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23. 領都の一番重要な場所

 食後、酒を酌み交わしながら続いた会合は、この国や周辺国について知る絶好の機会となり、レオにとっては面白くてためになるものだった。お開きとなった時は少なからず残念な気がしたものだ。


「では、いずれまた」


 ゴードンが店の支払いを済ませた後、リゲルとフンメルは揃ってそう挨拶すると店の前から去って行った。まあ、フンメルとは直ぐに顔を会わせるかもしれない。明日の領都での買い出しのため、預けてあるお金を受け取りに行く必要があるし、明後日にはフンメルの店で買った品物の受け取りもある。

 ちなみに、フンメルは商会の番頭だそうで、これは商会長の次に偉い人なのだとゴードンから教わった。


 食事会を終えた後も店の前の通りは明るく、まだ多くの人通りがあった。日が沈めば外には誰もいない開拓村とは大違いである。


「さて、俺は村の連中と合流するが、お前はどうする?」


 ゴードンはサブリーダー達の行き先を知っているようで、これからもう一杯引っかけるつもりらしい。レオは今の店でそれなりに呑んでいたので、酒はもう十分と感じていた。このまま宿に帰ると言うとゴードンは頷き、帰り道を簡単に説明してくれた。来た道をそのまま帰れば良いわけだが、念のためレオに目の前の通りをどっちへ歩くのか、どこで曲がれば良いのかきっちりと教えてくれた。


 まあ、大きな通りを歩いて行き1回曲がるだけの簡単な行程だったので問題無く宿にはたどり着く事が出来た。そのまま自分の部屋に入りドアから遠い側のベッドに潜り込むと、酔いの回りもあってレオは呆気なく眠りに落ちた。



 翌朝、目を覚ました時には既に日が昇っていた。窓の薄板の合わせ目の隙間から陽が漏れて輝く縦線となっている。もうそれなりの時刻と知れた。隣のベッドでは未だゴードンが眠っていた。

 宿の井戸に行き、顔を洗う。部屋に戻るとゴードンも起きており、皆を起こす様に言われる。市場に移動し、その近くで朝昼兼用の食事にしようと。


 朝飯には遅く、昼食には早い時間だったせいで、食堂は空いていた。

その後、市場の近くにあるフンメルの店で、預けてあったお金の一部を受け取るとメンバーはいくつかの組に分かれ、それぞれの買い出しの場所へと散って行く。


 レオは、今日もゴードンと一緒に行動する事になった。

さて、それでゴードンとレオの組が何を調達しに行くのかと思えば・・・


「いいか! これから向かう先は領都で一番重要な場所だ」


ゴードンから真剣な表情でそう言い聞かせられ、やって来た場所は古着屋が軒を連ねる通りにある一軒の店。小洒落(こじゃれ)た感じの可愛らしい、ゴードンとレオには(いささ)か否、絶対に場違いな店。中は若い女性客しかおらず、どうにも居心地が悪い。


「いらっしゃいゴードンさん。今年もそろそろかなと、お待ちしてましたよ」


入口の脇にあるカウンターの女性がにっこりと微笑みながら挨拶してくる。小綺麗な格好をした中々の美人である。30過ぎくらいに見えるが、レオには本当の歳などよくわからない。この店の店主だとゴードンが教えてくれた。


「今年も世話になるよ」


そう言いながらゴードンは鞄から紙片を取り出すと彼女に渡す。


店主の女性は、その紙を受け取りながら、レオをチラリと見て微笑む。


「おや、息子さんですか? もし、そうなら奥様はさぞや綺麗な方なんでしょうね。そして相当に背の高いお方なのかしら?」


ゴードンは鼻を鳴らして、言ってろ!と悪態を吐くと、まあ、俺の舎弟だと言う。

レオも、素直に頷いたのだが、そこで複数の視線を感じた。振り返ると若い娘3人ほどが、キャッと声を挙げて店内に吊るされている服の陰に隠れる。(にぎ)やかに何事か言い合っている様だが内容まではわからない。


 目の前ではゴードンと店主のやり取りが始まっていた。まあ、簡単な大枠の確認だけのようで、ゴードンは細かい点すべてを店主に任せてしまう気満々のようだ。予算総額、男女それぞれについて大きさ別の数量、それに子供向けと若い娘向けといった感じで大雑把な数を示してゆく。最後に服の修復用に端切れ布と糸を追加。それぞれの具体的な選択はすべて店主に任せる感じだ。


 店主も慣れたもので、明日の朝までに間に合わせるため、いつもの様にこの店で揃わない分は知り合いの店に頼んで揃えると言う。それがこの通り沿いに古着屋が集中している強みの一つなんですよとレオに説明してくれた。



フンメルの商会を出てからここまでの道すがら、この店や店主との因縁についてはゴードンから聞かされていた。領都の重要な場所なんだと、敢えて強調してから。


 開拓村では開設初期から、村民たちの衣服(古着)は貢納隊が領都に行った際、そこで買い付けて持ち帰っていた。

 昔、ゴードンが開拓村にやって来た当初は、村民の服装のみすぼらしさを見てもそんなもんかと思うだけだったそうだ。しかし毎年領都から買って来る服もまた、見事にそんなもんばかり。本当に、着られれば良いという基準だけで選んでいた。


 いや、そもそも選んですらいなかったのだ。大中小という大雑把な服の大きさとそれぞれの枚数だけを念頭に、店の者の勧めるままに目の前の古着を(つか)んでいた。それ以外で唯一気をつけていたのは、金額が予算内かどうかだけ。


 まあ、貢納のための領都行きは男達に大人気。公平を期すため、毎年くじ引きで貢納隊のメンバーを選んでいたから、年ごとに人は変わってメンバーは固定されず経験を培うことなど望むべくも無かった。

商品相場もろくに知らず、信頼出来る取引相手もいない状態では、村民たちは領都の不良商人たちの良い “お客さん” になるだけだった。


 とりわけ古着の様に値段があって無き様な物は、毎年決まった時期に買い付けにやって来る開拓村の田舎者は格好のカモだったはず。ちょいと阿漕(あこぎ)な商人たちからすれば、領都で売れ残った古着を、すまし顔でそっくり売り(さば)いてしまえる絶好の商機だっただろう。他の店の古着よりも安い値付けに引き寄せられて、領都でその値段では絶対に買い手が付かない様な商品ばかり毎年(つか)まされていたわけだ。


 初めてゴードンが貢納隊に参加し、村民向けの古着調達の現場を見た時には唖然としたらしい。安いよという掛け声だけで皆が手に取る衣服はろくでもなかった。

 他国の大きな街で暮らした経験のあるゴードンからすれば、その貧相この上ない服は、目を覆いたくなる様な代物ばかり。野郎はともかく、こんな服を着せられる村の若い娘たちが不憫でならなかった。

 思わず、古着の調達は自分に任せてくれとその場で進言したという。元々古着の調達なんぞ面倒くさいとしか考えていなかった他の連中は、あっさりとゴードンにすべてを任せたのだった。


 ただし、ゴードンとて女物の服の善し悪しがわかるのかと言えば、そこはやはり微妙と言うしかなかった。その自覚があるだけ、まだマシだったと言うべきか。

 迷う事無くゴードンは古着屋の集まるこの通りを(まわ)り、洒落たこの店に目を留めると小綺麗な装いの女店主を信じ、服の選択を任せた(丸投げした)そうだ。


 多少予算は超えたものの、村へ帰って例年どおり服を分配しようとしたその時、事件は起きた。村の女達の間で大戦争が勃発したのだ。レオも確かに覚えていた。


 それまで安っぽい草木染め一色だけで、どれも同じにしか見えない服とは大違いの様々な柄や色合いの服が領都から持ち帰られて来たのだから、取り合いで騒ぎになるのは当然だった。村長の仲裁で服の分配は女達のくじ引きで決める事になり、急遽会場となった村の広場は、見た事も無い熱気に包まれたのだった。

その際、服を調達したのがゴードンだとわかると、彼は女達から絶賛された。

ゴードンもまた、領都の美人店主の選択眼に驚き、そっと感謝したのだという。


 かくして赤ん坊を除く村の女達全員の断固たる要求で、ゴードンは貢納隊の固定メンバーとなった。毎年確実に領都へ行ける様になったゴードンは、領都の耳より情報をこまめに集めてゆき、信頼出来る取引相手やリゲル、フンメルといった価値ある情報提供者を獲得していった。


 そうして得られた情報を基に、領都の住民が日頃享受しているのと変わらぬ質の商品を適正価格で購入し、村へ持ち帰れる様になったのだとゴードンは言う。

 それは、辺境の開拓村の住民たちにとっては、本当に画期的な事だったのだ。

ゴードンは貢納隊の不動のリーダーとして村民たちから広く認められる様になったわけだが、その起点こそがこの店だった。


 領都で一番重要な場所! なるほど、そうかもしれないと納得するレオだった。


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