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41. パメラ!王都で無双!



 ガードナー傭兵隊の報告会を兼ねた昼食会が終わり、パメラは会長との面談を行う事になった。改めて挨拶した後、フンメルが用意してくれた紹介状を渡す。


 会長はざっと中身に目を通すと、側にいた付き人に声を掛け何事か指示を出す。

人を呼びに行かせたようだ。俺の部屋で話そうと言って歩き出し、パメラも続く。


 会長の執務室に入ると、ソファに座るように言われる。

隣室に控えていたメイドを呼んで飲み物を頼むと、会長もソファの対面に座った。


 すぐさまお茶が給仕される中、会長はパメラにフンメルの商会の会長を知っているかと尋ねる。パメラは、面識はあるものの、話した事はほとんど無いと答えた。

 特にここ2,3年ほど前からは体調を崩し、商業ギルドの毎月の会合にもフンメルが代理で出ていたはずだと話す。


 フンメルのミラー商会の会長から、フンメル、ガードナーの手を経てヤークト商会に対する挨拶とお礼を記した封書が届けられたという。

 目の前のヤークト商会の会長は、ミラー商会の会長を中々の御仁だなと評した。パメラはどういう意味か分からなかったが、曖昧に頷いておいた。


 その時、ドアがノックされてハンナですと声が掛かり、入れと会長が応じる。


 執務室に入ってきたのは、年の頃は40歳前後と思われる長身の女性だった。

あまり化粧っ気は無くて服装も落ち着いており、実務派という印象である。


 会長が、こいつはハンナ。うちの衣料部門のリーダーだとパメラに紹介する。

そのハンナは、パメラをちらりと見た後、何故か会長を半眼で睨む。


「随分と若くて綺麗な娘じゃないですか、旦那? ま・さ・か・・・」


 途端に会長は両手を掲げて叫ぶ。


「ちげえよ! この娘はパメラ。フンメルの紹介でやって来たんだ。第一、(めかけ)を自分の商会で働かせてどうするよ! そんなんバレたら、俺はカカアに刺されちまう。」


 冗談ですよと言って笑うハンナに、会長は呆れ顔で溜息を吐き、フンメルからの紹介状を手渡す。ああ、例の毛皮の御仁ですねと言い、紹介状を読み始めるハンナに会長が言葉を掛ける。


「お前さんが考えてる新しい店の件に絡めるんじゃねえかと思ってな。」


「なるほど、古着屋の店主を8年間やってたと。」


 ハンナが「古着屋の店主」と言った時の口調には、それほど感銘を受けた様子は無かった。それでもハンナは会長の横に腰を下ろすと、自分の新規事業について説明を始めた。

 もっか若い女性向けの衣料販売に関して、過去に例の無い新しい取り組みが進行中なのだと。



 ヤークト商会では衣服も取り扱っており、古着もあれば、高価な新品もある。

この世界では、庶民は古着、貴族や金持ちは新品の衣服というのが常識である。

古着は街中の商店で、所謂 “吊るし” で販売されている。パメラのベズコフ領都の店もそうだった。


 一方、新品の衣服は、すべてオーダーメイドとなる。

高位貴族や大金持ちが相手の場合には服飾店から職人が屋敷を訪れる。それ以外は客が店を訪れる。職人が採寸をし、客の希望を聞いて服を仕立てるのは、どちらも同じだ。ヤークト商会傘下の縫製工房も、そこは変わらない。


 もちろん庶民でも「一生に一度の晴れ舞台」といった場面では、オーダーメイドの新品という事もあるのだが、普段着と言えば古着になるのだ。


 しかし、ハンナは、この不文律が崩れる気配があると言う。

そして、ヤークト商会では先手を打って、新しい業態の服飾店、すなわち新品の服だけを大量に揃えた店舗を構想中なのだと言う。



 そのきっかけとなったのが、例の流行病だ。

イェルマークの貴族家の約2割が断絶した結果、その残務処理の過程で貴族家が保有していた “新品同様” の衣類が大量に市中へ放出された。3年ほど前の話だ。


 古着よりは高いが、新品よりは安いという妥当な値付けとなった貴族家放出品は庶民、中でも若い女性達に圧倒的な人気となった。その結果、イェルマークでは古着が大量に売れ残り、周辺諸国へと安値転売されるという玉突き現象を起こした。


 最終的には、この大陸の古着価格全体にまで影響を及ぼしたわけである。

その辺の事情はパメラも自ら体験し、十分に知るところであった。


 そして問題なのは、その時の新品同様の衣服が、今や古着となりつつある事。


 新品の衣服と古着の違いは何かと言えば、一番の違いは色合いなのだ。

染色技術が未発達なため、新品の頃は華やかな色合いだった衣服も、洗濯の度に色は抜け落ちてくすんで行く。何着かを着回しながら使っていたとしても、2,3年もすれば、すっかり色褪せてしまうのが悲しい現実なのだ。

 もはや買った時とは別物。文字どおり古着そのものとなってしまうのである。


 華やかな服を身に纏っていた女性達が、今さら色褪せた古着に戻るのは耐え難い事である。しかしながら、貴族保有の服が、再び安く大量に出回る事は無いだろうし、庶民がオーダーメイドで高価な服を気安く入手出来るはずもない。

 その事は、誰もが薄々感じていた。


 商会内の多くの女性達の要望もあり、ハンナも新品の服を安く大量に作る事は出来ないものかと、あれこれ考えてきたと言う。そうして、様々な試行錯誤の結果、最近になってようやくその目途が立ったのだと誇らしげに話す。


 パメラはその方法を聞いて大いに驚き、ミカもこの人は凄いと絶賛した。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 大量に作るには人手がいる。しかし、熟練者を簡単に集められるはずもないし、仮に集められたとしても、高給取りの職人では安い服を作るのは無理だ。

未経験でも給料の安い素人を大量に雇い、見習いとして作業させるしかない。

そこで、縫製作業を分割・単純化して、素人でも作業が出来る様にしたのである。


 商会傘下の縫製工房の親方と弟子達によって、作りやすさ(それは短時間で作れるという事でもある)を重視した服を何種類も試作してもらった。

その試作品を評価して「良」と判断した物をバラバラにし、薄板などで布地の型を作った。この型を使って布地を裁断すれば、同じ服が簡単に作れるわけだ。


 従来の工房は、親方と弟子達で客の様々な注文に応じて一着だけ作っていた。

今回は、決められた一着を一人の弟子がリーダーとなって、素人の見習い達に作業を割り振り、布地の型を活用して同じ物をひたすら大量に作り続けるわけだ。

 慣れてきたなら、作れる服の種類を増やして行く予定だと言う。


 服のサイズのバリエーションは、大・中・小の3つだけと割り切った。

各サイズの寸法の決定は、王都のヤークト商会に勤める100人近い女性達に声を掛け、身長と所謂(いわゆる)3サイズを測らせてもらい、それを参考にしたという。

 ちなみに協力の対価として、この事業が上手く行った暁には、新品の衣服を身内価格で安く買える様にするそうだ。


 今のところ、布地の生産量が最大のネックなのだが、オーダーメイド対応で動いていた頃は少量多品種で、機織(はたお)り器を動かしている時間は意外と短かったという。同じ布を同じ規格で大量に作れるし、見込み生産でストック出来る事もあり、何とか必要な布地は確保出来そうだという。


 他にも様々な工夫を加え、最終的には例の貴族家放出の “新品同様” の服よりも少し高い程度の価格にまで抑えたという。この価格は、王都に住む庶民の女性でも年に一着なら普通に買え、少し頑張れば二着は買える価格なのだそうだ。


『ふぇ~! これって、機械化とかはされてないけど、発想は近代だよ!』


ミカがそう言って感心する。パメラもハンナの発想を心から凄いと思った。

 しかし、ハンナの悩みは、苦労して実現したこれらの衣服をどの様に売り出すかという点にあるらしい。店の選定、内装、店員と悩みは尽きない。


 物作り、所謂生産技術に関しては天才的と言っても良いハンナだが、販売と言うか営業面では、さほど傑出しているわけではないようだ。


 大量の商品を店に並べて売る事になるわけだが、それでは従来の古着と同じで、何か面白くないのだとハンナは言う。


 パメラの古着屋の経歴を知っても、あまり喜んでいなかったのは、そういう理由からだった。期待の新製品が、ようやく誕生した。ならば、それに相応しい派手なデビューを飾りたいじゃないかと思っているのだ。全く以てその通りだ!


 でも、パメラには自分とミカなら正しくそれを実現出来るという自信があった。ミカがいた世界で、彼女が足を運んでいた様々な服飾店。その中でも、ブティックとか言う高級店は本当に煌びやかで素敵で、見本には事欠かないのだ。


 そんな店の内装をちょいとパクれば、いや! 参考にさせてもらえば良いのだ。

この世界の人々が想像も出来ない “完成形” の姿を知っているのだから。


 そして、今まではやりたくても出来なかった事も、ここでなら出来るはずだ。

パメラは頷くと、ハンナに問い掛ける。


「安さは実現出来たけど、それだけでは物足りないと感じているんですよね。それ以外にも何か若い女性を引きつける工夫が欲しいと。そう、お考えなんですね。」


「そうだね。あんたに何か良い考えはあるかい?」


 ハンナは微笑みながらそう言ったが、目は真剣だった。会長はニヤニヤしながら二人のやり取りを見守っている。


「もっと、お店を華やかにしてみませんか? ああ、商会のお金で内装を豪華絢爛にしようというわけではありません。商品の見せ方を工夫したいんです。


 今の古着屋の陳列は、種類別に分けた後は、まとめて吊るされているだけだと思うんです。私の店もそうでしたが、これって倉庫と変わりありませんよね?


 大熊の毛皮ですら、中に木枠を入れて大熊本来の姿に見せようと工夫しているんです。服も実際に人が着たらどう見えるか? それが分かる様な展示にしてみるのは如何でしょうか?


 人形を用意して、その人形に上着やスカート、何なら帽子やアクセサリーまで付けても良いと思います。様々な色合いや柄の組み合わせ。そうした全体的な組み合わせの “妙” を見せるのも素敵だとは思いませんか?」


 この世界では見た事の無いマネキン人形を使った展示方法。そして、トータル・コーディネート。しかし、ミカの世界では日常のありふれた光景だった。


 ハンナはその光景を想像していたのか、しばしの沈黙の後、大きく頷いた。

そして、満面の笑みを浮かべると会長に勢いよく宣言する。


「旦那! この子、うちがもらうよ! 良いね!」


 会長は笑いながら、最初からそのつもりだと答える。パメラも笑ってしまう。


 こうして、パメラはそのままハンナの仕事部屋へお持ち帰りとなり、スタッフに紹介されるとともに、さらなる難題に立ち向かう事になるのであった。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 出店場所が未だ決まっていない事が、ハンナのもっか最大の悩みだと言う。

王都の商業区の一等地にヤークト商会が保有する商店街があるのだが、そこが何とつい最近 “一挙に” 落ちぶれてしまい、出店すべきかどうか悩んでいるという。

 その原因を聞いて、ミカは直接現地へ行くしかないと囁き、パメラも同意した。


 ところで、衣料部門へ来たその日、ハンナはパメラに助手を付けてくれた。

異国からやって来たばかりで、“ぼっち” のパメラが職場に、さらには王都に早く慣れるようにとの配慮である。実に嬉しい対応だ。


 セーラという名のパメラの助手は、10代後半の可愛らしい女の子だったが、職場の同僚達からは、何故か「真ん中ちゃん」と呼ばれていた。


 パメラが理由を訊くと、例のハンナによる「大・中・小」決定のための女性従業員寸法測定の結果、身長を始めとする多くの測定値で彼女は中央値、すなわち真ん中だったのだそうだ。なるほど、納得である。


 そして、“中” サイズの服は彼女に合わせて製作され、その服をバラして型板が作られたという。


 ちなみに本人の話によると、バラされた服は再度縫い直されて彼女にプレゼントされ、これには彼女も大喜び。職場の仲間達からは大いに羨ましがられたそうだ。尤も、お店がオープンするまでは外で着てはいけない制約付きとか。


 それでも、今後売り出される商品の “中” サイズは全て私にピッタリなんです!これって、凄くないですか! と意気軒昂なのである。


 出店場所の件については、やはり現場、それも休日に見に行くべきとなった。

真ん中ちゃんにガイドをお願いすると、快く了承してくれた。


 その休日までの間にもパメラは様々な提案を行い、皆を唸らせた。

布地の生産工場に見学に行き、生産する布地の幅は、服の型を裁断する時に最も無駄の無い幅にすべきだと思いつき、工房と布地工場で調整するよう進言した。


 また、布地の工夫として “水玉模様” というアイデアを披露し周囲を驚かせた。単純で染めやすく、色褪せしても模様に変化は無いから長持ちすると感心された。

 自制を止め、ミカの記憶をフル活用するパメラは、まさに無双状態であった。



 そして、お待ちかねの休日、パメラは王都の繁華街へと足を運んだのだった。

ガイド役としてセーラに同行してもらったわけだが、図らずも王都の若い女性達が休日をどの様に過ごしているのか実地体験する事になった。


『ああ、こりゃあ、シャッター街だねえ!』


 ミカがそう呟いた繁華街の一角にあるヤークト商会の商店街は(さび)れていた。

100歩ほどの距離の街路の両脇に10軒ずつ店が並んでいるのだが、営業しているのは、僅か2軒だけ。どちらも商会直営の店で、古着屋と小間物屋であった。まあ、2軒とは言っても、古着屋が3軒分、小間物屋が2軒分のスペースを占めているのだが、それでもガラガラ感は拭えない。

 訪れている客の数も、推して知るべしである。


 そして、この商店街がこうなった元凶へと向かう事にする。歩いて直ぐの場所にある倉庫風の巨大建築物。まあ、ミカの記憶では学校の体育館程度なのだが。


 元々、ヤークト商店街に入居していた商店は、長いつき合いの個人商店ばかりだったのだが、例の流行病で繁華街も一時はめっきり人出が減り、多くの商店が打撃を受けた。

 しかし、ヤークト商会の援助もあって、商店街の多くの店が何とか生き延びる事が出来たそうだが、それでも商店主が高齢だった何軒かは、これを機会に閉店してしまったという。


 そして、ようやく復興景気で商売に明るさが戻って来た矢先、ライバル商会が近くに倉庫型の大型店舗を造り、ヤークト商店街の入居者を根こそぎ引き抜いたのだという。ご存じ、ネルソン商会である。


 天候に全く左右されない新しい商店街という謳い文句は、多くの商店主の心に刺さり、世界初という紛れもない事実も相俟って、ヤークト商店街をシャッター街へと落ちぶれさせてしまったわけだ。当然、一挙に入居者がいなくなってしまった商店街に、敢えて入居しようという奇特な商店主は現れず、現在に至るというわけなのである。


 間違い無くネルソン商会による嫌がらせなのだが、正統な商活動ではある。

残された商店が、ヤークト商会直営の2店舗だけになってしまったとは言え、文句は言えない。言えば、王都中に恥を晒すだけである。何とも腹立たしい話なのである。


 そういうわけで、例え商会の名を冠する一等地の商店街とは言え、今の惨状では流石に期待の新店舗をここへというのは躊躇われる。ハンナが、そして商会幹部が悩むのも当然だろう。


 まあ、取り敢えず敵情視察も兼ねて、その通称「ネルソンの館」へやって来た。セーラは、開店当初に偵察のため一度来た事があると言う。二階建ての建物の内部には、様々な種類の個人経営の店が営業しており、デパートと言うよりもショッピングモールの方が近いとミカは言った。


 この計画を推し進めたネルソン商会の跡継ぎ息子は、父親以上にヤークト商会、それも若旦那に対してライバル意識を剥き出しにしており、ネルソンの館の成功で今、鼻高々なのだそうだ。年が近いという事もあるらしい。


 入店時、パメラは何か独特の臭いが気になったものの、セーラの後に従って店内を見て回る。中央付近は吹き抜け構造になっており、その上の天井には光の魔石が輝いていた。大きな魔石、おそらく属性数6の魔石に違いない。自分がここへ来る事が出来た “幸運の魔石” と同じ物かと思えば、感慨深いものがあった。


 内部は統一性に欠け、かなり雑然としている。商品だろうか、荷物の入った木箱が通路や隣の店との境界付近に置かれていたりする。店を目一杯詰め込んだ結果、営業活動に必要な裏方のスペースが不足している様に感じられた。


 それでも、今までこの世界には存在しなかった ”ショッピングモール” 的な業態であり、開設当時は王都中で画期的と絶賛されたのだと、セーラは言う。


 館内を一通り巡った後、2階の一角の開けた場所に軽食を提供する店があったので休憩する事にした。揚げ物などもあり、小腹が空いていたので二人して食べてみたのだが、味わいは微妙だった。『油が古いんだよ! 食材も随分ケチってるね!』ミカがそう苦言を呈していた。


 ミカのリクエストでトイレも覗いてみたが、予想どおり、とても長居したいとは思えない状況だった。まあ、この世界の基準でもちょっと酷すぎる。使用者が多すぎるのだろうと思う。館内すべてが換気不足なのだとミカは指摘していた。


 セーラの感想では、前回来た時より人は少なくて空いてるそうだ。でも、やっぱり大きいですねと彼女は率直に感想を口にしたが、ミカの記憶を通してこの「ミニ・ショッピングモール」を見ているパメラの感想は真逆のものだった。


 ここは、いつ開店したのか訊いてみれば、去年の秋とセーラは答える。なるほど夏はまだ経験していないのかと、パメラ&ミカは納得したのであった。



 「ネルソンの館」を出た後、お礼がてらセーラの大好きな甘味処に寄る事にして繁華街を歩いていると、ふいに前方の露店の方からセーラを呼ぶ声が聞こえた。


 セーラ! お願い! と露店にいる少女が叫ぶと、そのまま走り去って行った。

お花摘みですねと、セーラがパメラに囁く。見れば、手作りと思しきアクセサリー類が、道の傍らに敷かれた布の上に並べてあり、店の客達は置き去りである。


 少女と顔見知りらしいセーラは、慣れた風情で接客を始める。露店の売り物を見ていた少女達に、あなたのその服ならこれが似合うわと、和やかに勧めている。


 微笑みながら見ていたパメラの横に、戻って来た露店の少女が(たたず)んでいた。

二人してセーラの接客を見物しながら、気づけば元商店主のパメラは、現露天商の少女アンを相手に商売の話をしていたのである。


 トイレの問題はやはり一番の悩みだという。いつもは、近くで商売している顔見知りの子に店を頼むのだが、知り合いのいない今日の様な日もあるそうだ。

 まあ、それ以前に部外者でも使えるトイレのある場所は少ないと嘆く。


 後は、雨なら休むしかない露店ならではの苦労や、時折変な言いがかりをつけてくるチンピラの話もあった。ちゃんとした自分の店が欲しいけれど、まあ、どう考えても無理ですねとアンは苦笑する。


 セーラは店の常連で顔馴染み。時々こうして手伝ってもらうらしい。

お礼として、気に入った物を安く譲っているそうだ。見れば、本格的な品も多い。


 手作りアクセサリー販売の露店での競争はけっこう熾烈らしい。小遣いの少ない平民相手の商売だからこそ、彼女達の商品を見定める目はシビアで、センスの無い子は直ぐにいなくなるそうだ。この辺で見かける同業者は10人程度だと言う。


 アンとの会話はパメラに一つのアイデアを(もたら)した。ミカも悪くないと囁く。

そして、その日の夜、ミカとともに見出した「ネルソンの館」の致命的な欠陥や、ヤークト商店街の起死回生の一策を、パメラはミカと夜遅くまで “脳内会議” で協議し、まとめ上げた。


 かくして、2人の渾身の提案書が、翌朝、ヤークト商会で披露される事になるのである。



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