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12. 閑話1 剣士と魔導師


 『また、今年もダメだった!』


 ギャバンは肩を落とした。マクルーファン王国で毎年開催される剣術大会。

大陸全土で最も伝統と権威のあるこの大会での優勝はもちろん、上位で善戦さえすれば、大陸各国の騎士団や有力貴族の領軍から勧誘される事も夢では無い。まさに剣士の登龍門。腕に覚えのある多くの剣士達が名誉と職を求めてやって来る。

 ギャバンもそうした剣士の一人だったが、予選は通るものの本戦で勝ち上がれないという結果が、もう3年も続いており、流石に限界を感じていた。


 自分の剣士としての技には自信があった。それなのに何故勝てないのか?

答えは明白、身体強化である。本戦を1,2回勝ち上がれば、もう残っている者は皆身体強化を会得している魔力持ちばかり。力、スピードともに常人とは一線を画す彼ら相手には、どれほど技を磨いても魔力の無い “只人(ただびと)” は敵わなかった。


 自分の剣の限界を悟ったギャバンだったが、それでも今さら剣の道を諦める事は出来ない。さりとて、身体強化の無い現状のままでは、如何に奮闘しても魔力持ちに勝つのは困難だと、他の誰よりも彼自身が一番理解していた。


 こうなったら魔力持ちになるしかない。いや、魔力持ちになれなければ、もはやこの先自分の剣の道は無いとまで思い詰めた。どうにかして魔力持ちになる方法はないものかと足掻き続ける。そして縋る思いで一つの俗説に賭けてみる事にした。


 それは、魔物を倒すと魔物が死ぬ間際に放つ魔力を、倒した者がその身体に取り込めるという俗説。それを繰り返して魔力持ちになった者がいるという説である。


 確かに、辺境の村の住人の中には、幼い頃から魔物退治を繰り返して来て、魔力持ちになった者がいるという噂が昔からあった。ただし、どんな魔物を、どれだけ倒せば良いのかといった詳しい事は誰も知らなかった。


 そこで、ギャバンは魔物千体の討伐という誓いを立て、魔物被害で困っていると聞き及んだ村へと移り住む事にしたのだった。妻と生まれたばかりの赤子を連れて。

 こうして村にやって来た彼は、魔の森の外れに長年放置されていた(きこり)小屋に住み着き、早速、魔物討伐を始めたのである。


 彼が村へ来た当初こそ、奇異の目で見ていた村人たちだったが、魔物を退治してくれる上、倒した魔物を村へと(もたら)すギャバンの活躍を大いに喜び、村の一員として受け入れたのだった。

小さな樵小屋ではあまりに不憫と、村人総出で村の中の空き家をギャバン一家のために改装してくれた。村に移住して一年、子供も歩き始めた頃であり、樵小屋では何かと不便と不安を感じていたギャバン夫婦も、これには大いに喜んだものだった。


 その後3年ほどかけて、ついに魔物千体の討伐を果たしたギャバンは、期待に胸を膨らませ、夢よ叶えと祈念しつつ教会へと乗り込んだ。しかし、無情にも判定結果は魔力無し。彼がその場にへたり込んでしまったのも無理は無い。


 ところが、がっくり両手を床に着くギャバンの横を、何も知らぬ彼の幼子がトコトコと通り過ぎ、魔道具に触れたのだ。そして、何と光らせてしまった!


 世間や教会では、ギャバンの努力を認めた神が、彼の子供に恩寵を与え(たも)うたと(はや)した。その後、彼の息子は、父による剣術の手ほどきと身体強化の鍛錬により、父が果たせなかった剣術大会での優勝を見事に成し遂げ、剣士ギャバンと魔物千体討伐の物語は大陸全土に広まったのである。


(もっと)も、このギャバンの魔物討伐を真似しようという物好きは流石におらず、世間ではやがて、怪しげな「お伽噺(とぎばなし)」の一種として語り継がれる様になるのだった。


 しかし、この逸話は噂レベルの俗説にも真実が紛れている事を示した。

ギャバンの子が魔力持ちと判定された時、念のためにとギャバンの妻も魔力判定を受けたのだが、結果は「否」だった。

 そう、これは魔力無しの母親から魔力持ちが生まれた事実を教会が認定した希有な事例なのだ。魔力には、依然として謎が残されているという証左なのである。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 『魔物が跋扈(ばっこ)する魔の森では、そこにいるだけで魔力の回復が著しく速い』


エリックがその事実に気づいたのは、全くの偶然、言わば怪我の功名であった。


彼は、イェルマーク王国宮廷魔導師団の末席を汚す、第一階梯 “芋虫” 魔導師。

大国イェルマーク王国における魔導師の頂点である宮廷魔導師団の一員。

 まさに、絵に描いた様な若きエリートのはずなのだが、平民出身のエリックにとって、宮廷魔導師団での日々は随分と苦いものだった。


 同期の魔導師たち(彼らは皆、貴族家出身だった)が、それぞれの師について王都の華やかな宮廷魔導師団内で、修行と論文作成の魔導師生活を送っているのに対し、エリックだけは魔物討伐のために辺境の村々を巡る “ドサ回り” 生活であった。


 辺境の地に時折現れる強力な魔物。現地で手に負えない場合には、王都の騎士団や宮廷魔導師団へ討伐依頼が来る。本来なら、それぞれの団内で適切かつ平等に割り振られるべき討伐依頼なのだが、実情は平民出身で何の後ろ盾も無いエリックの様な者のところへ、いつも回されていた。


 彼を見出し、宮廷魔導師団傘下の魔法学院に入れてくれた魔導師は高齢で、彼が魔導師団に入団した年に体調を崩して引退してしまった。魔導師団内で新たに彼の面倒を見てくれる師匠はおらず、エリックは魔物討伐のための便利屋扱いだった。


 そのドサ回り生活で、魔導師である彼の護衛のために騎士団から派遣されて来た騎士や兵士たちも、その全員が平民出身だと知った時は笑うしかなかった。


 そうしたエリックのドサ回りが始まって間もない頃、とある討伐の際、彼は魔の森の奥で魔力切れを起こした。魔物との想定外の遭遇が相次いだ結果であった。


 本来、強大な魔物ほど、その棲み家である魔の森から出て来る事は無い。

絶対的な縄張りを持つ強者ほど、森から這い出る必要性が無いからだ。森から出て来て周辺の村々に害をなすのは、生存競争に敗れた中低位の魔物であり、それらは普段から地元民によって対処されている。


 稀に現れる、地元勢力の手に負えない強力な魔物に対して、王都へ救援要請が入るわけだが、地元民が被害を被っているという事は、魔物が森から這いだして村へとやって来ているわけだから、魔の森内部にまで踏み込む必要は、本来無いのだ。


 しかし、その事を、討伐初心者のエリックや護衛隊の面々は知らなかった。

手酷い損害を被った村の住民たちに懇願され、魔の森に踏み込んだのだった。

問題の魔物を求め、森の奥へと迷い込んでしまい、次々に強力な魔物と遭遇。


 既に魔力切れ間近の倦怠感を覚えていたエリックと、彼の護衛隊の前に大蛇が現れたのだ。何故こんな時にと思いたくなる様な、その日一番の大物だった。人を軽く丸呑み出来そうな巨大な蛇の魔物。エリックに選択の余地など無かった。

 今まさに護衛隊に襲い掛かろうとする大蛇に渾身の火球を放ち、エリックはそのまま気を失った。


 目覚めたら、そこは洞窟の中だった。

チーム全員が無事である事を知り、ホッとする。そして、驚愕した。


 魔力枯渇後の倦怠感。それが、まったく無い事に気づいたからだった。



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