Day6
久々に、僕ではない誰かの夢を見た。
現実の出来事かと錯覚するくらいに、生々しくリアルな夢だった。
僕は――否、僕に成り代わられた彼女は、いつもの散歩道である、森の中を走っていた。
視界の中で揺れる長い髪。わずかな胸元の重み。弾む呼吸。
自身の身体だけでなく、周囲の光景も、どこか違和感があった。
あたりは不自然なほどに光に包まれていて、少し眩しいほどだった。
まるでいつもの森そのものではなく、何もない空間にその映像を映し出し、余計な演出を加えたかのような、そんな不自然さを感じていた。
とにかく僕は、大きな切り株のある最深部へと急いでいた。
たどり着くと、先客が切り株に腰掛けていた。
灰色の髪の青年は悠然と座りながら、僕に向けて微笑んだ。
表情は白い霧のように覆われて見えなかったが、きっと微笑んでいた。
――君を待ってたよ、サラ。
と、彼は唐突に僕の名を呼んだ。
何故この青年は、僕の名を知っていたのだろう?
――君ならまた戻ってくると信じてたよ。
初対面のはずの青年はそう言い、僕のほうへ手を伸ばしてきた。
反射的に僕が何かを叫んだ途端、その光景はぶつりと途切れた。
ベッドの上で髪をそっと撫で、胸元に触れ、やはり僕ではない誰かの夢だと確認できた。
否、自分のままで『誰かの夢』を見る事などあり得るのだろうか。今まで『誰かの夢』だと自分に信じ込ませていたものたちは、すべて私の夢なのではないか。
あるいはここ数日の幻覚も、僕自身の本当の姿なのかもしれない。
きっと、そうだ。
あれがきっと、本物の私なのだ。
私はあの姿でいなければならなかったのかもしれない。
これまでの僕を縛りつけ、深い井戸の奥底に沈めてでも、このように在れということなのか。
だとしたら、これまでの僕は、一体誰だったんだ?
ついさっきまで眼が冴えていたのに、急に強い眠気が来た。
このまま机に伏してねむってしまおうか、
手はかろうじてうごくけれどあしはうごかない。
だれかぼくをよんでいる。
そろそろいかなくちゃ
(解読不能の文字の羅列)