沈んで決意、会うために
今日も、いつもと同じように外を眺める。何か頼めば、持ってきたりはしてもらえるが、極力他人を部屋に入れたくない。いや、別にこの部屋を私の住処と認定していないから、必要なものしか無いが、それでも、個室として使用している場所に信用・信頼していない者を入室させたくないのは、私個人の意地なのかもしれない。
「………⸺っ!」
視界の端に、金色の何かが映った。過去に何度も、遠目で見かけていた。でも今日は、我慢できなかった。
部屋を飛び出し、探す。幸い、そう遠くには行っていなかった。
「えっ…と、僕に何か用かな……?」
「ぁ…あ……」
いた。きらきらした金色の髪に、深い深い海みたいな青い瞳でも、私には分かる。でも彼は、分からないし、知らない。
私と違って正常に生まれたんだ、当然のことかもしれない。泣き出しそうになる目元を拭い、切り替える。
「なんだこのガキは。おい、このガキをつまみ出せ!」
彼の隣にいる男が喚いているが、使用人は私と男を交互に見て、どうすればいいのか慌てている。いつも悪口を言っても、妃という立場のモノに正面向かって悪口は言えないものね。
冷静になりつつある思考に安堵し、更に切り替えようと……⸺したのに。
「おや、愚か者じゃないか。久し振りだねぇ」
⸺後ろから、声が聞こえる。その声に、男は彼の頭を押さえつけながら、自身も頭を下げる。当然、使用人も頭を下げている。……あぁ、来たんだ。
「ボクの妻に、何か用でも?」
ソイツは私の肩に手を置きながら、男を冷たい目で見下ろす。男は言葉の意味が理解できたのか、震えている。
「自分から外に出たと聞いたから、どうしたのかと思ったのだけど……まさか、”見つけた”のかな?」
「⸺っ、ぁ………」
耳元で囁かれる。身体が動かない。意味が、分かる。分かってしまう。
いるけど、いない。だから、誰も助けない。一人きりで………。
「コレ、君の息子かい?」
「は…はっ、そう…です……」
折角見つけていた、私の希望は……私の前で、摘み取られた。
***
⸺⸺この崖から、攻撃魔法で落とせばいいのか?
⸺⸺あぁ、そうだ。しかしこの子供、何処かで見なかったか?
⸺⸺さぁな。見覚えは無いし、第一こんな血だらけじゃあ知ってるものも思い出せないだろ。
⸺⸺そうか……死んでろ、ガキが。
「⸺ゲホッ、ゴホッ………ふっ……ガホッ…」
視界が赤い、息は出来る、手足は動かない。いくら吸血鬼といえど、このままでは……死ぬ。僕がこうなった理由として思い当たるのは、一つ。
王宮に用があり、その用終わりに父と共に帰宅していた途中、彼女と出会った。彼女は僕の方を見て、何かを言いたそうにしていたが、王が来ると、顔が青くなった。そして、王が何か囁くと、青かった顔が更に青くなっていた。
噂は、耳にしていた。長らく妃を娶らずに、種族貴賎問わず子を作っていた王が、子を妃にした、と。
”子”とはただの幼い少女とも、実子だという噂もあった。真偽は分からないが、明らかに彼女は望んでいなかった婚姻なのだろう。
「は、はは……なんで、今…」
死にかけているのに、家族のことを欠片も思い出さずに一目見ただけの少女のことばかり考えている。いかに家族に対して思い入れが無いにしても、ここまでとは。
それとも僕は………彼女に、特別な感情を持ってしまったのだろうか。一目あった彼女に? ………一目惚れ、というものなのだろうか。
「でも、もう……」
二度と、会うことは出来ないだろう。
僕はこのまま、死んでいくから。
『あぁ、それはそれは。とても退屈な終わりだ。……そうか、今ここで彼らと会わせれば、いい感じになりそうじゃないか』
幻聴が聞こえる。聞き覚えのない、女の声。
なのに、妙な懐かしさと恐ろしさを感じる。
『頑張りなよ。私が与えた紺青の名に恥じないように……ね?』
⸺その声を聞いた途端、急に瞼が重くなり、目を開けていられなくなる。意識が切れる直前、木々を掻き分ける音と、人の話す声が聞こえた。
***
「リア……ご飯、食べないと。元気も出ないよ…?」
「……うん」
あの日から、元から曖昧だった時間感覚が、更に分からなくなった。食べ物の味が薄く感じるのは、いつ振りだったかな……。
「なにか、あったの…? 僕で良ければ、聞くよ?」
「…ごめん、姉様。今はちょっと、一人で考えたい…から」
「そっか……本、見てていい?」
「うん、姉様だから…いいよ」
姉様の従属魔法阻害は出来てるけど、今のままでいたら、いつ出来なくなるか……。
ずっとずっと、負の思考で回っている。ダメだって、分かってる。分かってるけど……それでも、沈んでいる。
私が迂闊だった。ずっと退屈で、寂しくて……衝動的に、飛び出してしまった。会いたいって、思ってしまった。嫌われたかな……嫌われたよね。だって、会っただけで死刑にされちゃったんだもん。アルの意識じゃなくて、今まで生きて育った彼の意識じゃあ、嫌って恨みながら死んでもおかしくない。
あぁ…私、こんなにも弱かったんだ。アルと会わなきゃ、もう少し強かったかな? でも、アルが居たから、私はこうやって頑張れている。だから、出会ったことは、悪いことじゃない。
「……変わらなきゃ。私が、動かなきゃ」
「………リア?」
この身体は、寿命だけは長いんだ。もう一度、転生をしているアルに会うことが出来るかもしれない。そう思え。そう思えば、進める。
待ってて、アル。私まだ、ちゃんと返事返せてないんだから。
瀕死の描写って難しいな……。
感想・星・リアクション等々あると、作者は喜んでチョロくなり、頑張って書きます。




