喧嘩別れの雨の交差点
コンビニを出て百メートル歩いたところ、ビニール傘のぼやけた世界の向こう、見慣れた後ろ姿を見つけた。
振り向くな、振り向くな、と念じる小さな交差点の一角。
『この傘を使って帰るといい』
その折り畳み傘は、私のすぐ目の前で開かれている。
重いグレーの傘。
空と同じ色ね。
私が欲しかったのはそんな言葉じゃなかったのに。
例え片方の肩が濡れたって、あなたの隣にいたかったのに。
あなたが私を気遣ったって知っているけれど、譲りたくなかった。
結局、私の肩は両方とも濡れている。
それどころか、スカートも、膝も、靴も、髪の毛も。
だって私はあなたを置いて駆け出した。
『さようなら』
そう言って。
借りれば良かったなんて思っているわけじゃないけれど、この雨のこと、走って帰るにも限界があった。
駆け込んだコンビニの先はあなたの帰り道。
私を送るときには決して通ることのない道。
今はただ、傘に阻まれた距離が憎い。
雨なんて降っていなければ、あなたの隣へ近寄れたのに。
小さな交差点の、全ての信号が赤い一瞬が終わる。
あなたは私の目の前を通り過ぎる。
顔は、前を向いたまま。
私の姿を瞳に映さないようにしたまま。
せめて私の行く手の信号が先に青になったならば、私はあなたの目を見つめれたわ。
ごめんなさい、だって言えた気がする。
だけど、あなたは去っていった。
きっと、もう、二人は元に戻らないまま。
雨は、夜になっても降り続いたまま。