6ー回想② サイド
妾が四歳の頃。
「ゲラちゃん、今日も顔がムラサキでいやがるね。お酒は程々に飲まなきゃ、だめだぜ」
「もんじゃちゃん、今日もショクシュみたいなヒゲを生やしていやがりますね」
妾は二つの人形で遊びをしていたところ。
「うっ、ひゃ、ひゃ、ひゃ!」
楽しく人形遊びをしていたところに。人を不愉快にさせる、品のない笑い声が聞こえ、いやがってきた。
「何処の野郎も大したことはない」
そこに現れたのは、妾の当時六歳の兄だ。この時から、小さな子らしい、純粋な心は持っていなく、自分の持つ力、勇能力を他者に見せびらかし、見下し発言をするゲス野郎だ。
やけに上機嫌でいやがる。また、他者をディスっていただろう。不愉快だ。人形遊びの邪魔だった。
「おい、人形遊びの邪魔だぜ、ゲス兄」
「て! 誰がゲスだ! てか、四歳がゲスなんて使うなよ! 品がないな! 四歳とはいえ、仮にも皇女だぞ、貴様は! 品性のない妹がいるなんて、恥ずかしいだろ!?」
いや、あんたの笑い方も品がねぇだろ!
「テメェー、こそ、また、人の悪口ばっかり言っていただろ!?」
「兄に向かって! テメェーとは何だ?」
顔を合わせてば兄妹喧嘩をするのが、日常だった。
「二人共! 喧嘩はいかんぞ!」
この声がデカく、暑苦しい顔している人は若い頃の妾の親父だ。
「父上! マリンの奴、僕をディスって」
「ふむ、マリンの口調の悪さは、確かに問題だな。誰に似たんだが? ……まあ、それは置いといて、俺がここに来たのは、お前のことだ、ローラン」
「僕ですか?」
「また、訓練中の兵士に対して見下していただろ? 何だっけ? 『君たち凡人はいくら頑張っても、僕には到底追いつかない。精々、身の程弁えたうえで、国のためにせっせと働けよ』だっけ? とても、六歳とは思えないほどの、ゲスっぷりだな」
全くだ。やはり、自分のゲスっぷりを披露していたか。熱血バカの親父は当時の話ではあるが、親父の子供とは、思えない程の、高飛車でゲスな兄だ。
当時のハ騎将のゲブンやガロンや政治関係者には人望がなく、悪政を働くような輩はいなかった。だから、兄はそういう悪党並みの人達の影響は受けなかったはずなのに。
「訓練をバカにしてはいけない。確かに、お前は勇能力を持っている。だが、イコール強いと言うわけではない。強い力を持って生まれたなら、その力の重みを知るために訓練しなさい」
「嫌ですよ。そんな汗かくようなことをするなんて。それに僕は訓練しなくっても、強い……」
「人の話を聞いていたか!? このゲスヤローが!!!」
大声でゲス兄を怒鳴る親父。関係ないと、わかっていても、妾に対しても怒鳴り散らしている気がしてくる。
「お前はゲスを極めるのではなく、己の精神を鍛えるために訓練をするのだ。強い能力や道具には善悪はない! あるとするならそれは使い手によって変わるものだ。強い能力や道具を持つことは己を強くするのと、同時に、悪になりえる、かもしれない物を、持つという責任を背負うのだ。分かったか!」
「ちっ、わかりましたよ。皇帝殿」
ゲス兄は舌打ちをして、何処へ行ってしまった。
「親父! あれは絶対に訓練しませんよ」
「まあ、一筋縄にはいかないか……」
親父はため息を吐く《つ》と妾の方へ振り向く。
「マリン。口調が悪いのは、多めに見るとして、お前は人を思いやられる優しい人になりなさい」
「分かったよ、親父」
「ははは、まだ四歳の子に、親父と呼ばれたな」
こんな親父がどうして、あんな人情のカケラのない冷酷な皇帝になったんだろうか?
問題を起こした兄を強く叱るところは変わっていねぇが。




