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18. 初めての領都

 草原で野営した翌日、二の村の側まで来ると川沿いに道らしきものが現れたので以降はその道を移動した。やがて領都に一番近い一の村も通り過ぎた。


 一の村も二の村も、村の周囲は簡素な木製の柵で囲っただけの姿だった。家々の外見も確かに開拓村とあまり差は無いように見えた。堀が無いのは、魔物の棲家である魔の森から距離があるため、魔物の出現を考えなくても良いからだという。


 どちらの村も、明らかに村の規模は開拓村より大きく、村民の数はどこも開拓村の3倍以上だとゴードンは言っていた。村の中には商店まであるらしい。

 草原での二度目の野営の後、平原の先の小高い丘に登ったところで、領都の街壁が遠くに見えた。レオは生まれて初めて見る長大な石壁に大興奮である。



 そして、ついにレオは領都に到着した。正確には領都の街門であるが。

このベズコフ領の領都には、東西南北それぞれに街門があり、到着したのは南門。間近で見上げる石壁は大人の身長の4倍以上はありそうで、これなら魔狼が跳躍しても絶対に届かないだろうと思った。ちなみに開拓村の防御柵はこれほどの高さは無いものの、柵の手前に川を利用した堀があり、魔狼が全力で走って来て堀の手前でジャンプしても柵を越える事は出来ないのだと、昔教えられた。


 街門には、お揃いの革鎧を身につけた4,5人の兵士が警備についており、その中のリーダー格と(おぼ)しき兵士にゴードンが木札を提示し、開拓村から貢納品を運んで来たと話すと、全員すんなりと通してくれた。


 街の中へ入ったレオは、そこで呆然と立ちつくす。何だ、この人の多さは!

そこで目に入る人数だけでも、開拓村の住民全員よりもずっと多い。この領都は、都市としては小さい方だとゴードンから聞かされていたが、それでもレオには別世界であり、華麗なる大都会であった。


 ゴードンがニヤニヤしながら、ほら、とりあえず移動するぞと声を掛けてきて、レオはようやく歩き出した。まあ、常に周囲をキョロキョロと見回す、お(のぼ)りさん状態ではあった。何せ、2階建より高い建物を見るのも生まれて初めてなのだ。


 一行は、領都のほぼ中央にある領主館を目指し移動した。途中の通り沿いに屋台が出ており、何とも食欲をそそる匂いが漂って来た。未だ昼食を摂っていなかった皆の視線が屋台に突き刺さる。


 笑いながらゴードンが、そのまま進んでいろと指示して、レオを引き連れ屋台に赴く。肉を焼く良い匂いが漂っていた。ゴードンは屋台の親父に今回の領都訪問組の人数である8人分の注文を告げる。


 店の商品は細長いパンに縦に切れ目を入れ、そこに焼いた肉の細切れと野菜を挟んだものだった。ゴードンは腰に下げた袋から硬貨を取り出して渡し、レオとともに大きめの葉っぱに包まれた、その細長いパンを4つずつ受け取った。皆を足早に追いかけ、合流してパンを渡していく。


 レオは歩きながらパンにかぶりついた。途轍もなく旨かった。生まれて初めて知る味だった。開拓村の食生活と言えば、塩味をベースに何らかのハーブを足したものである。甘味は果物で知ってはいるが、食事の味付けは基本、塩味だけである。


 しかし、このパンには何かしら茶色の濃い味の液体がかかっていた。この茶色の液体は何だと、ゴードンに聞くと “タレ” だと教えてくれた。世の中の料理人が、長年工夫を重ね、磨き上げてきた味なのだそうだ。

そのタレに圧倒され、やはり都会は違う! と感激しきりのレオなのであった。



 そのまま領都の大きな通りをしばらく歩き続け領主館に到着したが、正門には入らず、領主館の周りをぐるりと迂回して裏口へと回った。警備の人間に来訪趣旨を告げて待っていると、若い、なかなかの美形の男が現れた。服装は豪華ではないが、明らかに庶民の服装ではなく、偉い人なのだろうとレオは思った。


「お久しぶりです。ゴードンさん」


「やあ、久しぶり。リゲルも元気そうだな」


 二十代半ばくらいの、そのイケメンは笑顔でゴードンに挨拶すると、ゴードンも笑顔で親しげに挨拶を返した。例の倉庫で良いかとゴードンが尋ねると、イケメンは頷いて歩き出した。裏口の門を通過して、一行はその後に続く。


 荷車が2台とも領主館の敷地内に入ったところで、ゴードンは今回の貢納隊一行のサブリーダーであるルイスに領都での宿の手配を指示する。彼は頷いてゴードンが鞄から出した巾着袋を受け取ると領主館を出て行った。


 領主館の敷地に入れば警備責任は領主家に移るので、開拓村からの護衛の役割は終了になるという。護衛人員が減っても問題無いので宿の確保に行かせたそうだ。後は、小麦袋や原魔石の検査が終われば貢納は終了となる。


 領主館の敷地内を移動して、飾り気の無い大きな建物に向かって行く。そこが領主館の倉庫だと教えられた。


 倉庫の入り口から入ったばかりの明るい場所で貢納する小麦の検査が行われる。

天井の梁からぶら下がった縄が、太い棒の真ん中に結わえてあり棒の両端に籠を吊り下げた2本の紐がぶら下がっている。天秤は村でも使っていてレオも知っていたが、これは大きい。


 指示された場所に荷車を止めると、馬を荷車から一旦外してやり倉庫の入口の脇にある馬の待機場所で休ませてやる。


 開拓村一行は、荷車に載せられている魔物の毛皮や自分達の荷物といった貢納品以外の荷物を、まず降ろした。そうした荷物は、入口周辺の一角にまとめて置いておくよう指示された。お金や原魔石の様な貴重品はゴードンがあらかじめまとめて大きめの巾着袋に入れ、身に着けていた。


 ふと見れば、役人達が何となく自分達の荷物を気にしている様子が窺える。

まあ、天幕と魔物の毛皮といった嵩のある物を除けば、各自の着替えや身の回り品それに僅かばかりの食料が入っている程度の薄っぺらなズタ袋ばかり。価値のある物など元から入っておらず、気にする必要も無いものばかりだ。

 まあ、強いて言えば水の魔石の入っている小樽だけは貴重品かもしれないので、そこだけ注意しておけば良いかとレオは思った。


 そして、小麦袋の検査が始まった。

荷車の小麦袋を5袋ずつ天秤の一方の籠に入れる様に指示される。領主家の役人が反対側の籠に、部屋の隅に並べてあった大きめの石を5個載せる。その状態で天秤は小麦袋の方に傾いたままだった。そこへ、石が載っている側の籠に同じく部屋に並べてあった小さな石を1つずつ載せていく。3つ目を載せたところで天秤が動き石を載せた籠の側に傾いた。役人が頷く。これで合格らしい。


 各村に対し、小麦を入れるための麻袋の見本と、それに小麦を入れた場合の重さと同等になる “基準の石” がいくつか渡されている。この基準の石と天秤を使って各村は袋詰めされた小麦袋を計量し、貢納品の確認をする事になっている。

開拓村でも当然の事ながら、すべての小麦袋がこの石で確認されている。


 今、目の前にある天秤に載せられている大きめの石は、1個1個が “基準の石”

よりも少しだけ軽い重さになっているのだという。そして、小石を足すと、今度は少しばかり “基準の石” よりも重くなるようにしてあるそうだ。


 小麦袋5袋に対して大きめの石5個だけという最初の状態では、小麦側の方が重いのは当然なのだ。ここで小麦側が石側よりも軽ければ、小麦の充填量が足りないと判定される事になる。


 また、小石を5個以上、石側の籠に追加しても天秤が石側に傾かない場合には、小麦袋の中を調べるのだそうだ。単なる小麦の詰め過ぎなら問題無いが、混ぜ物で誤魔化している可能性があるからだと言う。

 今回の開拓村の小麦袋の計量で3個目の小石で天秤に動きがあった事は、開拓村での小麦の袋詰めが非常に正確だという証左なのだと言われた。


 しかし、軽い混ぜ物、重い混ぜ物と複数の種類を組み合わせ、重量を基準に合わせていたなら誤魔化せるのではないかとレオは思った。口にはしなかったが。


 すると、検査に立ち会っていた役人の一人が細長い棒を取り出した。



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