重力波地下観測所-2
「さて……何処から入ります? デンジさん」
エレクトロイドに見つからないよう建物から少し離れてクルマを置き、デンジとフォレスター、それにミズキが外壁の傍までやって来た。
「ああ、地面だ。塀の下に穴を掘って、地面の下から中に入ろうと思う」
クルマから持ってきたスコップで、デンジがトンと地面を突く。
「地面んん?」
ミズキが露骨にイヤそうな顔をする。
「こんな所まで来て塹壕堀りをさせられるとは思ってなかったわ!」
ブウと頬を膨らませながらも、服の袖をまくり上げる。
「アタシの仕事はスナイパーなんですけど!」
「ま……妥当な判断でしょうね。塀の上はどうやら赤外線センサーが入っているようですし、塀自身に大きな振動が出ればエレクトロイドが『音のデシベル値』に反応しかねませんから『カッターで穴を開ける』という荒業も使えませんので」
ザクリ……と、フォレスターがスコップを地面に打ち込んでいく。
「そうだな。それに、こうした塀の基礎なんざ精々が深さ60センチかそこらしかないもんだ。意外と浅いんだよ。だが、こうした警備を考えるヤツらはそういう知識が無いからな……地面から上しか警戒しねぇ」
デンジも、吹き出す汗を拭いながらスコップで土を掘り起こしていく。
「割と……柔らかい地質で助かりますね。これなら、すぐですよ」
フォレスターの怪力が遺憾なく発揮され、穴は見る見るうちに深くなっていく。
「見て! そこでコンクリが終わってる」
ふぅと息を付くミズキの示すスコップの先に、荒れたコンクリの『底』が見えている。地面から、50センチほどだろうか。
「よし……じゃぁ幅を広げるぞ? 何しろフォレスターの巨体を通さないといけないからよ」
デンジが気合を入れ直す。
「でもさぁ……こんな大穴が開いてて、エレクトロイドに見つからないかしら?」
ミズキは不安そうだが……。
「大丈夫でしょう。彼らはAIで判断するだけですから、人間のように『地面の穴』を『不自然』と理解出来ませんので。それに彼らは疲れを知らないので、あの『持ち場』からほとんど動きません。その融通の無さが……アダになるのです」
ザクリ、ザクリとテンポよくフォレスターが土を掻き出していく。
「よし……これくらい穴が開けば、私でも下を潜れるでしょう。では、行きます」
先陣を切って、フォレスターが穴の中へと身体を入れる。かなり苦労して身体をよじりはしたが、それでもどうにか内側へと侵入出来たようだ。
「……入れたか。じゃぁミズキ、お前が先に行け。オレが後から行く」
くいっと、親指でデンジが穴を指差す。
「まったく……こんなところでレディファーストなワケぇ? ま、いいけど」
些か不満そうに、ミズキが続いて塀の内側へと進む。
そして、すぐ後からデンジが続いた。
構内のアスファルトは傷みも酷く、割れた隙間から雑草が顔を覗かせている。
「デンジさん、やはり窓枠には磁気センサーが入ってますね。とは言っても簡単な仕組みですから、ガラスだけ割ってしまえば建物内に侵入出来ると思いますが?」
フォレスターはすでに建物の外壁をチェックする作業に移行していた。
「そうだな。ミズキ、充電のヒートガンを持って来てたろ? あれで温めてみよう。これは網入りガラスだし、温度差で簡単に割れるんじゃねぇか?」
「へいへい。どうせドライヤーは女の小道具ですよ!」
相変わらず不満そうに、ミズキがリュックの中からゴツいドライヤーのような『ヒートガン』を出してきて窓を熱し始める。
暫く温め続けると。
ビシッ……!
突然、鋭い音がして窓全体にヒビが入る。網の鉄とガラスの温度係数の違いが割れに繋がるのだ。
「よし……フォレスター、済まんがガラスの破片を取り除いてくれ。あまり振動が出ないよう、慎重にな」
ほんの少しだが、デンジの声が緊張で上ずっていた。




