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17. 魔石の常識(3)

 さて、現状、人が知る最高位となっている属性数6は雷の魔石なのだが、こちらは何と魔石変換自体が禁じられているという、とんでもない魔石である。


 熊の魔物の原魔石はメロンほどの大きさがあり、リンゴサイズで属性数5の光魔石よりも明らかに大きい。長年の間、属性数は恐らく6だろうと考えられていたのだが、それがどんな属性なのかわからず、当然変換方法も謎のままであった。


 そんな雷魔石の正体が明らかになったのは、単なる偶然からである。

それまで、この魔石を無駄に放置するのは惜しいという事で、風除けの囲いの中で日の光を浴びさせ、光の魔石に変換するのが世の中の一般的な使用法だった。

風除けの囲いを使うのは、風の魔石に変化させないための工夫である。


 ところが、ある時、屋外で原魔石を設置した直後に空模様が急に怪しくなり、猛烈な雷鳴が轟き始めた。雨でも降り出して水魔石にでもなっては大変とばかりに、一刻も早く光魔石へ変化してくれればと願うのに、空は黒雲に覆われて真っ暗。

 魔石変換を断念し、雷鳴が轟き激しい稲妻が乱舞する中、大慌てで原魔石を回収しようとしたところ、何と見た事も無い紫色の魔石に変化していたという。


 初めての紫色の魔石は、王都の高名な学者に調査に出されたのだが、その調査の最中に学者が服と身体の一部を黒焦げにして死亡するという奇怪な事件が発生してしまう。未知の魔石の調査であり、魔石を『起動』させた状態で学者が迂闊(うかつ)に触るはずもないのだが、惨事は起きてしまった。


 偶然、その時の状況を目撃していた学者の助手が、魔石からその学者に向かって火花が飛び、まるで雷が落ちた様だったと証言した事により、この件は事故と判断されたのである。


 結局この事故と雷鳴の中で変換されたという経緯から、この紫色の魔石は雷魔石と呼ばれる事になった。ただ、触れてもいないのに学者が亡くなった一件もあり、この紫色の魔石の調査は一向に進まなかった。まあ、無理も無い話である。


 その後、新たにわかった唯一の事実は、雷が発生している時に、この雷魔石を屋外に放置しておくと雷を引き寄せるというか、吸い込む事ぐらいである。

残念ながら、この雷魔石の属性数6としての固有の使い道は土魔石同様、未だ誰にもわからぬままで、今日に至るも活用の目途は立っていない。


 まあ、雷が出たり入ったりするような奇妙奇天烈な魔石を人間がどうこう出来るはずも無い。かくして、使い道がわからない上に死亡事故まで起きている経緯から、属性数6としての雷魔石への変換自体が禁じられてしまったのである。


 今日では雷魔石は格下の光魔石に変換して利用されており、属性数5の光魔石より光量が豊かで寿命も長い事から、王宮や高位貴族の大広間といった大空間で利用されているという。

 それでも何年かに一度、雷魔石へと密かに変換して起動させた挙げ句、黒焦げになって死ぬ好事家がいるそうだ。好奇心は○をも殺すというやつである。



 そして、さらにその上、属性数7以上に至ってはその変換方法を始め、本当に何一つわかっていない。そもそも、属性数7以上の魔石を持つ魔物はすべて異常種であり、人間がまともに闘って討伐した例は少ない。そんな貴重な魔石で人間が手に入れる事のできる唯一の物は、飛べなければさして強くもないと言われるワイバーンの魔石くらいだ。


 概ね、数十年に一度といった頻度で属性数7のワイバーン魔石が手に入り、王宮や大教会に飾られる事になる。そのスイカのような大きさから、明らかに属性数7以上と考えられているが、どういった属性なのか、どうすれば変換できるのかは、未だに謎のままである。時折、仮説が提示されるのだが、そのほとんどがとっくの昔に試されて効果が無いと判定されたものばかり。

 今では、そうした失敗仮説のリストが教会や魔石関連の研究施設に常備されており、新たなアイデアを思いついた者は、まずそのリストを確認する事になっているらしい。既にここ数十年、新しい変換方法を思いついた者はおらず、完全な行き詰まり状態なのだそうだ。


 そもそも異常種の大きな原魔石は、普通の魔物の原魔石と同様の直感的な変換方法は通じないのではないかという考えが、今では一般的となっている。まあ確かにそうなのだろう。事実として属性数7の原魔石の変換は一歩も進んでいない。


 かくして、このスイカの如き大きな魔石は、今や単なる展示品か装飾品の扱いなのである。王宮や教会の一角に飾られ、人間の様々な思惑を拒絶しながら虹色の紋様を浮かべ続けるばかりである。


 遙か昔から現在に至るまで、学者からそれこそ市井の物好きに至る多くの者たちがその秘密を解き明かそうと知恵を振り絞っても、未だに解き明かせぬ謎。


 そもそも雷属性以降にどんなものが並ぶのかという事も含め、属性数は一体いくつまであるのかも当然の事ながらわかっていない。ちなみに教会は、属性数は10まであると唱えているそうだ。10という数字は、この世界では神聖で特別なものであり、大自然の摂理なのだとか。


 昔、あの大蜘蛛が現れた日にゴードンが話してくれたドラゴンの原魔石も実在はするのだろうが、その大きさ、属性数、そして、その属性がどんな性質を持つ物なのか誰一人知らないのだ。


 まあ、レオには何とも難しすぎて良くわからない。それよりも今は間近に迫っている領都がどんな場所なのか、そっちの方の興味で頭の中は一杯だった。



 そうした古今東西の多くの者たちが渇望し、学者たちが生涯を懸けて追求しても知り得なかった魔石の謎。それを後年、まさか自分が知る事になろうとはこの時のレオは想像すらしていなかった。いや、出来るはずもなかった。


「万物の起源にして原初の姿は熱。召喚の偶数、連結の奇数。頂点に立つは支配」


 後年、数奇な運命の巡り合わせにより魔石の神秘の一端に触れる事になったレオは、それまでの魔石に対する自分達人間の知識が、如何に表面的で不完全なものであったかを思い知らされる事になる。

 魔石の秘められた権能に圧倒され、魔石が持つその驚異の能力のほんの一部しか利用して来なかった事実に愕然とする。


「まるで、金貨でおはじき遊びに興じていた幼児ではないか・・・」


彼は、そう嘆息し、肩を落としたのだった。


 ただ、それはまだ遠い未来の話。この時のレオは大草原の真っ只中で、まだ見ぬ領都に思いを馳せつつ、旅の疲れの中で一時の眠りに就いていたのである。



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