48. 閑話8 白き魔狼の王
彼が何者かと問われ、それに率直に答えるならば、魔狼の中のレオであろうか。
彼の能力は同族を遙かに超越しており、孤高とも言える存在であった。そうした高みへと独力で上り詰めた姿は、明らかにレオに重なるものがあった。
しかし、彼の生まれた環境はレオほど恵まれてはおらず、同族に追放された彼が生き延びる事が出来たのは、本当に奇跡と言える幸運のおかげだった。
高い知能はあったが、知識に恵まれる種族では無かったし、実際無知であった。ただ、その無知である一点により、ある一定期、彼はレオを超えていたのである。そう、皮肉にも “魔法” の存在すら知らなかったが故に、魔法を発動出来たのだ。
彼は孤独だった。仲間はおらず、随分と長い間、自分だけで生きていた。
兄弟姉妹の中で、唯一異なる色の被毛だった彼は、幼い頃から悪意に晒された。
異質な存在に対する警戒心から来る、排他的な態度。要するに苛めであった。
親が捕って来た獲物を食べる順番は常に最後であり、いつも腹を空かせていた。当然の事ながら、彼は兄弟の中で一番小さかった。
それでも彼は辛うじて群れの一員ではあったのだが、ある日、それも終わった。彼は、兄弟たちによって群れから追い払われたのである。まだ仔狼の時期に。
それが単なる偶然だったのか、悪意を持った明確な意図に基づくものであったのか、今となっては不明だが、結果的に彼は魔の森深奥に向けて真っ直ぐに駆けた。
天空から彼の被毛と同じ色の小さな粒が、ユラユラと一面に舞い降りて来た寒い日の出来事だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
魔の森の奥地は静かだった。不自然なほどに。
しかし、彼にそんな事を気にする余裕は無かった。死に物狂いで逃げた結果、体力も魔力も尽き果てる寸前であり、ついでに腹ぺこだった。既に大地は雪で白くなり始めていた。
彼は、偶然見つけた森の大木の洞に潜り込み、そこで丸くなって眠りこけた。
突如として叩き起こされた。
凄まじい咆吼が森に轟いていた。しかも、これまで経験した事の無い強烈な魔力波まで吹き荒れた。
その威力は凄まじく、彼がいた魔狼の群れの中で、群れのボスが周囲の魔狼や獲物を威嚇するために放っていた魔力波とは、全くの別物だった。
恐らく、とんでもない強者同士の闘いが始まっていたに違いない。彼は、洞の中でひたすら丸くなり震えるだけだったが、ついには、魔力波に耐え切れず気を失う羽目になった。そこは、魔の森の深奥であった。
実際には、ここ数日前から闘いの前兆はあり、ここら一帯の魔物達は皆、逃げ出した後であった。彼がここまで格上の魔物に一度も出会う事無く、無傷でここまで来られたのは、この騒動のせいだった。彼は知らなかったが、普通なら、彼の様な仔狼が辿り着ける場所では無かったのである。
そして今、彼が眠りこけている洞は、実に恐るべき領域に存在していた。
この森で最も魔素の濃い、言わば魔の森の “一等地” であり、同時に “聖地” でもある場所。そこは昔からほんの一握りの絶対的強者達により事実上、分割支配されており、普通の魔物達は決して近寄る事の出来ない場所であった。
ごく希に現れる “挑戦者” が今回の様な死闘を繰り広げる程度に過ぎない。
暴力が支配する魔の森で、奇妙にも思える程、暴力の空白地帯がここだったのだ。
そして、絶対的強者は仔狼の存在など端から眼中に無かった。
その結果、この森で最弱の部類に入る彼にとってここは、“安全地帯” とも言える奇跡的な場所だったわけである。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
空腹により二度目の目覚めとなった彼は、恐る恐る洞から出た。
辺りは一面の雪景色、銀世界と化していた。ふと気づいた血の臭いに導かれ、歩いた先には “挑戦者” の無残な “成れの果て” が残されていた。
恐怖よりも空腹の方がこの時の彼には勝っていた。本来なら彼が傷一つ付けられない強靱な外皮は引き裂かれ、隙間からはご馳走が顔を覗かせていたのである。
それからしばらくの間、彼は大木の洞とご馳走の間をひたすら往復する夢の様な生活を送った。何故か、彼だけがこのご馳走を独り占め出来たのだ。
野性生物には有るまじき「食ちゃ寝、食ちゃ寝」の生活。生まれて初めて、もうこれ以上は食えないという貴重な体験までしたのである。
ほどなくして彼は、彼を追い出した兄弟達と同じ体格にまで大きくなった。
しかし、冬の寒気で氷漬けになっていたせいで腐敗が遅れていたご馳走も、やがて耐えられない腐臭を放ち始め、彼は自ら餌を調達する必要に迫られた。
幸いな事に、この “安全地帯” にも草食系の小動物はそれなりにいた。
我流ながらも、そうした獲物を狩りながら、彼は安定した生活を維持出来た。
それでも、時折この安全地帯の外れの方で見かける危険な存在を知るに連れ、彼らがこの領域の絶対者を怖れ、森の深奥まで入って来ない事は理解していた。
彼は自分の置かれている立場を比較的正確に把握出来る様になっていた。
魔の森の中にあるドーナツ状の領域。その外側は魔の森の外縁部であり、強い魔物はいない比較的安全な場所だ。
一方ドーナツの内側は、まさに今彼がいる魔の森の深奥であり、この森の絶対者達が闊歩する場所。彼らを怖れて他の魔物は入って来ず、却って安全だった。
そう考えた場合、彼にとって本当に危険な場所は、このドーナツ状の領域という事になるわけだ。深奥の絶対者達には到底及ばないものの、彼には致命的な強者。彼は、自分の力を正確に把握し、自重するだけの知能を持っていたのである。
それでも、その高い知能は彼に大いなる好奇心をも齎していた。魔の森を探索してみたいという誘惑は、次第に抑え難いものとなっていったのである。
まあ、森の中心部で絶対者達と相対する気は毛頭無かったから、向かうとするなら外側しかない。しかし、絶対者よりはマシと言うだけで、現在の彼には圧倒的に危険な強者との闘いが待っている事は確かだった。
ならば、強者と闘わなければ良い。地上を移動するから遭遇し、闘う事になる。だったら、地上を移動しなければ良い!
かくして、彼は樹上移動の技術を磨く事を思いついたのである。
魔の森に生い茂る木々は、いずれも硬い樹皮で覆われており、爪を立てて登るのは無理だった。彼は、自分が飛び乗れる低い枝を見つけ、そこから次々に枝を飛び移りながら移動する事を覚えた。魔の森全体に木々が密集しており、この方法でかなり広範囲に移動出来るはずだ。
普通の魔狼は木に登ったりはしない。群れから疎外された結果であった。
さらに、彼は枝に飛び乗り、枝から枝に飛び移り、最後は枝から地上に飛び降りる過程で身体強化を洗練させて行った。必要な瞬間だけ “大出力” の身体強化を発揮する方法だ。レオや魔力持ちの武道家が行うのと同じやり方だった。
戦闘モードになるとダラダラと魔力を使い、身体強化をずっと維持し続ける普通の魔物には有り得ない魔力の使い方だった。結果として、彼の瞬発力と実質的な戦闘可能時間は、他の魔狼を圧倒する事になるのである。
そんな彼が樹上活動を本格化して知る事になった真の脅威は蛇だった。
彼と同じ様に、枝から枝へと巧みに移動する樹上蛇は、枝に擬態しながらの待ち伏せが基本だった。鳥の巣の近くに身を潜め、巣の中に舞い降りて来た親鳥に素早く噛み付く姿を見て、彼は恐怖した。
さらには、枝に体の下半分を巻き付けながら頭部を地表近くに下ろし、無警戒の獲物に上から襲い掛かる姿は、戦慄すべきものがあった。流石に魔狼の成体を持ち上げるのは無理だと思うが、まだ幼い魔狼なら口に咥えたまま、樹上に引き上げる事が可能に思えた。さらに、樹上で蛇に襲われた場合、噛み付かれ、そのまま絞め殺される。彼は蛇を危険極まりない、最大の敵と認定したのだった。
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こうして樹上ジャンプで始まった彼の魔の森探索は次第に距離を伸ばし、遂には最外周へと至った。昔、彼がいた群れの近くである。そして、森の外の視界が開けた場所に異様な物を見つけた。それは、レオの住む開拓村であった。
川の縁に沿ってズラリと並んだ木々。枝の無い真っ直ぐな木々が綺麗に同じ高さに揃えられて並んでいた。そして、そこと森の間には二本足の生き物が大勢いた。彼は直感した。あの枝の無い真っ直ぐな木々の向こう側には、二本足の巣があるのだろうと。
しかし、それにしても何と素晴らしい巣なのだろうか。木々の並びの手前に川があるせいで、魔狼のジャンプ力でも、あの向こう側へ飛び込むのは不可能だった。
並んだ木々の一部には非常に高い部分があり、そこが倒れて来て川の渡しとなり、出入りが可能な構造となっている。二本足の巣の門である。
何という賢い連中かと思った。それ以来、彼は頻繁に二本足の巣を見に来た。
彼が最も驚いたのは二本足の戦い方だ。
ひたすら獲物目がけて突進する魔狼と、集団でそれに対処する二本足の闘いを、彼は間近で見た。集団戦闘の有効性を、まざまざと見せつけられる事になった。
さらに、集団を指揮する者の重要性も理解したのだった。
朝晩めっきり寒くなり始めたそんなある日、彼は異様な臭いを嗅ぎつけた。
臭いの元を辿ってみれば、そこは、二本足の巣と森の間の開けた場所であり、そこにこんもりと積み上げられた枯れ草から、ユラユラとお日様と同じ色のものが立ち昇っていた。何となく熱風を感じた気がしたが、それは正しかった。
彼は知る由も無かったが、開拓村の者達が枯れ草を一カ所に集め、燃やしていたのである。彼はこの “ユラユラ” と立ち昇る炎に魅せられ、ずっと眺めていた。
突然、炎の中を何かが跳ねた。そして、次々と彼方此方で飛び跳ね始める。
それが蛇だと分かった時は驚いた。この枯れ草の山の中を、相当数の蛇が塒としていたらしい。中には、燃える枯れ草の外に飛び出した蛇もいた。ただし、全身が既に炎に包まれており、のたうち回った挙げ句、動かなくなった。
彼は、自分にとって最も厄介な敵が、次々と斃れて行くこの “ユラユラ” が本当に素晴らしいものに思え、強い感銘を受けたのであった。
そして、そのしばらく後、樹上で蛇に追い詰められ絶体絶命の危地に追い込まれた彼は、正しく火魔法を発動させ危地を脱する事に成功したのである。
炎を発する強固な意志。炎に包まれた蛇のイメージ。魔力を込めた渇望。
それは開拓村で見た光景に基づく、極めて正統的な魔法の発動手順であった。
しかし、彼も流石に単独行動の危険性を自覚するに至った。二本足達の集団戦闘の効果を見た事も大きかった。彼は、自分の群れを持つ事を決意したのである。
まずは様子を見ようと、とある群れに姿を見せれば、そこの魔狼のすべてが彼にひれ伏した。その後も、彼は行く先々の群れを支配下に収めて行く事になる。
既に、普通の魔狼の2倍はある体長と体高に純白の被毛。彼は、魔狼の枠から大きくはみ出している事に気づいていなかった。幼少期を森の深奥で過ごしたせいなのかは、わからないが、彼は立派に異常種の端くれに育っていたのである。
彼は、二本足の集団戦闘を真似て、吠え声による統率を訓練し始めた。
まあ、「進め」「止まれ」「戻れ」と「待て」「襲え」といった程度だ。
それすらも出来ず、獲物を目にすると一直線という連中も少なくない。
何とも頭の痛いところであったが、これが魔狼の本来の姿だから仕方が無い。
そして、今やこの森始まって以来の魔狼の頂点に立とうとしている彼だったが、そんな彼が開拓村の見学というか、偵察だけは相変わらず習慣にしていたのは、二本足の中にとても興味深い奴を見つけたからだ。そいつは一番の大男だった。
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あまり魔力は感じなかった。その油断のせいで、うっかり森の最外周まで行った時に、強烈な魔力波を浴びせられたのである。一瞬体が硬直した。
ところが、一緒にいた他の魔狼達はケロリとしていた。明らかに、森の深奥で感じる様な魔力波なのに、何故自分だけがと不思議だった。
魔力波を放ってきたのは、こちらを睨んでいる大男で間違い無かった。
そいつが持っている長い棒が目に留まった。先がキラリと光っており、そこは魔狼の牙や爪に匹敵する威力がある事を知っていた。突き込まれると魔狼でも一撃だ。
彼は直感的に理解した。あの大男は魔力をこの長い棒の様に一点に絞って放って来たのだと。魔力総量は森の深奥の化け物達には遙かに及ばないが、一点に絞る事により凄まじい威力となっているのだと理解した。これは使えると思った。
この大男に自分は勝てるか? ごく自然にそれを考えていた。
パワー、スピードいずれも自分の方が上だと思った。それでも何かが引っかかる。大男は、何頭かの魔狼を相手にしていても一切動じなかった。魔力波を巧みに放ち、次々と魔狼を倒して見せたのだ。他の二本足達とは明らかに違う動きだった。
そして、彼は目撃した。あの大熊を大男が見事に倒して見せたのを。本当に感嘆する闘いであった。そして思った。やはり、あいつとは闘ってはいけないと。
それから寒さが本格化し始めた頃、二本足の巣に大きな出入りがあった。
二本足が使役している大きな四本足が引っ張る木の箱が、4つもやって来た。
その直後だった。巣の中から森まで何かが飛んで来たのは。明らかに彼を狙っていたと思われるその細い棒は、僅かに外れて木の幹に突き立った。ゾッとした。
彼には理解不能だったが、それはレオが得た鋼鉄の弓による遠距離射撃だった。
彼は、しばらく開拓村へは近づかない事にした。
代わりに、彼は群れの一隊を率いて、森の外の探索に出かけたのだった。主に川に沿って進んだが、他にも二本足の巣がいくつかある事を知った。森の側にある大男の巣ほど厳重なものは無く、その気になれば簡単に制圧できると確信した。
探索の途上、四つ足の使役獣に乗った二本足の集団と遭遇した。
こちらがどう反応するか決める前に、相手は身を翻して一目散に駆け去った。
彼らが、ベズコフ領都の警備隊員で、パメラの手がかりを求めて開拓村を目指していた事など、彼は与り知らぬ事であった。
森に帰って来た彼はしばらくの間、あの大男がやっていた魔力波の絞り込みを会得しようと、森の中で試行錯誤を始めた。それがとんでもない大物を釣り上げる事になろうとは、想像もしていなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
森の中層、泉のある開けた場所で、彼は大空に向かって魔力波を放っていた。
森の中に撃って、下手な相手に喧嘩を売るわけにはいかないと思っての事だった。
ところが、考えられる限り最悪の相手にどうやら魔力波を叩きつけたらしい。
一瞬、日が陰ったかと思った次の瞬間、目の前にいたのは翼のある大蜥蜴だった。
彼は、眼前の死を静かに受け入れる事にした。
『ほお、フェンリルか。随分と久しぶりに見た思いがする。いつぶりだろうか。
力の差を理解するだけの知性はあるようだな。ならば、良い事を教えてやろう。
この森では、もうすぐ代替わりがある。次の冬が始まるまでに森を出よ。そして、その次の冬の始まりまで戻って来るな。信じる、信じないはお前の自由だ。』
そんな『声』が彼の頭の中に響いた。気がつけば大蜥蜴は去っていた。
冬というのが、寒くなる時期の事だと理解はしていた。初夏の出来事である。
彼は決断した。配下の大集団を率いて森を出ると決めたのである。
初夏に生まれたばかりの仔狼が移動に耐えられる様になる秋まで待つ事になる。
そして、二本足達への無意味な突撃を一切禁じた。言う事を聞かない奴は叩き伏せてでも阻止した。無駄死にを許容出来る余裕は無い。それにこの先、活躍の場はいくらでもあるのだ。
ただ、この森の側にある巣を放置したままで良いのかという迷いがあった。
この二本足の安全地帯とあの大男は、彼にとって最も厄介な存在であった。
悶々と悩み続けるうちに、秋となった。こっそり深夜のうちに移動してしまうのも手かと考え始めていた頃、突然の幸運が舞い込んできた。
外から二本足の集団がやって来ると、巣の中の二本足も大量に出て来て、そのまま歩き去って行ったのだ。集団は大中小の3つに分かれて、それぞれ別の方向へと去って行った。
大集団の中には、あの大男も含まれていた。何が起きているのか彼にはサッパリだったが、取り敢えず群れの中の賢い魔狼を尾行に付けた。中集団の奴らは、川沿いに去って行った。そして、全員が四つ足の使役獣に乗った小集団は、大小の集団の去った方向のちょうど中間辺りを目指して駆け去って行った。
彼がそのまま二本足の巣を監視していると、川沿いに去って行ったはずの連中が数体戻って来た。門の前で何事か大声を出している。そこは、この巣への出入り口の場所であった。川の渡しが降ろされ門が開くのか彼は注目していた。
その時だった。長らく二本足へのちょっかいを禁じられていた魔狼の一部が暴発した。突撃を開始したのだ。この馬鹿がと思う一方で、ある考えが閃いた。
巣の外にいる連中を救おうと、門が開くかもしれない。もし開けば、その時は。
しかし、残念ながらそうはならなかった。魔狼に襲われて泣き叫ぶ二本足達を前にしても、門は開かなかった。恐らくこの連中は大切な存在では無かったのだろう。
2日後、依然、森の外周部で監視を続けていた彼のところに、尾行に出した魔狼達が帰って来た。大男一行の集団が戻って来る気配は無いようだ。
そして、日が傾き始めた頃、川沿いにこちらへ向かって来る、使役獣に引っ張られた2台の箱が見えた。どうやら、巣の中からも見えた様で、何と川の渡しが降り始めたのである。彼は群れの配下達とともにジリジリと前進を開始する。
またしても、一部が暴発した。今度は本当に腹が立った。
門のすぐ側までやって来ていた一行が、門の両脇の高い場所にいる仲間に何事かを叫んだ。降りつつあった渡しが止まり、逆に上がり始めた。彼は、その構造を間近で初めて見る事が出来た。
暴発して最先頭を駆けていた2頭が、その渡しの先端にジャンプして取り付く。
そのまま、巣の中に入り込めるかと思った矢先、川の中に落下した。そのまま流されて行く体には、細い棒が突き刺さっているのが見えた。
一方、移動してきた二本足4体は、一斉に川へ飛び込んだ。巧みに水面を移動して、並んだ木々の上から放たれた縄を掴むと、これまた器用に登り始め、そのまま巣の向こう側へと消えた。
彼らを追って、数頭の魔狼が川へ飛び込んだが、川の流れを考えていなかったために流され、二本足に追いついた魔狼はいなかった。むしろ、そのまま大河へと流されて行き、結局誰も帰って来なかった。
憐れだったのは残された四つ足の使役獣4頭。彼の配下の胃袋に皆収まった。
配下に引き上げの合図を送る。皆、悔しそうだ。あと一息だったと思っている。彼は、未練タラタラの連中を森の中へ追い立てながら、二本足の巣を振り返る。
もはや、そこは魔狼が手も足も出ない絶対安全な場所ではなくなっていた。
そう、彼は遂に攻略の糸口を見出したのである。そして、もはや大男はいない。
夜を待とうじゃないか。




