灰の終わり、翡翠の再開。
頑張ろう…流石に年一更新にはしないように(´ ・ω・`)
「⸺・・・・・隣、いいですか?」
聞き慣れない声が聞こえ、振り向くと、長い髪を一つに束ねた男が居た。男の右目と左目、白と黒の濃さの違いが、男の瞳の色が左右で違うということを認識させる。
きれい
そんなことをぼんやりと考えながら、目の前の男に許可を示す言葉を告げる。
この場所は、ほとんど私専用になっている。あの二人以外に来るモノは少ない。だから、興味が湧いたのかも知れない。空に浮かぶ三日月と、星々を眺めながら、ぽつり、ぽつりと会話をする。
ふと、男の目を見つめてみる。
深い・・・深海と言われるような青の目と、赤い月に血を一滴だけ落とした、怖いような・・・でも、何故か惹かれそうになる、赤の目。⸺・・・・・・?不思議な表現をしたと思う。でも、私の中で、この表現が一番、彼に合っていると感じたから・・・あれ。私、なにか、違う?
何かが、いつもと違うように感じることへの疑問。そのことへの思考は答えが出る前に、大広間の方から驚きと畏怖が入り混じった多くの声によって中断される。
そして一段と大きく、はっきりと聞こえる二つの声は、段々と大きく・・・⸺いや、近づいてくる?
「なりません。アレは出来損ないでございます。貴女様にご迷惑をおかけになります。ですから⸺」
「⸺其方の意見は聞いていない」
男の声と、少女の声。
男の声は、知っている。ニの兄様の声。お父様たちの一番のお気に入りで、私のことを嫌ってる。
だけど、少女の声には、覚えがない。
考えている間にも、二つの声と、多くのざわめきは近く、大きくなっている。
⸺そして、二つの声と、足音が止まった。
何故か、向き合わなければならないと、そう強く思い、思う理由を考えず、扉の方へ身体を向ける。
私が思った通り、男の声の主はニの兄で、少女の声の主は、会ったことは無い。だけど、知っている。
燃え上がるような紅蓮の髪と眼、そんな特徴を持っているのは、ツクモの中には居ない。・・・・・・あれ?
音が聞こえる前に、浮かんだ疑問。それを思い出し、あることを考える。そういえば、周りの景色って、こんなにも頭がいたくな⸺
「⸺そこの娘。其方がレヴェルの39か?」
だけど答えが出る前に、少女⸺依代様が声を出したことで、私の中の疑問は再び頭の奥へ沈みこむ。
レヴェルとは地方の名前であり、派閥名でもある。レヴェルという名がつけられてから、レヴェルで生まれたツクモの中で、私は39番目。
⸺依代様の質問には、答えないと…。
「はい。私のようなモノに、何か用がおありなのですか?」
「いやなに、少々実験に詰まっていてな…人より丈夫なツクモを使いたいのだ」
依代様は、”ツクモ”という名を付けてくださった。
神様の使いであり、神との会話が可能な方⸺そんな方の命令は、絶対。私のような、日々空間を眺めている怠惰なモノが依代様のお役に立てるのなら・・・。
「私のようなモノができることでしたら、どのようなことでもいたします」
「そうか。ではレヴェルの33、先に伝えたようにレヴェルの39はレヴェルの43と共に・・・・・⸺ん?そこの男、先日登録された原種か?」
「はい。お初にお目にかかります。先日、初めてフィグロディの森から出てきた未熟者ですが、よろしくお願いいたします」
そう言って、依代様は私の隣の男の方へ顔を向ける。
げん、しゅ…原、種・・・・・原種?
・・・・そういえば、私の高祖父にあたる男が、原種だって、派閥の奥方が他派閥の奥方に自慢している場面に遭遇したことがあった気がする。とはいえ、原種が何なのか、分かった訳では無いけど。
私が考えている間、何故か二の兄が隣の男にペコペコと頭を下げ始め、室内の方にいる、豪勢なドレスを着こなしている女たちが騒がしくなっている。⸺いつもとは違う、しかし同じ様な視線も来ている…なに?
「⸺其方、突然ツクモと呼ばれて持て囃され、いきなり生涯の伴侶を決めろと茶会や夜会に引っ張りだこで、疲れていないか?」
「・・・・・・正直な所、疲労が無くなる前に、次の疲労が溜まり続けていますね」
「せっかくだ、其方も来るか?⸺其方の後ろ盾である、ヨゼルテックのモノも共に来ても良い。どうだ?」
「・・・・二度とない機会でしょう。その話、乗らせていただきます」
「そうか。⸺では明日、それぞれの屋敷に使いの者を迎えにこさせる」
⸺そこから先は、あんまり覚えてない。
気づいたときには、よく私に話しかけてくれる、従妹が色々準備をして、隣でお話してくれて、依代様の女従者が迎えに来て、馬車に乗って、依代様の住まわれる地に通じる転移陣を通った。
◆◇◆◇◆
「⸺すっご。見たことないデザイン・・・・ツクモの屋敷とか、人間が住む家とは建材が違うのかな」
「はい。主様は、いずれ人間が辿り着く可能性のある物だらけの家と仰っておりました」
「なるほどー。いつの日か、人間たちが住む家々がこんなのだらけになったら・・・・うん、圧巻だね!」
従妹と、私達を迎えに来てくれた女が会話をしている。⸺この家の形は、初めてみた形だけど…家の形で、そんなに盛り上がるのかな。
そんなふうに考えていたら、馬車が一台現れた。私達が乗ってきた馬車とはデザインが違うから、原種って言われてた男が乗っているのだろう。
扉が空いて、最初に降りてきたのは、多分、向こう側の迎えの人で、執事服を着こなした男。次に降りてきたのは、原種って言われてた男。最後に降りてきたのは、知ってる男だった。
時々私の部屋に来て会話をする⸺たしか、ヨゼルテックの17って言われてた⸺男だった。
「あぁ…他のってお前らだったのか」
「ゲッ、オッサンが来んのかよ…うへぇ」
「おいゲッとはなんだ、ゲッとは。あと急に喋り方を変えるな!ツッコむだろ!」
「いや、前に素直になれって言われた通り、素直に気持ちをそのまま言葉にしただけなんだけどな…」
「素直すぎだわ!」
二人は相変わらず仲がいいみたい。楽しそう。
「⸺あー、おっほん!」
二人のやり取りを見ていたら、依代様が目の前に立っていた。気づかなかった。急いで膝をお「あっ、別に立ったままで大丈夫だよ!」・・・・・・立ったままでいいなら、このままでいいや。
「えー、改めて自己紹介をします!私はセキネ・シノノメ。神様のおもちゃみたいなモノでーす。よろしくね〜!」
・・・・・・・・・え?
「・・・」と「…」と「⸺」をめっちゃ多用してる…まぁいいや