配無いでしょ」


 心配してくれ、僕だって普通に男性だよ?

 ………はぁ。リィにここまでされたら……言うこと、変えなきゃ、だな。

 これは…ただの逃げだ。カッコ悪いけど……聞きたいんだ、答えを。


「⸺ねぇ、リィ。リィは俺のこと……どう思ってる?」


感想・星・リアクション等々あると、作者は喜んでチョロくなり、頑張って書きます。

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