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24. 領都でのお買い物

「ところでゴードンさん、今は古着の相場が下がってますけど、どうします?

去年と同程度の品で、この注文数なら安く済みますけれど、数を増やしますか?

それとも、数はそのままで少しお高い服にしましょうか?」


「お前はどう思う?」


美人店主からの問いかけを、ゴードンは何とレオに流した。レオは、村の広場での熱狂を思い出し、質の良い服をと提案したが、ゴードンにあっさり却下された。


「いいか! 人はな、一旦(いったん)良い物を知っちまうと中々元へは戻れないものなんだ。

来年になって相場が戻り、値が上がったとしたら、今年の服より見栄(みば)えの悪い服を買って帰る事になる。すると、どうなると思う?」


レオもなるほどと思い、コクコクと頷く。ゴードンは店主に告げる。


「昔は、ただ着れれば良いって感じの服しか買って来なかったから、適当に分配して終わりだったんだが、この店で服を買うようになってからは人気でね。今では、くじ引きで分配してるんだ。去年と同じ様な服で、数が増えたというなら皆喜ぶだろう。払える金額内で適当に数を増やしてくれるか。配分はそっちの都合に合わせてもらっていい。」


店主は頷いてからしばらく考え込んだ後、二人の若い店員を呼び寄せる。何事か指示すると二人は店の外へと出て行った。早速、他店に調達に行ったのだろう。

漏れ聞こえる限りでは、どうやら男物の服の多くは他の店から調達するようだ。


二人の店員が出て行った後、ゴードンが店主に素朴な疑問を投げかける。


「俺は古着の事は、てんでわかっちゃいないんだが、何で相場が下がったんだ?」


ゴードンの問いに店主が答える。


「イェルマークの流行病の件はご存じですよね? 多くの貴族家が断絶した事も」


この返答には流石のゴードンも大きく目を見開き、(うな)った。


「ここまで影響して来るのか。貴族家から、よほど大量に流れ出たんだろうな」


「ええ、イェルマーク王国内はもちろん、周辺国まで高級品が(あふ)れ返ってますよ。当然、値崩れして皆が普段より一段上の服を買うもんですから、玉突きで庶民向けの古着が余ってしまい、値段が下がっているんです。」


昨夜の食事会の時、フンメルがレオに商人の世界の話をしてくれた。同じ商品でも様々な環境の変化や、売り手と買い手の力関係によっても値段は変わるのだと。

その話はレオに、なるほどと思わせるものがあった。そして商売は国を越えて影響し合うものだとも。


「ここの在庫品とかも、けっこう値が下がって大変だったんじゃないのか?」


大胆にもそう()くゴードンに、店主も苦笑いだ。


「ええ、もちろんです。でも、うちはまだ被害が少なかった方なんですよ。仕入れ先の若旦那が先を見る目のある方で、イェルマークの件でいずれ衣類の相場が下がるだろうから、今は仕入れを極力抑えるようにと忠告してくださったんです。

以前、断絶した貴族家の財産整理を請け負った事があって、その時の衣類の多さには本当に驚いたんだそうです。」


「なるほど、自分のとこから買うなと忠告したわけか。そいつは凄いな。その忠告をちゃんと守ったあんたも偉い。でも何と言っても、美人はやっぱり得だよな。」


ゴードンがニヤリと笑いながらそう言うとレオも笑顔で頷く。店主の方を見れば、お上手ですねと言いながらも嬉しそうだ。店内には、しばし笑い声が満ちた。


「そうだ、レオ、ミーナへの土産をここで買っていったらどうだ?」


いきなりゴードンがそんな事を言い出す。店主の眉がピクリと動いた。


「服だけではなく、小物も色々とありますよ。どういった関係の女性かしら?」


店主の目が爛々と輝いている。どうやら、商売以外の熱意にも火がついた様だ。


 ミーナは幼なじみである。まあ、二百人ほどの開拓村では全員が顔なじみだし、歳が近ければ自動的に幼なじみとなる。仲良しではあるのだろう。レオが空き地で剣の素振りをしていると、よく近くにやって来て見ている。時折、防護柵の近くに何カ所か設けられている見張り台に一緒に上り、外を眺めながら話す事もある。


「そうだな、うん。友達以上、恋人未満といったところかな」


店主の問いかけに(きゅう)していると、何故かゴードンが勝手に答えている。


「なるほど、それでしたら実用性がありながらも、少しお洒落な小物ですかね」


「うん、そんなところだろうな。予算は、こいつの領都遠征の日当2日分だな。

これで若い娘が喜ぶ様な、何か気の利いた物を見繕ってくれないか。」


レオの意見など全く聞く気も無いようで、迷う事なくゴードンはそう言いながら巾着袋からレオの日当2日分、銀貨2枚を取り出す。まあ、レオも異論は無い。

ちなみに銀貨1枚は銅貨10枚であり、さっき食事をした市場近くの食堂の定食は一人当たり銅貨5枚だった。


 領都で買いたいような物も特に無いし、宿代も食事代もゴードンがまとめて払っているのでレオの出費予定など無い。銀貨2枚でミーナへの土産購入と決定。


 店主はしばらくの間、店の隅にある小物の陳列場所を見て回っていたが、これなんかどうでしょう?と言いながら、肩掛けの布製ポーチを持って来た。麻のポーチだが、様々な色合いの端切れの布が巧みに縫い付けられており、お洒落な感じだ。

レオもそのポーチで納得だ。


 そして店主はポーチを畳んでから綺麗な紙袋の中に丁寧にしまうと、紙を折って作ったと(おぼ)しき花を添えてくれた。これはおまけですねと言いながら。

 レオは、感謝しつつも、この店主もフンメルとはまた違うタイプでありながら、本当に凄い商人だと感じ入ったのである。



 そうこうしているうちに、店外に出ていた二人の店員が相次いで戻って来た。

ゴードンによる古着調達はこの店では既に毎年の恒例行事となっており、自分の店の在庫確認のみならず、懇意にしている他店へも購入を打診しているという。そうした店でも、この時期になると手頃な商品を準備してくれているそうだ。


 ただし、今年は数が増えたので少しばかり心配していた様だが、問題無く必要数を確保出来たという。まあ、色合いとか柄とかをあまり気にする必要の無い男物なので、苦労しなかったというのが実際のところらしい。


 例年どおり、買った古着は明日の午前中に受け取りに来る事とし、取り敢えず、総額の半分程度を支払う。これもいつもの事だそうだ。残額はもちろん明日の受け取り時となる。ただし、この店では今日受け取ったお金で男物を調達した他店への支払いだけは直ぐに済ませてしまうのだと言う。


 では、また明日とゴードンが告げると、店主は微笑みながら、お待ちしておりますねと応じてくれた。これにて、ゴードン・レオ組の領都買い出しは完了である。


 宿に帰ると、他の連中は全員すでに戻って来ていた。

夕食がてら今日の買い出しの結果をまとめる事になった。荷物を部屋に置き、皆で歩いて行った先は昨夜の居酒屋だった。再び店の奥の個室へと通される。ただし、昨夜より少し大きな別の部屋で、ゴードンが昨夜の内に予約していたそうだ。


 早速、食事と酒を注文して、まずは乾杯。直ぐに来たつまみをモグモグしながら今日の各自の報告。


 村の唯一の鍛冶師であるマイクは、助手を引き連れて鉄製品全般の調達。

村で補充すべき武器や防具、それに農器具、果ては鍋に包丁。そして、加工用の素材である鉄や銅の板や棒。鍛冶師として自ら製作も行うマイクが、その道具の価格と自分が作った場合の労力を天秤にかけて購入すべきかどうかを判断していく。

購入先の商会は、いずれも大きな商会であり在庫も十分なので、選んだ商品は明日の受け取りとし、支払いもその時で問題無いそうだ。


 開拓村で薬の管理を任されているカロン婆さんの助手のボブは、薬草には詳しい。魔の森には、ここにしかない固有の薬草が群生しており、村人は日頃から随分と薬草の世話になっている。

 そうした薬草は薬効も高く、売れば相当な利益が出るそうなのだが、如何せん、劣化が早いため村で使用するしかないのだそうだ。


 また、開拓村周辺では入手出来ない薬草もあるので、領都での買い出しはどうしても必要になる。そして、レオは詳しくは知らないのだが、魔物の皮を加工する上で必要な薬品があり、そうした物も領都で調達していくのだそうだ。

 こうした品々は、その場で現金払い。買った品物をボブともう一人で背負い袋に入れて宿まで持ち帰っている。


 サブリーダーのルイスは、村で必要とする調味料や村の中の菜園用に種子を買い集めている。調味料は、主に塩である。他はハーブ、それに砂糖が少々。

 塩はけっこうな重量となるため、今回は半年分である。陶器製の壺に入れた塩は壺も馬鹿にならない重量になるので、麻袋の中に紙袋が入った二重構造の袋に入れた塩を購入している。村に帰った後、各家の壺に移し替えだ。

 これらは全てフンメルの店での購入なので、受け取りも支払いも明日である。


 なお、半年後には塩の買い付けのため、村の誰かが再び領都まで来る事になる。ついでに塩以外の物も買いたいところだが、何を買うかは、その時点で先立つものすなわち、魔石がどれだけ採れているかによるのだそうだ。


 村内菜園のための種子は、市場の露天商を周りながら買い集める。ルイスの選択は中々に好評らしい。一番初めに買って来た異国の野菜や香辛料の種は、特に評判が良くてゴードン同様、貢納隊固定メンバーの地位を不動にしたそうだ。

 今回は初めて見る野菜の種を、お試しで買って来たと話していた。


 古着に関しては、ゴードンが報告した。相場が下がっていたせいで、いつもより多くの古着を買えた事を話すと、誰もが嬉しそうだった。


 全員の報告が終わり、購入総額が予算内に収まったとわかると皆、ほっとした。

そして、誰もがニンマリとした。ゴードンが余った金で今夜はこの後、豪勢に行くかと言うと歓声が挙がり、レオも皆の笑顔のわけを理解したのだった。



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