紺青は一人の為のヒーローで在りたい
深緑よりはすんなりだったけど、中々に詰まっていた紺青の話です。書いたら思ってたより弱かった……まぁ紺青だからいいか。
俺……⸺いや、自分の中で取り繕うメリットは無いか。僕は多分……人の様に怖がるし、人の様に愚かなんだと思う。⸺だけど、それでも。
ただ一人の為のヒーローで在りたいと、カッコつけることは……絶対に、止める気はない。
*
「リィ……ちょっと、いいか?」
通りすがりに声を掛ける。
数日前から、機会を探っていた。でも、一歩足が出せなかった。
「ん? なにさアル。……あっ。もしかして、お菓子でもあるの?」
「それは後で渡すから。夜に、庭の方来てもらってもいいか?」
「夜? 星空観察でもするの?」
「まぁ、うん。そんな所だ」
断られたらどうしよう、なんて弱気は明日の僕に投げつける。⸺だって勇気は、そんなモノだと思ってるから。
「う〜ん……いいよ。ただし!今日はおやつを二回!それならヨシ!」
「……ふふっ、分かった。用意しておく」
あぁ…本当に……⸺。
◆◇◆◇◆
⸺最初に”僕”を認識した時、周りの景色は森一色だった。
それから段々、思考が固まっていったと思う。曖昧なのは、記憶がぼんやりとしてて、そこそこ昔の事だから。ぼんやりとしてる間に、”僕”が何なのかを知った。
どうやら僕は、森に住む一族から信仰をされる”石”らしいのだ。⸺しかも結構な大きさ。長身の男性が縦と横にあってちょっと足りない、という大きさ。
まぁ…僕のサイズはどうでもいいか。重要なのは、僕が一種の神的な扱いをされていた、という点。
その行為が、僕をツクモという存在へと至らせる前段階を完了させていた。
*
ある時、僕の前に一人が赤子を捨てた。
捨てた者は言い捨てる。⸺あんな本性がある異形だなんて思わなかった! コレも、アイツらも、皆化け物よ! ⸺と。
僕は怒った。だって、”僕”を確立させてくれた彼らを侮辱するのは、誰であろうと許せないから。
その怒りがトリガーだったのか。不意に、僕の姿は人の形をとった。
突然現れた僕に驚き、彼らだと思ったのか、死に物狂いで逃げていった。人の形をとったばかりの僕は、身体を動かすという行動に不慣れで、追いかけられなかった。
僕は早々に追いかけることを諦め、残され捨てられた赤子をどうするか考えた。
⸺そうして出た答えは、彼らの元に置くということ。そもそも、あまり人を知らず世間を知らない石ころが、赤子を育てることは出来ない。
だから、この選択肢しか選べなかった。
僕は、彼らに見つからないよう、深夜に赤子を一番立派な建物の扉の前にこっそりと赤子を置いた。
彼らから見れば、僕は見知らぬ不審者と思われても仕方がない。だからこそ、こっそりと。
⸺そんな出来事から、十数年経った。
*
数十年の間に、僕は人の形に慣れた。何度も何度も動いて、慣れさせた。その甲斐あって、僕はなんの違和感もなく人の形でも自由に動ける様になった。
あの時の赤子は今では立派な青年で、僕の石の手入れを毎日欠かさずしてくれた。正直、頻度が多いなと思ったけど、僕は物言わぬ守り石だから、思うだけに留めていた。
そんな日常は、一瞬にして崩れた。
「だ……だず、げ……ェ"………ざ…」
一人の男が、血だらけの息も絶え絶えという、死んでないほうがおかしい状態で、私の前に訪れた。
ボクは彼の怪我を治したかったけど……その時のボクには、回復系の魔法の知識が⸺というより、正しく魔法を知らなかった。
ただの魔力の塊を、形だけ真似て飛ばすだけ。魔力を知ったばかりの子供同然。それに、回復魔法なんて見たこと無かったし、存在も知らなかった。
だから、その時の僕は……彼を救えなかった。
でも、彼が援助を求めた村に向かうことは、その時の僕にだって出来た。
*
「お願い神様。アイツを殺して…」
「たすけてかみさま、わるいひとをおっぱらって!」
「おねげぇしますだ…おねげぇします…」
⸺助けを求める人々の声は、モノになっても途絶えずに。
「イヤ…イヤッ! 来ないでよ気持ち悪い!」
「さっさと倒しなさいよ! あんな化物なんて!」
「役立たず! 死ね、全部死ね!!!」
⸺煩い金切り声が、ずっと頭に響いてきて。
「俺らはどうなってもいい。だから、あの女を」
「神よ、儂らは全てを捧げる。じゃから…あの女を…」
「神様、お返し。僕らを使って、消してよ」
⸺願う彼らの声が、頭の中で妙に、何かが引っ掛かると考える思考を……止めさせた。
⸺⸺⸺⸺⸺
家屋は焦げつき、雨で消えていく火。
焦げ付いた匂いが辺りに充満している。
なのに人の形一つすらない。
変な感覚がする。
左眼が熱い。
僕…は……?
思い出せない。
確かにいたはずの、彼らの顔が。
毎日祈りに来ていた夫婦の顔も、いつも手入れをしてくれていた青年の顔も……あの女の顔すら、思い出せない。
頭が痛い。
思い出さなきゃいけないのに、頭痛がそれを阻止してくる。
無理に思い出す。
………一つだけ、思い出した。
”既視感”という言葉と、その意味を。
そのことを疑問に思う前に僕は……意識がパタリと途切れた。
⸺⸺⸺⸺⸺
「お、おいお前! 一体ここで、何があったんだ!?」
暫く時間が経った後。男に身体を揺さぶられ、近くで叫ばれたことで、ハッとした。
「その怪我…それに貴方は………17、直ぐに手当てを」
「分かりました、伯母上」
それから僕は、覚えてる限りの事を話した。
自分のこと、この惨状のこと、そして……⸺住んでいた彼らの行方が、分からないこと。
だけど僕は、彼らの行方に心当たりがあった。
でも、言いたくなかった。
言ったら、認めてしまうと思って。
だって……彼らは……⸺
僕の、”魔力の器”として……身体も、魂も全て…捧げてしまったから。
◆◇◆◇◆
「ひゃー……満天の星空! あんまり見てなかったけど、綺麗……」
僕の前に座っている、リィを見つめる。
正直な所、僕の魔力の器が大きいことはもうバレている。
だけど皆は、生まれつきだと思っている……それが嘘だと、特にリィには絶対に…バレたくない。
だって、ヒーローは……自らの身体に、死者を積み重ねないから。
「アル! おやつ! おやつ何?」
「……星形クッキー。暗くて見えないだろうから、形と味だけ凝った」
「キャー! 嬉しい! ありがと!………美味しい!!!」
リィが喜んでいる。
良かった、凄く喜んでもらえて。
「あ、そうだ。話…あるんだっけ? なに〜?」
僕が話を切り出す前に、リィが聞いてくる。
……あぁ、先回りされちゃった。
カッコ悪い、かな…僕。
「あっ、えっと…その……ぼっ⸺俺、は…」
「ん〜……よし! ⸺……よっこいしょっと」
そう言って、リィは俺のすぐ隣に座る……え? あ、足…引っ付いて、る………? あ、あえ……⸺ッ!?
「⸺どゥ"うェ"!? りりっりり……リィ!? ちょっ、ち…ちか、い……けど…???」
「そーお? うーん……ま、アルなら心配無いでしょ」
心配してくれ、僕だって普通に男性だよ?
………はぁ。リィにここまでされたら……言うこと、変えなきゃ、だな。
これは…ただの逃げだ。カッコ悪いけど……聞きたいんだ、答えを。
「⸺ねぇ、リィ。リィは俺のこと……どう思ってる?」
感想・星・リアクション等々あると、作者は喜んでチョロくなり、頑張って書きます。