訪問者-1
「うぅむ……これは……」
アジトに戻ってから、ドクターは撮影してきた動画と画像を凝視していた。
「……何か分かるかい? ドクター」
何処から拾ってきたのか判らないような擦り切れたソファーに身体を投げ出し、デンジがマグカップを片手にコーヒーを啜っている。
「そうじゃなぁ……理解はし難いが、これは『オーバーホールをしている』と見てエエんじゃないかのぉ」
「オーバーホール? 『大規模整備』って事か」
背もたれから身体を少し浮かし、デンジが眉をひそめた。
「……あれ? ミズキさんは? ミズキさん何処へ行きました? 『ホットミルクが飲みたい!』って叫んでましたけど?」
ベルが甘い香りが立ち上る白いマグカップを抱えてウロウロしている。
「ああ、ミズキさんならシャワーだと思いますよ。さっき、そっちへ行きましたから」
フォレスターが車両整備の手を止めて奥を指差す。
「また『シャワー』ですか……水はともかくヒーターで温水を作るのが追い付かないから『湯船に湯を張って欲しい』って頼んでるんですけどね……」
やれやれとオレンが両手を振って呆れ顔をする。
「ははは……仕方ないですね。ミズキさんは湯船嫌いですから。とりあえず、ミルクは保温しておきますよ」
ベルが笑いながら大事そうにカップを抱えて厨房へと引き込んだ。
と、その時。
ピー!ピー!
無線機に、甲高い着信音がする。
「ん? 誰でしょうか?」
オレンが驚いたようにシグナルを確認すると。
「これは……? デンジさん、『チーム・アッキー』のヘリが着機許可を求めて接近しています! 開けますか?!」
少し顔を強張らせながら、オレンがデンジの方に視線をやる。
他のレジスタンスチームとは一応ハンドシェイク……すなわち『協力関係』にはあるが、基本的に単独行動だ。戦闘以外で交流にやってくるというケースは稀と言っていい。
「……こんな夜中にか? まぁアイツら得意の『隠密行動』という事かもな。いいだろう。オレン、済まないが偽装壁を開けてやってくれ。アッキーのヘリを収納する」
デンジが面倒臭そうに頭を掻きながらソファーから立ち上がり、入り口へと向かう。
「よーし、開けますよー!」
オレンが開閉スイッチを操作している。
ガコン……。
ロックが外れる重い音がして、ゴゴゴ……と岩に偽装した壁が開いていく。
「あれですね……」
暗視スコープでフォレスターが覗く先に、不気味な程に無音のまま近寄ってくるヘリがいる。
やがて入り口までやってきたヘリは、ゆっくりと着地し、静かにローターを止めた。
「……相変わらず、静かな機体だな。流石は『フクロウ』と呼ばれるだけの事はある。ローターに何か細工があンのか?」
中から降りてきた長身の女性に、デンジが声をかける。
「ふん! 私達は、偵察と隠密行動が主な仕事だからねぇ。アナタ達みたいに騒音だらけのヘリなんざ使えないのよ」
降りてきた女性が被っていたヘルメットとゴーグルを外して、ブルブル……とその長い髪の毛を振った。
「それにしても今日はどういう風の吹き回しでしょうか? リーダーの『アッキー』さんが自らお越しとは珍しい」
ヘリの収納を手伝いながら、フォレスターが横から顔を出す。
「うん? たまにはデンジの『辛気臭いゾンビ面』でも拝もうかな……って。ダメ?」
ニヤリと、アッキーが意味ありげに含み笑いを見せる。
「……悪かったな、辛気臭くてよ。陽気なゾンビならギャグだけど、辛気臭けりゃぁゾンビも王道っモンだろうが。で……何の用なんだ?」
「ドクターよ、ドクター。ドクターフグアイに用事があるの。実は昨日、エターナル社のエレクトロイド達が『不審な動きをしている』と情報が入ってね……」
勝手知ったる他人の家とばかりに、アッキーがヅカヅカとアジトの中へと入っていく。
「不審な動き?」
ダムでの出来事がデンシの脳裏を掠める。
「ええ……海岸近くの、電井も何もない荒れ地なんだけど、そこに古い時代の遺跡があってね。普段は誰も近寄らないから荒れ放題なんだけど……そこに最近、エターナル社のエレクトロイド達が集まるようになったのよ」
「やれやれ……ワシに用とは?」
奥から、フグアイが出てきた。