3-3 ナギサイド
——で。何それ? 人の名前?
——そーよ~。もし、私に子供ができたらの名前よ。あなたの、名前から取ったのよ~。いい名前でしょ?
——気が早くね? お前ら、恋人同士であるけど、夫婦ではないだろ?
——え~? ん~~……。でも、わたし、今から、子供が生まれてくるのが、楽しみなのよ。勿論、名前を考えるのも。
——そういうものか? まあいいや。……それで? その名前のどこに、私の名前から取ったの? 面影がないような……。
——反対にしたのよ~。そーすれば、読めるでしょ~?
——ああ、なるほどね。……って! 合っているのは、最初と最後だけだよ。真ん中が違うじゃん。「ギ」になっているよ。
——う~ん……。細かいことは気にしない、気にしなーいわ~?
——なんで、そこでハテナが付くんだよ!? でも、まあ、ネーミングセンスの一欠片すらない、あんたにしては、いい名前付けるじゃない。
——え~~。酷いわ~。わたしなりに、一生懸命に名前を考えたのに~。
——どこが? 確かに、キラキラネームじゃない。だけど、あんたが考える名前って、明らかに、ペットに付けた方が、しっくりするような名前ばかりなんだよ。
一人は穏やかな口調で話す女性。何となく雰囲気がカチュアに似ている気がする。もう一人の女性? というよりも、声からすれば、十代前半くらいの女の子の声だ。最近、どこかで聞いたことがある声だ。どこだっけ?
それにしても、この二人のやり取りは、まるで私とカチュアみたいだね。
あれ? 気がついた、風景が変わっていた。その風景の中にエドナがいた。ここは、どこかの草原か? 私は、いつの間にか、夢でも、見ていたかな。それで、私は、今さっき目覚めたってことかな?
呑気だな、私は。野生な生物がいるかもしれない、草原のど真ん中で夢を見るなんて。まあ、私自身、カチュアの中にいるから、寝ていても問題はないのか。……多分。
ええとぉ、現在のカチュア達は、何をしていたんだっけ?
確か、国境を通過するための許可書を受け取って、セシル王国へ向かう途中だったけ?
「さて……一休みも、そろそろ、終わりです。国境はこの先です。カチュアさん、エドナさん」
カチュア達の現在地は、コルネリア帝国とセシル王国の、国共付近の何もない草原にいる。そこで、現在休憩中。その途中で、私は夢でも見ていたみたいだ。
休憩中のエドナと、座ってお肉を食べているカチュアの元に、どこかへ、行っていたルナが戻って来た。
すると、ルナが、エドナを見て驚いていた。まあ、驚くのも無理もないか。
だって、エドナの全身は。
「てっ! エドナさーん! 何んで、濡れているんですか? ルナがいない間、何があったんですか!?」
エドナの服装は、なぜか、びしょ濡れだった。
「はうう……、河原に綺麗な花を見つけたから、もと近くで見ようと思って、近づいたら、転んで、川に入っちゃったんだよ」
「何をやっているのですか!」
全く、その通りだよな。
「川が浅っくって、よかったんだよ」
いや! 服が濡れているから、良くねえよ! 溺れるよりかはマシだと思うが。
「あらあら~、大変だったね~」
今度は、カチュアに視線を向けるルナ。
「カチュアさんは、何していたんですか?」
「……お昼ご飯を食べていたの~。おいしいわよ~」
「『おいしいわよ~』っじゃなくって! お昼はさっき、食べたばかりでしょ!?」
ルナの言う通り、お昼食べてから、一時間しか立っていません。
「お腹が空いちゃったから、つい」
「空かせるのが、早いですよ! そのペースじゃ、食費がバカ掛かりますよ!」
全くだ。
カチュアって、結構、食べるんだよね。カチュアの大きな胸は実は胃袋じゃないかってぐらい。確か、エドナも、よく食べる方だったような。主に肉を。だから、こんなに胸が育ったのかな? コンチクショ!!
「取り敢えず、エドナさんの服を乾かしてから、行きましょ。エドナさんは服を脱いで、乾かしている間は、カチュアのフード付きマントを羽織ってください」
「わかったんだよ」
エドナが足を一歩進もうとした。しかし。
スッコォォォォ!!!
「はわわわわわわ!!!」
ドーーーーーン!!!
転んだ、エドナは、カチュアに突っ込んだ。そのまま、押し倒れていった。
「カチュアさん! エドナさん! 大丈夫ですか!?」
「はうう……、何とか……、カチュアさん、ごめんなさい、大丈夫ですか?」
「わたしは、だいじょぶよ~?」
「……でも、改めて見ると不思議ですね」
「どーしたの、ルナちゃん~? 何が不思議なのかしら~?」
「此間のガイザックとの戦いの時です。カチュアさんって、まるで予知していたので、ないかって、思うほど、ガイザックの攻撃を華麗に避けられていました。だけど、エドナさんの突進には、何故か、避けられないませんでした。そこが、不思議なんですよ」
そう言えば、付き合いは、まだ、短いけど、カチュアが、傷を負ったことは見たことはない。与えた人と言えば、このエドナしかいない。あれだけ、敵の攻撃を躱しているのに、エドナのドジによる突進は、何故か避けたことはなかった。
「はうう! ルナちゃん!? それじゃあ、まるで、あたしが、猪型の危険種のように言わないでください!! ただ、転んでるだけなんだよ!!」
「ん~。何でだろ~? 相手の考えていることや気配はわかるのよ~。だけど、エドナちゃんのは、まったくわからないのよ~」
「……あ~。なんとなく、分かりました。できれば、分かりたくはないですが」
話を聞いたルナは納得したようだ。それだけでわかるのか!? てか、何気に、毒吐いていなかった?
「どういうこと?」
「エドナさんには、悪意を感じないって、ことです」
なるほど、それは一理ある。振り返ってみれば、カチュアが避けられる対象は、敵意ある攻撃だから、読心術で相手の行動を読んで、敵からの攻撃は躱せるんだ。
エドナのドジは、それに該当しない。いくら、読心術が優れても、エドナのドジは読めないってことだね。
……この解釈でいいのか? 納得できないような、納得するような……。
「それだけじゃ、意味はわからないんだよー」
「わたしも~、分からないわ~」
私は、分かりたくないよー。
「ざっくり、簡単に説明すると、エドナさんは神様に恵まれたドジってこと」
「まだ、意味が分からないんだけど、なんか、バカにされている気がするんだよ」
エドナは頬を膨らませる。エドナでも、怒る時はあるのか。あまり、怖くないが。
再び、出発した、カチュア達。しばらく、セシル王国へ向けて歩いていくと。
「この辺が、コルネリア帝国とセシル王国の国境です」
「ようやく、着いたんですね」
とは言っても、国境付近といっても、何もない草原だね。線とか引かれていないから、他国に入るイメージが湧かない。
「何者だー」
空の方から、声が聞こえた。空から人? が降りてきた。それも二人も。
空から降りて来ただけでも、状況が把握できないんだけど。どういうこと? 空を飛ぶのが普通のことなのか?
「わたくし、アルヴスの妹のルナです。こちら、兄の書状です」
ルナが許可書を出して、空から来た人? たぶん、警備兵かな? その人達に見せた。
「アルヴス殿の……。失礼しました。話は聞いています」
「わかりました。ところで何で一人だけ、マントを羽織って、顔を隠していますが」
「あ~、カチュアさん、取って大丈夫ですよ」
「え? いいの~?」
「さすがに、国境越えるのに、姿がわからない人を、通すわけにもいかないでしょ」
「わかったわ~」
カチュアは体を羽織っていたマントを豪快に取った。勿論、顔だけでなく、その下も出してしまった。ちなみに、マントだけ脱げ捨てたから、裸ではないよ。胸元は見えているけど。
「おお! これは、綺麗な、蒼い髪と瞳」
「それに、おっぱいが……」
やばい! カチュアがマントを取ったことで、隠させていたボディが見えてしまった。そして、このボディによって、警備兵らしき二人の、理性が保てなくなっている。
今思えば、フードだけ、取ればよかったのでは?
「それよりにも、国境がかなり、警備が厳しいようですが、何かありましたか?」
よく見たら、セシル王国側の空には、この警備兵の二人見たいな、人達が、飛んでいる。
そう、飛んでいるんだよ。この人達。
「実は、数日前から、魔物が、大量出現しまして、セシル王国内の村が、その魔物に襲われているのです」
わあ、ケダモノの顔をしながら、話を進めているよ。
いや、それよりも。
「何ですって?」
「大変だわ~。助けないと~」
「あのー。これは我々の国の問題で……」
「だいじょぶよ~。わたしは、そういうの気にしないから~。それに困っていたらお互い様よ~」
「そうですよ! 大変なことになっているんだから、助けないとなんだよ」
「おお! なんて、慈悲深きお方達! まるで女神様!」
「女神じゃなくって、カチュアよ~」
「同じく、エドナなんだよ!」
「ありがたい話ですが、まずは、王都へ向かいましょう。もし、魔物の討伐を手伝ってくれるのなら、まずは、国王と謁見をしてからで、お願いします」
「分かったわ~」
「それでは、行きましょう」
こうして、セシル兵の案内で王都へ向かうことに。
『ところでカチュア』
「どーしたの~?」
『あの人たちの背中、翼みたいのが付いていなかった?』
「……」
いつものように、黙り込んだ。
「そー言えば~……。付いていたような~……」
『もう、いいよ』
「カチュアさん、どうしたんですか? 一人で」
エドナが尋ねた。
「ナギちゃんと話していたの~」
「なんの話をしていたんですか?」
「あの人達に~、翼が付いていなかったかって」
「はう? ……そう言えば~。あれ、本物なんですか? てっきり、翼を飾りにした鎧だと思ったんだよ」
祭りとかの、衣装かよ。
「お二人さん、鳥人族って見たことないんですか?」
「ないわ~」「ないんだよ」
「……そうですか。話はわかりましたので、歩きながら説明しますよ。鳥人族含める、亜人に関して」




