16. 魔石の常識(2)
レオが開拓村での生活を通じて知った魔石に関する知識は、主に属性数3までのものであり、それ以上の属性数の魔石についてはゴードンが教えてくれた。
そうした各魔石の特徴をまとめると、こんな感じになる。
属性数1の火の魔石は、大ネズミやモグラの魔物から採れ、その形や大きさがドングリに似ている事から、通称ドングリ魔石と呼ばれている。
実は、ドングリ魔石よりも小さな魔石もあるのだ。昆虫の魔物である魔虫から採れるゴマ粒サイズや、小豆、大豆サイズの魔石も存在する。ただし、これらを火に放り込んで火魔石にしても、人が操る事が出来ないのだ。発熱させる事は出来るのだが、止める事が出来ず、そのまま塵になって終わりとなる。だから、この世界では使い捨ての小さな発火源という認識であり、魔石とは見做されていないのだ。
ドングリサイズ以上の物から人が思念で操れる様になり、魔石と呼ばれる不思議な存在になるわけだ。
ただし、ドングリサイズの魔石は小さ過ぎて単体で煮炊きを行うのは難しい。また、暖房の熱源としても圧倒的に火力が足りない。
複数個並べて火力を高める方法もあるが、あまり密集させると魔石全体がぼやけてしまい、起動・停止が出来なくなってしまうのだ。ある程度離す必要があるため、効率は良くないらしい。
それに、それなりの個数を村の全世帯に揃えると、けっこうな数になる。結局、村ではこのドングリ魔石も、もっぱら薪や炭への火付け用となっている。ただし、薪や炭に火が移れば、ドングリ魔石は機能を止められるので、かなり長期間使う事が出来るのだ。
一方、大きな魔石を火の魔石に変換して使えば火力は当然増す。しかし、魔石の形状が意外とネックなのだ。例えば魔狼の魔石の様に鶏卵の如き球形の熱源という物も、鍋の下に余計な隙間が出来る事となり、明らかに魔石の熱を無駄にする。
この様に火魔石を使った鍋の加熱は意外と使い勝手が悪い。鍋の形状を工夫する手もあるのだが、そこまで贅沢な使い方が許されるのは金持ちぐらいのものだ。
まあ、ドングリ魔石でも円周上にグルリとそれなりの個数を配置すれば、火力を強める事は出来る。魔石コンロと呼ばれるそうした魔道具は、野営の際には至って便利なので、貴族や軍隊のお偉いさん、それに大きな商会の金持ちは使っているそうだ。
しかし、そうした金持ちも自宅では当然、専属の料理人がいるため、態々高価な魔石コンロを自宅での調理のために購入する事は無いそうだ。
金持ちなどいない開拓村では当然、村の調理や冬場の暖房は薪と炭が担っている。結局、火魔石にしか変換出来ないドングリ魔石は、もっぱら着火用として活躍するだけなのである。
なお、魔石には魔石変換の際の条件により、出来た魔石の性質が変えられるものがある。火魔石で言えば変換の際の温度がそのまま魔石の発熱温度になるのだ。
ただし、過度に高温を発する火魔石にすると、その代償として寿命も著しく短くなるため、火付け用の魔石などは普段使っている竈に放り込んで変換するのが丁度良いのである。
属性数2の水魔石は、本当に素晴らしい魔石だ。重たい水を運ばずに済み、どこでも綺麗な水が手に入るというのは最高である。村の各家には、水魔石の入った大きな水瓶が必ず備え付けられているし、村の外へ出かける際も一番の必需品だ。
ただし、このビワの実ほどの大きさの魔石は、吐き出す水量が些か微妙なので、村の家で使用する水魔石としては、魔狼の魔石を格下の水魔石に変換して使うのが普通だ。ビワの実魔石は、もっぱら村の外で使う水筒用である。
続く属性数3の風魔石は、風を起こす魔石なのだが、村ではあまり用途が無い。レオには今一つピンと来なかったのだが、ゴードンの話では風魔石の主な使い道は船だという。レオは船がどういう物か知らなかったので、首を捻るばかり。
船というのは水の上に浮かんで移動する乗り物で、大きな船だと馬車何十台分もの荷物を一度に運べる便利な物だという。発展している国や領地では、どこも船を使った輸送が常識なのだそうだ。どうも、この領地は遅れているらしい。
その船を水上で走らせるのが風魔石。
何でも、船の上に大きな柱を立て、そこに丈夫なデカい布を広げ、その布に向かって風を当てて船を動かすのだそうだ。
風に煽られる洗濯物のイメージしか湧かないレオには、残念ながら理解出来なかった。地面にわざわざ絵を描き説明してくれたゴードンには何とも申し訳なかったが、まあそのうち実物を見れば直ぐにわかるさとゴードンは言ってくれた。
なお、風量によって船の進む速度を調整出来るため、風量の異なる数種類の風魔石が船には必ず常備されているという。基準になる風魔石を保有する海運ギルドという組織があり、そうした商会では原魔石の変換に際して、保有する基準魔石の風を当てて同じ風量の風魔石を生み出すのだそうだ。
火魔石同様、変換の際の条件が魔石の性質を左右するという例の話である。世の中では、そうした船を動かすための風魔石として4段階の風量と言うか、風速を持った風魔石が注意深く変換されて高値で販売されているのだと教えられた。
開拓村での生活では実感出来ないが、やはり無くてはならない大切な魔石なのである。
一方、大型の鹿や猪から採れる属性数4の土魔石は、ハズレ魔石として有名で、未だに誰も使い道がわからない謎の魔石であるという。何せ世の中には相手を役立たずと罵る時に「この土魔石野郎!」という言い方まであるくらいなのだ。
各属性石は、それぞれの属性の中に放置すれば変換出来る。土の中に埋めておけば確かに茶色の土魔石に変化はする。しかし、このレモンないし柿サイズの魔石に対して『奇跡を示せ』とか『働け』と念じてみても、奇跡どころか本当に何も起きないのだ。
とにかく、何を念じても駄目だし、土属性だからと土に埋めて念じてみても何も起きない。そのまま何日、何十日経過しても土魔石やその周辺に何の変化も見られないのだ。
この様に、どんな些細な変化すら未だかつて確認されていないため、せっかくの属性数4の魔石を無駄にしないよう、土魔石には変換せず、下位属性の魔石に変えて利用されているのだ。大抵は風魔石に変換して船で使うらしい。開拓村の場合には、問答無用で領主家への貢納品となっている。
続く属性数5の光魔石は、火や水と同じようにわかりやすく有用な魔石だ。
ずばり、夜の灯りとして使われている。貴族や金持ちの家には必ずあるそうだ。
まあ、開拓村の場合、夜の灯りはあれば便利だろうが、夜遅くまで働きたいと思う者はいないし、本など無いから読書もあり得ない。トイレやちょっとした用事のために短時間、足下を照らすといった用途には明る過ぎて逆に使いづらい。
また、村の外灯用に使ったとしても、お隣の魔の森から大量に魔虫を呼び寄せるだけである。
結局、土魔石とともに、小麦の貢納と相殺する今の使い方こそ、一番の有効活用なのは間違いない。




