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42. パメラ! 王都でプロデュース!



 休み明けの商会に朝が来た。


 パメラは、ハンナグループ全員に新店舗に関する自分のアイデアを披露する。

所謂(いわゆる)プレゼンテーションである。パメラなりに自信のあるアイデアだったのだが、怖い顔をしたハンナによって、いきなり途中で(さえぎ)られてしまった。


「待って! その話をもう一度最初から、会長にも聞いてもらいましょう!」


 セーラが会長の執務室へと走って行った。会長の空き時間を確認して帰って来ると思っていたら、何と会長はセーラと一緒にやって来た。


「おいおい! 真ん中がやたら興奮してパメラがと叫ぶんだが、何があった?」


 急遽、会長のために椅子を追加して、パメラは、プレゼンテーションを再開。

説明終了後、いつもべらんめえ口調で笑っている会長が、今まで見た事も無い真剣な表情でパメラに言ったのは、夕方の商会幹部会でこの話を「もう一度」だった。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 そうして夕方、パメラが商会の幹部達に語った内容は、概略以下の3点だった。


・ネルソンの館への対抗策としてヤークト商店街の街路の上に屋根の設置を。

・ネルソンの館は欠陥品であり、真似をしてはいけない。

・商店街にハンナの店開設なら、街全体に統一感を持たせ相乗効果を狙うべき。


 天候に左右されず商売が出来るのは店にとっても、客にとっても魅力的である。その事に間違いは無い。ヤークト商会としても、ネルソン方式の有効性は痛感しており、同様の建築物を造るべきではないかという議論は以前からあった。


 しかし、今すぐ造れば、ネルソン側からは、待ってましたとばかりに真似したと嗤われ、王都中で馬鹿にされるのは目に見えており、踏み切れなかったという。

必要性を感じながらも実行出来ず、商会の誰もが悩み、頭を抱えていたらしい。

 有効な対抗策を提示出来ないため、近所のライバル施設に入居者を奪われたガラガラ状態の商店街には、新たな入居者を呼び込む事も出来なかった。


 そうした中、パメラが提示した解決策はミカの世界のアーケード街である。

柱と屋根だけなら建物丸ごと造るよりも遙かに早く安く造れる。単純な構造だが、少なくとも雨を気にせずに買い物は出来る。

 街路に屋根という発想はシンプルだからこそ、皆に与えた衝撃は大きかった。

誰もが驚嘆したのだが、パメラ&ミカにとっては “ありふれた” 建造物に過ぎず、淡々とこのアーケード街を紹介した。その姿は幹部達を唖然とさせたのだった。


 続いてパメラは、ネルソンの館の根本的な問題点を指摘して行く。

そう、あのショッピングモール(もど)きはこの世界には、あまりに早すぎたのだ。

 電気関連の技術は存在しないから、安価な照明や換気システム、エアコンなども当然存在しない。館内は臭うし、夏になれば内部は灼熱地獄だろう。


 大面積の板ガラスを作る技術も、未だこの世界には存在しない。

外光を取り入れられないから、“巨大建築物” となるネルソンの館では、内部照明のために高価な光魔石を多用するしかない。当然、その維持費は高く付く。


 この高価な維持費に建設費の回収も相俟(あいま)って、出店者が支払う賃貸料はかなりの高額になるしかない。各店舗の経営を圧迫しているのは間違い無い。

 実際、売値と材料費が露骨にわかる軽食では、無理をしているのが丸わかりだ。他の商品にしても値上げされているか、一段粗末な品を売っている可能性が高い。


 何より本物のショッピングモールと比較して致命的な欠陥と言えるのが、安全対策である。ネルソンの館で火事でも起きた日には、どれほどの犠牲が出る事か。

 ミカの記憶によって、あちらの世界では常識である安全設備や保安基準といったものを知り、もうネルソンの館には二度と行くまいとパメラは決意していた。


 そうして、プレゼンテーションのまとめとしてパメラが最後に主張した内容は、ハンナの画期的な新製品を成功させるためにも商店街全体に1つのテーマを掲げ、全ての店をそれに沿ったものに統一して相乗効果を狙うべきというもの。

 そのテーマとしてパメラが掲げたのは「女性のお気に入りを集める!」である。


 ハンナの店の主なターゲット顧客が若い女性になるのは間違い無い。

あの商店街を服飾中心の通りにすべきだとしながらも、それだけでは魅力に欠けるとし、服飾以外にも若い女性が好む店を徹底して揃えるべきだと主張した。


「商店街の主役は服飾の店にします。オーダーメイドの高級店、ハンナさんの店、そして古着屋です。多少は競合するでしょうが、品揃えこそが “命” です。

 服が欲しかったら、あるいは服で迷ったら、取り敢えずヤークト商店街に行けば、何とかなるという意識を王都の人々に “浸透” させる事が大切なのです。」


ほう! と会議室がどよめく。


「次に残りの店舗ですが、こちらには服を買いに来た女性達が、思わず立ち寄りたくなる様な店を揃えます。甘味処、気軽に入れる食事処、化粧品、ポーチやバッグの小物、そしてアクセサリー類ですね。細部は皆で詰めれば良いでしょう。

 何なら、商会の女性達の希望を聞いてみるのも良いかもしれません。」


 こうして自分の考えを披露したパメラは、会議室の一同をゆっくりと見回す。

すると、一人の男性幹部が挙手して話し出した。


「商会で建築部門を任されているロイだ。街路の屋根だが、開閉式にしないか?

天気の良い日は、その方が解放感もあるし、光魔石も節約出来るだろう。開閉方式の詳細については、うちの連中で詰めるが。」


 なるほど! 良いんじゃないかと声が挙がる。会長と若旦那も頷いている。

その後も様々な意見が出たが、いずれもパメラの提案を認めた上での、前向きな意見ばかりだった。商会の不動産部門の責任者からは、新規の入居者を口説きに行く時は、ハンナとパメラに是非とも同行願いたいと言われた。

 抱えていた厄介な悩みがすっきりと解決され、皆、晴れ晴れとしている。


 かくして、パメラによるヤークト商店街の再生計画がスタートした。

総大将は会長、そして、その補佐役に抜擢されたのは、当然彼女である。

パメラとしては、自分で良いのだろうかと思うのだが、各部でパメラのアーケード街の提案は驚きを以て受け止められ、多くの商会員が熱烈に支持したという。


 名も知らぬ他部署の者達からも激励され、恐縮するパメラだったが、彼らが盛んに口にしていたのが、金物屋の馬鹿息子サムに一泡吹かせてやれというもの。

 ハンナに何者なのかと訊けば、ヤークト商店街からネルソンの館への引き抜きを行った主犯だという。「俺はデカくなる!」がいつも口癖だったとハンナが笑う。


 彼は、旧ヤークト商店街の老舗金物屋の三代目。何もせずとも人が集まる一等地の店に跡取りとして生まれた苦労知らずのボンボンで、遊び人に育ったらしい。

 似た様な商店街の三代目、四代目のドラ息子達の兄貴分となって王都の歓楽街に繰り出すうちに、そこで知り合ったネルソン商会の跡取りから最先端ショッピングモールへの移転を(そそのか)され、旧商店街からの引き抜きに “大活躍” したそうだ。


 なるほど、それで皆が「ざまぁ!」を期待しているのかとパメラも納得したが、ミカは『これほど大規模な地域再開発の場合、既存の店舗や住民との調整は途方もない苦労が伴うものなんだ! そのサム君には感謝だねぇ!』と笑っていた。

 言われてみれば確かに、残されていた店舗は商会直営店だけ。パメラとしても、真っ白なキャンバスに自由に絵が描けたという開放感は否めなかった。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 その翌週、業務終了後に会長の部屋まで来るようにとの連絡があった。

夕刻、会長の執務室に行くと、そこにはガードナー達もいた。大熊のお披露目だ。

 馬車で商会の倉庫へ移動中にカーラやキャロと近況を報告し合う。商店街を丸ごと若い女性向けに改装する話をし、完成したら案内すると約束した。


 まるで生きているかの様に立ち上がった大熊の毛皮は、やはり大迫力だった。

ガラス工房に特急で作らせたというガラス製の目玉も反射光を放ち、死んだ魔物の毛皮であると事前に知っているパメラですら、思わず息を呑む出来栄えだった。

 何も知らずにいきなり見せられたら、卒倒する者が出てもおかしくないだろう。パメラは、生きた状態のこの大熊に立ち向かったレオやゴードンは本当に凄いと、改めて畏敬の念を抱くのだった。


「夕べ、宰相補佐官のクロイツ子爵に来てもらってな、そいで目出度く、こいつの婿入りが決まったというわけさ。」


 会長は笑いながらそう言うと、この毛皮の順調な進行状況を皆に説明する。


「子爵一行には、お見せするのは熊の魔物の毛皮ですと説明してから、暗い倉庫に案内したんだ。光魔石を点灯させた瞬間、同行していた護衛騎士2人が思わず腰の剣に手を伸ばしていたよ。まあ、そうなるわな。

 子爵も絶賛してくれて、宰相閣下に進言すると言ってたんだが、昨日の今日で連絡があってな、近日中に王城へ運び込む事に決まったとさ。

 宰相閣下も王太子殿下も、楽しみにして待っているそうだ。騎士団の連中が私服でやって来て、人目に付かぬよう夜間に運ぶ事になった。」


 会長が嬉しそうに、そう話す。

皆、顔を輝かせて頷いている。ガードナーが会長に今後の動きを尋ねた。


「そうだな、王太子殿下がこいつを見てどう判断されるかだが。まあ、気に入ってもらえれば、建国祭の前夜祭に王城で開かれる大舞踏会の場で、貴族や各国の大使にお披露目だな。そうして、最大の見せ場は王都のパレードになるだろうよ。」


 そう答える会長に皆がなるほどと納得していると、会長がニヤリと笑う。


「ちなみに子爵の話では、ネルソンの宝剣を見た連中は皆『随分と、金が掛かった代物だな』としか思わなかったそうだ。こいつほどの衝撃は、とても無いとさ。

 まあそういうわけで、この大熊も建国祭競争のスタート地点には立つ事が出来た。ついでに、もっと上も狙えそうな気がしているのさ。俺は」


 結局、この時のヤークト商会長の予想は(ことごと)く的中する事となる。

王城内の騎士団屋内訓練場に仮置きされた大熊と初対面した時の王太子殿下は


「見事!」


と呟いた後、しばし呆然と大熊の巨体を睨み続けていたという。



 翌月、ついに始まったイェルマーク王国、春の建国祭。

その前夜祭として王宮で催された大舞踏会の会場の片隅には、帆布と思しき大きな布が天井から床まで覆っている一角があった。周囲には近衛騎士が立つ。

 誰もが興味津々だったのだが、やがて国王陛下の挨拶、続く王太子殿下の挨拶と説明の後、その布が取り払われ、大熊の巨体が初めて貴族達の前に姿を現した。


 一瞬の静寂の後の悲鳴とどよめき。しかし、次第に歓声に包まれて行く会場。

そして、呼び出され、王太子殿下の前に進み出たのは、ヤークト商会長であった。満座の中、見事であるというお褒めの言葉とともに金貨1万枚の下賜となった。


 手を触れさえしなければ、いくらでも近づいて大熊を見ても良いと言われ、多くの貴族や招待客が間近で毛皮を鑑賞した。しかし、見学者達は次第にその顔に困惑の色を滲ませて行く。何処にも傷が見当たらないのだ。

 これほどの大熊を倒した傷が見当たらない。火魔法による焦げた痕はもちろん、命のやり取りで無造作に残ったであろう槍や剣による切り傷すら見つけられない。


 解体のためと思われる理に適った一直線の切り裂き箇所があるだけなのだ。

本当にただ、それだけ。一体、どの様にしてこの大熊は倒されたのか?

 そこからは、王太子殿下と、その側近と思われる一部の者達が、事前鑑賞の際に受けたと思しき説明を得意げに周囲の者達に披露し、大いに注目を集めた。

 王家やその親しい貴族達にとって、大いに面目を施す夜となったのである。



 翌朝、遂に建国祭が始まった。その日、大熊は主役にして伝説となった。

国王陛下が王城バルコニーから開催を宣言した後、王城から王都正門までの大通り区間を、大熊の巨体を載せた豪勢な台車が4頭の白馬に牽かれながら行進した。

 その光景は、久方ぶりの建国祭を待ちかねていた王都住民の度肝を抜き、王家の期待どおりの熱狂した声が行く先々で湧き起こった。


 いみじくも、以前ヤークト商会の若旦那が予想したとおり、イェルマーク王家はこの大熊の毛皮によって王国の「復活」と「勢威」を国内外に示せた事を実感し、心から満足したのだった。


 ちなみに、その日の王都各新聞社の号外記事では、この無傷としか思えない大熊の毛皮がどの様にして得られたのかが詳細に報じられた。概ね、開拓村での討伐の流れを忠実に伝えていたが、マルコという名の大熊ハンターは、大熊の最後の猛撃で相討ちとなり息絶えたとされていた。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 建国祭が大成功と言って良い盛り上がりで幕を閉じた直後、まだ王都の住民達が大熊の偉容を鮮明に覚えていた頃、その大熊を持ち込んだヤークト商会が、自前の商店街を改装すると大々的に発表した。

 初夏の再開を予告するとともに、商店街の両端を大きな帆布で覆い、その改装の様子を見えない様にしたのだった。


 改装工事は昼間に進められているのだが、その資材は夜間に運び込まれており、どれほどの規模の、どんな改装なのかは謎のままだった。王都でも人気の甘味処やパスタ店が姉妹店を出すらしいという話や、服飾店が軒を連ねるという話もあって若い女性達の間では盛んに噂に上る様になった。


 こうして、約2ヶ月後の爽やかな風が吹く初夏の休日。再生した “新” ヤークト商店街が華々しくオープンしたのである。


次話は、14日(月)の午前0時に投稿します。

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