Day5
〇月XX日
あれはきっと、現実世界での出来事だ。信じがたいが、現実だ。
今朝、洗面所で顔を洗い、顔をあげると、鏡の中から昨日の少女がこちらを向いていた。
憂いを帯び、まるで無言で何かを訴えているような顔つきだった。
軽く目をこすってもう一度見ても、やはり、彼女はそこにいた。
わずかの間、それを僕自身の姿だと錯覚した。彼女はどこか、僕と顔が似ているような気がしたが、それも気のせいなのだろうか。
しばらく見ているうちに、彼女は腕を軽くあげ、こちらに向けて手を伸ばしてきた。
指先が触れた途端、鏡面は波紋のようにぐにゃりと揺らぎ、そこから白く細い指が現れたものだから、僕は声を上げずにはいられなかった。
それは間違いなく、鏡の中の少女のものだった。次第に手の甲、腕へと徐々に彼女の姿が具現化していくのが見え、僕は何かを叫んでいた。
何を言ったかまでは覚えていないが、恐らく、来るな、だとか戻れ、だとかそういった言葉を放ったのだろう。
彼女の動きがぴたりと止まり、ふと我に返ったような、安心しきったような顔になり、腕をするりと引っ込めた。
少女が完全に引っ込み、波紋が収まると、鏡は元に戻り、再び本来の虚像を映すようになった。
昨日に続き、あの少女は僕に何の意味をもたらそうとしているのだろう?
幻覚:有り 夢;無し