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紫苑の花束

作者: 平野 箏

一年に一度、僕は君に紫苑の花束を送る。

あっという間の様な、長い時間だった様なそんな感覚が僕を襲う。


僕と君が出会ったのは十年前…。

おや、もうそんなに前だったかな。時の流れは早いものだ。

僕は大学三年生、君は一年生だった。偶々授業中が一緒でグループワークで同じ班になった事がきっかけだった。

艶やかな黒髪に同じくらい黒い瞳。花が咲く様に笑うもんだから僕はあっという間に心を奪われてしまった。

グループワークの為にと言って連絡先を交換し、廊下ですれ違えば挨拶し少しずつ仲良くなっていった。

グループワークが終わる頃、連絡する口実が無くなった僕は焦り、君に告白した。あの時なんて言ったかな。

「一目惚れです。付き合ってくれませんか。」

こんな感じだった気がする。なんともストレートである。

君はふわっと笑って「いいですよ」って言ってくれた。

天にも昇る気持ちだった。

それから色々な所へ二人で行った。笑顔ももちろん好きだけど驚いたり、怒ったり、眠そうにしたり新しい君の表情がすごく愛おしくてしょうがなかった。何処へ行ったかは余り覚えていないけど君の表情は覚えてるんだ。 

僕が社会人になって働き始めて、一時期会えない期間があった。あの時はしんどかった。電話で話せたけど顔が見たくて無理して時間作った時は君にすぐバレて怒られたっけ。君の家で昼間に寝かしつけられたのはいい思い出だ。寝るのが勿体なくて君の後ろ姿を目蓋が閉じるまでずっと見ていた。

日が沈んだ頃に起きると君が料理をしていた。いい匂いに釣られて身体を起こすと君は僕を見て「おはよう」と悪戯っ子の様に笑った。君の料理を食べながら幸せだなぁと思った。

君が社会人になって半年くらいかな。指輪を買ったんだ。結婚してほしいことも伝えた。ご両親に挨拶も済ませた。全部順調だと、このまま幸せが続くと思ってたんだ。君が突然居なくなってしまうまでは。

僕は嘘だと思いたくて電話したり色々な所を探してみたけれど、何処にも居なかった。もう声を聞くことすら出来なくなってしまったんだと、僕の心は暗闇に突き落とされてしまった。仕事も手に付かなくなってしまって辞めてしまった。結婚式の為に貯めていた紙切れが生活してたら無くなって行った。

君がいなくなってから景色がモノクロなんだ。味がしないんだ。感情が死んでしまった。でも、それでも死ぬのは怖くて、生きたい気持ちが大きくて少しずつ外に出る様になった。

君がいなくなってから五年が経つね。

あれから色々な人と出会って景色に色がついてきた。彼女も出来たんだ。彼女もよく笑う人で少し君に似ている。

付き合い始めた頃、彼女がこう言ったんだ。

「私は二番目でもいいですよ。」

って。君の事を話した事がなかったからそれは驚いた。その時の彼女の笑顔が君にそっくりだったもんだから思わず泣きながら話してしまった。

彼女の事は大切にしているつもりだしお腹に赤ちゃんもいるんだ。君と過ごせなくなってしまった分、これからは沢山2人を大切にしようと思う。


今日は君がいなくなってしまった日。

いつもとはまた違う真っ黒な装束に身を包み、君が眠っている場所へ手を合わせる。

また来年、紫苑の花束を持ってくるよ。

メモ帳にあったので、供養です。

花言葉を調べるのが好きで、花言葉にまつわる話が何個かありました。

紫苑の花言葉は「追憶」「あなたを忘れない」「遠くにある人を想う」です。

花言葉短編シリーズでも描こうかしら。

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