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19. 宴会と情報収集

 肘から手首くらいまでの長さの金属棒。太さは小指ぐらいだろうか。先端は斜めに尖っており、反対側には皮が巻いてあり持ち手のようだ。


 金属棒を取り出した役人は一旦その棒を腰のベルトに差し、床に置かれた計測済みの小麦袋の短辺の両端を持つと勢いよく肩の辺りまで持ち上げ、そのまま自重で落下させて腰の辺りで止めるといった動作を何度か繰り返した。

そして、床に降ろした小麦袋の下部に金属棒を突き刺す。引き抜いた棒の先端から小麦が何粒か零れ落ちた。


 この金属棒は中空の管を斜めに切った太い針だった。小麦袋の中に突き入れると中の物が棒の内部に入り込み、袋を開けなくても中身が確認出来るわけだ。

 最初に小麦袋を持ち上げて振っていたのは、中に小麦以外の混ぜ物をしていた場合、その中の重い物が袋の下の方にずり落ちて来るからだとレオにも理解出来た。


 5袋すべて調べるのかと思ったら、この1袋だけで終わりだった。レオは、1袋しか見なくても良いのかとも思ったが、倉庫内に用意されていた手押し車に検査の終わった小麦袋を載せ、倉庫奥まで運ぶと指示された場所に積み上げていった。


 倉庫内に既に積み上げられていた他の村からの膨大な小麦袋を見て、先ほど感じた中身を全て見なくても良いのかというレオの疑念は、とても解決するのは困難だと実感した。


 こうしてゴードン以外の開拓村のメンバーは、荷車から小麦袋を下ろしては5袋ずつ天秤の籠へと載せてゆく。立ち会っている領主館の役人が、その都度、調整用の小石を取ったり載せたりして天秤の傾きを反転させ重量確認を行っていった。


 重量検査に合格した小麦袋は籠から手押し車へ載せ替え。時折、例の役人が適当に選んだ小麦袋に検査用の太い針を突き刺して中身の確認をしてゆく。

検査の終わった小麦袋は、順次開拓村のメンバーが倉庫の奥まで運んだ。


 村から運んできた小麦に問題は無かった。最後は中途半端に3袋の小麦袋が残り、レオは大きめの石を3個にして計るのだろうと予想したが、計らなくても良いとあっけなく言われた。3袋は天秤には載せずに手押し車に載せ、そのまま運ぶように言われた。これにて小麦の貢納検査は無事終了である。


 開拓村のメンバーが小麦袋をせっせと運んでいる間、ゴードンはイケメン役人と貢納品の原魔石に関するやり取りを行っていた。小麦袋を指定された位置に、せっせと積み上げていたレオには「ソーバ」がどうたらといったレオの知らない言葉が漏れ聞こえていた。


 作業が終わり、宿の手配に向かったルイスが戻るまで休憩となる。

遠征に持参してきた小さな樽の中へ水魔石を使って水を出し、各自カップに注いで飲んでいると領主家の者たちから羨ましがられた。


 魔石は貴重であり、とりわけ水魔石は人気があるため高価なのだという。開拓村以外では、庶民が水魔石を持っている事は、まず無いそうだ。野外での水の持ち運びには皮袋が使われるのが普通で、どうしても皮の匂いが独特の臭みとして出てしまうと嘆いていた。



 ようやく宿を確保したルイスが戻って来たので、一行は領主館を後にした。

去り際にゴードンはイケメンに挨拶し、また後でと言っていた。


 このまま宿へ向かうのかと思ったら商会に向かうと言われた。そこで魔物の毛皮と魔石を売るのだそうだ。3年ほど前から取引を始めた商会だそうで、そこでもゴードンは顔が売れていた。立派な服を着た、けっこう偉そうな人物と親しげに会話を交わしており、商談は直ぐに終わって運んできた品を引き渡した。


 毛皮の値段は、毎年あまり変動は無いのだそうだ。他方、時折変動のある魔石については領主館で現在の価格(これを相場と言うと教えてもらった)を聞いており、その事は商会側でも把握しているため、価格交渉の必要性は無いと聞かされた。ゴードンが領主館のイケメンと話していた内容は、そういう事だったらしい。


 ゴードンの話によれば、あのイケメン、リゲルという文官は平民出身にも拘わらず、この領の徴税業務を実質的に取り仕切るほど仕事の出来る男なのだという。

 そのため、役人としてそれなりの待遇を得ており、商会と示し合わせてまで偽りの相場で小銭を稼ぐ様な馬鹿な真似はしないと信じられるのだそうだ。


 ゴードンは、商会の人間から金を受け取ると巾着袋の中に入れ、肩に斜め掛けしている鞄にしまう。今回の魔石や毛皮の代金の一部である。全額となるとけっこうな額になり、持ち歩くのは物騒なので一部だけ受け取って残りは預かり証をもらい、後で精算するという。

 開拓村のために買う品々のうち、この商会で揃えられる物は揃えてもらい、魔石や毛皮の代金と相殺するのが、ここ最近のやり方なのだそうだ。


 この商会では塩や鉄製品に各種道具類を購入する。ここで揃わない品物は明日、領都の市場で買い揃えるそうだ。これで領都の仕事は一段落、前半は終了だとゴードンが宣言した。



 ようやく領都の宿に到着した。馬を荷車から解放してやり、宿の水場で汚れを落としてやってから厩舎に連れて行った。そうした作業が終わった後、人間達も身体を洗い旅の汚れを落とす。その頃には、もう夕暮れとなっており腹もペコペコだ。


 ゴードンが皆を集める。何故か彼は、レオに向かって訊いてくる。お前は酒と外国の話を聞くのとどっちが良いかと。レオは酒が旨いと感じた事は無かったので、外国の話を聞きたいと答えた。ゴードンは頷くと、巾着袋から金を出して、ルイスに渡す。あんまり羽目を外すんじゃねえぞと言いながら。

ルイスを先頭に、6人がニッコニコの笑顔で去って行った。


「よし! 部屋に荷物を置いたら飯に行くぞ。無事、約束も取れたからな。」


 そう言うゴードンに連れられて、宿の部屋へと一旦入る。2人部屋を4つ取ったそうで、レオはゴードンと同室だった。何の飾り気も無い普通のベッドが2つと机に椅子があるだけの質素な部屋だったが、どうせ寝るだけであり問題は無い。

ベッド自体も、村のいつも使っている物より、よほど上等だ。


 部屋に僅かばかりの荷物を置くと、二人はそのまま宿を出て繁華街へと向かう。

例によって、レオはお上りさんモードである。そんなレオを引き連れ、ゴードンはそれなりに大きな建物へと入って行く。そこは賑やかな食堂のようだった。

 店員にフンメルの連れだと言うと、店の奥の個室へと案内された。そこには、昼間の若いイケメン役人と先ほど商会で会った人物が笑顔で席に着いていた。


 遅れてすまないというゴードンに二人は微笑みながら、先に始めていたので問題無いですよと応じる。ゴードンは二人にレオを紹介し、二人も領都役人のリゲルとミラー商会のフンメルと名乗った。二人はレオがまだ成人したばかりだとゴードンから聞かされ、その体格を見て目を丸くするのだった。


 一同は、軽く乾杯した後はしばらく食事に専念し、会話らしい会話も無かった。

腹も満ちて、ようやく人心地ついたところで、ゴードンがレオに話し出した。


「3年前から、領都へ来た時には、必ずこの2人とこうして話すようにしている。リゲルは仕事柄、ベズコフ領の公的な情報には詳しいし、国内の貴族関連の情報も持っている。フンメルには商人の情報が入って来る。どちらも貴重なもんだ。とりわけ、俺たちみたいな田舎者にとってはな。うちの村長からも、二人にはよろしく伝えてくれと言われている。」


 なるほどとレオは思う。開拓村で長年ゴードンの教えを受けてきたレオは、常日頃から様々な情報を集め、それを自分なりに考え、解釈し、知識として蓄える事が如何に大切かを常に教えられてきた。

 田舎の村での魔物相手の泥臭い闘いでさえ、その魔物に関する知識が有ると無いとでは大違いであり、時には命に関わる。知識を持つ者は、腕っ節だけの無知な者よりも確実に生き残れるのだと、何度も言い聞かせられて来たものだ。


 ここは、レオの教師役であるゴードンにとっても学びの場であるらしい。


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