10. この世界を統べる者
「でもな、もし、お前さんがドラゴンの原魔石を持ってるなら、話は別だ。そいつがあれば大魔王と呼ばれ、王たちですら皆、お前さんの前に跪くだろう。
ドラゴンの原魔石を持つ者は、王に王たる大王であると同時に、すべての魔物を従える魔王でもあるんだ。人と魔物すべての頂点に立つ大魔王こそは、この世界を統べる者、要するに支配者だと言われてる。お前さんも狙ってみるか?」
ゴードンはレオに悪戯っぽく笑いかける。ドラゴンの原魔石ねえ。
レオも原魔石の摩訶不思議さは、よく知っている。あの妖しく揺らぐ虹色の紋様を浮かべた石。見ていると引き込まれそうな気さえするあの石に、多少なりとも似た物を人が作れるとは到底思えない。偽造なんて絶対に不可能だ。
「まあ、どうすりゃ、そんな物が手に入るのか誰にもわからん。しかし、見れば誰もがわかるはずだ。お前さんもわかるよな。そして、その大きさ。たぶん、人が持ち上げきれん様な大きさと重さなんだろうよ。
まあ、そんな物を手に入れる事が出来る奴は、ドラゴンをも倒す神の如き英雄か、はたまた途方もない幸運の持ち主というわけだろうさ。どっちにしろ、この世界の人間のてっぺんとして相応しいとは思わないか?」
そう言うとゴードンはニヤリと笑う。確かにそうかもしれないとレオも思う。
原魔石の大きさや重さは魔物の種類で概ね決まってくる。大きく、強い魔物ほど原魔石も大きいのだ。これまで村で倒した一番大きな魔物が熊の魔物で、後足で立ち上がった時の高さは、大人の身長の倍はある巨体だった。
その原魔石はメロンほどの大きさがあったが、それでも大人が何とか片手で持てる代物だった。人が持ち上げきれないほど大きな原魔石とか、それを宿した魔物の強さとか、レオには正直想像もつかなかった。
さっき見た、あの大蜘蛛の原魔石でもたぶん、そこまで大きくはないだろう。
大蜘蛛よりも大きくて、さらに強い化け物を倒す事など、とても人間に出来る事ではないとレオは思うのだった。
さて、ゴードンによるドラゴンや天下国家といった、レオには想像の外ながら、手に汗握る話もここから一転急降下。何とも夢の無い現実世界へと落ちて行く。
「まあ、仮にお前さんがドラゴンの原魔石を手に入れる幸運に恵まれたとしても、誰もが目の色変えて欲しがる代物だ。他人に横取りされる前に、それがお前さんの物だと皆に認めさせる方が、よっぽど難しいだろうよ。良くて、王や貴族に献上。下手すりゃ、奪われ、殺されて終わりだ。幸運もデカ過ぎりゃあ、却って不幸の始まりってもんさ。世知辛いもんだよなあ。」
夢は無いなりに、それでもゴードンの話は面白い。レオは耳を傾け続ける。
「強い魔物に勝つ方法だが、やっぱ魔法しかねえな。どんだけ人がいても弓や剣、槍でどうにかなるのは、せいぜいが熊の魔物までだ。それ以上の魔物、さっき見た様な異常種を相手にするには、離れた場所から威力のある魔法を撃てる魔導師がいなきゃ話にもならん。魔法で弱らせ、足を止めてから騎士や兵士がタコ殴りにして止めを刺すのさ。
お前さん、魔法使いになるにはどうすりゃ良いのか聞きたいんだろう? まあ、子供はみんな、魔法大好きってなもんだからな。」
レオは、期待を込めた目でゴードンを見つめ、コクコク頷く。ゴードンもレオに随分と馴染んだようで、すっかり砕けた調子で笑いながら語ってゆく。
「悪いが、そこはまあ、俺もよう知らん。以前聞いた話では、子供の頃に魔導師のところへ弟子入りするか、そうでなけりゃ、魔法学院に入学するかだったと思う。
ただし、魔力が無けりゃあ、どっちも認められん。例え、どんなに偉い王侯貴族や大金持ちの子供であっても、そこは例外無しだ。まあ、魔力の無い奴が何かの修行で魔力持ちになった事例は無いそうだしな。
ちなみに平民が魔力持ちと認められるには、大きな街の教会にある魔道具で判定する事になるな。残念ながら、ここの領都にはその魔道具は無かったはずだ。
魔力はさっきも言ったとおり、ガキの頃から魔物と闘っていた奴は、魔力持ちになる事があると聞いた。でも、そういう奴は滅多にいないらしいけどな。
まあ、世間の常識では魔力は母親から子に伝わるものだ。魔力持ちの女が産んだ子が魔力持ちになる。だから、宮廷魔導師を代々出してる魔導貴族と呼ばれる連中は、お互いに娘をやり取りしてるそうだし、魔導師を一族に取り込もうとする貴族や金持ちは、女魔導師や女魔力持ちを必死になって囲おうとするそうだ。」
そこまで話したところで、ゴードンは一息吐く。レオの母親の事が一瞬気になったのだが、レオが両親の事を一切覚えていない孤児だった事を思い出すと、あえて微笑を浮かべ、少々脱線した話を語り出す。
「ただ、例外もあるみたいでな。薄情な貴族が女魔導師に子供を産ませた挙げ句、産まれた赤子だけを奪い取って母親をお払い箱にしたけれど、成長後に自慢の子供には魔力が無いとわかり、大騒ぎになった話があったのさ。外道貴族が自業自得で盛大に “ザマァ” されたと、大いに話題になったもんさ。」
その話は、国のあちこちの酒場で盛んに語られたそうだ。日頃の貴族への鬱憤もあって、皆大笑いしたと言う。ゴードンも久々に思い出して豪快に笑うのだった。




