4-回想 ルナサイド
ルナの兄であるアルヴスは、あの日を栄に、笑わなくなりました。
いいえ、笑顔は見せます。しかし、兄様の見せる笑顔は、心の底から笑っていないのです。
寧ろ、兄様の見せる笑顔は、恐怖しか、感じられなかったのです。
今でこそ、そんな不気味な笑みを浮かべる兄様ですが、昔は、よく笑っていた。表情だけでなく、心の中でも、笑っていた。
ルナが五歳の頃。
当時から母様は、病気がちで、家の外から、出られるのが、難しい体だったのです。
魔道研究院の父様は、忙しさのあまり、家へ帰らることは少なかったのです。そのため、幼いルナの面倒を、主に兄様が積極的に見てくれました。
しかし、そんな兄様も、幼いながら、父様と同じ魔道研究員だったのです。魔道研究員として、忙しいにも関わらずにですよ。
そんなある日、ルナは、素性不明のならず者に、誘拐されそうになったことがあったんです。
ならず者が、ルナに近づきそうに、なったところで、兄様が助けてくれました。
「ルナ! 大丈夫か?」
「だいじょうぶです。それよりも……にいさまは、だいじょうぶですか?」
「俺なら平気だ。誘拐野郎は、俺の魔術で倒した」
「でも……」
兄様は、得意な火の魔術で、ならず者を倒しました。倒したのはいいのですが、兄様は放った火の魔術は、幼いルナでも、明らかに人向けて、放ってはいけない、火力だということは、理解していました。
そう、余りにも火力のある、火の魔術のため、ならず者は、全身、真っ黒に焦げていました。
下手したら、死んでいますよ、これ。
「やり過ぎですよ、にいさま! テキさん、まっくろになっていますよ!」
「はっはっはっ! ……俺の実力では、手加減が出来なくって……。でも、ルナが無事なら、それでいいぜ」
笑いながら、誤魔化しました。しかも、さり気なく、自慢も入っていましたよ。
今、思い返せば、わざと、かもしれません。多分、兄様は、ルナのことを誘拐しようとした、ならず者で、魔術の練習か実験体に、したのですね。
そう考えたら、ならず者は、ルナのことを誘拐しようとしたことによって、真面な法による罰よりも、悲惨な末路を辿ってしまったのですね。
「悪い人を捕まえないと、いけないのは、ルナは分かります。でも、だからと言って、悪い人を殺しちゃったら、逆に、にいさまが、捕まって、しまいますよ!」
「はっはっはっ! その時は、その時だな! 俺の中では、妹の安否優先。それ以上に大事なことは、ない。それだけだ」
また、笑って、誤魔化しましたよ、この人。その内、本当に、捕まりますよ。
だけど、ルナのことを大事にしてくれる、兄様が、ルナは大好きだった。あの頃の兄様の笑顔は素敵でした。兄様が笑顔を見せた時、自然と安心できるんです。
だけど、ルナが六歳の頃、全てが変わり果ててしまいました。
ルナ達の父様が、謎の死を遂げました。当時のルナは『父が亡くなった』としか、知らされてなく、なぜ死因までは、分からなかったです。
これにより、母様は、ただでさえ病弱な体にも関わらず、父様が亡くなられたショックで、さらに症状が悪化してしまいました。もう、何日か、食事を取らなかったことが、ありました。
「とうさま……どうして?」
父様の遺体を目の前にして、泣き崩れるルナは、兄様の懐へ抱き着く。
「大丈夫だ。ルナはにいちゃんが守るよ」
兄様はルナに笑顔を見せた。
だけど、当時のルナでも感じられていました。いつもの笑顔を見せていた兄さまですが、あの笑顔は、心の底から笑っていなかったように感じ取れました。
母様に関しては、ルナが八歳になった頃、兄様は、あの悪帝を倒した八人の勇者の一人にして、現在、皇帝を支える八人の将、八騎将であるシグマ様に仕えるようになったんです。シグマ様が、手配してくれた、お手伝いさんに、母様の面倒を見てもらい、ルナは魔術の勉強を頑張っていたのです。シグマ様には感謝しきれません。
お陰で、魔術に関しての、勉強する時間が作れて、最少年で魔術研究員になれましたから。
一方、兄様の方は、あの頃から、笑ったと、言うべき笑いをしなくなりました。
同時に、兄様はルナのところへ帰ってくる回数が少なくなってきた。たまに、帰ってきた日は、体がボロボロで、ご飯を食べる元気すら残っていなかったようで、すぐにベッドに横になってしまいます。母様も心配していました。
いくら、兄様に、何かあったのかを聞いても、答えてはくれませんでした。もう、心配で、心臓に悪いですよ、体がボロボロになって、『何もない』って言い切るのは、無理があります。
もう、体が弱い、母様を心配かけないでください!
時が過ぎ、めでたく、ルナが十歳で魔術研究員になった年の、ある日。
何のきっかけかは、忘れましたが、ルナは悟ったりました。兄様の笑顔を見せなくたった原因を。それは、兄様は、父の死の真相を探っているのではと。
そう、自分の感情を殺してまで。そう思い、ルナは、兄様を密かに探ることにしました。
魔術研究員になったルナは、魔術研究をしながら、兄様の動向を探っていました。
何も、話さない兄様が悪いんですからね。
探っているうちに、兄様は貴族の家柄関係の者や、騎士願望の者には、あまり、よく思われていなかったことを、知ってしまいました。
理由は、遺族の家柄ではないうえ、英雄の力という、勇能力を持ってないのもは関わらず、八騎将の側近になっていたから、らしいです。
実力さえあれば、家柄関係なく、出世できる帝国。力さえ、あれば、個々の実力もそうだか、身分、財力、兵器の所有。そう、力さえあれば。
だけど、国を守る、将となれば、力を高めなければならないのです。そのため、いくら高貴で身分であっても、勇能力という強力な力を所持していなければ即位ができない。もちろん、その側近も。そんな中で、まだ、歴史は浅い、コルネリア帝国で、勇能力を持たない兄様は異例の出世を果たした。しかし、納得できないものが、多く存在していて、兄様は日々陰口を叩かれていた。そして、ルナが十二歳の時にシグマ様の、もう一人の側近となったロゼッタさんも。
本当に国を守る人達の言動なのか、疑ってしまいました。
そして、ルナが十三歳、現在。兄様は、アヴァルの街にしばらく、拠点を置くとのことで、ルナも付いて行きました。アヴァルの宿を借りて、魔術研究をしながら、兄様の同行を探っていました。
決して、ストーカーではありません!
しかし、そんな中、事件が起きました。
それは、隣国であるヴァルダンの連中が、コルネリア国内で、襲撃を起こしたのです。
ヴァルダンは蛮族と呼ばれる程の連中。しかし、襲撃してきた、ヴァルダンは強敵だったと報告を受けていました。
その秘密は恐らく武器。まるで、生き物の亡骸で作られたような武器は、勇能力の持ち主ですら、手こずらせれていたらしいです。
何とか、ヴァルダンが使っていた、武器を入手し、その武器をサンプルとして、魔術研究の拠点であるタウロの街に運ばれました。
兄様は、その解析作業を手伝うため、タウロの街へ向かうことに。ルナも着いていくと言ったのですが。
「とにかく、俺が帰ってくるまでお前は留守番だ、いいな?」
「もう! 兄様たら!」
やはり、断れてしまいました。兄様はルナを置いて、一人で行ってしまいました。
「このまま、何もできないのかな? 兄様のあの顔は見ていられないのに」
一人で、背負い込もうとする兄様の背中を見ることしかできなかった、ルナ。本当に、悔しいです。
魔術研究員でも、所詮は子供です。何も、できないのです。このまま、無茶をする兄様の帰りを待つしかできないのでしょうか?
そう思っていた、瞬間でした。
ドーーーーーン!!!
え!? 何の音?
「エドナちゃん、だいじょぶ?」
「いたた……、なんとか……」
音がする方を見ると、立っている女性と、地面にお尻が付けているルナぐらいの小さな女の子の姿が。
特に目が言っていたのは、立っていた女性の方です。
綺麗な蒼い髪をしていて、さらに瞳の色も綺麗な蒼色だったのです。蒼い髪に蒼い瞳、それは、誰でも知っている、蒼炎伝説の英雄、女将軍のシェリアと同じ特徴を持つ綺麗な女性だったのです。
本当に、そういう人がいるんですね。ルナの記憶では、髪と瞳の色が同じ蒼色の人は見たことありません。珍しいです。
あ! 見とれている場合じゃなかった。
「大丈夫ですか?」
駆けつけました。
奇妙な出会い方ですが、これが、ルナとおっぱ……じゃなかった! カチュアさん。そして、おっぱ……じゃなかった! エドナさんとの出会いだったのです。
この二人合わせて、おっぱいにしか目が行かないのですが……。




