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92. レオ! 領都を徘徊する


 起床後もモーリに関するアレコレについては、何の良案も浮かばなかった。

レオは、領都の土地勘でも磨くかと、散歩がてらミラー商会を訪問する事にした。まあ、ついでに何か良いヒントでも得られないかとも考えていた。


 ベズコフ領都の住人の中では、レオの数少ない知り合いだったフンメル。

ただし、フンメルが以前パメラと共に開拓村へやって来た時、近々イェルマークに移動すると言っていた事をレオは覚えていた。だから、ミラー商会にはいないだろうとは思ったのだが、まあ念のため訪ねてみる事にしたのである。


 商会の店頭にいた、まだ成人して間もないと思われる若い女子店員に、フンメルと昔、親交があった者だが、6年ぶりにベズコフ領都を訪れたと話し、フンメルの消息や最近の領都の様子などを聞いてみたのだった。


 その女子店員は、魔狼が領都へ押し寄せる直前にフンメルは旅立ったため、番頭さんは本当に運の良い人だと皆さん言ってましたと、笑顔で話してくれた。

 それを聞いたレオは、けっこう際どかったのだと知って少々驚いたのである。


 残念ながら、ミラー商会でもモーリの件を解決してくれそうなものに出会う事は無かった。ここで馬車を借りる事も考えていたのだが、迷惑を掛けるわけにもいかないし、借りる事による身バレの懸念もあったので早々に断念した。


 その店員にそれとなく聞いたところ、このベズコフ領都には、荷車や馬車の貸し出し業者は存在しない様だ。必要とする商会や業者は、どこも自前で持っており、庶民が引っ越し等で必要な場合には、友人、知人の伝手で、そういったところから借りて来るらしい。まあ、よそ者のレオには、無理っぽい。


 ただ、話しているだけというのも申し訳ないので、レオは日持ちする食料をこの機会に買い揃えておこうと思った。今後、絶対に必要になるはずの品である。

 店員のアドバイスに耳を傾けながら、商品を選んでゆく。


 その最中、店の奥から若い女性が出て来た。

中々の美人だが、そのお腹は明らかに大きく、子が生まれるのも間近と思われた。女子店員が、女将さん! 無理しちゃ駄目ですよと明るく声をかける。

 見れば、店の前を通りかかった街の人々も笑顔で会釈して行く。有名人か?


 その女性は、レオにも笑顔で会釈した後、店員たち一人一人に声を掛けてから、店の奥へと戻っていった。女子店員がレオに教えてくれる。


「綺麗な人でしょう! 商会長の奥さんで、以前は商業ギルドの窓口で受付の仕事をしていた人なんですけど、そこの一番人気だったんですよ!」


 何故か、自慢げに語るのである。

そして、周囲を窺うと声を潜めながらレオに、お漏らし令嬢の話を知っているかと尋ねる。レオはリゲルから聞いていたので、笑って頷くと、その女子店員は本当に嬉しそうに、見事な “ざまぁ!” 話を披露してくれたのである。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 とある古着屋に(たか)りまくった挙句、お漏らし令嬢と成り果てた経緯を、王国各地の新聞に暴露され、もはや貴族家へ嫁ぐ事は不可能となったベズコフ子爵家令嬢。

 代わりにミラー商会の商会長へ嫁ぐ気満々で、頻繁に店を訪れては高飛車な態度でピントの外れた忠告をし、店員たちの顰蹙(ひんしゅく)を買っていたという。


 フェンリル災厄時の難民救済のせいで、商会の運転資金が枯渇しかけていると知り、国から出た復興資金の配給を餌に、商会長夫人の座を狙っていたらしい。

 一時は商会員全員が思い詰め、自分たちは薄給となっても構わないので、あの令嬢を迎える事だけはやめてくださいと、商会長に直訴したほどだったという。


 ところが、商会のギルド口座に謎の入金があり、資金問題はクリア。

後は、お前がさっさと嫁をもらえば解決だろうという商業ギルド長の勧めにより、商会長ピートはギルドで一番人気だった受付嬢と結婚する事になったそうだ。


 その結婚式がまた、とんでもないものだったという。

ピートはフェンリル災厄で領都が包囲された時、英雄的な活躍をしていたのだ。

苦労を共にした者たち、とりわけ自警団の連中が率先して動き、新婚生活に必要な家具や備品の調達には、多くの領都民が関わったそうだ。


 集めた寄付金で、式当日には教会前広場で料理が無料で振舞われ、ちょいと豪華な炊き出し状態。孤児たちや金の無い者たちは、領都の郊外で花々を集めて来て、教会から出てきた新郎新婦に、まさにブリザード級の花吹雪を浴びせたという。


 本当に、前代未聞の歓喜に満ちた結婚式に、領都中がお祭り騒ぎとなった。

そして、誰言うともなく領都の皆が聞き、心から同意したのが、領主家の令嬢でもこれほどの結婚式は無理だろうという言葉。領都民全員が留飲を下げたそうだ。


 こうした愉快な話を聞けて、レオとしても気分転換が出来たし、是非ともリゲルにもこの話を聞かせてやろうと思った。

 しかし、それでも残念ながら、依然として難題は残ったままである。

午後からは南門方面の見学に行く事にしたのだった。


 南門は閑散としていた。南の村々が全滅したせいである。

一の村は住民も村の建屋も概ね無事だったのだが、魔物への恐怖心が冷めやらず、住民が戻ろうとしないのだそうだ。普通なら一定期間、領軍が護衛につくところなのだが、その領軍が壊滅して再建途上なのである。

 確かに、先日レオが寄った時も無人状態だった。


 結局、この日もすべて空振りに終わり、トボトボと宿へ帰った。

レオなりに無い知恵を絞ってはみたものの、良い知恵は浮かばなかった。

仕方なく領都を徘徊してはみたものの、やはり目ぼしい物は見つからない。

 この日も不貞寝することになったしだいである。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 未明のまだ暗い内に起床したレオは、西門へと向かった。今朝も良い考えは浮かばない。仕方が無いので、唯一行ってなかった西の街門へ行く事にしたわけだ。


 開拓村の生活では、日の出とともに起きるのは当たり前の事だった。

村で自分たち孤児の面倒を見てくれていたマーサ姐さんは、


「早起き出来ない人間は、いずれ身を滅ぼすんだよ!」


と、怖い事を言っていた。


 西門に着いた頃には、東の空が明るくなり始めていた。もうすぐ日の出だ。

多くの街で街門は、日の出とともに開門し、日の入りとともに閉門する。

平凡極まりない地方都市、ここベズコフ領都もまた同じであった。


しかし、明るくなる空の下、レオにとっては非凡なる西門の “奇跡” が起きた。


 彼の難題の、ほぼ全てを解決してくれそうなものと出会う事が出来たのである。昨日までの悩みや、街中をうろつき回った苦労は、一体何だったのかと思う。


 西門の近くには、人が引く荷車とともに開門を待つ数人の男たちがいた。

どの荷台にも、人が十分入りそうなほど大きな、魔物の皮袋が載っている。

しかも何と、男たちは全員が鼻と口の辺りを布で覆っているではないか。

 まるで、顔を覆面で隠す盗賊の様な、いで立ちなのだ。


 開門と同時に、その覆面姿の男たちは皆、荷車を引いて警備兵に軽く会釈をするだけで、次々と門の外へと出て行った。

 そして西門の警備兵たちも、覆面姿の男たちや、袋の中身を(あらた)めようとはせず、ただ鷹揚に頷きながら見送るだけだったのである。


 全くもって、早起きはするもんだ!


 レオはそう思い、この幸運に巡り会えた事を、彼にしては真に珍しく、神に感謝したのである。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 その後、レオは西門周辺や繁華街周辺を歩き回って過ごすと、繁華街の一角で朝から営業していた食事処を見つけ朝食を摂った。既に朝食のピークは過ぎており、レオが食べ終わった頃には、他の客は誰もいなかった。


 店は年配の夫婦が切り盛りしており、レオは勘定を払いながら、自分は最近この街に来たのだが、路銀を稼ぐため、短期間働けるところを探しているのだと相談を持ち掛けた。


 客も掃けて朝の仕事が一段落したタイミングに、割と話好きの夫婦だった様で、食器類の片付けをしながら、あれこれ思いついた仕事について話してくれた。それに対してレオは、自分は田舎の出身なので体力しか取り柄が無いのだと頭を掻く。

 そして、頃合いと見て本題に切り込んだ。


「そう言えば、朝、西門の近くで、生ごみを荷車に載せて開門を待っている連中を見たけれど、あれは街で出た生ごみを、周りの村に運んで家畜の餌にでもしているんだよな?」


 レオが早朝に見た光景を説明する。本当は、荷車の男たちと直接話したかったのだが、レオの到着直後に開門したため、皆、走り去ってしまったのだ。

 荷台にはどれも、人が入りそうなほど大きな皮袋が1つか2つほど載っており、男たちが通り過ぎた後には、生ごみの独特の臭いが微かに漂っていた。

 彼らが顔を覆っていたのは、この臭い対策に違いない。


 街門が開くと同時に、彼らは門の警備兵に軽く会釈をするだけで、次々と街門を通り抜けて行った。警備兵は荷車の積み荷を検める事も無く、全く気にする素振りすら見せなかった。生ごみを運び出す、毎朝のありふれた光景なのだろう。


 食堂の夫婦は揃って頷くと、レオの想像どおり生ごみの回収業者だと言った。

その後、夫婦から聞き出した話によると、昼の営業が終わってしばらくした頃に、朝と昼の調理の際に出た端材や、客の食い残した残飯といった生ごみを集めに来る業者がいるという。彼らは西門から歩いて半刻(1時間)ほどの所にある、領都西方の牧場地帯へと運んで行くのだそうだ。


 そこで飼っている豚の夕方の餌になるらしい。それとは別に、この店の夕方の営業や夜間及び、深夜に営業している店で出る生ごみを夜中に集め、朝一番で村へ運ぶ業者もいるとの事。豚の朝食というわけだ。レオが今朝見た連中がこれだろう。

 各所で生ごみを無料回収し、牧場で金をもらっているそうだ。


 傾斜地が多い領都西方は、以前から放牧や養豚が中心だったが、魔狼集団に占拠されて壊滅。最終的には、フェンリル討伐隊による焦土作戦で、地域丸ごと野焼きされてしまったという。


 ところが、牧草地は翌年にはすっかり新芽に覆われ復活。ただし、肝心の家畜は外からの買い入れとなったため、再建の見通しが立ったのはようやく最近になってという感じらしい。それでも、自領産の肉製品が出回り始めた時は、領都民も心から喜んだと言う。


「ただねえ、中には本当にひどい肉や腸詰を売る牧場もあってねえ・・・」


 食事処の女将さんが、周囲を気にしながら小声でそっと告げる。

一昨夜、酒場のマスターから聞いた、領主家繋がりの牧場の事だろうと思ったら、案の定そうだった。モーリの仲良しのイートン商会長が作ったイートン牧場。


 時折、その牧場の若い連中がやって来ては、自分のところの肉製品を直接売りつけるらしい。領主家の若様の威光を笠に、かなり強引だという。


 そうやって押しつけられた脂身だらけの製品は、とても客に出せるような代物ではなく、そのまま生ごみとして廃棄したところ、回収されて出荷元の牧場で豚の餌になったとか。すると、牧場の豚たちも綺麗にイートン牧場の製品だけを避けて、食べ残していたという。そんな、噓か真か分からない笑い話まであるらしい。


 こうして必要な事は聞けたので、レオは礼を言ってその食事処を後にした。

その後、一昨夜偵察に行った歓楽街を再度訪れた。日中に見る歓楽街は、夜とは全く異なる顔をしていた。昼間なので当然、人通りも少なく、歩いてみれば思ったより狭い地域だなと感じたものである。


 領都の広場の屋台で買い食いをして昼食とした後、食事処が集まっている繁華街の一角へと足を向けたレオ。そこで無事、お目当ての相手を見つける事が出来たのである。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 領都の繁華街で見かけた生ごみ回収業者。初老のその男に声をかけ、路銀を稼ぐまで自分もこの仕事をしたいと話し、今日一日手伝うから、色々教えてくれと頼み込んだ。あんたの縄張りを荒らす様な真似は、絶対にしないからと約束して。


 テリーという名のその生ごみ回収業者の男は、結局、同行を認めてくれた。

レオの体力任せの、その豪快な働きっぷりに感心したのか、テリーはレオの質問に概ね答えてくれた。1日の実働時間や稼ぎといった基本的な事を始め、最終的には牧場や回収業者のリアルな現状まで教えてもらえた。


 荷車や生ごみを入れる特殊な魔物の皮製の袋は、牧場所有のもので、回収業者はそれを借りて仕事をするのだそうだ。

 生ごみは水気が多いので、麻袋なんかでは染みてしまい、臭いがとんでもない事になる。集めて運ぶには、水が漏れない防水性の素材の袋を使うしかないわけだ。レオが軍務でお世話になった水筒と同じ素材らしい。


 通常は袋の口を縛って閉じているけど密閉は難しい。頻繁に開閉する事もあり、作業者にとって臭いの問題は避けられない。顔を覆う布は必須なんだそうだ。


 レオが一番気にしたのは、既存業者の縄張りだったが、早いもん勝ちでけっこう緩いらしい。フェンリル災厄の時に牧場地域が壊滅し、生ごみを買い取ってくれるところが一時無くなったせいで、回収業者の数が減ったからだと言う。


 また、食事処が密集する食堂街での回収は競争が激しいけれど、飲み屋街はそれほどでもないと聞かされた。歓楽街の高級酒場狙いのレオには都合が良かった。


 そして、テリーが最後にレオに忠告した内容というのが、


「イートン牧場にだけは行くな!」


という、イートン牧場へのダメ出しであった。

 生ごみ回収業者の間でも、この牧場のあまりにもな ”仕打ち” は有名だった。

そのため、皆で足並みを揃え、ここの仕事は受けない様にしているのだそうだ。


 やはり、モーリの威光を笠に着て、好き放題やっていたようである。

まあ、生ごみ回収業者の場合、同業者が朝、西門の開門待ちで顔を合わせるので、情報も共有できるし、対応策も相談しやすかったわけだ。


 しかし、牧場の実際のやり口を聞いて、流石にレオも唖然としたものだ。

まあその結果、イートン牧場に豚の餌を運ぶ業者はいなくなり、仕方がないので、威張り散らしていた牧場の従業員が、自ら生ごみを集めて運んでいるという。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 そうした話を聞いた結果、レオはイートン牧場の仕事を請け負う事に決めた。

領都内で集めた生ごみという豚の餌を、せっせとイートン牧場に運ぶ仕事だ。


 なぜなら、これから実行予定のレオの計画によって、どれほど迷惑を掛ける事になったとしても、この牧場なら一切良心が痛む事は無いと確信したからだ。


 現状の殻を破って何か新しい事にチャレンジする時は、常識なんぞに囚われず、思いっきり大胆にジャンプするべきなのだ!

 医務隊のマーサ隊長もニヤニヤしながら、昔の諺を教えてくれたではないか!


 「立つ鳥、後ろ足で砂を掛けるように!」


明けまして、おめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

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