6-4 ナギサイド
翌朝の帝都ナウザの宿屋。
カチュアは一人、泊まった部屋に戻ろうとしていた。
「お腹空いたわ~」
『まだ、朝食を食べてから、三十分も経っていないが』
「まだ、半人分しか、食べれなかったわ~」
『私の見立てだと、十人前ぐらいは、あったと思うんだが』
カチュアは沢山食べるわりには、太っていないんだよな。腹回り細い。しかし、胸はデカい。
食べるといえば、エドナもよく食べるわりにはカチュア同等太っていし、寧ろ、腹回り細い。そして、こっちも胸がデカい。
二人の胃袋は胸にあるんじゃないかと何度も思うよ。二人の食べっぷりを見ているだけで腹一杯になるよ。
カチュアは自分の部屋、と言うよりか、エドナと共同で泊まっている。その部屋に入ると。
「ほ~。やっと、戻ってきやがったか」
部屋に入ると、見慣れない女の子が、ベットで横になっていた。
街中を歩いて回って見ても、カチュアのような蒼髪は殆どいないが、黒髪も珍しい方だ。この女の子がその黒髪だ。髪型は短めでツインテールと少々子供っぽい。
一見可愛らしい少女だが、気のせいだろか? 言葉遣いがあまりよろしくなかったような。
というか、こいつは、泥棒か、何かか?
「こんにちは~」
呑気に挨拶をする。
『こんにちはじゃ、ないだろう! 侵入者だろ?』
「え? ん~。あなたは怪しい人ですか~?」
『いや、怪しい人でも『怪しい人ですか?』って聞かれても『怪しい人です』って、答える人、いねえだろ?』
少女はため息を吐きながら、ベットから降りた。危機感持っていない、カチュアに呆れているのか?
「まあ、その反応だと。テメーはこの国の出身ではねぇのか? まあ、田舎だと、妾の顔を知らないものいるがな。帝都の人間でも、滅多に顔を見せないから、知っている人がいるのかは怪しいが。……まぁよい。妾は名はマリンだ。そこのところ、よろしくお願いしやがれ」
この子、この国だと、有名人か? 確かに自分のことを「妾」と言っていたから、貴族かな? だけど、さっきから、言葉遣いが不良かって、言いたいぐらい、悪い。……やっぱり、気のせいか?
「ところでテメーは、妾の兄になって欲しい、アルヴスと親しいそうに話しやがったな。おまけに、そのルナと同行しやがって。しかも、親しくしやがって!」
気のせいじゃない。めっちゃくちゃ口調が悪いな。しかも、二人称、「テメー」だし。
てか、「兄になって欲しい」ってなんなんだ? お飯事する年齢には見えんが。ストーカーか? アルヴスとルナの知り合いか?
「まさか、魔女風衣装の中身が伝説の女将軍のような女性とは思わなかったが。おまけに乳はデケえし」
「何か~。着いてきたような言い方のような~」
『着いてきていたんだろうな』
まあ、魔女格好は昨日しか、着ていないからな。
「そうだ。……で、チチお化けであるテメーは何者か?」
「カチュアよ~」
チチお化けという僻みはスルーかよ。笑顔で名乗っているし。いつものことだけど。
「カチュアね。テメーは頼りないが、妾の姉にしてやろうぜ」
何がどうしたら、カチュアを姉として勧誘するんだよ。兄弟いないのか?
「確かに、わたしには妹がいるわ~」
そう言えば、カチュアに姉と妹が居たんだっけ? アンリとリリカとか言う。
謎の少女とやり取りしていたら。
バキーーーン。
何の音?
扉を見ると、突然、ドアノブが外れた。ゆっくり開くと。
「はうう……」
エドナの姿があった。なぜか頭を押さえていた。
「あ! カチュアさーん」
「あれ? エドナちゃんだ~。どーしたの?」
「てか、今の何の音? 何かが壊れた音にきこえたけど」
やばい! 思わず、表に出してしまった。気づかれていないよね。
「あたし、カチュアさんを呼びにきたんだよ。でも、入口前でポケットに入れっぱなしだった、お金を落としちゃったんだよ。それで、拾って、立ち上がったらドアノブにぶつかったんだよ! はうう……端っこ辺りに当たったんだよ……」
「 そこは……一番痛いな」
また、表に出てしまった。ほんと、気をつけているつもり。
「いや、破壊神か? テメーは? ぶつかっても、あそこまで破損はしねぇだろ?」
普通なら。この子は別。本当に、ドジやらかしても、普通あんな状態にならないことを、やらかす子です。
エドナと謎の少女マリンの目が合った。
「カチュアさんの知り合いですか?」
「え? エドナちゃんか、ユミルちゃんの知り合いじゃないの?」
「え? 違いますよ」
「あー、昨日のもう一人の乳お化けか。乳のデカさを除けば妾よりも年下だがな」
背丈のことか? 確かに、ベットから降りて、立ち上がったマリンの背丈は、小柄の方だが、エドナよりかは、高い方だ、
「テメーは何歳だ?」
「十五歳なんだよ」
こっちも、乳に関する僻み? はスルーで名乗っているよ。
「妾と同じ歳か! こんなミニマムサイズで、牛見たいな乳をした女が、いやがるなんて」
「酷い! あたしは確かに背丈は低いけど牛なんて酷い!」
いや~。牛は背丈のことを言っているわけじゃ、ないんだけど。てか、低身長に関しては反応するのか。
「テメーの名は?」
「エドナです」
こっちも、何の疑いもなく、名乗っているよう。まあ、いつものことだが、一応、不法侵入者だよ。この人は。
「エドナか。テメーの噂は聞いていやがる。強盗犯を突進して捕まえたったそうだな」
「突進って、これじゃ、あたしが、まるで猪みたいなんだよ!」
滑ってぶつかったのは事実だが。
「しかし、同じ歳か~」
「どーしたの~?」
「いや。この際、エドナと妾は、双子の姉妹設定にしよう。だが、問題はどっちが、姉かだ。背丈は妾の方が高いが、胸はエドナの方がデケいしな。どっちが姉がいいか」
普通に生年月日の「月」と「日」で決めればいいのでは? いや、何を言っているんだ私は。
「何の話?」
「いや、妾は仲のいい兄妹関係に憧れているだけだ」
憧れるって、兄弟いないのか?
「本来はアルヴスとルナの兄妹しか、認めねぇ、つもりだったが、テメーらを妾の兄妹として、認めよう」
上から目線で言っているが、何を言っているんだ? この子は? カチュアとエドナが、この子の親と養子縁組でも、するってことか? でも、そうなるとアルヴスとルナもだよな。
「初対面だが、テメーらと、一緒にいたら警戒していた妾が
バカ見たいになりやがった」
うん。警戒するのはカチュア側だと思う。あんたは、侵入者だろ。
「アルヴスとルナに、接触があったテメーらを視察だけしに、来たんがな。悪い奴じゃないのは確かだ。信用ができそうだ」
「ありがと~」
「何だか、分からないけど。ありがとうなんだよ」
いいのかよ? そう言えば、この宿屋に入る前にカチュアが、視線が気になる的な、ことを言っていた。それがマリンだったのか。
「カチュアさん、エドナさん、こちらにいらっしゃいましたか……」
今度はルナが来たよ。ルナとマリンの目が合った。
「おお、我が妹のルナじゃねぇか」
「誰か、妹ですか!? この、兄のストーカーが!!」
「アルヴスも満更ではないがな」
「何、兄様を誑かせているんですか! この泥棒豹が!!!」
「そこは猫じゃねぇのか?」
「あんた、みたいな凶悪な女! 猫に例えるのは可愛い過ぎます。危険種に例えるのが。あんたみたいな女にピッタリですよ」
「まだ、ルナには妾を姉として、認めてくれねぇか。妾に何が足りないのか?」
「認め以前の問題だと思うが」
やばい、表に出してしまった。
「ルナちゃんの知り合い~?」
「知り合いっていうか、この国の皇帝の娘ですよ」
へぇ~、この不良口調する娘が、皇帝の娘というより皇女様か。
「……て! 皇帝の娘かよ! なんで、こんなところにいるんだよ!」
また、表に出てしまう。
「あら~。そうなの~?」
「皇帝様の娘なんだ!」
驚いている私に対して、相変わらずというべきか、リアクション薄いよな、二人は。
てか、ルナは何気に皇女様相手に罵倒を浴びせてなかったけ?
「てか、兄妹と言いますが、あなたにも兄が……」
ルナが言いかけようとしたところで。
「あんなゲス兄貴のことを言うんじゃねぇーーー!!!」
行成大声を出したよ。カチュアは耳を塞いでいる。エドナは……また、やらかしているよ。驚いた拍子で後ろに倒れて床に穴を開けているよ。
「あ! ……すいません」
あんな迫力のあったのに、ルナはまったく動じていない。
「あたし、村長さんから聞いたことあるんだよ。皇帝の息子さんは身分が低い人を見下す、品性のない下劣な人だから、皇帝候補からきっと外れるだろうって! どう意味だろう? 皇帝になれないことは分かったんだけど、話を聞いても、何で外されるのか分からないんだよ。カチュアさんは分かる?」
「ん~、分からないわ~」
話を聞いている限り、たぶん、その人、ゲスとか呼ばれているいそうだろうね。
この二人の脳内辞書には「ゲス」とか、汚い言葉なんて載っていないだろうね。使っていたところなんて、見たことないし。仮に口にしても、たぶん、意味は知らないだろうね。というよりかは理解ができない?
「あなたのゲス兄のことは、知っています」
皇女の兄ということは、この国に皇子だよね? 自国の皇子を「ゲス」ってディスっているよね? まあ、身内で、酷い性格の持ち主の話なんてしたくないだろうね。
「しかし、ルナの兄様の妹は、ルナだけです! その席は譲りません!」
「良いではねぇか。ルナを妹の席を引きづり落とそうと、していないではねぇか。この際、二人で妹に」
「他当たれ!」
「アルヴスほど、信用できる兄はいない。居たとしたら、その野郎も含めて、大兄妹に」
「どうして、そうなるんですか!」
ツッコミ処満載だな。てか、ルナの口調も悪くなってきていないか?
「兄妹仲がいいのが良いだろう。それに妾はアルヴスを婿に迎えろと言って、いないだろう」
『好意があるわけではないのか?』
「それは……一理ある。だけど! 兄様の妹の座は譲りません!」
譲るもなにも、血の繋がりだけなら、ルナから、その妹の座を下ろせないだろうに。てか、奪い合うものなのか?
「否定し続けても、妾はルナの姉として認めて貰うまで、諦めねぇ」
「しつこいと嫌われますよ!」
「往生機が悪いのも、アルヴスに嫌われやがるよ」
「何気に兄さまの名前を使うな!!」
ルナの全身から、緋色の炎が噴き出してきた。まるで、怒りを炎で表したような。此間のカチュアが全身蒼い炎を纏ったみたいに。
カチュアの蒼い炎は、体が硬い魔物になったヴァルダン兵には有効に対して、転んでぶつかったエドナには何の影響はなかった。不思議な炎だ。
だけど、ルナの炎は、私たちが《《よく知っている炎》》。普通に燃える。現に、床が焦げている。
『この状況どうにかならないのか?』
「仲がいいね」
「そうですね」
微笑ましい笑顔をする二人。
『いや、止めろよ!』
放置していたら、宿屋、全焼するよ。
もう! 私の周りって、破壊神の生まれ替り、多くないか?
この後どうなったかは、ご想像にお任せします。




