浅縹は微毒持ち…?
浅縹は、”あさはなだ”と呼ぶらしいです。
水色表記よりなんかいいので使います(語彙力)
あ、次話短いので同時更新しています。
「ねぇねぇ、お兄」
「ん…なに? ユー」
「最近、お姉とどう? 上手く付き合えてる?」
ある日の昼下がり。
私は気になることがあって、お兄に最近お姉とどうなのか聞いてみた。
お兄は本を読んでいた手を止め、悩むように手を顎に添えたが、直ぐに答えた。
「ぼちぼち。それに、まだ好きって言ってないよ。だから別に、ユーが期待してるようなことは一つも無いから」
「……えっまだ言ってなかったの!? お姉、気づいてないのか…あんなに分かりやすいのに…‥」
「うん、そうなんだよね。まだまだ、人の機微には疎いみたいだし」
えぇ…うーん……うぅん。
まぁ……仲悪いって訳じゃないし…いい、のかな…?
*
私の名前はユミカ。
縁を繋げて円を……なんだっけ。ま、いっか。
時々口が悪いと言われるだけの、普通の女の子。
私には、お姉がいる。
優しくて、ついていけなくて、壊れかけちゃった、お姉ちゃんが。
今のお姉は、ヒビ割れた傷を癒している状態。平気で元気に見えてるけど…多分きっと、まだまだボロボロなんだと思う。
私がお兄とお姉を会わせたのは、ただのカンだった。でも、身体が勝手に動き始めたのも事実。
だって、あの時の私の身体は、誰かに操られた人形劇のマリオネットみたいに、力を使って二人を会わせていたから。
◆◇◆◇◆
いつもよりも、人が多い。
今日は、レヴェル主催だけど……あぁ、そっか。確か、最近見つかった原初がいるんだっけ。
確か、男だったか。それでこんなに、大勢の女性や父娘が参加してるのか……お姉、大丈夫かな。
今日は多分、早々にあのバルコニーに出てると思うけど……あれ?
「⸺⸺♡」
「⸺?」
「⸺⸺⸺!!!」
あぁ、あそこに原初がいるのか……着飾った娘がわんさか群がってる。
まぁ……原初の伴侶なんて、新たな派閥の実質的な長となることが出来るから……原初はまだまだ、ツクモのことを知らない、だから知識量で上回って支配することも可能だろうね。
⸺あれ? 塊の外のって、ヨゼルテックのとこの……。
「こんばんは」
「⸺ん? あぁ、嬢ちゃんか。こんばんは、久しぶりだな」
やっぱりそうだった。そういえば最近、あまり会ってなかったから、久しぶりなのか。
なんでこんなとこにいるんだろう…おこぼれ狙い、は流石に違うっぽい……本人に聞くのが、一番早いかな。
「何してるの?」
「あー…囲まれてる奴の、後見人代理やってるんだが……予想以上に集まっててな」
「確かに。もはや見えないし……何人か、本家筋の未婚者がいるね…」
原初、本当に人気……いや、チラッと見た感じ、面がいいのも人気の理由かも。しかもオッドアイなんだ…。
「そういや、後見人代理ってことは、ヨゼルテックの方で見つかったってこと?」
「ん、そうだが……なんだ、知らなかったのか?」
「あんまり、私やお姉の方に噂も情報も回ってこないからさ」
………なんだろう。あの原初を見ていると、お姉が側にいて、笑っている姿を幻視する。
これは一つ、試してみてもいいのかも。
「あぁ、そうだったな……⸺どうした? そんな食い入るように、原初の方を見て」
「………悪いんだけど、能力使ってくれる? あの原初に辿り着くの、運が無いと無理そうだから」
「は…? 別に、それは構わないが……まさかお前、惚れ⸺」
「⸺てはない。ただ……使って試してみる」
「使うって……そういうことか。⸺…分かった、手伝おう」
「ありがと」
自身を包み込むような運気を感じながら、入りたくないと思っていた塊の中に、ズンズンと入っていく。
”幸運”に包まれた私の前に、障害は無い。私の邪魔をしようとする獣は、他の獣に邪魔をされ、私を妨害出来ない。
⸺そして私は、原初の正面に立つ。
「ちょっといい?」
「何か、用でも…?」
大方、こうした方がいいと言われたのであろう、明らかに”作った”甘い顔。目の奥には、”疲れた”と”どうしてこんなこと”をの、二つが見え隠れしている……ふっ、私の方がポーカーフェイスだな。
⸺っと、違う違う。私は原初に、お姉との縁を作るために来たんだった。
原初の左手⸺というか、左手の小指を触り、力を使いながら、原初に向かって囁く。
「正面出入り口から右、奥から5番目のバルコニー」
「………え?」
手を離す。
もう用は無い。
「滅多に人が来ないから、休憩にお勧め」
「……え…えっと、ありが、とう…?」
「別に」
幸運はまだ続いているようだ。
今の内に抜け出して、この獣の塊から離れないと……。
*
塊を抜け出してすぐに、かけてもらった幸運の効果が消えたのか、何人かの獣が追ってきた。が、サッと撒いてやった。
こういう時に、自分のチビさに助けられる。
⸺でもさっきの、原初にだけ聞こえるように囁くのは地味に大変だったから、やっぱり低いのはダメだ。背よ伸びろ。
「あれ…来たんだ。早いね、今日は」
予想通り、いつもと同じ場所にお姉はいた。
別にお姉は、特別愛されてる訳でも、特別嫌われてる訳でも、特別酷い目にあった訳でも無い。ただ、レヴェルの異常性についていけなくなって、自分の心を守るうちに、いつの間にか閉じてしまった。
全を物として、ただの背景として見て。
個を、複数認識することを控えて。
色を認識しないよう、見ないふりをして。
そんな”逃げ”は多分、お姉が自分で考えて実行した、今をなるべく長く生きる術なのだ。
「まぁね。お姉、左手出して」
「………? いいけど……はい」
出された左手、その小指に私の力を流す。
先程、原初に触れた時に流したのと、同じ量・同じ時間で。ここがミソでありシビアでもある。量と時間がほんのちょっとでも違うと、”エン”は繋がらない。例えるならば……同じ宿屋にいるが同じ部屋に居ない、だろうか。
自分の力ながら、結構な技量と集中力が必要なことに苛立ってくる。全く、どうして神は私のような、今日を楽しく生きられれば、その他は割とどうでもいいという思考の持ち主に、繋がり第一みたいなこの力を授けたんだか……。
「……うん、ありがと。お姉」
「いいよ……今日の月、いつもよりも、白い……?」
「へ……月?」
お姉の言葉に釣られ、月を見る。
確かに今日は、いつもよりも月の光が強い気がする……でも月の光は、ある程度決まっていたはず。それに、今日は三日月。
新月よりは明るいけれど、満月には届かない月。
…………そういえば、聞いたことがある。
⸺月の光が気になる時。それは神が、地を見ているから。
何処で聞いたのか、イマイチ思い出せない。
でも…その話が本当なら、少しだけ祈ってみたい。
見ている神が運命の女神で……私が誘導した出会いが、お姉にとって幸せな未来に繋がりますようにって。
◆◇◆◇◆
「………シニタイ」
「えっと…ほんと、ごめんね?」
「…ムチッテマジデツミダワサ」
「えあっ、本気で大丈夫…???」
某事件から、数日。
暫く自室に篭っていたヨツバが、外に出るようになったんだけど……なんか凄く性格が変わってる。
気になったので、手近にいたお兄に聞いてみる。
「…ねぇお兄。あんな風になるのって、普通なのかな?」
「いや……ヨツバが特別、動じるタイプだからだろ」
「ふーん、なるほど。⸺って、そういやお兄。いつも思ってたんだけど………カッコつけなの?」
ヨツバが豆腐メンタルだってことは、もう置いとこう。
私は前々から気になっていた、お兄の話し方について聞いてみた。
お兄はいつも、私やヨツバとかその他の誰にでも、優しげな話し方をしているけど……お姉がいると、割と男らしい話し方をしている。そこが気になっていて、丁度いいから聞いてみた。
「………あー、多分? 意識して変えてたわけじゃ無いが…思い返すと、そうなのかもな」
「へぇ……じゃお兄は、お姉に「カッコイイ」って思われたいって、無意識で思ってるってこと?」
「……多分」
ま、私が二人を会わせたんだ。
ヨツバは時々、お兄とお姉が付き合うのは不安だなんだと言ってるけど、今更どうこう変える気はない。
謝り倒しているお姉と、棒立ちで何処か遠くを見つめているヨツバ。
流石に、そろそろストップかけた方がいいかも。
「お姉、ストップ。これ以上の謝罪はヨツバに入らないよ。変態には届かない言葉があるんだよ」
「⸺グフッ!?」
「そうかな…分かった、じゃあ終わりにする! ⸺あっそうだ、ししょーが欲しいものあったら、買い物ついでに買ってくるらしいんだけど、何かある?」
「えっ、ほんと? ⸺じゃあねぇ……」
私は、思うんだ。
身近な人が幸せになっていけば、世界から不幸は無くなるんじゃないかって。
今回はサクッと書けました……ていうか、今までの話の半分以上の文量だなんて、何やってたんだろう()
オマケ
【男二人のちょっとした雑談】
「なぁ……俺、なんでトドメ刺されたんだ…?」
「お前がいつまでも梅雨だからじゃね?」
「梅雨ってなんだよ!? ジメジメしてるってか? ならせめて落ち込んでると言え落ち込んでると!!!」
「大体、ユーが時々刺してくるのはもう分かってるだろ」
「それはそうなんだが……アイツやっぱ、第二か第三の属性に毒があるって絶対」