6ー1 マリンサイド (場面変更)
ヴァルダン国による侵攻によって引き起った、コルネリア帝国とヴァルダン国との戦争が始まりやがった。だが、先日、コルネリアがヴァルダンに勝利したと報告を受けやがった。
それで、今日は、それに関しての円卓会議が行われていやがる。ヴァルダンの今後というよりかは、ある将の失態に関してだ。
妾は、その会議の様子を、盗み聞き……、隠れながら、見ていた。
「そうですか、ヴァルダンを打ち取りましたか。相手が蛮族とはいえ、大群。さらに、勇能力の持ち主すら、手こずらせた、怪しげな武器を扱かってきたと報告を何件か聞きました。それなのに勝利に導いたとは。さすがはシグマですね。どこかの筋肉バカとは大違いですね」
マティアス。二十年前、現皇帝である親父にシグマと一緒に悪帝を倒しやがった、空の勇者と呼ばれている英雄の一人。
八騎将にして、宰相を務めている。問題のある、将に振り回されているのにも、関わらず、ニコニコとした表情をしやがる。
だが、アルヴスもそうだが、あの笑顔をするマティアスのヤローはちょっと……いや、かなり不気味でいやがる。
まあ、アルヴスの場合は使命感の表れだろう。アルヴスの事情は知っているつもりだ。盗み聞きして、聞いた事だが。
「しかし、結果はどうあれ、ガロンはヴァルダンの侵入を許してしまった。処分をどうしますか? ついでにゲブンの方も」
この如何にも、性格がキツそうな印象がある女は軍神の異名を持ちやがる、レティ。
軍神という事だけあって、優れた采配を振いやがる。八騎将の中では最年少でいやがる。
確か、妹がいると話を聞いたことがあるが、その妹には合ったことはねぇ。
「ゲブン殿ですか?」
「ああ、こんな大変な時期に祭りを開き、その上、魔物が脱走してしまった。仮に賭博場の開催は良いとする。そして、魔物の脱走は何者かの手引きだったと報告は受けている。だが、奴は騒動を終止させるどころか、逃げ出した。これで魔物討伐や客の避難誘導をしていれば、皆のゲブンに対しての評価が違っていたかもしれないのに。この二人の今後を考えないと」
「そもそも、あの二人は八騎将には相応しくない。一層のこと、位を下ろすしか」
全くだ。特にゲブンだ。ヤローの父と弟は優秀だったが、ゲブンの方はポンコツ。ポンコツ《《だけ》》なら、まだ、よかったかも、しれない。寧ろ、外道と言うべきかもな。それなのに、父はそんな豚型の魔物を八騎将の席に座らせている。
ゲブンの取り柄と言えば、経済力だけ。皇帝よりも金回りがいいんだよな。その経済力は悪どいことをして得ている噂はあるが。
「うっ、ひゃ、ひゃ、ひゃ! 無様ですね、父上。部下一人をも、従わせることができないのですか?」
この品の欠片もない笑い声は?
「やはり、そろそろ、世代交代の時期。父上は席から降りて、この僕に」
面倒なのか来た。呼ばれてもいないのに、現れ、やがった。妾のゲス兄ローラン。
努力することを嫌い、皇帝の息子ということを鼻にかける、《《ゲスを極める事しかできない》》バカ兄だ。
全く、《《我が愛しの兄》》を見習って欲しいんだよ。まあ、笑顔が怖いが。
そんな、ゲス兄に呆れているのか? レティはため息を吐いた後に。
「この神聖な場で、そんな品のない顔を出さないでくれ! ゲ……皇子」
仮にも皇子相手にディスっていやがる。それに、レティは完全に「ゲス皇子」と言おうとしやがった。
「おい! 貴様! 今、僕のこと品がないっていったな! 後、。ゲス皇子と言おうとしただろう!?」
ゲス兄は気づいたようだ。
「気のせいですよ。ゲ……じゃなかった、ゲ……じゃなかった、ゲ……じゃなかった、皇子」
妾の兄がゲスなのは確かだが、レティもそう思っているが、立場ということだけあって、表に出さない様にしている……ようで、していない気がするぜ。
「おい! 何回、言い直しているんだよ! 舐めたことしやがって! この僕が誰だがわかって言っているのか!?」
「はい。ゲスですね」
「貴様! また、ゲスって、言いやがって! 僕は皇帝の息子で……」
ゲス兄が言いかけようとすると。
「すまないな、このゲス皇子が」
親父は冷たい表情で謝罪する。
「父上! あなたの息子である、僕が貶されていますんですよ! それに、父上まで、僕のことをゲス皇子なんて」
「黙れ! 貴様は所詮、ゲスを極めることしか出来ぬバカ息子だ!」
「それはあまりにも……」
「そういうことです」
このやり取りで分かると思うが、レティも妾のゲス兄のことを良く思っていねぇ。
てか、レティは一応、貴族の娘だ。とは言っても相手は、ゲスとは言え、一応、皇帝の息子だ。その皇子であるゲス兄を堂々とディスっていやがる。たくまし過ぎるだろ。
「くう、軍神だが、何だか知らないが、貴様は低脳の極めだ」
「念のため聞きましょうか? 私の何処が、低脳かを?」
「つい最近だ! 貴様は詳細不明な男を配下として迎えたではないか! これを低脳と呼び以外ないのでは?」
そう言えば、聞いたな。レティに新しい配下を迎えたと。親父やシグマに近い年齢の男性。妾は話したことはあるが、気さくな奴だった。男の人にしては、長髪。両耳に怪我をして、耳が聞こえないらしい。それ以外は不明だ。
寧ろ、人柄を見れない、ゲス兄が低脳と言われるべきでは?
「何だ、そんなことか。ゲス皇子の目は節穴ですか」
「今! 堂々とゲス皇子と言っただろう!」
「あ! 間違えました。ゲスですね。皇子はいりませんでした」
「要らねえのが、ゲスの方だ! お前! いい加減に……」
いいえ。要らないのは「皇子」であっているぜ。と密かに思った。
ゲス兄が言い掛けようと、したところで、親父が。
「黙れ! お前が低脳というように、お前に対してのゲス皇子と言っているのと、何処が変わらないのか?」
「いや、変わるだろ? 僕は皇子」
「それは聞き飽きた! ゲス息子!」
「ちょっ! 父上まで!」
「話を戻しますが、彼の魔術の腕は素晴らしい腕前。それこそ、勇能力を持つ者よりかは腕が立つと思いますが」
「ち、だが、それは魔術だけだ! 総合的には勇能力を持つ僕には劣っています。所詮、力を持たない者には敵わん。それを加えると、シグマもだ、低脳な連中を配下にするなんて!」
「貴様!! ロゼッタの母は誰だが、知っていての台詞か!?」
親父がものすごい剣幕で怒鳴り尽くす。
「ひぃぃ」
ゲス兄は悲鳴をあげる。
ゲス兄は逆鱗に触れいやがった。ロゼッタの母は、親父の同僚である、あのユンヌだから。
「確かに、あの人は英雄の娘だが、それ抜きでも、優秀です。自分が優れていると思っている、おう……ゲス皇子にはわからないでしょうが」
「おい! 言い直す必要ないだろう! 態々、ゲスと付け直す必要ないだろ!」
「は~。頭が痛くなる。貴様がいると、会議が進まん! 去れ!」
「くぅ」
ゲス兄はぶつぶつと文句を言いながら、部屋を出て行った。
「やっと、消えましたか」
「お気持ちはわかりますが、余り煽らない方がよろしいのでは? 自尊心が強い方はほど、余り怒らせると、何を仕出かすかわかりませんよ」
こんな時でも、マティウスはニコニコした表情をするんだな。何か、気持ち悪いぜ。
「……すまない。話を戻そう」
「ふむ、ゲブンとガロンの話だったな。貴公の言いたいことはわかった。だが、あのゲス息子も含めてだが、あの二人は将を下ろしたところで、ワシなら、ともかく、お主ら八騎将の言うことをまともに聞くのかは疑わしい。ここは奴らを利用しよう」
「貴方の言いたいことは、わかりました。恐らく、近いうちに次の戦いは起きる。そこで、名誉回復を口実に戦場に立たせて、彼らを道連れに敵軍を全滅させるということが」
ニコニコと笑うマティウス。親父もそうだが、親父の解釈を笑顔で口にする、マティウスに恐怖を覚えた。
だから、席に座らせるのか。追放したところ、捕らえることはできねぇ。だから、利用できる、ところは利用しようとする魂胆か。
確かに奴らは将に相応しくない。しかし……。
「私は奴らは嫌いですが、いくら何でも……」
「軍師としての冷酷さは持ち合わせていないのね、貴方は」
レティを仰ぐ、ネール。
レティの戦術は自軍の被害を最小限に抑える。初めから自軍の犠牲を出される戦法は取らねぇ。だから、だから、若くして八騎将になった。
「……あなたは冷酷ですね。とても、悪帝を倒した英雄とは思えません」
ネールは英雄と呼ばれる寄りかは、悪女と呼ばれる方がしっくりくる女だ。
「それを言ったら、この案を考えていた、我らの皇帝様だって」
「ネール! それ以上、彼女を虐めるな」
親父が怒鳴る。
「あら~、虐めるなんて~」
「前押しするが、このことはシグマには言うな! いいな!」
シグマだったら、反対するからな。
それにしても親父。昔はあんな犠牲を出すことを前提とした案を出す人ではなかったのに。
円卓会議が終わり、八騎将は部屋から次々と出ていった。と言っても、八騎将の三人しか参加しなかった。
円卓にいるのは親父のみになった。
さて、妾は愛しの兄に会いに行くか。そう言えば、妹も帝都に戻ってくるそうだ。今度こそ、妾を姉として、認めてもらおうぜ。
妾は親父に見つからないよう、円卓の間から出て行った。
いざ、ゲス兄ではない、兄の元へ。
「は~。悪帝を倒して、平和な国を作ろとしたが、ユンヌが亡くなってから、ワシも含め、皆おかしくなったな。あれ以来、戦いの嵐だ。そして、ワシも人情が無くなってきている気がする。ユンヌ、君の優しさがあれば、ワシらはあの頃に……」




