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通訳は魔王様  作者: 723
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私、異世界に行きました

 私とパパは小屋の扉を開けた。中にあるのは階段と機械が多数。機械はネットの局所としての役割を果たしているらしい。で、その階段には神界の要望通り光ファイバーが這わせてある。

 そして階段の先は、あの穴に続いている。だって階段がないと上るの大変じゃない。


 さて、参りますか。


 心の中でそうつぶやくと一歩一歩階段を踏みしめた。異世界へ行けるといううれしい気持ちもあるし、日本を代表して行くという責任感も感じている。


 ここ、以前はメルティスさんの執務室だったけど、今は半分が神界のネット局所としての役割を果たしていて、もう半分は日本政府が借りている。


「「おはようございます」」


 スーツ姿の若い男女が作業の手を止めて私たちに挨拶してくれた。この二人は外務省の職員、早い話がパパの部下。今は手土産の最終チェックをしている。


「おはよう」


 パパは軽くあいさつを返す。続いて私も「おはようございます」と挨拶を交わす。


「おはよう、由美ちゃん。昨夜は眠れた?」

「はい。おかげさまでぐっすり」


 テンションが爆上がりとか緊張しすぎで寝不足ということにはならず、しっかり眠れたのだ。神経が図太いだけなんだけど。……それにしても、男性の方はちょっと気が利かないわね。他にかける言葉があるでしょう。外務省のお役人さんがそれでいいのかな? パパ、ちゃんと若い人の教育できてる?などと二人にお説教をしたくなってしまった。けどその点、女性の方はよく分かっていた。


「こら、もうちょっと気を利かせなさいっていつも言ってるでしょう。由美ちゃんおはよう、よく似合ってるわよ」


 私は苦笑した。めったにない正装できっちり決めているのだから、ちょっと気の利いた言葉を掛けてくれるのが紳士だと思う。


「ありがとうございます。でもこんな高いモノ用意してもらって気が引けちゃって……」


 私が身に着けているの、これ一式でウン百万はするよね。もし転んで破けたらと思うとマジで怖い。絶対私のお小遣いじゃ弁償できないからっ。


「だって日本国大使なんだし。役得と思えばいいじゃない」


 いくら私が図太くても、そこまで楽天的になれないわよっ。異世界に行けるのが私だけだからって、高校生が大使ってどうなのよ?!


「由美ちゃん、おしゃべりはそこまでにして、お仕事ですよ」

「はい。それじゃ贈答用の荷物を確認します」


 初対面、しかも異世界なので、贈答品は分かりやすいものが用意されている。

 一番わかりやすいアレに、煌びやかな蒔絵が施された輪島塗のお椀、鮮やかな濃い青と細かい細工が美しい江戸切子、ジャポネズリーの第一段階つまりヨーロッパの知識層を最初に魅了した浮世絵、日本の職人でないと作れない飛び散らない爪切り、温かみのある白が特徴的なボーンチャイナのティーカップとソーサーにティーポット、異世界ものでは定番である真珠のネックレスetc。


「異世界だから価値観が違うだろうけどこれだけあれば何かは受けるよ」


 パパの言葉からは自信というものが伝わってきた。


「これだけあれば、そうよねえ」


 真珠のネックレスとかティーセットとかはぶっちゃけ私が欲しいくらいだ。

などと中身を確認しているとメルティスさんたちがやってきた。うん、時間通り。私たちは神様をお待たせしないように早めに来ていたのだ。もちろん仕事もあるけど。


「おはよう、あ、ウイスキーあるのね」


 メルティスさんは贈答品から目ざとく見つけた。私は未成年だからお酒飲んだことないけどかなり人気らしい。某国営放送朝の連続ドラマでもやってたし。


「……これ絶対メルティスさんが自分で飲む気ですよね」

「な、なんのことかしら。まあ、味見くらいはするけどね。だってアレックス王国の人は日本の食べ物を口にしたことないのよ。初めて食べるなら私が先に飲んだり食べたりしないと警戒心から口を付けづらいでしょ」


 言ってることに説得力があるような気もするけど、そんなニヤけた顔じゃあ信じられないわよね。


「由美ちゃん、あれを役得っていうのよ」

「はい。よくわかりました」

「ちょっと!」

「いえ、メルティス様、それは否定できない事実かと」


 え? 女の子の声が私の足元から聞こえた!? なんで? 不思議に思いつつ視線を足元に下げた。

 声の主は真っ白な毛に覆われた体長25cmのイタチと似た体型の動物だった。そして子供のころ読んだ有名な写真絵本で見た覚えがある。


「「~~~カワイイ!」」


 こんなの女性だったら歓声を上げるに決まってるじゃない。


「日本の皆さま初めまして。使い魔の美冬と申します」


 使い魔ってことは!!


「メルティスさん、この子!!」

「ああ、そうじゃよ。お前さんの使い魔じゃ。その子は料理と裁縫が得意での」

「ゼウス様!」

「神界としては由美ちゃんに対して心苦しいところがあるからさ」

「ヴィシュヌ様ありがとうございます」


 ああ、もう我慢できないわっ。でも慌てず、イヤな思いをさせないように気をつけて、しゃがんで、慎重に慎重に尋ねてみる。


「モフっていいかな、かな」

「どうぞ」


 私の肩まで駆け上がってきた。こうなるともはや遠慮は無用。「ん~、カワイイですね~」痛くしない程度に頬刷りするだけだ。 


「……この子、オコジョですか? いえ、それにしては尻尾が短いですね」


 え、オコジョじゃないの?


「おや、中島さん、気づきましたか。彼女はキタイイヅナですよ」

「アマテラス様!?」

「アイヌは私の管轄外ですけど」

「キタイイヅナ? 聞いたことがありませんけどオコジョの仲間ですか?」

「はい。同じイタチ科イタチ属です」

「でも尻尾がある分、もっとカワイイかも」


 背中から尻尾にかけて撫でる。撫でる。撫でる。ああ、手触りもたまんない!


「それともう一人」


 ラクシュミー様、それなんて福音なの。


「なぬ、も、もう一人とは」


 私よ、頼むからもっと普通にしゃべれ!


「愛、出ておいで」

「はっ」


 なんと頭上から声が聞こえるではないか。見上げると小さな体で飛膜を広げて滑空しているではないか。


「「~~~カワイイ!」」


 カワイイしか言えないのか私たち。と自分で突っ込んでしまうけどしょうがないじゃない。だってカワイイんだもの。


「初めまして、ボク、エゾモモンガの愛です。よろしく」


 愛だけ日本語を使った。ちっちゃな体で二本足で立って手を上げる仕草がこれまたカワイイ。名前からして女の子よね。つまりはボクっ娘か。


「愛はモノづくりが得意じゃ。材料があれば大抵のものは作れるぞ」

「それは便利ですね。私DIYとか苦手で……」

「……由美ちゃんは料理も苦手では……」


 パパ、それは言わないで……。


「愛は英語話せないの?」

「いえ、普通に会話できます。でもほら、ボクに相当する英語はないのであえて日本語を使いました」


 おお、筋金入りのボクっ娘か。確かに俺も私も僕も全てIだから、そういう表現は英語じゃできないよね。


「それじゃあアレックス王国に行く前に最終確認。向こうに電化製品と石油製品、銃、火薬は持ち込まない」


 スマホは置いてきたし、献上品に危険なその手の類はもちろん無いし、身近にあるプラスチック類も全てない事を確認してある。


「それから転移魔法だけれど、転移先は控室よ。なぜかというと私はいつも神殿に降臨するけど、由美ちゃんも着いてくると不味いのよ」

「人間が一緒に登場すると、信者から不敬と思われますか?」


 そうなると処刑? ちょっと身震いがする。


「逆よ。私と一緒に降臨したから神様扱いされかねないわ。そうなると面倒でしょ」

「確かに」


 神様でなく、人間扱いして欲しい。


「それじゃあ行くわ。由美ちゃんは私の手を握って、魔力を全身に張り巡らせるだけでいいわ」

「はい」


 私は精神統一を図り、全身に魔力を、例えるなら血液のように全身に流した。


「転移」


 体がすっと浮いたかと思うと、ふっと景色が変わった。




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