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狙われた子供

引き続きプレイヤーキラー捜索です。


「『B(ブラッディ).B(ブラック)』と狩人(ハンター)クラスの強い女。この二点について調査していこうぜ」


 新たな情報を元にシルク達は各階層のプレイヤーに手分けして聞きこみを再開する。

 まず女頭領らしき人物は見つからなかった。女性で狩人(ハンター)クラス且強いプレイヤーとなってくると頭数はかなり限られることになる。該当した数十人を虱潰しにあたってみたが成果はなし。高水準なプレイヤーは存在したものの超人的とまではいえない。狩人(ハンター)といえば同僚だった『プレデターX』の方が圧倒的に強かった。


「身バレを嫌ってクラスチェンジしたのかもしれぬ」


「その線はありうるな」


 狩人(ハンター)の特定は難しいと判断した一行は『B(ブラッディ).B(ブラック)』というチーム名に絞って聞きこみを続行する。

 

 最近前線に出てきた若い世代の者達は『B(ブラッディ).B(ブラック)』という名前に聞き覚えがないようだった。逆にその名に聞き覚えのある者達は古参プレイヤーが多い印象である。しかし彼らも『B(ブラッディ).B(ブラック)』の活動については知らなかった。

古参プレイヤーの話を総合すると、『B(ブラッディ).B(ブラック)』はゲームリリース後から活動を始め、デスゲーム化以降活動を見なくなったということになる。


「流石に自粛したんじゃないかな? 今のLPOでPKは殺人になっちゃうし」


「……活動期間を考えれば妥当ですね。あくまでゲームとして楽しんでいたためデスゲーム化以降は解散したとすれば最近目撃情報が無いのも頷けます」


「そもそも、『B(ブラッディ).B(ブラック)』は五人。我らを襲った連中とは人数からして違う。第九層で邂逅した者どもは別団体と見た方が良いと思うぞ」


「リンネに同意だ。『B(ブラッディ).B(ブラック)』の頭領がクソ強ェならそもそも卑怯な集団リンチは仕掛けてこねーだろ。あんとき会った奴らは個としての力で言うなら中級者程度だぜ」


 結局振出しに戻ってしまった一同は姿の見えないPK(プレイヤーキラー)の探索を一旦保留として第十層の開拓を進めることにした。各町に「PK(プレイヤーキラー)の注意喚起」と彼らの情報を高値で買うことを告知し、今一度前線に戻ったのだ。


 それから第一線に復帰したシルク達は今までと同じように第十層のフィールド開拓に尽力する。ただ今までのように順調な攻略にはならなかった。敵モンスターのレベルもギミックの難易度もこれまでより格段に上がっていたのである。


「手強いですね」


「二桁に入っただけのことはある。……が、我が魔眼で封じれば問題はあるまい」


「ただのモンスターでこのレベルなんて……エリアボスの強さとか想像したくないわ」


「精々今のうちにレベルを上げていこうぜ」


第九層を攻略した前提の設計のため第十層は一気に攻略難易度が上がっている。

今までは多少力押しでも戦えていたが、これまで以上に役割分担と作戦が重要になってきていた。それでも第八層と九層のエリアボスを攻略した一同はまだ戦える段階であった。

未だ力が及んでいない他のプレイヤーを助けつつ十層開拓を進めていくシルク達。


「ふー今日もいい汗かいたぜ」


「どこかの料亭にでも泊まって骨を休めたいわね」


「我がよい店を知っておるぞ。選ばれし者しか入れぬアンダーグラウンドの……」


「会員制の店を知ってるということですね、リンネさん。是非案内してください」


 ある日、いつものように食事でもとろうかと話していたとき、四人の元に凶報が舞い込んできた。


「殺しだ! PK(プレイヤーキラー)が現れたぞ!!」


 最早バカンスどころではない。探していたときは見つからなかったPK(プレイヤーキラー)がついに尻尾を出したのである。四人は運ばれてきたばかりの料理を口いっぱいに積めて急いで報告のあった場所に向かった。現場は第七層の【ガルシア駐屯地】付近である。駐屯地は安全エリアに該当され、HPの回復と宿泊が可能である。エリア内では殺されないため、PKが発生したのは付近のフィールドだった。

 現場では二人の女性プレイヤーが震えて抱き合っていた。

 彼女達を取り囲むように他のプレイヤー達が野次馬の如く集まってきている。


「私達、いきなり襲われて……仲間が庇ってくれたから駐屯地まで逃げることができたんです」


「うぅ……ひっく、みんな殺されちゃった」


 話を聞くと彼女たちは元々男性三名と女性二名の各クラス混合パーティで活動していたらしい。まだ第十層で戦えるレベルではない彼女達は一級プレイヤー達の後を追うように第七層で腕を磨いていたのだ。この駐屯地は彼らの活動拠点だった。

 その日も彼らは薬の残量が少なくなったため駐屯地を目指して帰路についていた。


 そんな折、突如複数のプレイヤーに奇襲を受けたのである。仲間に庇われた後衛の二人は何とか駐屯地まで逃げることができたが、その安全エリアから戦友達が無惨に殺される光景を見せられてしまったのである。安全エリアで手を出せないことを察したPK(プレイヤーキラー)は撤退していったが、腰が抜けた二人はそこから離れることができずヘルプコールを付近のプレイヤーに送ったというのが事件の流れだった。


「安全エリアの付近に網を張って襲うって第九層の温泉を思い出しますね」


「ああ。手口的にも同一犯だろうな。それとシルク、ここ視てみろ」



 Mr.ヌードが指さしたのは彼らが殺された場所だった。このLPOは死亡した瞬間にホログラム状になって消滅する。よって死体は残らないため実況検分などできない。

 だが三名のプレイヤーが殺された場所にはある刻印が刻まれていた。LPOリリース初期に活動していた最強のPK(プレイヤーキラー)団体『B(ブラッディ).B(ブラック)』の名前である。


「この仮想世界ではHPが0になった時点で消滅するため死体は残らない。よってモンスターに敗北したのかプレイヤーに殺されたかは目撃者がいる場合にしか判断できねぇ。自分達の犯行声明のつもりなのかもな」


「しかし妙ではないか? 今までこんなあからさまな刻印は残されていなかったぞ」


「うん、あったら話題になるしね。姿を見られたから敢えてアピールしたのかしら」


 仲間達が展開する推理を聞いたシルクはとある恐ろしい推測に思い至り、全身に悪寒がはしった。


「先輩、僕達はとんでもない見落としをしていたのかもしれません」


「あ? 何の話だよ、シルク」


「目撃者がいなければプレイヤーの死因は分からない。つまり今までゲーム攻略中に死亡していたと見なされたプレイヤーの一部は彼らによって殉職に偽装されていたかもしれないんです」


 驚いたMr.ヌードがメニュー画面からログを調べて行くと最近のプレイヤー死者数が異常に増えていることが分かった。それも一人、二人の犠牲ではなく複数人パーティ全員がダンジョン攻略中に死亡しているという情報が散見された。

 フレンド登録されていないプレイヤーの死亡情報などは告知されず自ら記録を探すほかに見つける手段はない。だから今までシルク達はPK(プレイヤーキラー)の活動に気づかなかったのだ。


「益々もっておかしいぞ。犯行を隠していたのならば何故わざわざ刻印を記す?」


「さっきミチルさんが推測した通りですよ。……姿を見られたから敢えてアピールした。そしてもう一つ……恐らくこの刻印は求人の意味もあるのかと思います」


「求人? 仲間を集めてるって言うこと?」


「ええ。現場に刻印を残すことで殺戮を目的とする輩は『B(ブラッディ).B(ブラック)』の存在に気づくと思います。気づいたものが刻印を消し、何らかの密会場所を指定することで彼らと接触していたのではないでしょうか? あくまで推測ですが今までの犠牲者の近くにも削られたような跡が残されているのではないかと」


 実際に確かめに行くと今まで攻略時に殉職したと思われていたプレイヤーの消失ポイント付近には岩や壁が不自然に削られたような痕跡が残されていた。ダンジョンの装飾や戦闘で付いた傷跡と誤認してしまうような跡である。


「……どうやら我らがシルクちゃんの推測は当たりのようだ」


「嬉しくないですけどね。彼らがどの程度の規模になってるかも不明ですし」


「或いは準備が整ったのかもしれんな。今回の刻印のみは求人ではなく宣戦布告としての意味合いがあったのやもしれぬ」


「大変じゃない! 急いで告知しなきゃ!」


その日から厳重な警戒態勢が敷かれることになった。

不要不急の外出は避け団体行動を推奨された。また野営ポイントなどフィールドにある安全エリアの利用は短時間に留めるルールも提唱される。

一方で腕の立つプレイヤーたちは攻略よりも先にPK(プレイヤーキラー)捕縛を優先するように方針が転換した。せっかく順調に攻略を進めても背中から討たれれば努力が水泡に帰してしまうからである。シルク達も交代で見回りと調査を遂行した。

 ところがPK(プレイヤーキラー)を捕まえることができなかった。


 調査の途中に《B(ブラッディ).B(ブラック)》の構成員と出くわした者もいたが、取り逃がしてしまったのである。シルクらは正反対の場所を調査している最中だったため駆けつけることができなかった。 そしてそれ以降警戒心が増したのか彼らは活動を自粛してしまった。


「この分だと町に紛れているかもしれませんね」


「えぇ!? どどどどうしよう!? シルクちゃん」


「落ちつけ、ミチルよ。安全エリアである町で殺人はできん」


「だが放っておくわけにもいかねぇ。ここは我慢比べだな」


 ゲーム内とはいえ殺人を強行する壊れた人格者たちだ。いずれ殺人願望を御しきれずに出てくるだろうとMr.ヌードは推測していた。

 数日様子を見れば焦れたPK(プレイヤーキラー)に動きが見えるだろうと楽観視していたのだ。


「――まさか何のリアクションもないとは……」


「もういっそ全員の事情聴取をしましょう! 怪しい人間を捕まえれば!」


「落ちつけミチル。プレイヤーは一万人以上いるんだぜ? 現実的じゃねーよ」


「だがミチルの気持ちも分かる。いつまでもPK(プレイヤーキラー)にかかりきりでは攻略は遠のくというもの……。早い所ケリをつける必要がある」


 前線で活躍できるプレイヤーのため対面勝負で敗けるつもりはなかった。しかし姿が見えなければ戦うこともできないのだ。長時間動きが見られない現状で焦れているのは他のプレイヤー達も同じだった。


「いつまで外出制限が続くんだよ。欲しい装備の素材があるのに」


「クエストクリアしなきゃ金も稼げねぇってのに。保障金は出るのか?」


 不満を口にするのは低レベルプレイヤー達が多かった。上中級プレイヤーは見回りや探索である程度外出の自由が許されている。PK(プレイヤーキラー)には及ばない彼らは一番狙われやすいため渡航制限を強いていたのだ。彼らにとっては町に押し込められている立場のためPK(プレイヤーキラー)よりも上級プレイヤーたちに不満の矛先を向けだしている。


「早くPK(プレイヤーキラー)を捕まえろよ。お前ら強いんだろ! そろそろ俺達も狩にいきてぇんだよ」


「落ち着いて! そうして警戒が解かれたときこそPK(プレイヤーキラー)は襲ってくる」


「だったら早くなんとかしろ!!」


 自粛や渡航制限が長くなればそれだけ不満が溜まっていく。特に前線で戦う力の無いプレイヤーは現状の深刻さをあまり理解できていなかった。


「まずいですね。このままではいつ暴動が起きてもおかしくない」


「とはいえ無理やり抑えつけるのも限界がある。勝手に出歩く奴らも出てくるかもな」


「……あっ!」


「どうした、ミチルよ。怪しい人物でも見つけたか?」


「怪しいというより、第一層のプレイヤーさんが……」


 彼女が指さす先には見知った眼鏡の女性がいた。第一層【テオラルザ】の学舎で子供達に算数を教えていたカリナという教師である。もう日も沈みかけているというのにキョロキョロと周囲を伺い落ち着かない様子である。


「あの、どうかされたのですか?」


「シルクさん、ハァハァ……丁度良かった。子供を見ませんでしたか? ナツメ君という男の子なのですが……」


「いなくなっちゃったの? でもここは第四層よ? 子供が遊びに来る場所ではないと思うわ」


「遊びに来たのではなく素材を集めに来たみたいです」


「素材とな? 第一層でも下層で仕入れた素材は手に入るだろう?」


「今まではそうだったのですが、ここ最近の自粛ムードで低レベルのプレイヤーは外出できず、中級以上の方たちはPK(プレイヤーキラー)の探索をされているため、【テオラルザ】で深刻な品不足が発生しまして……」


 第二層以上で活動するプレイヤー達は収集した素材を第一層の商人や他のプレイヤー達に卸していた。おかげで在庫が尽きることはなかったのだが、プレイヤーが狩りをしてアイテムを集めるという経済活動が阻害されたことで品薄になってしまったのだ。供給元が断たれても需要はいきなりなくなるものではない。その結果、つい一月前までは普通に購入できていた物品が数倍から数十倍の価格になってしまっているというのである。


「子供達の教科書やノートを作るために使っていた紙とインクが特に高騰していて――」


「外出できぬ分、皆紙を使った魔法陣制作に打ち込んでおるようだからな」


「魔法陣はともかく、ボードゲームや絵、小説作りで気を紛らわせてる人もいますからね」


「LPOにおける電子画面はメニュー・UIだけだからな。パソコン的に使うことができねーから紙で授業するしかねーってわけか」


「そっか。仮想世界にいるのにパソコンができないって頭が混乱しちゃいそう。電子データが授業に使えないのは確かに不都合ね。あ、それで教え子が先生を気遣って素材を現地調達しにいっちゃったわけか」


 ミチルの言葉にカリナは深く頷いた。

 紙がなければ授業ができない。学級閉鎖も目前に迫る程資源は枯渇しつつあった。そんな恩師の悩みを察した教え子の一人がこの第四層まで足を運んだのである。


「どうして第四層なんかに……? 素材なら第一層や二層でも取れたと思うけど」


「安全に手に入れられるポイントは他のプレイヤーに狩りつくされておるからだろう」


「はい、懇意にしている収集プレイヤーの方が嘆いていましたから。ナツメ君、お友達には第四層に遠征へ行く、と漏らしていたみたいなんですよ。メニュー画面から素材がどのエリアで手に入るかは調べられますからね」


 子どもとはいえ一度はLPOで戦ったことのあるプレイヤーである。場所を決めての短時間の活動なら問題ないと踏んだのだろう。足跡を調べた結果、モンスターを避ける薬や逃走専用の煙玉など大量のアイテムを買いこんで転移柱の方へ走っていく姿が目撃されていたそうだ。


「ナツメ君は頭は良い子なので危ないことはしないと思いますがPK(プレイヤーキラー)と出くわしたらと思ったらいても立っても居られず――」


「分かりました。カリナ先生はすぐに戻ってください。ボク達で捜索しますから」


「お力を貸してくださるのは嬉しいですが私も同行させてください。お願いします!」


 カリナの剣幕に押されたシルク達は渋々同行を承認した。

 ナツメの顔を知っているし、先生が近くにいた方が子供も安心するだろうと考えてのことだった。LPOの世界にいるということは大なり小なり知識と戦い方は心得ているだろう。彼女本人がモンスターを倒せずとも回避行動をとってくれるだけで十分に守りやすい。

シルクとミチル、Mr.ヌードが前からリンネが後ろから囲う形でカリナを護衛しつつ前へと進んだ。


「紙とインクの素材となると『ペーパーウッド』と『煤墨石』ですね」


「第四層だと両方とも【アルタヤ樹海】で手に入るわね」


「メニュー画面も確認しないで採集地点を言い当てるなんてミチルさんも随分詳しくなりましたね」


「LPO生活長いからねー。出来れば早く帰りたいんだけどね」


「私もゲームの世界に入りたいと思ったことは何度もあるけど、流石にここからは出たいと思うようになってきたわ。この中じゃ他のゲームもできないしアニメも見れないし」


 談笑しながらも五人は【アルタヤ樹海】へと向かう。

 第四層の敵は第一線で活躍するシルク達にとってはほぼ一撃で倒せるモンスターしかおらず、油断していない限りHPが減ることもなかった。


 シルク達が探索している間、当のナツメ少年は【アルタヤ樹海】の奥地で収集活動に勤しんでいた。勉強熱心な彼はバッグの容量と野外活動に必要なアイテムを計算に入れて奥地まで入りこんでいた。フィールドで使う対モンスター用のアイテムは価格が暴落しているため少年の少ない予算でも購入することができたのだ。そして目いっぱいモンスター除けのアイテムを使用することで一度も戦闘を経ずに奥地まで入りこむことができていた。


「やっぱここまで来てよかったぜ。詰めるだけ素材集めちまおう。へへ、先生喜ぶかな」


 無邪気に笑う少年の背後に括り刀を握る男が立っていた。


子供に迫る影。果たして……!

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