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76. 閑話13 幻の宮廷魔導師団長


 約2年ぶりに宮廷魔導師団に顔を出したエリック。

彼が属する宮廷魔導師団でも、団長を始め多くの幹部や団員を流行病で失い、その後任を選ぶ必要に迫られていた。とりわけ、団長の選任は待った無しであった。


 本来であれば、宮廷魔導師団唯一の第三階梯魔導師となっていたエリックで決まりだった。第三階梯魔導師がいない場合を除けば、どの国も、どの時代も、宮廷魔導師団長は、魔導師の最高位である第三階梯魔導師が務めるのが常識であった。


 しかし、そこに横槍が入った。

まだ20代で、第二階梯魔導師のファブレルを団長に推す声が、宮廷魔導師団内で公然と挙がり始めたのである。何ともドス黒い、エリックへの公然たる悪意が魔導師団内に渦巻いていた。


 まあ、ほとんど全員が貴族家出身者である宮廷魔導師団において、平民上がりのエリックがそのトップに就く事を、快く思わない者が多いのは事実だ。

 また、ファブレルにしてみれば、平民の分際でありながら自分の “運命の人” であったシンシアを奪い去ったエリックが、宮廷魔導師団長に就任するなど、絶対に許せるはずがなかった。


 異例にも、“公開討論会” なるものが開催される事になった。

主催者は、何と王太子殿下。


 聞けば、流行病が猛威を振るう少し前、ファブレルは魔力持ちの母親から、母乳を介して子供に魔力が伝わるという説を発表し、大陸全土で一躍脚光を浴びていたという。その勢いに乗って、宮廷魔導師団長の地位を狙えると考えたらしい。


 自説の持つ可能性を説き、真に有能な者こそ魔導師団長の地位に就くべきだと、高位貴族を巻き込みながら王太子殿下に働きかけたという。

 魔力持ちの女性の母乳が、人を魔力持ちにするというファブレルの説に、大いに興味を覚えた王太子殿下や高位貴族家の若者達が、(こぞ)って彼を推し始めた。


 ファブレルの説を最優先で検証、実行して行くためには、彼を宮廷魔導師団長の地位に就けるのが最適だとする主張が公然と囁かれ、エリックを排除するために “公開討論会” の開催となったわけである。


 杖の次は、母乳かと、エリックからすれば無駄な努力を嗤うしかない。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 その討論会で、ファブレルは自説の「母乳魔力伝達説」をこれ見よがしに喧伝し、実際の評価結果を待つべきだと慎重論を唱えるエリックに対し、


「何故あなたは、これほど筋の通った美しい理論を認めようとしないのか?」


と非難し、雛壇を占める只人の貴族達は(こぞ)ってファブレルの主張を(はや)し続けた。

自分の説こそが正しいと信じて疑わないその姿は、(はた)から見れば自信の現れと見えたかもしれない。しかし、自説を証明する厳然たる実績も無いまま、芝居がかった大袈裟なポーズで、


「伝統を守るだけの者に進歩は無い!」


と断じ、エリックを小馬鹿にした目つきで眺め、鼻を鳴らすファブレル。

 その姿はエリックからすれば、魔導師と言うよりも自分に酔いしれた “道化師” としか見えず、ひたすら白けるばかりであった。

 そして、最後は主催者である王太子殿下が登壇し、


「流行病で甚大な被害を受けた我が王国は、今まさに国難の窮状にある。その様な時に伝統に固執するのは、果たして正しい道であろうか? 魔導師ファブレルの説に従えば、著しく数を減らしている現在の我が国の魔導師の陣容を、速やかに回復する事も可能となるであろう。ならば、結論は明らかだ!」


といった具合にまとめた。何もかもが茶番に過ぎなかった。


 ただ、ファブレルを応援する貴族達の多くが、自分達も魔導師になれる可能性を秘めた彼の仮説に、大いに期待していたのも理解は出来る。魔法は憧れなのだ。

 王太子殿下も、幼少の頃から魔法を操る事を夢見ていたというのは有名な話。

殿下の生母にして、今は亡き王妃が、他国から嫁いで来た魔力持ち女性だったにも(かか)わらず、殿下が魔力を授からなかった事実は、この国の公然の秘密なのである。


 王族として乳母の乳で育てられ、魔力持ちの生母の乳を与えられなかった事実を思えば、そこでファブレルの説に肩入れする気になったのも不思議ではない。

 史上最悪の流行病という国難に際し、都市封鎖といった前例の無い措置を断行した王太子殿下は、間違い無く名君として歴史に名を刻むだろう。

 だが、彼も人の子である以上、その弱さから逃れられぬ事もあるのだ。

人は、見たい物しか目に入らないという主張は、紛れも無い真実なのである。



 しかし、すべては幻想だった。女魔導師の母乳に意味は無かった。少なくとも、魔力持ちになれるかどうかという点に関しては。エリックは、亡き妻とともに検証していたのだ。魔力持ちの女性の母乳には、魔力など含まれていない事を。


 エリックは知っていたのだ。人が魔力持ちとなる二つの道について。

残念ながら、彼の仮説に(のっと)って只人(ただびと)の両親から魔力持ちを生み出すという実績は、未だ無かった。それに、仮にこの場でエリックの仮説を主張すれば、この場にいる只人全員に、魔力持ちになる可能性は皆無であると宣告する形になる。

 そんな仮説は、誰も聞きたくは無いだろう。


 何より、彼の仮説を子細に説明して行けば、どうしても魔石と魔力持ちの関係という、魔導師最大のタブーに踏み込んでしまう。

 それは、宮廷魔導師どころか、魔導師界隈からの追放という結果を招く事に繋がりかねないのだ。


 しかし、そうした事実よりもこの時、エリックの闘争心を著しく低下させていたのは、妻の死であった。シンシアは愛する家族以上の存在であり、彼にとって魔法や魔石に関する唯一の共同研究者にして理解者であった。その喪失感は途方も無いものであり、宮廷魔導師団長の地位など、本当にどうでも良かったのである。


 かくして事態は想定どおりに動き出した。公開討論会は史上空前の画期的な結論を生み出したとされ、前代未聞、弱冠28歳の若き宮廷魔導師団長が誕生した。

 新しい時代の幕開けと盛んに喧伝され、これからのイェルマーク王国の魔法体系は、伝統の殻を破った “若き獅子たち” によって切り開かれて行くと宣言された。


 こうして、第二階梯魔導師ファブレルの、イェルマーク王国宮廷魔導師団長就任の報は、大陸全土に衝撃を与えたのだった。


 まあ、魔導師としては異端の極致とも言えるエリックが、あたかも守旧派の如き扱いを受けて排除された事実は、滑稽の極みと言うべきものであったろう。

 エリックとしては、苦笑するしかなかった。

彼のイェルマーク王国宮廷魔導師団長就任は泡と消え、幻となったわけである。


 そして、誰言うともなく、年寄りが残っていては若いトップは、何かとやりにくかろうという話が、いつの間にか魔導師団内に広がり、エリックは引退を余儀なくされる事となった。かくして、ファブレルの復讐劇はここに完結を迎えた。


 宮廷魔導師団長の地位に未練は無いし、魔導師病の対処法も既に我が手にある。

したがって、エリックとしては宮廷魔導師団と完全に縁が切れたとしても、何ら問題は無かった。だがしかし、エリックとて、木石では無かったのである。

 ファブレルによる不条理な仕打ちの数々は、流石に腹に据えかねた。


 エリックは、引退した宮廷魔導師が生涯受け取る事の出来る年金を、断固として拒否し、その代わり宮廷魔導師団は今後一切、彼には関わらないとする誓約書を作らせ、懐に収めた。自分がそれまでの人生で、苦労して獲得してきた多くの知見や魔法技術を、傲慢な魔導貴族連中に対し、強制的に開示させられる様な事は、絶対に避けたかったからだ。そんな事態は到底許せない事だった。


 そのまま永遠に宮廷魔導師団を立ち去ろうとしたエリックに、引退式はどうしますかと、能天気に聞いてきた事務局の人間がいた。追放記念の儀式でもやるのか?

 思わず、そう悪態を吐きそうになるものの、儀式は御免被りたいが、魔法の披露だけならやっても良いかと考えを改め、その方向で話をまとめた。


 若い頃は、高位魔導師の披露する魔法を、いつも楽しみにしていたものだった。若手の刺激にでもなれば、最後の記念に相応しいかと考えたのだ。

 3日後にエリックの魔法の披露会開催と決まった。無詠唱魔法の1つでも披露してやり、魔導師団の新幹部達に、ちょいと意趣返しをと考えたのも事実である。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 事務局を出て、王都の宿泊先に戻り、今後の生活に思いを馳せるエリック。

宮廷魔導師団を去る事に決めたのは良いが、これからどうしたものだろうか?

(いささ)か性急に事を進めてしまった感はあるが、長年に(わた)り貴族の横暴を耐え忍んで来たエリックである。辞めた事自体は、全く後悔していなかった。

 まあ、今後は二度と貴族には関わるまいと固く決意したのである。


 ところが、まさか2日も経たずに翻意する事になろうとは、この時全く想像すらしていなかったのである。

 エリックに関わってきたのは、シンシアの実父にして、彼にとっては義父となるサザーランド前侯爵であった。


 シンシアが亡くなったと知った時、前侯爵の居住する地方領地の方には、その旨手紙で連絡はしていたが、何の返信も無かった。現当主であるシンシアの腹違いの兄とは面識も無く、元から疎遠であったため、王都の侯爵邸の方は放置していた。


 一方、前侯爵は流行病収束直後から、王都の侯爵邸に詰めていたという。

地方領から転送されてきたエリックの手紙で、シンシアの死を知ったのは、最近の事だった。急ぎハウルの町へ連絡を取ったものの、行き違いになった様だ。

 エリックの行方がわからず、ヤークト商会や魔導師団事務局にエリックが現れたら知らせる様に依頼していたそうだ。


 そして、その侯爵家の前当主がエリックに会いたい、マリアを連れて王都屋敷まで来てくれと言うのである。マリアが1歳になった頃に会って以来なので、6年ぶりの再会という事になる。


 エリックが、侯爵の使いとしてやって来た初老の執事に、いつ行けば良いのかと率直に尋ねたところ、明日でもかまわないと言う。失業中の身である。即決で翌日の訪問が決定した。


 そして、そこからは、まさに怒濤(どとう)の展開となったのである。


 流行病の与えた傷跡は、侯爵家においても絶望的なまでに深刻なものだった。

王家の救済策によって、前当主から再び侯爵家当主に復帰していたシンシアの父。その事実が物語るのは、恐るべきものだった。王都のサザーランド侯爵の一族は、文字どおり全滅していた。そして、侯爵の直系として今この世に生きているのは、唯一人、エリックの娘マリアだけである事を知らされた。


 常ならば、庶子であるシンシアのさらに娘であるマリアが、侯爵家を継ぐ事などあり得ない。それは、エリックですら容易に理解出来る。しかし、そんな例外を認めざるを得ないという現状が、どれほど異常かという話だ。とにかく、マリアは侯爵認定の孫であり、そして、唯一無二の侯爵家直系なのだった。


 マリアに相応(ふさわ)しい婿を迎え、生まれた男子を侯爵家の正式な跡継ぎにする。

それが、侯爵の目論見だった。そのためには、マリアを侯爵の養女とし、手元で育てる事になると言う。もちろん、エリックも一緒に住む事は問題無いと。


「どうか、私を信じて欲しい。」


 真摯(しんし)な目で、静かにそう語るサザーランド侯爵。彼のシンシアに対する愛情は、本物だった。政略の駒とは見做さず、血の通う一人の人間として、愛する娘として彼女を育んでいた事は、紛れもない事実であった。ならば、マリアに対する侯爵の愛情もまた真実のものであろう。


 エリックは、侯爵を信じる事にした。

マリアという、自分の生命よりも大切な存在。全く同じ価値観を共有する、この老侯爵ならば、決してマリアを不幸な目に遭わせはしないと信じたからだった。

 こうして、ともに侯爵の領地へと移動する事になった。出来うる限り早くという要望に応え、魔法披露会の終了後、そのまま侯爵領を目指す事に決めたのである。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 エリックは最後の務めのために、宮廷魔導師団へと足を運んだ。

宮廷魔導師が引退する際には、最後の花道とばかりに、魔法の披露会が引退のセレモニーとして催される。


 冴えない魔導師として知られていたエリックではあったが、そこは流石の第三階梯。その権威は伊達では無かった。相当な数の魔導師が、演習場の観客席には集まっていた。まあ、“魔物猟師” のショボい魔法を見て、嗤ってやろうと考えている者もいただろうが。


 魔法披露会の形式は昔から決まっており、魔導師団の演習場に標的人形、例の

瓢箪(ひょうたん)” 人形を設置して、そこに向かって自慢の魔法を放つのである。

 面白いのは、引退する魔導師の階梯の数だけ標的人形を並べ、それぞれの標的に1種類ずつ魔法を撃って見せるという趣向である。

 第三階梯魔導師の場合には、3体を横一列に並べて設置し、1体ごとにそれぞれ、火魔法、水魔法、風魔法を撃つ事になるわけだ。


 ところが、演習場にやって来た観客達は、並んでいる5体の標的人形を見て首を傾げる。全く以て、意味不明である。第五階梯???

 実は、当初の標的は伝統どおり3体だったのだ。それが急遽2体増やされ、5体となったのは、エリックの要請によるものだった。


 演習場の控え室で、セレモニーの開始を待っていた彼の下に、何故か確認の依頼が来たのだ。標的の事前確認という、意味不明の呼び出しに付き合った後、部屋に戻ると「杖」が真っ二つに折れていたのである。何ともショボい嫌がらせだった。


 思えば、宮廷魔導師団での20余年、常に自重してきたエリックであった。

今日が最後の日となり、もはや宮廷魔導師団には、何の配慮も要らなくなった。

中ほどからポッキリと折れた杖を目にして、長年の我慢も同様にポッキリと折れたのかは不明だが、エリックは、これまでの鬱憤(うっぷん)をこの場で吐き出す事に決めた。


『今日は、自重は無しだ!』


ミカが、もしこの場にいれば、『リミッター解除ですね!』と(はしゃ)いだ事だろう。

精々、派手にぶちかまそう! 標的人形もまとめて粉砕だ! 数も増やしてやろう!

そういう経緯での、標的人形5体というわけなのだった。


 かくして、5体の標的が並ぶという異様な演習場に姿を現したエリックは、これまた杖も持たず、手ぶら状態という魔導師としては異様な姿に、見物に来た魔導師達はざわめく。魔導師には必須とされる杖だが、エリックには不要なものだった。


 晴れ姿と言うにはほど遠い状況ではあるのだが、娘に自分の魔法を見せたくて、この場に連れて来ていた。メイドのサラとともに、控え室から演習場へと上がって来る通路の脇の観客席最前列に、ちょこんと座っているマリア。

 エリックは、にっこり笑いかけると、マリアに向かって軽く手を振った。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 演習場の外れで、規定の30歩よりも離れた50歩の位置で、標的に向かって半身の姿勢を取ると、エリックは腕を水平に持ち上げた。

 そのまま手の平を標的に向けた瞬間、背後の観客席から陶器の割れる甲高い音が響いた。どうやら、エリックの集中を乱したかったらしい。


 しかし、その音はエリックに何の効果も及ぼさなかった。魔の森で日常的に魔物討伐を行っていた彼にとって、目の前の魔物と対峙している最中に横合いや背後、時には頭上から他の魔物が襲い掛かってくる事など日常茶飯事だった。少しばかりの雑音で集中が乱される事などあり得なかった。


 エリックは、無言のまま5体の標的に手の平を向けてゆく。突如鳴り響いた雑音のせいで、詠唱に失敗したと考える者が観客には多かった。中には、この心ない嫌がらせに対して、流石に顔を(しか)める者もいた。


 ごく一部の観客には、標的に向かって何か細い筋の様なものが、キラリと光った様にも見えたが、多くの観客は魔法発動に失敗したと認識し、表情を曇らせた。

 一方、先ほど陶器が割れた音がした周辺からは、(あざけ)る様な高笑いと、やはり平民ですなという声が聞こえていた。


 我、関せずのエリックは、そうした外野の思惑や会話を一切無視し、今度は右手の指を揃えて真っ直ぐに伸ばし、あたかも剣の様に水平に()いで見せた。そして、その後はゆっくりと手の平を標的に向けて、軽く前方に押し出す仕草を見せた。


 次の瞬間、全ての標的の首がポロリと後方へ落ちた。観客席の者たちは、思わず息を呑み、目を見開いたのだった。


 何事が起きたのか観客が理解する前に、少し腰を落としたエリックが標的に右手をかざすと、そこから細く青白い光の筋が、次々と標的の残された胴体部分に吸い込まれて行った。そして、ドン、ドンという音とともに標的が()ぜてゆく。


 エリックは、標的があった場所に背を向けると、観客席に一礼して歩き出す。

通路の脇の最前列席で父の勇姿を見守っていた愛娘を抱きしめると、そのまま連れだって演習場を後にしたのだった。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 一連の魔法発動は、すべて無詠唱だった事に気づいた観客が次第に騒ぎ出した。さらに、地面に落ちていた頭部を(あらた)めた者たちが、その額に小指の太さほどの細い穴が空いており、後頭部に向かって貫通していた事、そして、穴の中には水が付着していた事を確認したのだった。


 信じられない事だが、細い水流でその穴を穿(うが)ったと考えるしかなかった。

誰もが魔法発動に失敗したと思った、あの陶器の破砕音の直後の動作。実は、あの時、水魔法を発動していたという事になる。


 要するに、エリックは5体の標的人形に対して水魔法で額に穴を開け、風魔法で一挙に5体の首を切り落とした後、火魔法で胴体部分を吹き飛ばしていたのだ。


 観客席にいた魔導師たちは、誰一人として過去に類似の魔法を見た事のある者はいなかった。これまでの引退式では、せいぜい火球の大きさを誇ってみせる程度のものだったのだ。今回は、火球の大きさなど無きに等しいのに、その威力と標的人形の惨状は、想像を絶するものがあった。


 あれは一体何だったのだ!


 至急呼び戻して説明させるべきだ。いや! 説明をお願いするべきではないか!

エリックによる魔法披露式の後、そんな声が団内から挙がり始めた。しかし、新体制のトップたちは、あれは標的人形に何らかの細工を施した “イカサマ” だと強弁した。だから、杖も詠唱も必要としなかったのだと。


 ところが若手魔導師の中に、当日の標的人形設置を手伝った者たちがおり、標的人形には何一つ異常な点は無かったと証言したのである。

 そもそも、ポロリと首が落ちる様な壊れた標的人形など、地面に打ち込んで固定出来るはずがないのだ。また、白色火魔石を使えば標的人形を()ぜさせる事は出来るかも知れないが、50歩の距離から魔石を起動させるのは不可能だ。


 この日、第三階梯魔導師エリックが披露した独自魔法の数々は、演習場に詰めかけていた多くの魔導師を震撼(しんかん)させた。彼らの知る魔法とは、全く異次元の凄まじい威力と美しさを併せ持つ魔法。あれに比べれば自分達の魔法など、児戯に等しいと誰もが思った。どうすれば、あの様な驚異の魔法を操れる様になるのだろうか?

 多くの者が、エリックの魔法を夢想し、渇望した。そして、彼の指導を求めた。


 しかし、宮廷魔導師団にエリックの姿は、もはや無かった。


 ひょっとして、自分達は途轍も無い人材を手放してしまったのではないか?

多くの魔導師たちが、そう自問し始めていた。


 結局、業を煮やした若手の何人かが事務局に問い合わせ、エリックの王都滞在先を聞き出して押しかけてはみたものの、既に退居済みであった。


 彼の行方は、(よう)として知れなかったのである。


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