すたこらさっさとお逃げましょう
えー……翡翠ちゃんが壊れました。
仕方ないね、保護者枠いないと駄目って申告してる子だから(?)
逃げると決めてから、五年が過ぎた。
正直、もっと早く逃げ出せると思っていたけど、甘かった。城の巡回ルートや使用人の動線、登城する人物たちの傾向、果てには茶会への出席などなど……今の私、まだ成人していないから夜会には出ないけど。
ま、成人及び社交界デビューは明日なんだけどね……え、なんか急だって? いやいや、ヤツの妃になった十年前から分かってたことだから。……って、あぁ。初出しってことか。新茶だね!
あー、うん。なんか……私、もうダメかもしれない。誰かー! 玩具修理が得意な誰かー! 直してくれませんかー! ……って、私は玩具やあらへんわ!!!
⸺まぁまぁまぁ。私が壊れたことは、そこら辺の棚にどっこいしょーッどっこいしょって感じに置いといて、本題本題。
今日は、全てから逃げ出す日だ。全部から逃げて、姉様の幸せを見届けるか、信頼が出来る誰かに預けてから、私はリセットリセットーをする。……なにこれ、ボケないと話を進められない呪いでもかけられたん? なんそれコッワ。⸺じゃなくて……そう! 新しい私に変わって、アルを見つけて、返事を返す。それが第一目標だ!
部屋を見渡す。五年前は多少の生活感しか無かったこの部屋は、今じゃすっかりメルヘンチックなゆるふわお姫様Styleに。はー……この部屋は私の部屋じゃないね、うんうん。
「姉様、行くよ」
姉様に掛けられている従属魔法は、解こうと思えば解けるのだけど、確実に逃げることがバレる予感しかしないので、暫くは掛けたままにしておこう。それと念の為、この城の使用人である記憶を掻き消す魔法と、逃走中のルートをハッキリ覚えないよう混濁の魔法を、相乗なりなんなりで効果が暴走しない程度に掛けておいた。
これなら、姉様はキレイなまま……と、思いたい。
*
森の中を進む。ここ数日、追手の気配は一切無い。どうやら、諦めた様だ。面倒だと思いながらも逃走ルートの手段が多く取れるような目的地をあっちこっち向かったり遠ざかったりしてよかった…報われたよ。
正直な所、直ぐにバレて追手が来るだろうとは思っていた。しかし、予想より追手の数は少なかったし、ヤツ本人が追いかけてくることも無かった。
これは幸運と言ってもいいだろう。
「この辺りは確か……あと数時間ほど走れば、レディンズ村に着くはず」
ちゃんとね、ちゃんと。妃教育受けてたから、アレコレは頭にあるんだよ、引き出すのに少し時間が掛かるけど。
レディンズ村は中央からは半ば忘れかけているほど小さな村である。村の近くは酷く荒れ、魔力が枯渇して開拓が望めない山や海が存在している。そんな地に好き好んで居を構えるのは、物好きか大馬鹿くらいだろう。
そんな地に村を築き上げた物好きたちが、悪い者たちではないと願いたい。そこが無理なら、他国へ向かうしかない。
「姉様、もう少し歩きますよ」
「ん………」コクン
ここ数日、魔力を使い続けてギリギリだが、まだ倒れる訳にはいかない……のに⸺。
「………あ」
「ゴブリン……邪魔っ、すんな!」
なるべく魔力を減らさないよう、体内で魔力を巡らせる身体強化を使い、ゴブリンを蹴り飛ばす。
が、茂みからワラワラと現れ私達を取り囲む。
「姉様、あまり離れないで」
「……うん」
姉様の側を離れないよう、間合いを定め中に踏み入ったゴブリンを倒していく。
それが、どのくらい続いたのだろう。数時間か、数分かは分からないが、なんとかゴブリンの殲滅をすることが出来た。
「リ、ア……」
「だい、じょうぶ…ですから。心配…しないで、下さい……」
もう、体力の限界だ。それでも、こんな血濡れた場所で倒れて、姉様の魔法の全部が解除されるのは、嫌だ。
姉様はキレイでいてほしい、私にとってキレイな存在でいてほしいから………あれ?
「なんか、地面……ちか⸺」
ふらりと視界が揺れて、私の意識が遠のいた。
なんだか……思いが重いのを散りばめないと気がすまないのだろうか私は?




