生まれ変わったけど、今すぐ生まれ変わりたい
今話から新章です。
魔王城、と形容されても否定出来ないであろう、おどろおどろしくも荘厳な城の一角。シンプルながらも、少女が住んでいることが分かるほど生活感がある一室で、私は今日も外を眺める。
「こんなにも退屈なら、前までの、教育漬けだった方がよかったかなぁ……」
気分が紛れないか、思考を声に出す。
分かっている、この行動が、対して意味がないことくらい。
「ここにある本、また読み返そうかな……それとも作る? でも、相応の経験なんて積んでないし…」
何度読み返したのか分からない絵本をぼんやりと見つめながら、ページを捲る。
神で在られるヴァレーガ様が、世界を二つに分けた。
なんて書かれているが、100%嘘だろう。なにせ神様は、ししょーと似た系譜の名前を好んでいると、聞いている。だから少なくとも、このヴァレーガというヤツはししょーが言ってた神様じゃない……ていうか、ヴァレーガというヤツは知ってるけど。知らないことに出来そうに無いからなぁ。
本当に、どうしてこうなったんだろう。
*
七の姉様の婚約発表パーティーの日、七の姉様の婚約者から謎の執着を受け、逃げた。そんな記憶で、私の意識は終わり。
次に目が覚めたときは、「昔々世界が一つだった頃、ツクモと呼ばれる存在がおりました」なんて語りが出来るくらいには時間が経っていた。
ツクモが記憶を持って転生をする、ということは、例は少なかったがいくつも確認されていた事例だ。だから、転生している件についての驚きは無い……のだが。
「にしたって、ねぇ…」
問題は、過密度。しかし理由は、認めたくないけど分かる。分かってしまう。認めたくないけど。
葛藤していると、扉がノックされている音が聞こえた。返事をし、中へ入るように促すと、今の私の身体とそう変わらない年齢の少女が盆を持って入室する。
「妃様。お食事をお持ちいたしました」
”妃”という単語に、思いっきり顔をしかめたくなるが、堪える。あぁ、本当に嫌。
「……ありがとう。こちらに来てちょうだい」
「はい」
「……『汝、個を持ち、声に抗え。干渉阻害』」
「⸺っ! ……ありがとうね、リア」
「ううん。いつも、一時凌ぎで申し訳ないわ。姉様」
姉様は、私と同じ母と……父と認めたくないヤツを持つ、姉妹だ。今まで見た中で、一番優しいお姉ちゃんだと思う。
七の姉様は互いに不干渉していたし、四の姉様や五の姉様からは割と物理的に痛かったから。あと、三のオネェ様は会ったこと無いし。
今の私の名前は、リリーア・イレク・デュメール・シュヴァレックという。
リリーアは、私の個人名。一つ足して、伸ばし棒入れただけで、そんな変わってない。
イレクは、この国の言葉で二番目という意味。基本は嫁or婿入りした方がついてる。
デュメールは、この国でツクモを表す言葉。わざわざ表す言葉があるとか、ほんっとうになぁ……。
シュヴァレックは、この国の王家の家名。呼びにくいと思う。
つまり、客観的に見た私は、この国の王妃であり、ツクモである。……マジで吐きそう。
そしてこれは、本当に考えるだけ嫌なのだが……私は、生まれた時からシュヴァレックだ。ツクモとしての私がハッキリとする前から、シュヴァレック。………事実は事実、なんにも変わらないし、脳内で整理をするだけのことに、ここまでの葛藤は要らない。
私は、王の末の子供でもある。
そこから出される結論は………事実上の父親と、婚姻を結んでいることになるのだ、私は……………ここから、入れる保険は無いのだろうか? あるとすればししょーか、ししょーなのか??? 助けてししょー!!!
今の私は大体10歳で、ツクモとしての私の意識がハッキリとしたのが6歳頃。その頃から妃扱い。多分というか絶対に書類上でも妃として扱われている筈だ。クソッ死にてぇ……でも自決不可の呪い刻まれちゃってるし無理だ…。
「はぁ……本当、なぁ……」
「……?」
「あ、なんでも無いですよ。姉様」
姉様と食事を分け合いながら、考える。
衣食住が楽なのはいい。が、妃の立場として、将来舞踏会なんかに出席義務が発生するし、愛人や血筋上の兄姉から何故お前が妃なんだって抗議と、ツクモとして覚醒した兄姉から、どうしてお前なんかが始まりの吸血鬼に求められているんだっていう嫌味が飛び交う王城内を、歩き回ることなんかしたかねぇ。
というか、私があの男から求められている件は、私の方が聞きたい。いや、聞いても「僕だけが笑顔にしたい」等の発言しか貰えないんだけど。⸺じゃなくて、七の姉様との婚約は? ってさ。
で聞いたら、一から十まで君を笑顔にするためなのに、アイツらが嘘をついた云々言って話が通じない。………なんだろう。性的に求められてないだけ、最低限の身の安全は保証されてるのかな、なんて思ったりもするが、私を隣に置きたいがためだけにツクモを呼び出す方法と従属させる方法を生み出しやがったヤツが安全な訳がないのでやっぱり駄目だ。
現状を整理した結果、サッサと生まれ変わりたい状況だという結論。変わらないなぁ……。
「せめて誰かに会えたらなぁ……」
アルやししょー、ユーちゃんにレイさん……ヨウさんとヨツバはそこまでかな。いやでも、実際に会ったら多分、嬉しいと思うけど。
「珍しいね、リア。誰かに会いたい、なんて」
「えぇ、まぁ。私にも、会いたいと思う人はいますよ」
「良かった……リア、世界に興味ないって顔、してたから」
「え、そう…でしたか、姉様?」
そんな顔、出てたんだ……あんまり、顔に出さないようにしないと。アレがうるさいから。
「うん。僕ね、ちゃんとリアのこと見てるから」
「そ、そうなんですね……」
恥ずかしい、な。でも、それだけ見てくれてるなんて、嬉しいかも。姉って立場の誰かからこうやって見られたは、初めてだから。
ユーちゃんは妹だし、ヨツバは親戚のおじさんだし、ししょーは師匠だし、アルはアルだし……うん、お姉ちゃんから見てもらえるのは初めてで、嬉しいことだ。
姉様は、私より二つ上。ツクモを呼び出す儀式をしても、ツクモがつかなかった子供は、使用人としてこき使われる。ツクモだったら、国の運営に携わる。
と、いうわけで、この城で働いている過半数はヤツの子だ。ホントのガチな雑用係以外は直系の兄姉となる。
眷属として貴族的扱いを受けているのも一定数いるが、そいつ等は大臣にはなれない。
……究極の家族国家なんすけど、大丈夫この国?
いや、心配してるのは割と低い位置にいる一般国民投票の方々の未来だけど……大抵は神みたいに信仰心持って生きてるそうだから…………うん。
「⸺あ。そろそろ、仕事に戻らないと……」
「そっか……いってらっしゃい、姉様」
「うん、いってきます。リア」
仕事に戻る姉様を見送ると、意識的にしていた笑顔を落とす。姉様には、貼り付けた笑顔も、何もない顔も、見せたくないからね。楽しいって気持ちは、本心だし。
「生まれ変わったけど、今すぐ生まれ変わりたいなぁ……姉様のことは、ほっとけないけど」
⸺今日も、何も変わる気配は無い。
感想・星・リアクション等々あると、作者は喜んでチョロくなり、頑張って書きます。




