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通訳は魔王様  作者: 723
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私、神界に行くことになりました

いつもより若干短いです。

「ママっ、由美ちゃんっ」


 リビングに、真っ白な服を纏った人物がやや大きな声を上げて入って来た。フィルターのせいで声が少し低く籠って聞こえるけど、目のあたりはしっかりと見えている。紛れもなくウチのパパだ。


「パパ」

「あら、あなたおかえりなさい」


 パパは両腕で私とママをがっちりと抱きしめた。その力強さからは愛情がしっかりと伝わってくる。

 それにしても、反応が三者三様、とっても対照的だ。

 パパは沈着冷静を常とするのに今だけはかなり熱くなっている。そりゃあ、銃で撃たれそうになったと警察から連絡があったら、無事と知っていても不安になるよね。

 私もパパが帰ってきてくれてかなりほっとしている。

 それに引き換えママはのんびりとしている。


「二人とも、無事なんだね」

「うん。無傷だよ。ほら」


 私は無傷であることをアピールするために大げさに頷いてくるりと一回転して見せた。


「警察からの電話を聞いて心臓が止まるかと思ったよ。ママは?」

「撃たれそうになったけど、由美ちゃんが助けてくれたら無事よ。でも由美ちゃんとこちらのメルティスさんがすごいことをしてくれたからこの後が楽しみよね、ふふっ」


 いや、この状況を気兼ねなく楽しんでいるのはママくらいなもんだよ。


「どういうこと? それにこちらの方は……」


 パパもママの返答を聞いて訝しんでいる。でも詳しい説明を見聞したら、東大卒のパパでさえも訝しむどころか混乱しかねないだろう。

 あれは非常識どころじゃないからね。


「パパ、とりあえず庭に行こうか。いいですよね」


 女性刑事さんに許可を求めると「ええ」と、あっさり認められた。





「これは何?」


 宙に浮かぶ穴を見て、パパも目を丸くしている。そこでこれまでのいきさつを説明した。これを見ないで説明されてもマトモな人間は信じないだろうから。


「ということなのよ」

「それを信じろと言われても……中を覗いても危険はありませんか?」

「ええ、防護服を着用していれば差し支えありません」


 パパは捜査一課長さんに確認を取ると、慎重に顔だけを入れると、直ぐに戻って来た。


「なるほど。取りあえず防護服を用意した理由だけは納得しました。あのような不可思議な現象を見せられては警戒するのは当然です」

「とはいえこのような対応が適切かどうかは正直言って分かりかねます」


 警察としては、あの世界やメルティスさんに対し未知のウィルスの存在および保持を警戒して、防護服を着用することにしている。

 しかしメルティスさんと防護服無しで接近した人物、すなわち私やママ、警察、それと犯人には隔離検査が待っている。


「事件の後すぐに全員を個別に隔離すべきだったでしょう」


 パパは仕事柄こういう知識も持ち合わせているのだ。


「メルティス様の証言が正しければ無意味ということになります。とはいえ、用心が足りませんでしたね」


 そう、本当にメルティスさんのいう事が事実なら、はるか過去から神々は地球と神界を行ったり来たりしていることになる。となると、もし神界にウィルスなどがあったらとうの昔に持ち込まれたことになる。なので今更警戒しても無意味なのである。


「……ううっ。私の存在って……」

「いえ、別にメルティス様がどうこうというのではなくて現代医学とか感染症対策とかそういうのでして…」


 なんで高校生の私がフォローしているんだろうと思わなくもない。


「それであの中の様子は?」


 パパが脱線しかけた話を元に戻した。


「部下があっちから戻ってきたのですが、まあ驚きの連続ですよ。報告を聞いただけで、年甲斐もなく胸が高鳴りますよ」


 捜査一課長さんも恍惚の表情を浮かべている。そりゃアニメ好きが本物の異世界について聞かされたらそうなるよね。


「中の様子ってメルティスさんの説明通りでしたか? 神界の神々っに会えました? どなたがいました?」

「ほら、由美ちゃん、ちょっと落ち着いて」


 ああ、いけない。そんな矢継ぎ早に質問されても困るよね。


「えっと、まず中に入ったら剣と盾を構えた衛兵がずらりと並んでいて、その奥に地球と同じスーツを着た男性や、キャリアウーマンといった女性が様子を伺っていたということです」

「よく無事に帰ってこれましたね」

「ええ、警察手帳を出したら荒事にはならずに済みました。メルティスさんの情報通り、あちらの方々は桜の代紋を知っていたのであっさり武装を解いてくれました」


 ここでふと、どうでもいいことが頭をよぎった。


「メルティスさん、もし警察手帳じゃなくて拳銃を構えていたら?」

「そしたら魔法でコレかしら」


 メルティスさんは首を掻っ切るジェスチャーをして見せた。


「で、その後はメルティスさんの上司でラクシュミーを自称するお方とお話できました」

「はああー」


 ラクシュミーって、マジかっ


「ウチの部下曰く、ヒンディー語が話せないのですが、英語が通用して良かったとのことです」

「本当に公用語が英語だったんですか?」

「だから言ったでしょ」


 警視庁は、見境なく穴の中に入るほど無鉄砲な真似はしない。事前にメルティスさんから最低限の情報は聞いていたし、用心して防護服を着こんでから中に入ったのだ。


「あっちも由美さんの魔法で穴が開いたことは直ぐに気がついたそうで、どうしようか相談していたそうです」

「で、どうするんですか?」

日本の方々(こちらがわ)と前向きに話し合いたいそうです。神界の雰囲気としてはいつでも東京に行けると喜んでいる方ばかりだそうです」

「そう、それじゃあ穴を開けた責任を取らないと」


 ここは一つ私が神界に乗り込んで、いずれはメルティスさんの管理する異世界とやらにも尋ねてみないと行けないわよね。


「由美ちゃん、単に神界に行ってみたいだけでしょ。それだけワクワクしてたら分かるわよ」


 ママは突っ込みを入れて来るけど、ママに私を止める(すべ)はない。


「うーん。我が家の庭に穴が開いている以上、僕も行ったほうがいいかな」


 パパが同伴か。それなら安心だ。


「じゃ、パパ、一緒に行こうか」


 警察官から防護服を渡されたところで、課長さんが半笑いで恐ろしいことを告げた。


「その際はメルティスさんも一度連れてきて欲しいそうです。なんでもたっぷりお説教だとか」

「は、はい」


 メルティスさんはがっくりと肩を落としたのであった。

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