接近-2
ガササ……ガササ……!
草むらを掻き分け、三人はクルマまでの道のりを急ぐ。
「だ……大丈夫なの? こんなにドタバタして……上から見つからない?」
ミズキが指差す上空には、エターナル社のヘリがサーチライトで周囲を照らしている。
今ところは発見されている様子はないが……。
「大丈夫ですよ、ミズキさん。多分ね……」
フォレスターが背後に注意しながら最後尾から着いてくる。
「人間なら『あの草むらの動きが不自然だ』で、我々を空中から発見出来ますが、彼らはAI……人工知能です。『ただ草が動いているだけ』では、ラーニングに要する教師データが少なすぎて対応が追いつかないハズですから」
「だと、いいんだけど……」
尚もミズキは不安げにしていたが、それでもどうにかデンジ達ともに草むらを駆け抜ける。
「はぁ……はぁ……やっと着いた……」
倒木の陰に隠してあるクルマまで辿り着いた。
「もう! 今は別にダイエットが必要なほど体脂肪率高くないんだから!」
ブツブツと文句を言いながらミズキがクルマに飛び乗る。
「ゴチャゴチャとうるせぇんだよ! それよりチャンと『仕事』しろよ? そのために来たんだろ?!」
デンジがクルマの主電源を入れ、元来た道へとアクセルを踏み込む。泥濘んだ地面に、オフロードタイヤがギュルル……!と空転して泥を跳ね飛ばす。
「分かってるわよ! あーもう、人使いが荒いんだから!」
デンジに言い返しながらミズキが荷台から電磁式ランチャーを取り出し、電源ケーブルを車載バッテリーに接続する。
「……デンジさん、ヘリに探知されたようです。流石に、モーターとインバータの発熱は誤魔化せませんね……」
フォレスターが振り返って睨む先に、エターナル社のヘリがローターの風切音と共に迫っている。
「任しといて……!」
ミズキがランチャーのCCDスコープで狙いをつけると、スコープ下部に『LOOK ON』の赤い文字が表示された。
「今っ!」
素早く、引き金を引く。
シュゴッ……!
短い発射音とともに砲弾が飛び出す。
電磁パルスによる打ち出しと、後部のプロペラによる推進でヘリに突進した砲弾は、あっと言う間にヘリに激突した。
ドォォン!
鈍い音がした瞬間。
ブゥゥゥゥゥ……ン
音とも振動とも言えない不気味な『震え』が辺りを疾走る。そして。
フュゥゥ……。
エターナル社のヘリのテールローターが、いきなり回転を止める。メインローターも目で追えるほどに回転が鈍くなる。
その途端、姿勢制御を失ったヘリがその場でブン……とスピンをしながら垂直に落下を始める。
「デンジさん! ヘリが墜落します、急いで!」
フォレスターが怒鳴る。
「分かってるっ!」
デンジが猛スピードで山肌のコーナーを曲がり抜ける。後輪が滑る甲高い音が耳を突く。
その背後で。
ドガァ……ァァ……ン!
激しい爆発音がクルマを震わせ、閃光が辺りを白く照らし出した。
「ふぅ……とりあえず、これで逃げ切れるな。フォレスター、敵は『1機』だったか?」
デンジがスピードを緩める。
「はい、そうですね。追撃に来ていたのは1機だけです。ま……こっちに電子回路を一時的に無効化するEMP(電磁パルス)弾があると分かれば、簡単には追ってこないでしょうけど」
これが人間の判断なら「何だこの野郎!」と逆上しての追撃もあるかも知れない。だがAIによる自動選択であれば、ハイリスクな追撃はありえなかった。
「ふぅ、汗かいちゃったじゃない! 早くアジトに戻って、シャワーを浴びないと!」
パタパタと手を団扇にして扇ぐミズキは、最後まで文句が絶えなかった。