ポーカーフェイス の 憂鬱
「佐倉君って、クールでカッコイイよね ♪ 」
「そうそう、ミステリアスな感じが素敵〜 」
そう俺は、物心ついた頃からポーカーフェイスを決め込んでいる。
思い返せば、そうだ。小学4年の新学期、幼馴染の夏希が俺に向かって言ったんだ。
「なんか、静かにしてる隼人って、大人ぽくてカッコイイね」
って。
小学生なんて単純な生き物だ。好きな子に言われたらそれが世界の全てで、当時の俺は、ポーカーフェイスを決め込む事に、全力を注いでいた。
あれから5年間、恥ずかしながら状況は変わっていない。小学生の俺も、中学生の俺も、中身はただのクソガキなんだ。
「 ドン!! 」
後ろの席で、誰かが椅子を倒したらしい。
俺は、ビクッとしそうになる体を必死で止める。動揺を悟られまいと、無表情を貫くが、心臓バクバクで今にも叫び出してしまいそうだった。
こんな風に、俺を罠にかけようとするのは本当にやめてほしい。
こっちは、毎日が
「 自らの表情筋との戦い 」 なんだから。
「 隼人、私の彼氏になってくれない? 」
その日の帰り道、夏希が突然言った。
「え…、あ…、え?? 」
動揺しまくりで、上手く言葉が返せない。
全身の血液が、急に早く巡り始めた。
きっと、顔だけじゃなく耳まで赤くなってるに違いない。
「とにかく、落ち着いて、クールに……」
俺は、念じるように1度目をギュッとつぶってからゆっくり開けた。
「 隼人 ? 」
夏希の顔も、耳まで真っ赤だった。
「 夏希、お前耳まで真っ赤! 」
俺は、夏希に言った。
「 隼人だって、真っ赤だよ 」
僕達は、思わず2人で笑った。
あれだけポーカーフェイスを決め込んでいた俺の表情筋は、夏希のクシャクシャに笑う笑顔に引っ張られ、崩壊していく。
「 隼人って、笑うと凄く可愛いね ♪ 」
今日からまた、新しい俺の憂鬱が始まる
そんな予感がする。
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