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20. 魔物ハンターと魔力判定

 ゴードンの話の後、柔和な表情でフンメルが口を開く。


「いえいえ、私やリゲルさんも軍事や他国の事には(うと)いもので、ゴードンさんの視点にはいつも新鮮な驚きがあるんですよ。私も、この会合が楽しみなんです。」


リゲルも笑顔で頷いている。ゴードンはそこで目を転じて再度二人にレオの、より詳しい紹介をしてくれる。


「さっきも言ったとおり、こう見えて、こいつは今年成人したばかりなんだ。5年前は本当にちっこくて可愛げもあったんだがな。それが、今では開拓村随一の魔物ハンターさ。魔狼なら、こいつ一人で2匹同時に相手に出来るんだ。」


 それは、大袈裟でも何でも無く、厳然たる事実であった。いや、実際にはもっと多数の魔狼でも相手に出来るだけの自信がレオにはあった。レオの俊敏さや一撃の重さは、以前から村の同世代の中でもずば抜けていたのだが、ここ1,2年の間に、大人も含めた村人全員を圧倒出来るほどになっていた。


 そして、最近では魔力放射が面白い様に決まるのだ。その射線に人がいない場合に限られるが、その効果は絶大だった。元々は、就寝時に魔力を使い果たすために放出していた魔力であったが、試しに魔物へ放ってみると、魔物が(すく)むのだ。最初は小型の魔物向けだったが、今では魔狼にも面白い様に効く。十分に魔力を練ってから当てると、魔狼すらも一瞬動きが止まるのだ。それは、身体強化を使い熟すレオの前では決定的な隙となった。


 また、魔狼が飛びかかろうとする寸前に魔力放射すると、驚いた魔狼は空中でバランスを崩してパニックに陥る。こちらの喉笛を狙う事も忘れ、無様に宙を飛んで来るだけの肉塊に成り果ててしまうのだ。これまた身体強化で強化された動体視力を以てすれば、後は楽勝だ。

 魔狼が群れで接近してくる場合でも、群れに魔力放射を当てて勢いを削ぎ、その隙を突いて各個撃破するのである。


「凄いですね! ゴードンさんが言うのなら確かでしょう。うちの領軍で魔狼を相手にする時は、1匹でも分隊対応、それも盾持ちが必須と聞いた覚えがあります。」


 目を丸くしてリゲルがそう言う。フンメルも驚いている。分隊というのがどの程度の人数なのか分からないレオが首を捻っているのに気づいたゴードンが、分隊は5名だと教えてくれた。そこでフンメルが一つ頷くと、真面目な顔でレオに尋ねる。


「それほどの強さという事は、レオさんは魔力持ちですかな?」


考え込むレオを横目に、ゴードンが返す。


「俺もそう(にら)んでるんだ。身体強化で間違い無いとな。ただなあ、ここには廃魔石(はいませき)は無いからな。魔力持ちのお墨付きは、当分無理だよな。」


 廃魔石というのは、魔力判定に使う魔道具の俗称であった。廃魔石という言い方なのは、その名のとおり、それが魔石の “なれの果て” だからだ。


 普通、魔石は寿命が近づくとその色合いが次第に薄くなってゆき、やがて透明になり最後は(ちり)となる。ところが、滅多に無い極めて希なケースなのだが、色合いが無くなって完全に透明な状態になりながら塵にならない魔石があるのだ。


 通常の魔石とは違って、もはや人が感知出来る魔石特有の性質は失われており、当然魔石として、それ以上働かせる事も出来ないので塵になる事もない。形だけが魔石風の透明な石である。


 ところが、この透明な石を魔力持ちが触ると光るのだ!


 その昔、この透明な魔石に偶然触れた魔導師がこの石を光らせた事から発覚した。検証が行われ、この透明な石を魔導師のような魔力持ちが触れば必ず光り、魔力の無い者が触っても決して光らない事がわかると大騒ぎとなり、この石は魔力の有無を判定するための魔道具として利用される事になったのである。


 ただし、その希少性のため、廃魔石は限られた場所にしか無い。滅多に手に入らない貴重品なので厳重に管理されており、庶民が気安く触れる機会など普通は無いのだ。庶民が触る事の出来る唯一の場所といえば、教会くらいのもの。それも廃魔石を保有しているのは、大きな都市の裕福な教会だけなのだ。


 いつの頃からか、教会で執り行われる「成人の儀式」の際に、庶民の魔力判定を行うという慣行が多くの国で一般的となっていった。もちろん、それは廃魔石のある大都市の教会に限っての話である。まあ、成人の儀式でなくとも、教会に一定以上の金額を寄付すれば、時期や年齢に関係無く魔力判定を受ける事は可能なのだそうだ。


 しかし、廃魔石の無い中小都市や辺境の村では魔力判定と縁の無いまま生涯を終える者が大半だった。ゴードンの記憶では田舎の中小都市である、ここベズコフ領都の教会には廃魔石は無かったはずなのだ。

しかし、ゴードンのぼやきを聞いたリゲルが首を横に振ると、意外な事を言う。


「それが、今は廃魔石があるんですよ。ゴードンさん!」


フンメルも頷いている。ゴードンは驚いた顔で聞き返す。


「そうなのか? あれは滅多に手に入る代物じゃ無いから、相当に大きな街の教会にしか無いだろう? 確かここの領都程度の街の教会では、とてもじゃないが保有出来るはずも無いし、実際無かったはずだ。」


「まあ、以前はそうだったですよ。でも、確か3年前でしたか、ベズコフ領近隣の廃魔石を持っていない中小都市の教会が一致協力し廃魔石を手に入れたんですよ。共同でね。それで、その廃魔石を巡回させて運用してるんです。

 共同保有している確か6つの都市の教会でしたか、1ヶ月ずつその廃魔石を使える様にしています。


 何でも、廃魔石があると教会を訪れる人の数が相当増えるのだとか。特に、若い人が増えるので教会としても大喜びなんだそうです。まあ、かく言う私も3年前に休みを取って、わざわざ行ったくらいですからね。

 先日、教会から布告が出てましたよ。今月は、この街に来てますね。」


 リゲルのその回答を聞きながら、フンメルも頷いている。


「じゃあ、明日行ってみるか、レオ」


 レオも力強く頷き返す。これは凄い! 全く良いタイミングで領都に来たもんだとレオが喜んだのも束の間、フンメルが苦笑いを浮かべながら告げる。


「ゴードンさん、明日は安息日で教会はお休みですよ。早くて明後日ですね。」


「おっと! そうだっけ。開拓村にいると、ついつい教会がおろそかになる。」


 そう言って頭をかくゴードンの姿を見て、レオは肩を落とす。明後日には領都を出て村へ帰る予定なのだ。今回は諦めるしかなさそうだ。しかし、浮かぬ顔をするレオに対し、ゴードンは笑顔で話しかける。


「大丈夫だ。レオ! 明後日は朝から買い付け品の受け取りで昼頃まではかかる。

教会での判定儀式は午前中に終わるだろ。昼に街門で待ち合わせれば問題無い」


 リゲルとフンメルも頷いている。


「そうですね。判定の儀式は朝からやっているはずです。時間的には、さほど掛かりませんから、お昼に街門で問題無いでしょう。ただし、魔力有りとの判定結果が出た時には、どうなりますかね?」


 フンメルがニヤリと笑いながら言う。


「まあ、そん時は、そん時だ。とりあえず明後日の朝は教会で決まりだな。」


 豪快に笑ってそう言うゴードンに、レオは力強く頷いた。


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