15. 魔石の常識(1)
以前、村で熊の魔物を倒して属性数6の魔石を手に入れた時は、それ1個で当時の村の小麦貢納量に匹敵する程の価値だったという。村長や村の年寄り達が相談し、熊の魔物の魔石を領主家に納め、浮いた小麦を全て村の備蓄に回したという。
魔石か小麦かどちらかを商人に売る事も考えたようだが、不作の年に備えるのと魔の森で時折起きる “溢れ” と呼ばれる魔物の大量発生に備えて、いざとなったら長期間、村に立て籠もる事が出来るように備蓄を優先させたという。
ちなみにこの熊の魔物は、異常種を除く通常の魔物の中では、最も質が悪いとされている。堀を泳いで渡れる上に、堀の水に浸かった状態で防護柵を破壊出来るだけの腕力があるのだ。村の周辺で目撃された場合、何をさておいても最優先で討伐しなければならない村の天敵だと教えられていた。
この様に村の安全を守る上で、最も危険な熊の魔物が討伐された結果、得られた魔石が食料備蓄に繋がり、村の存続に大いに貢献するというのは何とも皮肉な話である。
この世界では、魔石はすべて原魔石の状態で取引される。属性石に変換された後では、魔石の残り寿命がわからないからだ。また、長年の慣例により、属性数4以上の原魔石を領主家に納め、属性数3以下の原魔石は採取した側で自由にして良い事になっている。そうなった背景というか、過去に悲惨な話があるのだ。
元々、大きな魔石は領主に、小さな魔石は採取者にという自然な棲み分けがあったそうなのだが、ある国で領主の座についたばかりの強欲な貴族が魔石のこの慣行を破り、領民から魔石を全て取り上げようとしたらしい。危険を冒して魔物を倒す側からすれば堪ったものではない。
当然、魔石を隠す者もいたが、領主側もそれはもう厳しく取り締まった。あまりに過酷な措置に嫌気がさした村々では、何と魔物の討伐をやめてしまったのだという。それが不幸にも魔物の大量発生 “溢れ” の時期と重なってしまい、溢れの兆候を見逃してしまったという。結果、無警戒だった多くの村が壊滅し、その領地のみならず近隣の他の領地にまで甚大な被害を齎す事になった。
かくして、問題の領主家は厳しく責任を問われて取り潰しとなり、これをきっかけに属性数4を境にする現在の慣例が確立したのだそうだ。
ちなみに、魔石に関する詳しい話、とりわけ原魔石の属性数の話は、昔ゴードンから教えてもらっていた。属性数は、その原魔石が変化出来る属性の数を表す。
現在までに知られている属性は、火、水、風、土、光、雷の6つ。
最も下位になるのが火で、最高位は今のところ雷となる。属性数ごとに各魔石の特徴や変換出来る属性の種類等をまとめると、こんな感じである。
属性数 通り名 色 変換可能な属性 変換方法
1 火魔石 赤 火 火に放り込む
2 水魔石 青 火、水 水に漬ける
3 風魔石 緑 火、水、風 風に晒す
4 土魔石 茶 火、水、風、土 土に埋める
5 光魔石 白 火、水、風、土、光 日の光に晒す
6 雷魔石 紫 火、水、風、土、光、雷 落雷に晒す
これからもわかるように、原魔石は、その属性数までの下位属性すべてに変換可能だが、高位の属性への変換は出来ない。属性数3の原魔石は、火、水、風の属性石には変換出来るが、土や光、雷といった、より高位の魔石にはならないのだ。
なお、魔石の通り名は、その魔石の変換可能な最高位の属性を表している。
属性数と原魔石の大きさには明らかな相関関係があり、大きな原魔石ほど属性数も大きくなる。そして、原魔石の大きさは、それを宿している魔物の体格によっても概ね決まるため、当然どの魔物から採れたかによって属性数は決まる。
魔狼の成体から採れる原魔石は、属性数3であり、大きめの水魔石としてレオも長年お世話になっているものである。
この魔狼の原魔石も屋外で風に晒せば、緑色の風魔石になる。しかし、村では風魔石は真っ当な使い道が無いため、もっぱら水の魔石として利用している。属性数3の原魔石から変換した水魔石は、属性数2の水魔石よりも当然大きく、水量豊かで寿命も長い。この様に、原魔石を本来の属性よりも格下の属性に変換すると、より効果が大きく長寿命の魔石となるのだ。
便利な魔石は誰もが欲しがるわけだが、先にも述べたとおり、領主家への貢納に際しては属性数4が分かれ目となっている。
魔石が定期的に採取出来るのは、魔物の棲家に近い辺境の田舎の村々である。
当然、自給自足の貧相な暮らしだ。そんな村での暮らしに最低限の利便性を与えてくれるのが、火や水の魔石。そんな魔石に変換される属性数1から3の原魔石は、魔狼を筆頭に、罠で捕らえている小型から中型の魔物から得ている。
こうした比較的容易に、しかも割と頻繁に得られる属性数3以下の魔石は、辺境の村の住民にとっては、まさに生活必需品と言って良いだろう。
他方で、属性数4以上の魔石は大型の魔物の魔石であり、入手は難しくなる。
貴族や金持ちには大いに必要とされるため、属性数3以下の原魔石よりも遙かに高値で取引されるものの、田舎の村では必需品というほどの物では無いのだ。
そのため、属性数4以上の原魔石は毎年領主家に納め、その金額相当分だけ小麦の貢納量を減らしてもらっているわけだ。
こうした魔石の属性ごとの詳細についても、昔ゴードンから世の中の一般常識として教えてもらっていた。レオも興味津々で聞いたものである。




